15
取り敢えず手配されていただろう個体の討伐は終え、森の中もざっくりチェックはしてみたけれど他に魔獣は現れなかった。五人で歩いていたのもあるかもしれないけれど、小型三体に大型一体倒したのだから成果としては上々だろうと判断できる。
報告に行ったら訝しまれはしたけれど一応納得はしてくれたようで、完了の旨を受け取ってくれた。魔獣討伐というのは依頼側と討伐側の信頼関係の上で為されるものだなぁとしみじみする。言葉が信用できない相手に依頼するものではないのだ。だから、遊撃士というある種の保証された立場が尊ばれる。
14時。次は魔獣避けとして使われている林道灯の整備ということでこの町の工房仕事を一手に担っているというお店へ足を運んだ。
きぃ、と扉を開けて入ると機械油のにおいがして、少しだけ技術棟を思い出す。もうすっかりあそこは私たちにとって大切な場所なんだな、と初めての場所で想起させられるのは面白い。
「いらっしゃ……もしかして士官学院の方たちかな」
「はい。林道灯の整備ということで参りました」
ジョルジュが前に進み出てカウンターの人から話を聞いている。奥にいるのが親方さんだろうか。灯りが現状どういった様子なのか、扉の解除キーについてとか、その他諸注意を丁寧に案内してくれる。手帳に軽くメモっておいたけど、多分使わないだろうな。
「では全体数の2/3から奥の灯りの確認をしてくる、ということで大丈夫ですか」
「あぁ、手前側は先日やったからな。たぶん灯り自体を交換しなきゃいけないレベルのは少ないだろうが、そっちが大丈夫でも他のパーツが傷んでるってことはままある。簡単でいいからよろしく頼むぜ」
「はい」
魔獣避けランプと、その他細かいパーツなどを受け取ってジョルジュが身支度を整える。使用する工具などを店の人と確認するらしいので、その間店内を見て回ることにした。
そうして店の壁際にあったショーケース飾られているダガーに引き寄せられ見下ろすと、確かな実用品でありながらも工芸品といっても差し支えない美しさがあって、感嘆の吐息が出る。
「セリちゃん何見てるの?」
「うん? ダガーだよ。ほら、ここの柄の部分がカーブしているけどこれは順手で持った際に握り込みがしやすい、つまり力を伝えやすいから極端に力を入れなくても物が上手く切れるんだ。だから薄刃でもブレード部分が痛まないように工夫されているってことだね。薄刃のものはよく切れるし差し込みやすいけれど薄い分折れたりしやすいから、これはその辺りの兼ね合いがよく考えられていてうつくしいなって」
トワが隣に来てくれたので解説し始めたけれど、喋り終えたところではたとあっ喋りすぎてしまったと思った。だけど口を引き結んだら、職人さんの技術が詰まってるんだねえ、と頷いてくれたので、ああそういうところが好きだなとじんわり心があたたかくなる。すきだなぁ。
「セリはやっぱりそういった物に造詣が深いのかい?」
「深いってほどじゃないかな。こういう時に刃物の方にふらふら寄っちゃうだけで。でも知識はともかく、好きだよ。見るのも使うのもね」
とはいえ薄刃のナイフはガードには使えないので、自分がこういった物を購入することは殆どないだろうけれど。購入するなら、手にするなら、その道具が望まれた仕事の中で果てさせたいというのは使う側のエゴだ。でも自分はそう思うので、誰かいい人に出会えるといいね、とケースに入ったナイフに対してそっと胸に手を当てた。
「林道灯は左右に設置されていて、数は全部で30対。だから奥側10対20ヶ所の林道灯の点検をしなきゃいかないわけだね」
町の北から出て森へはいって暫く歩きつつ林道灯の数を数えていたジョルジュが言う。20。それなりに多い気がする。一ヶ所10分でも200分だ。灯りの裏に回ってみると、刻印は21-B。つまり道を挟んで向こうにある方がAなんだろう。
「どれくらいかかるだろうね、現在14時半だが」
「取り敢えずひとつやってみてからかな、計算するのは」
「確かに」
アンとジョルジュの会話に頷いて、自分の役目は周囲警戒だな、と森が奥まっていく方に視線を向ける。朝も別のところから入ったけれど、すぅ、と深呼吸をした。整備された道には傾いていく太陽が木漏れ日を作っていて六月の爽やかさを感じさせてくれる。このまま道を進んでいくと、ある地点で切れるのだろう。これは切り倒した木をある程度運びやすくするための道で、山の向こうとこちらを繋げるためのものじゃないからだ。
18時前。陽が暮れてしまったので、トワがARCUSで灯りをつけながら最後の一つにとりかかるジョルジュの側で補助をしている。森の夜は早い。すこしざわついているような気がして、なんだかすこし背筋がぞっとした。こういう時の森に入らない方がいい。でももう直ぐ作業も終わりそうだし問題ないか、と安堵の息を漏らしかけた、瞬間。
手が腰に自動で回り、逆手でダガーを抜いて、目を閉じ辺りの音に意識を全集中させる。呼吸をことさらゆっくりに落としていく。殺気だ。それも、獣だけじゃない。人間の。装備が整えられた生き物の音だ。
「────ねえ、誰か一人逃げ出して教官呼んでくるのと、五人全員でここにとどまって戦うの、どっちがいいかなぁ」
「そりゃ、どっちも良くねえってことかよ」
この人数で分断するのはあり得ないだろうと思うけれど、五人全員で走ればそのまま見つかってしまう。教官を呼びにいくなら適任は森に身を隠せて足の速い自分だと思う。だけどそれでも賭けだ。速度は調教魔獣には及ばないし、枝落としされている森では木々を伝っていくのもままならない。
「分断して勝算あるかなぁ」
「ま、食い殺されるのがオチだろうさ」
「なら全員で迎え撃つしかないってことだ……よし! 終わり!」
結論は出た。こんな状況でも点検を諦めなかったジョルジュの声を皮切りに、武器を納めてトワとジョルジュを先頭にし速度を合わせながら道を下り始める。私は一番最後尾につきながら音の出どころと数に気を配った。
「四つ足調教魔獣少なくとも五体、それに並走する人間五人。囲もうとしてそのまま追いかけて来てるね。いやー、もしかしたらこれアタリだったかな」
────四月五月の話が実は繋がってて、なんてオチなら記事にしたんだけどなぁ。
中間試験が始まる前辺りに、自分はそんなことを言っていたような気がする。まさか三ヶ月も連続でこんなのに遭遇するだなんて思わないだろう。そもそも、あんまりにも出来すぎているというのもある。課外活動で毎回こんなに偶然ぶち当たるか?という疑問が湧くのも当たり前なほどに。
「止まれ!!!」
威嚇射撃なのか右手にある崖の壁面に射撃が当たる。声の方向と距離を考えて、相手が猟兵なら外すことはまずないだろう。このまま背中にそれをもらうわけにはいかないと、くるりと踵を回転させ、ダガーを引き抜きながら相手を見据える。黒赤の猟兵装束を身にまとい、銃二人に大剣三人、そしてグレンヴィルで見かけた黒い調教魔獣。
「トールズ士官学院の学生たちだな。我ら猟兵団『赤の咆哮』のために少しばかり痛い目を見てもらおうか」
「猟兵に追われるようなことした記憶はねえんだけどなぁ」
「ほう、先月も先々月も我らの邪魔をしておいて良く言う」
後ろにいるクロウが応えると、そんな言葉が返ってきた。
やっぱり。あれは猟兵が関連した案件だったのだ。マジかよ、と呟きが聞こえる。いや本当にまじかよって感じだし夢だと思いたい。まさか的確に猟兵の邪魔をしていただなんて。
「いやー、でも町から出た案件を解決していっただけなんだけど」
本当にあえて邪魔をしようと考えてしたわけじゃない。猟兵に恨まれる可能性があるならなるべく避けて通っただろう。それでもあの装置は見つけることになったろうし、元拠点だった沢を見つけてしまうかもしれないけれど。でもそもそもそれはそっちの不始末や気の緩みのよる物なのでは?という気分も否めない。猟兵と言っていいレベルなんだろうか。
「あぁ、だからこれからも流れで邪魔される可能性があると考えて排除しに来た」
「それは、その、どうも手間をかけさせてしまって」
「だが我らも金にならない殺しをしたくはないからな。貴様らが試験運用中らしい戦術オーブメントを置いて試験の中止を宣言するなら見逃してもいい」
見逃してもいい。この場面では金にならない話ではあるけれど、今後得る金額のことを考えると彼らはその契約は守るだろう。そうでなければ、傭兵だの猟兵だのなんて口に出せるはずがない。でも。
「フフ、それに従うとでも思っているのかい?」
「アンタらがいい加減な仕事してっから学生に邪魔されんだよ」
「私有地への不法侵入、許可のない演習、一般市民への魔獣被害、どれも見過ごせるものじゃありません」
「やれやれ、こうなると思ったよ。とはいえ看過出来ないのは確かだ」
アンを筆頭に、思い思いの感情を吐き出していく。トワが躊躇わずに、震えずに、そう言い切ったのは申し訳ないけれど少し意外だった。うん、みんながそうであると言うのなら。──握り込んだ剣に誓って私もそれに応えよう。
「愚かなガキどもめ」
そうして、私たちと猟兵団の戦いが始まった。
とは言ってもこちらは追加戦力なんてまるで見込めない。相手がどうだかはわからないけれど、こちらがそうであるというのはもう判断されているだろう。
挑発戦技をナイフに乗せて魔獣を引きつけ片手剣で薙ぎ払う。噛み付こうとしてきたその腹に蹴りを入れクロウの追撃が入る。アンは対人戦が得意なため反対側で大剣の相手をしてくれているようだ。
私たちの敗北条件はなんだ。猟兵に殺される────いや、殺害までいけば士官学院生ということで公的権力である軍が猟兵の捕縛に動く可能性がある。それは織り込み済みだろう。さっきのは脅しだ。じゃあ、捕縛だ。そして私たちからしたら特に、トワの。彼女が奪取されるのが一番まずい。
ジョルジュもそれがわかっているのか銃撃からトワを守り空いた手で魔獣の横っ腹に槌をぶちかましている。その後ろでARCUSを駆動させて攻撃詠唱をしてくれているのが希望だ。そう、これは前衛の私たちじゃなくて、導力魔法で一気に制圧し切らなければならない。技量としては圧倒的にあちらが上なのは分かっているのだから。
「────っ」
猟兵の敗北条件は私たちを無事に帰還させてしまうことだ。ここで猟兵が何かをやっていたという証言を持ち帰ってしまうのだから。やっぱり、それなら誰か応援を呼びにいくべきだっただろうか。それでも賭けだったことに変わりはない。今更そこを後悔しても仕方ないから思考として切り捨てよう。
「────グランドプレス!」
トワの声と共にサイドに展開していた猟兵の足場が光り、中域導力魔法でアンが対峙している幾人か足が取られ膝をつく。そこを見逃さずナイフを膝関節に投げた。防具があるとはいえ横から隙間に投げれば刺さる。膝は武力行使するものとしては大切だろう。だからこそ切る。
「ふ、ふふ、やるな……」
魔獣がなおも襲いかかってくる。ちょっと待ってこいつらどこから出てきた!まだいるっていうのか。剣に噛み付いてきた魔獣にまたも蹴りを入れようとした瞬間。
「────トワ!」
ジョルジュの叫ぶ声が聞こえる。後ろに視線を走らせると、崖上から降りてきた魔獣にトワが襟元に噛みつかれるのが見えた。対応できる全員が魔獣に手を取られていて、クロウもARCUSを駆動していたのか反応が遅れる。魔獣へ蹴りを入れ、必死に伸ばされる手へ自分のを伸ばしたけれど、魔獣はトワの襟元を咥えたまま大きく跳躍し向こう側へ降り立った。
「……チッ」
即座に体を翻し体勢を整えていた魔獣を殺し切り、正面を向く。トワを魔獣から受け取って首に腕を回し、足を浮かせて銃を突きつける猟兵は笑っていた。残っているのは5アージュの距離で獣一匹にそいつ一人。だっていうのに。
「とんでもない損害を出してしまったが、やはり学生か」
「み、んな、ごめ、んね……」
「喋っていいとは言っていない」
「……っ」
「やめろ!」
導力銃のグリップでトワを殴りつける相手にアンの叫びが走る。
「……」
かしゃん、と持っていたダガーと片手剣を手前側に投げ、両手を挙げた。意図を察してくれたのか、全員武器を地面に落とす。トワが泣きそうな顔をして私たちを見ていた。
呼吸が浅くなる。……今ので全員の位置は把握した。アンが私の少し右後ろで、クロウが私の真後ろ、ジョルジュが少し離れている。この配置ならもしかしたらいけるかもしれない。
「殊勝な心がけじゃないか」
「心がけついでに、腰のナイフとARCUSを置きたいのだけれど許可を頂いても?」
「何かしようとしたらこの娘のことはわかっているだろうな」
「もちろん」
制服の前を開け、ベルトを緩めレザーケースごとナイフを落とす。ここじゃない。ついでに腰のカメラケースもそっと地面へ。ここでもない。震える手で、太ももにつけているポーチからARCUSを取り出し、それが、手からこぼれた。
ARCUSが地面に衝突する────瞬間。背中からとてつもない衝撃が加えられ前へ。
「……っ」
「ゼリカ!」
けれど何かあるとは分かっていた。背中にもらった勢いを借りて踏み出しダガーを拾い、一気に距離を詰め魔獣の眉間を突き刺すと、同時に隣に立っていた男が悲鳴と共に倒れる音がした。体を翻しその男に跨ってダガーを更に振りかぶろうとしたところで、その男がもう気絶していることに気がつく。は、と詰めていた息がこぼれた。
「トワ、無事かい!」
「アンちゃん、うん……!」
膝に手をつきながら立ち上がり、男の全身を見下ろす。手と足の甲に銃痕。射撃と私の加速に気を取られた一瞬でアンも飛び出し掌底を喰らわせたんだろう。緊張が解けて、ふらふらと数歩離れたところで膝をつく。背中が痛い。めちゃくちゃ痛い。
「ティアラ」
膝と片手を地面につきながら、残った手で背中を少し労っているとクロウの声で回復魔法が飛んできた。多少は痛みが和らぎ、歩いてくる音に顔を向けると、その手には────私の導力銃があった。
更に見上げると、ボロボロだって言うのに満更でもない顔をしているクロウ。それがどうしようもないほどに嬉しくて、体を支えていた手を土から離し、足に力を入れて、地面を蹴って、背中の痛みなんてこの瞬間だけは置いといて、その胸に勢いよく抱きついた。
いてぇとか聞こえたけれど今回は無視をする。なんなら私だって痛い。
「ありがとう……!」
そう、クロウなら私の腰の導力銃に気が付いてくれると、半ば押し付けのような信用でやった。戦術リンクも切れて、アイコンタクトも出来ない状態だったのに見事なタイミングで作戦を起爆させてくれて、本当に、本当に、クロウじゃなかったら私はこんなことしようとも思わなかった。でも、君なら手を挙げた時に絶対気が付いてくれると思ったんだ。
……蹴られるとは思わなかったけど、ああでもしないと虚をつくことも出来なかったろうし、速度も足りなかったと思う。だから最適解だ。
「クロウじゃなかったら頼めなかった……」
「……ま、オレだって、お前じゃなかったら作戦だとは思わなかったわ。痛かったろ」
「へへ、ん、まぁ痛いけど、いいよ」
労るように背中に手が回ってきた。たぶんアザにはなっているだろうけど、それでも、まぁどうせ消える。この窮地を乗り切れたならそれでいい。
「あー、その、いいところで悪いんだけど捕縛に手を貸してくれるかな」
ジョルジュの声か聞こえてきて、それもそうだとパッとお互い離れる。あっ、いてて。回復魔法かけてもらったとはいえやっぱりまだ背中痛い。
「ごめん、まだそこそこ背中痛いから見学でいい?」
「はは、わかったよ。じゃあクロウ手伝ってくれ」
「あいよ、だりぃなぁ」
ジョルジュへ振り返りながら導力銃が返されるので、それをそっとまた腰に入れる。地面に落としたものは拾っておこうと身をかがめると体が悲鳴を上げて変な声が出た。すると視界の中に手が入ってきてそれらを拾っていく。視線を上げると、額に血の痕が僅かに残るトワがそこにいた。傷は既に回復魔法で塞いでいるだろうけれど痛々しいものに違いはない。
「はい、セリちゃん」
「ありがとう」
ナイフとカメラのケースは腰に回して装着し、ARCUSはポーチの中に。うん、しっくりくる。投げた中身も拾って回収しておかないと。
「トワの落ち度じゃないよ」
「……」
「言うなら全員の落ち度だね」
導力カメラを取り出し、捕縛されていく猟兵を写真に収める。何枚も何枚も。
「でもさ、こうして全員生き残ってる。怪我はしてるけど。結構大勝利だと思わない? ────サラ教官もそう思いますよね」
「えっ」
「そうね、十分やったと思うわよ」
さっき魔獣が来た崖の上に視線をやると、青いコートをはためかせてサラ教官が立っていた。すとん、と軽い身のこなしで私たちと同じ高さに降りる。
「憲兵隊なり領邦軍なり呼んでくれました?」
「双龍橋からもう直ぐ来る手筈かしら」
「えっ、えっ、セリちゃん気付いてたの!?」
「いや、気が付いたのは全部終わった後だけど……たぶん全部見てましたよね」
この人なら気付かれずに戦闘中の私の警戒網の中へ入ってくるぐらい容易いのだろう。非常に腹立たしいけれど、それが教官と私の力の差というやつだ。
「どうかしら? 今まさに駆けつけたばっかりかもよ?」
「……そうですか」
まぁ、全てを見ていたと肯定するなら、トワが猟兵の手に落ちた段階であれを撃ち殺すべきだった。それをしなかったのは私たちの技量を見たかったのか、それとも"殺害"を見せたくなかったのか。どっちなのかはイマイチわからない。……でも、銃声は二発だった。銃痕も二発。大きさからして手の方がクロウが撃ったものだろう。じゃあ、足の方は?ってなると、角度的に一人しかいない。
「どうかした?」
「いや、上手くはめられた気がしてならないだけです」
ため息を吐いて、軍が来るのを私たちはそこで待っていた。
「今回もつっかれた……」
教官が呼んでくれた領邦軍が来るのを待って事情聴取され、その後流石にこのまま鉄道に乗るのはキツいと思ったので教会で薬を塗ってもらってから鉄道の最終便に滑り込んだ(ジョルジュはこの間に工房へ報告と部品を返しに行ったらしい)。もう二十時だ。トリスタに着くのは二十二時。明日も授業があるのに大層キツい。宿酒場の女将さんが晩御飯を包んでくれたのだけが幸いというべきか。キャベツたくさんのカツサンドが身にしみる。
「あはは、本当にお疲れさま。……それと、みんなありがとう」
謝罪じゃなくて、感謝の言葉。今までのトワだったら謝っていた気がするけれど、そう言ってくれるのが私は嬉しかった。
「トワに何かあったら私の名折れさ」
「その点、僕はちょっと情けなかったけどね」
「ううん、ジョルジュ君はずっと私の前に立っててくれたよ! 頼もしかった!」
「そうそう、あそこで必要だったのは速度だってだけだろーよ」
その言葉に、あることを思い出す。
「そうだね、クロウがアンを略称するぐらい逼迫してたもん」
「ああ、そう言えば」
「……」
頑なにアンを愛称で呼ばなかったクロウが、あの時確かに『ゼリカ』と呼んだのだ。
自然と四人の視線がクロウに集中すると、ぐっ、と喉が詰まったような表情をして、珍しく視線を逸らした。
「いや、その、"アン"だと最後に音が落ちるから他の音と咄嗟に聞き分けづらかったり次の音に繋げにくいだろ。その点"ゼリカ"なら」
「"ラグらずに誰かわかる"?」
「そう、合理的な呼び方ってわけだ」
私が『アームブラストさん』と呼んでいた時に言われたことを思い返して言ってみると、肯定されて思わずみんなで笑ってしまった。クロウらしいなぁ。
「ンな笑うことかよ」
「いやいや、笑うところだろう。まぁこれからもよろしく、クロウ」
「あー、ま、そうだな。よろしく頼まぁ。ゼリカ」
ぱしん、と二人が手を叩き交わし合うので、あぁ、また課外活動に出るのが楽しみだななんて、思ってしまったのだ。こんな目に遭っていると言うのに。それでも。次があると信じて疑わなかった。