[完結]わすれじの 1203年   作:高鹿

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06/28 第三回特殊課外活動2

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1203/06/28(日) 朝

 

朝食後、朝8時。毎度のことのように女将さんに届けられていた課外活動が封入されている封筒をトワが開けて、テーブル席でそれを読む。

 

・薬草採集の護衛(朝のうちに)

・放牧地に現れる魔獣の討伐

・森の作業路の外灯の点検、修理

 

「……今回は謎の系ないんだね」

 

ぽつりと呟いてしまう。ラントでは『湖畔林の謎の声の調査』、グレンヴィルでは『トリシュ川付近で目撃される謎の集団の調査』がそれぞれ調査項目に上がっていた筈だ。今回はどれも時間がかかりそうではあるけれど開始も終了も明確でわかりやすい。

サラ教官が昨日あんなことをわざわざしたので正直すこし緊張していたのだけれど、単純に中間試験後だったり、新しい武器を導入しているのでそういう意味だったのだろうか。

 

「とは言ってもどれも時間を取られそうだね」

「アンの言う通り、朝の依頼を受けて可能なら帰ってきたところで昼をさっと食べて討伐、そして点検ってところかな。魔獣避けの外灯が後回しになってしまうのは申し訳ないけど……」

「まぁ仕方ねえだろ。それに関しちゃジョルジュがいればさっさと終わるだろうしな。問題ないと思うぜ」

 

昨日、町の外で盛大に殴り合いをしていた二人は、朝起きた時は特に問題を起こすことなく同卓について食事をした。誰もそれについて触れやしない。まぁ、戦術リンクの接続はともかくとして課外活動に大きな影響を及ぼすつもりはないんだろう。昨日だってちょっとヒートアップしたところに挑発戦技で意識を引っ張りはしたけれど、それだけで止まってはくれたし。

ようは止める人間がいるから、喧嘩ができる、というやつかもしれない。それならこの関係性は当分変わらないかもなぁ。ハインリッヒ教頭にはもう少し胃を痛めてもらうことになりそうだ。

 

「うん、そういう流れで大丈夫だと思う。一番上の活動は朝のうちに、って但し書きもあるしもう出発しちゃおうか。七耀教会の司祭さんからみたいだね」

 

いつものようにトワが取りまとめてくれたので、全員で立ち上がり宿の女将さんに挨拶をして教会の方へ足を進めた。

それにしても、何だかどんどん戦術リンクとか戦闘とか関係のない活動も混ざってきているような気がして何かを彷彿とさせるんだけど、何だろう。思い出せない。

 

 

 

 

「おお、皆さんが護衛をしてくださるという、士官学院の方ですね」

 

七耀教会に入ったところで、作業がしやすそうな服を着て礼拝堂の掃除などををしていた方が私たちを見てそういった。辺りを確認してみると、女性らしい気配が厨房の方に一人だけ。ということはこの方が司祭殿なのだろうか。町の規模としては妥当な人数なので、司祭殿といえどもこうして教会の整備をしているのだろう。

 

「はい。精一杯やらせていただきます。朝のうちということで参りましたが、ご都合はいかがですか?」

「ええ、もちろん大丈夫です。シスターに声をかけて来ますので、このままお待ちください」

 

朝に森に入ることから司祭服を着ないで待っててくださっていたということだ。準備がいい人も話の早い人も好きだ。勝手に好感を持ってしまう。

厨房へ行った司祭殿はすぐに戻ってきたので、六人で連れ立って町の外、森の方へ。

 

 

 

 

「それにしても士官学院の学生さんということですから、男性ばかりだと思っておりました。ああ、いえ御三方の実力を疑っているわけではありません。これは私が狭い世界に生きていたということです」

 

森へ向かう道中でもこの人数に怯まない魔獣はいるもので、それを何度かいなしたところで司祭殿がそう言った。言わんとしていることはわかるし侮られている気配もないので別に注釈の必要性は感じなかったけれど、とにもかくにも誠実な方なんだろうなという印象を受ける。

 

「トールズ士官学院は確かに割合としては男性が多いですが、女性も2/5は占めているんですよ。軍と言っても様々な配置がありますし、私もそうですが必ずしも前衛に出るわけではないんです。といっても、彼女たちはすごく戦闘に優れている人たちなんですけど」

 

後ろ、チームの中間にいるトワが司祭殿の横について説明をしている。そう、半分よりは少ないけれど、1/3というほどでもない。他の士官学院がどうかは知らないけれどトールズはそれなりに男女比が極端ではないという気はする。それに導力端末を使った通信士としての仕事も男女共に仕込まれているし、栄養学・調理技術の授業も(性別で時間が分けられてはいるが)等しく行われているし、性別問わず自分の得意なことを見つけて伸ばせる環境を整えよう、という空気だ。

 

そうこうしているうちに森の入り口に到着。道すがらの雑談のなかでご所望の薬草を導力写真で共有してもらえたので、ある程度なら私たちでも見つけられる筈だ。

 

そしてその通り、道から外れるように森へ分け入ったわけだけれどそこで一部の群生地を見つけ必要な数を採集したり、森に出てくる帽子を被った緑色のヒツジンと戦い小さな蹄痕を肩に食らったり、食べられる木の実・植物を教えてもらったり(植生が西の故郷とはそれなりに違ったのでこれは本当にありがたかった)、いろいろなことに遭遇したけれど概ねつつがなく活動は終えられたと思う。

 

「皆さんの発見による助力もあったので、考えていたよりずっと早く終わりました!」

「確か今回採集したものたちは午前のうちに採集すると薬効が高いのだったか」

「はい。夜に採集したいものもありますが、そちらは最近手が出ませんね。遊撃士協会などが軒並み帝国から撤退を余儀なくされているみたいで依頼もなかなか」

 

遊撃士。レマン自治州に総本部があり、『支える籠手』をエンブレムに活動をする民間組織の総称だ。魔獣の討伐やこういった採集の手伝い、はたまた要人の警護など、依頼は多岐に渡るけれどあくまで民間組織のため国ごとの諍いに手が出せないのが弱点だという(中立使者という形で関わることはあるのだけれど)。但し民間人の安全並びに地域の平和を理念として掲げ、それが脅かされる場合はどのようにしてでも介入をしてくるという、まぁ一部の人間にとっては頭の痛い組織だとか。

けれど、そうか、何か気になると思っていたけれどこれは遊撃士の真似事に似ている。帝国では馴染みが薄いのでわからなかった。でもまぁいいか、司祭殿のお話の方に戻ろう。

 

「例えばどのようなものなんですか?」

 

もしかしたら何かの折に見つけて、自分たちで使うことになるかもしれないので質問をしてみた。すると司祭殿は嬉しそうに話をしてくれる。道中いろいろなことを教えてくれたところからわかる通り、知識というものは広めてこそ、という方なのだ。

 

「特に今在庫がないのは、夜に咲く白い花ですね。うっすらと光るのが特徴ですが、それ以上に香りが強く、半径30アージュ以内に入ればその存在はすぐにわかります。甘くどこか懐かしさを思い起こさせるので、残郷の花とも。別種のべアズクローと合わせて、効果の高い傷薬が作れますね」

 

べアズクローはその名の通り熊の爪のような棘が多い薬草で、主にリベールから輸入されている。故郷と近い分すこし植生が似ているので、私もたまに山で見かけていた薬草だ。しかしそこそこ距離があるのでこの知識は現状あまり活かせそうにない。未来に期待しておこう。

 

「べアズクローもこの山で採れんのか?」

「いいえ。ですが近くに大市が開かれている交易町ケルディックがありますからね。そちらの教会が入手したものを分けていただいたりなどはしています」

 

なるほど。ケルディックなら季節にもよるけれどそういったものが取り扱われる可能性は高いだろう。それにあそこなら線路も町に通っているので空輸から鉄道便で素早く品物を運んで来られる下地が整っていると言ってもいい。教会同士のネットワークというのは大事だと改めて痛感した。

 

そうして帰りもそれなりの魔獣を返り討ちにはしたけれど司祭殿はもちろん、全員大した怪我もなく12時過ぎには教会へ到着した。

お世話になったので皆さんお昼などいかがでしょうか、とお誘いを受けたので是非にと招待にあずかったらシスター殿が準備をしてくださっていたようで、美味しい地域料理を堪能させてもらった。

 

 

 

 

ご飯だけでなくお茶まで頂いてすこしまったりしてしまったため、教会を出たときは13時を回っていた。とはいえ午前いっぱい採集をしてから帰るという予定だったので、時間が逼迫しているということはない。こういう時間も必要だろうと思うので、トワも後がつかえているとは特に言わなかったのだろう。

それに司祭殿とシスター殿のお話は大変興味深かったし、おもしろかった。説法を日常的にしている為か話術もすごかった。いつか旅をすることがあれば教会には必ず立ち寄ろう。その土地のことがよく見えるかもしれない。もちろん、視点が一方向であるということは念頭におくべきだけれど。

 

「さーて、次は放牧地に現れる魔獣の討伐だったか?」

「うん、そうだね。責任者の方は現地にいらっしゃるらしいから直接向かえば大丈夫みたい」

 

護衛というのは想像以上に肩が凝るもので、ちょっと暴れたい気持ちが少し溜まっているのは否めないなぁと思ってしまった。でもこれは否定はしない。力を持つ者は自分の暴力性には自覚的であるべきだからだ。

 

「そういえば、護衛でセリの挑発戦技は重宝したよ。投げナイフでより効力が上がったんじゃないか?」

 

隣を歩くアンがそう褒めてくれた。

 

「うん、ナイフと相性がいいみたい。見つけてくれたミヒュトさんには感謝しなきゃ。あとアンから教わった爪の手入れも助かってるよ」

 

出発の土曜日には手入れの時間は取れないとわかっていたので、金曜日にすべて塗り直して今回の課題に臨んでいる。透明でマットなものを使っているので反射することも少ない。やっぱりあの大通りに構えている百貨店は帝都一と言われる品揃えなだけはある。ちょっと高かったけど、ペイとしては十分だ。

 

「それはよかった」

 

アンが笑う。いつものことではあるけれど、私はいろんな人に助けられている。私もそれだけのものを返せているだろうか、とたまに考えたりするけれど、きっとそれに答えはないんだろう。

 

 

 

 

「あぁ、あんたたちか」

 

村の北側から出て、森と反対方向に暫く歩いていくと大きな放牧地が見えてくる。柵で囲われているのはわかるけれど広大なので柵がどこまで広がっているのかはわからなかった。

 

「はい、トールズ士官学院として魔獣の討伐依頼を頂いて参りました」

「ふぅん」

 

作業を取り行っている男性の前にトワが前に立ち、そう告げると彼女と私とアンをじろじろと見てきて、ああそういう類の人かと内心ため息をついてしまった。午前中の司祭殿が人格者だっただけにその差が際立ってしまうのでこれはお互いタイミングが悪かったなぁと思う。

 

「本当に出来んのかねぇ、遠足じゃねえんだぞ」

 

その言葉に一歩、トワの横へ踏み出た。

 

「──万が一私たちで討伐が不可能と判断した場合は、担当教官もこの町に来ておりますので、そちらに対処して頂きます。どうかご安心下さい」

 

心底丁寧な笑みを心がけ、手は腹の前で組み腰を折る。自分のような顔はこういう時に使うのだ。そりゃもちろん心情としてはあまりこういった用途で使いたくはないけれど、それでも多少のプライド殺して案件がサクサク進むなら時間を無為に経過させるよりはマシというものだろう。

 

「ま、まぁそれならいいんだけどよ」

「はい。ありがとうございます」

 

くるりと後ろを振り返って、それじゃあ行こうかと目線で合図した。

 

そうして全員で放牧地へ入るためのちょっとした手順を踏んで、牛たちを怯えさせないよう距離を取りながら歩いて行った。暫く黙々と歩いていたところで、例の失礼な男性が見えなくなり、少し詰めてしまっていた息を吐いた。

 

「いやー、セリが前に出た時は殴るのかと思ったぜ」

「お、私がそこまで暴力的に見えてるのは誰かなー」

 

一般人を殴るわけないだろうに。まぁこういう時のクロウの空気を読んで敢えてする軽口はちょいちょい救われているところはある。これでアンと喧嘩しなければなぁ。

 

「それにしてもああいう露骨なのはさすがにね」

 

気分を害したようにジョルジュが言ってくれるので、こういう時に怒ってくれるのがチーム面子にいてくれるというだけで心は助かるというもので。学院代表として来ている手前あそこで怒ることなど出来ないというのはわかっているし、こうして意思表明してくれるだけありがたいというものだ。

 

「午前中の司祭様へのお話じゃないけど、女性の軍人さんも珍しく無くなったとはいえ航空艦隊とか通信士への配備で表にはあまり出てこないから仕方ない話かも」

 

それでもそういった『いかにも前線へ出ることがないように感じられる』配置だとしても、その辺の一般男性よりは強かったりするのだけれど、イマイチそういうのは実感が伴わないせいか理解されづらいところはある。テクニックだけという言い方をされたこともあるけれど、筋肉や技術が『人を殺す』形に特化しているというのは、まぁわからないのかもしれない。特に近代戦争は機甲化が進み兵器による殺し合いで一対一の人間同士の戦いなんて殆どないのもあるだろう。

 

「何にせよ、サラ教官が出る幕はないと思うけれどね」

 

不敵に笑ったアンが自分の掌に拳を打ち付ける。そうだね、と同意しながら放牧地を突っ切って行った。

そもそもさっきはサラ教官がルズウェルにいるとは言ったけれど、連絡がつくかはわからないというか、課題中に連絡がついたのなんて例のラントの湖畔でガスに巻かれた時ぐらいなもんで。今回負けたら連絡がつくようになるのかな。まぁいいか。そんなことにならないよう立ち回るのは決定事項なわけだし。

そこまで思考して、ああ自覚以上に自分は怒っていたのだなと理解した。遅い。

 

 

 

 

そうして、目撃証言が多いと聞いていたところに赴いてみると、くさはらに何かが蛇行し這いずり回った跡がちらほら散見された。牛たちもこの辺りには嫌なものを感じるのか、近寄る個体は少ない。這いずりの痕跡は近くにある森の中から始まっているようで、取り敢えず近辺に獲物となる牛がいないのであれば狩場を移動している可能性があると仮定し、森に入る自分と、外で森伝いに警戒する四人に分かれて歩いて行った。

 

「巣穴らしき場所に来たけど、空振りだなぁ。そっちに出現するかも。合流するよ」

『わかった、気を付けてね』

 

ARCUS片手に這い跡を遡りながら、トワに進捗を報告し、ARCUSの蓋を閉じない細工をしてからまたポーチへ突っ込んだ。膝をついて巣穴を見る。這い跡は幅30リジュ。かなり巨大な個体だ。跡としてスラッグ系ではないし、スネイク系と見ていいだろう。

このサイズに噛みつかれたらそりゃ牛だってひとたまりもないし、怯えていい乳にも肉にもならなくなる。昨日と今日食べて、林業と畜産業がこのルズウェルを支えているのは間違いない。だから本当に頭の痛い話なんだろう。……だからって、ああいう不躾な視線を送っていい理由にはならないけれど。侮られるのとはまた別のものがあったと、私は思う。

 

ため息をついて巣穴の検分を終え立ち上がりかけたところで、頭の上から空気を圧縮して吐くような音が聞こえた。瞬間、前へ転がり出ると同時に落下音がしそちらに向かって体勢を整える。土煙の向こうには、一瞬前まで自分が立っていた場所に影がある。大きさは私と同じぐらいだ。まず投げナイフで先制し、推定両の目を潰す。そうでなくても頭部への攻撃だ。果たしてそれは為されたようで、片手剣を抜いて苦悶の声をあげる魔獣の懐へ入り切り上げてから両手で握り込んで振りかぶりその胴体を真っ二つにし光とした。

やっぱり魔獣の一部の中には気配を隠すのが異常に上手いのがいる、と自分の索敵を過信してしまった反省をしつつポーチのARCUSから声が聞こえる。

 

「こちらセリ。ごめん、巣穴から出たらしき魔獣と戦ってた」

『って、一人で倒したのか!?』

 

トワがスピーカーモードにしているのか、クロウの声が割って入って来た。

 

「いや、これ小さいからたぶん報告にあった個体じゃないと思う。だからそっち要警戒。自分は周辺もう少し探索してから戻るよ」

『うん、了解。セリちゃんに女神の加護を』

「四人に女神の加護を」

 

会話を終え、ARCUSをポーチへ収める。大型に紛れて小個体の痕跡が見え辛くなるというのはままある話だ。それでも巧妙にここまで隠せるものなんだろうか。

何だか引っかかるものを感じながら、道中更に追加で二匹の蛇型魔獣を屠って森の外へ出た。四人と合流すると、ちょうど手配魔獣らしき大型個体を倒したところだった。

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