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1203/07/26(日) 朝
8時。いつものように朝食を食べてトワが預かって貰っていた課外活動の課題を封切る。
・鉱山奥に棲みついた魔獣の討伐
・川魚の調達(夕方までに)
・黒竜関側街道沿いにある森の警邏、及びある程度の魔獣駆除
「お、討伐系多いな」
「じゃあ今日もクロウとアンがリンク接続して、他三人でローテ回す?」
「ちょっと待ってくれセリ、今日もか?」
「貴重なデータだし優先して取りたいでしょ。三ヶ月不安定だった自分らを恨んで」
私たちがやっているのはあくまでARCUSの試験運用なのだ。おそろしく不安定だった二人の関係がそれなりに改善したというのなら、それがどう戦術結果に影響を与えるのか。データとしてここぞとばかりに調べたいし、調べるべきだ。
「せめて五回に一回オアシスを」
「……どう?」
「アンちゃん昨日頑張ってくれてたし、息抜きに私かセリちゃんに繋げるのはいいと思うよ」
「じゃあそういうことで」
戦術リンクで性別・顔その他諸々が好みの相手と繋がって何になるんだという気持ちもあるけれど、感情が及ぼす影響は案外馬鹿にならないので仕方ない。でもクロウとアンの戦術リンク、相性悪いわけじゃないと思うんだけどなぁ。昨日も上手く決まってたし。
「順番としては上からでいいかな。鉱山となると優先度は高そうだ」
「ジョルジュ君の言う通りで大丈夫だと思う。日曜だけど働いてる人もいそうだもんね」
「この川魚って、釣りかな。経験者いる? 私は釣りしたことないんだよね」
質問を投げかけるとクロウとアンが手を挙げてお互いに、うわ、という顔をするので仲の良さにちょっと笑う。きちんと依頼主のところに赴いてから決定する話ではあるけれど、経験者がいるなら問題なかろう。たぶん。
「最後のはトト爺が昨日の報告を受けてか」
「ちっと時間かかりそうだがイケんだろ」
「うん、方向性も決まったね」
それじゃ行こうか、という声を合図に立ち上がり、宿の人に挨拶をして店を出た。
「アンゼリカじゃねえか! 生きてたのかよ!」
「おっと鉱山長、随分な挨拶じゃないか」
豪快に笑って肩を叩きあいながら挨拶をするアンを眺めつつ、顔が広いなぁ、なんてぼんやり考えていると、そうそう今日は課外活動で来たんだ、と本題に入ってくれた。
「あー、第四坑道の奥の奥に現れてなあ。普通の魔獣なら俺たちでもどうにかしたりすんだけどよ、ありゃ駄目だ。発破使ってもびくともしやがらねえ」
「おっさん火薬使えんのか?」
「まあな。今のやつはあんまりねえだろうが、導力革命だのが起きてからだって鉱山じゃそれなりに使われてるぜ」
導力革命が起きる以前は銃火器は火薬式のものだけで、ARCUSでお世話になっているRF社も確か火薬式の武器工房の側面が強かった筈だ。それを導力関係に方向転換して今の国際企業になったのだから当時のトップのバランス感覚がおそろしく良かったのだろう。まぁでも鉱山長殿の言う通り、私たちの世代は火薬式武器どころか火薬自体を扱ったことが殆どない。たぶん昔なら士官学院でもその辺の取り扱いを勉強させられたろうけど。ああでも、工兵特化するなら今もかな。
「ふむ。では物理攻撃が効きづらい可能性が高い、と。ありがとう。あとは私たちの役目だ」
「おう、頼んだぜ。これが鍵だ」
「預かろう。行こう、第四坑道は少し奥にある」
ここで働いていたのか、鉱山長殿と仲良くなって出入りしていたのか、澱みのない足取りでアンが歩いていく。白い制服が汚れそうだけど、まぁ今更か。
危険から第四坑道は一時閉鎖されているようで、アンが鍵を開けたところ漏れ出た淀んだ空気に噎せてしまった。手で空気を軽く払いながら前に出る。
「結構魔獣蔓延ってるねぇ」
「空気の流れ的にだいぶ閉鎖していたようだね」
いろいろな気配や足音がそこかしこから聞こえて来ているので、時間がかかりそうだなと全員で覚悟を決めた。とはいえ、どうせ消える時に出てくるセピス塊とかは私たちのご飯の材料費になるし、ARCUSの運用という点に於いても戦闘回数が多い分には決して困らないため掃討することに異論はないのだけれど。
「……」
空気の流れから最奥が近いのでは、と判断し20アージュほど私が先行して偵察すると、確かにいる。設置されている導力灯は正常稼働しているようで、金属光沢のある甲羅を持った亀のような魔獣が見える。鉱石を食べて成長する系だろうか。斬撃や突撃はあまり効果がなさそうなので、今回は自分がバックアップに回る番だな、と判断しつつ若干後退してから合流用の通信を。
そうして魔獣の外見情報などを共有し四人を送り出した。魔獣の感知範囲・攻撃範囲外から俯瞰するように他人の戦いを見るのは、本当に勉強になる。偵察を買って出ているので戦闘に参加する機会は多く、案外こういうのは貴重だ。もちろん戦闘訓練の時にたくさん見てはいるけれど、やっぱりARCUSならではの戦術というのはあるもので。
ジョルジュのハンマーが的確に魔獣の甲羅の薄いところに叩き込まれ、ヒビが入る。すかさずアンの重い一撃が炸裂し、その穴を穿つようにトワのヴォルカンレインが穿たれ体表が融解していくのが見えた。そこにクロウが放つ氷の弾丸が急速に冷却することで甲羅の強度を極端に落とし、あとはもう、煮るなり焼くなりだ。
ああいう属性に依った攻撃は私には出来ない。リンクした相手、現在盤面にある手段、それらをお互いが有機的に組み合わせ、最善を導こうとする。その判断の速さが、本当にすごい。四月の時よりもずっと洗練されている。今はもうまるで一つの生き物のダンスのようで、見ていると自分の心も一緒に踊るのがわかる。
「お疲れさま」
魔獣を討伐して戻ってきた面々にハイタッチ準備して声をかけると、全員手を叩いてくれた。
川魚の依頼は今日団体の宴会予約が入っているお店からの頼みごとで、アノール河の支流で特定魚種を10匹ほど釣ってきてくれというものだった。釣りをしている二人を護衛という形でトワとジョルジュと自分で待機していたけれど、驚くほど平和で眠くなってくるほどに。
「そういえばセリちゃん、水練の授業どう?」
「なんと水の中で目が開けられるようになったし40アージュは泳げるようになった」
「お、かなり進歩してるじゃないか」
そう。故郷のティルフィルは海から遠く、川は流れが速いため入るなと厳命されていたこともあり、今年の七月になるまで『泳ぐ』という行為をしたことがなかった。というかそういう概念もあんまりなかった。ただトールズは士官学院なので『泳げる』というのは特別な理由がない限りほぼ必須とも言っていい。なので水練の授業が始まってからは水練部の人にプールの一部を貸してもらって練習していたのだ。
そうしてまず全身の力を抜いて浮くことから始めたわけだけれど、水の中で目を開けられるようになって、光のうつくしさを知った。ゆらゆらと水面が揺れて、景色はぼんやりとしているのに、逆に掴めないもの筆頭である『光』が形を得たかのようにはっきり見えて、本当に不思議な心地を得た。
生い茂った森の中から空を見上げ、葉っぱの隙間がきらきらと輝いているのを目にした時と少し似ている気もしたけど、やっぱりそれとは違う。
「おーい、オレたちに任せて雑談してんな」
「でもやることないしねぇ」
魔獣が来ないのであれば私たちの出番はない。娯楽ならやったことのない釣りはやってみたいけれど、この後も課題があるのであれば無闇矢鱈に魚を警戒させて長引かせるのは上手くないだろう。同様の意味で血抜きもまとめてやるべきだ。
「しょうがねえなあ。あとで血抜きの仕方教えっからそっちがやれよ」
「あ、教えてくれるんだ嬉しい」
さすがにブランドン商店では魚は買えるけれど生簀ではないのでそういう技術が学べるタイミングがなかったため、クロウたちが教えてくれるなら万々歳である。
そうして暫くして、規定の数を釣り上げたらしく、クロウとアンが釣竿を置き私たちを呼ぶので近寄ってみると軍手をはめたクロウが川の中に作っていた簡易生簀の網場から一匹掬い上げた。
持ち運び用に貸し出された箱の上に置いたまな板の上に魚を押さえつけ、エラのところからぐいとナイフを刺し込む。それで魚は息絶えたのか、びくりと大きく一度跳ねた以降その体が逃げるように暴れることはなかった。それからそのままエラの中の一部をナイフで貫通させ、川に魚を突っ込んでざばざばと手を振ると魚体から赤いものが流れ出ていく。次第に血が流れなくなったそれを蓋に加工蒼耀石が嵌め込まれた冷却箱の内袋へ放り込んで閉じた。
二分もかかっていないんじゃなかろうか。しかもその内の大半は血抜きのための時間だ。
「っと、こんなもんだな」
「クロウ君、手際いいねえ」
「まーな。そんじゃ説明しながらやんぞ」
今のはざっと流れを見せることで、説明時に頭へ入りやすいようにというものだったようで、説明の導入が上手いなぁと感心しながらクロウの手元を後ろからトワとジョルジュと一緒に眺めることになった。初心者の私たちがやるよりきっと経験者がやった方が速いだろうに、面倒見がいい。
無事に魚も締められて、お店に納品したところで昼になったので宿酒場に戻って昼食をとることに。昨日もそうだったけれど場所柄かスタミナ系の料理ばかりなので、三つ目の課題の長丁場を考えると大変ありがたく味も美味しいので最高だなぁと思いながら食べ切った。
「それにしても魚締めるの結構面白かった。今度は釣りからやりたいな」
「まー、お前はナイフの扱いは慣れてっからコツさえ覚えてりゃいつでも使えんだろ。トワはナイフより鋏とかでやった方が危なくねえかもな」
「そっか、ナイフが手から外れたらそれだけで危ないもんね」
帝国は海に近い街はあまりないので海釣りが盛んではない代わりに、川釣りは結構嗜んでいる方も多いらしく今度トリスタ近くの川に釣り竿を持って出かけてみるのもありかもしれない。せっかくこっちに出てきているので、地元じゃ出来ないことをたくさんやりたい。
「で、だ。午後は夕方……17時くらいまで警邏ということでみんな大丈夫かな」
「たった四時間強だから、ある程度エリアを区切ってそこにかけられる時間の最大限度を決定しておいた方がいいかもしれないね」
アンとジョルジュが午後のことを話し始めたので、異論がない私は頷く。黒竜関からハザウは乗り合いトラックだったからトリスタを16時過ぎに出発してもギリギリだったけれど、トリスタは鉄道が通っているのである程度余裕が持つことができる。うん、やっぱり鉄道便利だ。いいなぁ。
「じゃあみんな行こっか」
いつものようにトワが立ち上がり、みんなでそれに続いていった。
黒竜関側の街道沿いの森は、あんまり人の手が入っていないようで見通しが悪い。とはいっても不意打ちを受けることはなく、魔獣を討伐していく。
彼らの生息地に入っているという自覚はあるけれど、昨日のようなことが頻繁に起きても困るのだ。これについてはきっとずっと考えることになるんだろう。バランスをとっていると言ってもそれは人間側の押し付けでしかない。
「今回はイレギュラーなさそうかな」
戦闘が終わり、腰に武器を収めてナイフを拾ったところでそう呟く。時間は16時。地図的にはもう3/4ぐらい探索したところなので、このままいけば予定通りに見て回れるだろう。
「あはは、そういえば毎回いろいろあったもんね」
「たしか四月は猟兵の痕跡と猪との対面だったか」
「その次の五月は肝試しに行った男の子たちの救出に、」
「そんで先月はその猟兵との戦闘だろ? 想定外の問題起きすぎだっつーの」
しかし果たして本当に想定外なんだろうか、と考えずにはいられない。私たちの想定外だったとしても、サラ教官はある程度見えていたのかもしれないという話だ。教官、結構スパルタだからなぁ。そういえば今回は教官の姿を見てないな。忙しいのだろうか。
「まぁこのまま終われば……」
言いかけたところでふっと口が閉じ、森の向こうに視線が吸い寄せられる。特におかしなものは視界内にないのだけれど、たぶん、何かが引っかかった。唇に人差し指をそっと一瞬添えてから片手を地面と平行にしてから下ろし四人に待機を頼んで歩いて行く。たとえ言語化が出来なくても、違和感というのは気にしておきたい。
がさりがさりと藪を抜けたところで、岩肌にぽっかりと穴が空いていた。自然洞窟。なのか。ちょっと判別がつかない。入口周囲の地面は草もなく地面が露出していてすこし広場のようになっている。足跡はない。周囲に何かを盛り返したような跡もないので、地雷が埋まっているということもたぶんないだろう。
「……」
イレギュラー、かもしれない。見て見ぬふりはこの段階ならまだ出来る。でもその判断をするのは自分じゃないのだ。五人全員で、ARCUS試験運用チームなのだから。
薮の道を遡り、四人の下へ戻る。そこにあった洞窟の話をしたところで、アンが首を傾げた。
「この近くにそういう洞窟があるとは聞いたことがないし、見たこともないな」
「じゃあ人工物かな?」
「どう、だろう。ただ生き物もいないのに距離にして30アージュ離れたところから私が違和感を覚えた、ってことは念頭に置いておいて欲しいかな。何か、ちょっとゾッとする感じ」
「取り敢えず全員で向かってみるかい?」
そうしてみよう、と案内をしたらやっぱり岩肌の横っ腹に相変わらず穴が開いている。入口に近付いてみると肌が粟立つ。やっぱり、何か、よくわからない気配だ。たまに森で遊んでいる時に感じたものに似ているような、そうでもないような。はっきりしない。
「うーん……」
全員ただならぬものを感じ取っているのか、唸ってしまう。放っておくのも嫌だけれど、このまま入るというのもあまり気が進まない。どうしてだろう。
「トト爺に来てもらうのはどうだろう。そこで依頼があれば正式な課外活動に出来る」
「そう、だね。アンちゃんの意見はいいかも。もしかしたら今までもあった穴で不思議でもなんでもないかもしれないし」
「じゃあ一走りして、必要なら御足労頂くってことで」
片手剣を外して近くにいたクロウに預け、軽くストレッチする。もし来ることになったら流石に途中までは導力車を使ってもらおう。じきに夜になる。
「セリちゃん、気をつけてね」
「うん。行ってきます」
「じゃ、バフっておくか」
クロウがそう言うので、クロノドライブをかけてもらったところで走り始めた。
「おお、マジか……」
結局、元締め殿も穴のことは知らなかったようで、急いで導力車で駆けつけたわけだけれど、まさかトラックだからといってそのまま森に突っ込むとは思わなかった。街道の脇に止めてそこからは徒歩かなと覚悟していたので、予想以上に早くとんぼ返りができたけれど。
荷台から飛び降り、クロウから預けていた剣を渡され装着しながら状況の確認に入る。
「トワ、どう? 変化なし?」
「うん。取り敢えず変わったことはないかなぁ」
「トト爺、どうする? もしこれを調査するなら私たちだけで入ることになる」
元締め殿に話して現地へ向かうという話を通信でした際、トワたちは教官と連絡を取っていたようでそちらの方の問題は無くなった。好きにやりなさい、とのことだ。相変わらず。
「そう、だな。心配っちゃ心配だが……第四坑道を取り戻してくれたお前さんたちなら信用に値する。何より、放っておいちゃなんねえ感じがビンビンよ」
「では正式に課題に組み込むとしよう。それでいいかい、みんな」
籠手の紐を確かめながらアンが私たちを見渡すので、全員頷いた。アンは、土地の人々に何かあるかもしれないことに敏感だ。四月もそうだった。ノルティアであれば、さらにそうなんだろう。守るべき存在。どれだけ気安くとも、彼女にとってそれは変わらない。
「じゃあ行こう」
私たちが出てくるまで入口で元締め殿は導力車の中で待機してくださるようで、何かあればハザウに戻って教官を呼んできてくれるとのことだ。もちろん、身の危険が迫った時はそのまま逃げてくださいと伝えて、私たちは穴の中へ。
入る直前に空を見上げると、そこには黒い空に満月がぽかりと浮かんでいた。
入った洞窟の中はしんと静かで、少し肌寒ささえ感じる。ARCUSの携帯ライト機能で最低限の明かりは確保出来ているけれど、不安は拭えない。魔獣の気配はなく、それだけが救いと言えるだろうか。
「寒いな」
アンが言う。確かに夏だからといって上着ナシの半袖で行動していなくてよかったと思うぐらいの気温だ。そうだね、と肯定しようと横を見た時、アンの口から漏れる呼吸が白くなっているのが見てとれる。明らかな異常事態。────瞬間、突き当たりに行き着いたところで何もない空間に炎が現れた。人間の頭部骨を肥大化させた存在が、青黒い炎を纏って私たちの行方を妨げる。
「敵性霊体!?」
咄嗟にナイフを一本投げてからダガーと剣を抜いたところで、驚くべきことにその額にナイフが刺さった。隣にいるアンと顔を見合わせて頷き合う。物理攻撃が効くならどうにだってなる。
そうしてそれは事実で、私とアンが抑えている間に三人が交代しつつ後ろから戦技やARCUSを駆動し魔法を発動させ、その骸骨らしき敵性霊体は黒い霧のように霧散した。魔獣が光となる時とは全然別の色だ。
「────そっか」
周囲警戒し、新手が来る気配がないことを確認してから武器を納めたところでトワが呟いた。全員がライトを切っていたため暗闇だったけれど、先頭と殿にいる自分とジョルジュが明かりをつける。
「ここ上位三属性が働いてるんだ。魔法の効き方が何だか少し違ったもん」
上位三属性。七属性の中でも時・空・幻を指す言葉で、それは本来なら働く筈のない属性だ。あるいは古い言い伝えがある場所であったり、霊脈の上であったり、とにかく正常ではない状態や場所でしか稼働することはないと授業で習った。
だけど、そんな馬鹿な、と笑い飛ばせる状況じゃない。確かに実体化した敵性霊体を私たちは観測したし、それにこのずっと肌が粟立つ感覚もそれなら納得が出来る。
「いざとなったら後退することも視野に入れよう」
ジョルジュが硬い声で言う。異論は出ない。
取り敢えず先に進むかという空気になったところで、突き当たりかと思われた場所はT字路になっていることに気が付いた。情報がないならどっちに行っても一緒だろうと右を選択したところで、今度こそ行き止まりだった。だけど、何か赤い宝玉のようなものが土壁にハマっている。
いきなり触れるのは怖いので保留にして、分岐点の反対側へ。するとやはりと言うべきか、同じような形で今度は青い宝玉がそこにあった。
話し合いの末、四人が後方待機し、トワにはいざという時用の状態異常回復のレキュリア発動を頼んだところで自分が宝玉にそっと触れた。なんにもない。ひやりとつるりと冷たい感覚だけがそこにある。見事な曲面。こんな岩肌に埋まっているのに瑕疵がまるでない。ダガーの持ち手部分を思い切り叩きつけてみたけれど、傷一つつかなかった。
こちらを見ている四人に首を振って、合流する。
「……同時に触れるか、同時に破壊か」
「しかしこの人数でパーティ分割したくない、よね」
「応援呼ぶか? サラさえ来てくれたら3-3で分けられるだろ。バックアップはナシになるけどよ」
その言葉に即トワが反応し、ARCUSで通信をかけ始めるがどうやら芳しくないようで首を横に振る。一旦T字路に戻ろうかということになり、戻って、全員喉が引き攣った。道がない。一応、道があった痕跡だけはある。わずかな天井まで続く凹み。けれど、そこは全て土で覆われ、ジョルジュがハンマーで穿っても土が抉れるばかりでどうにもならない。土壁に耳をつけても向こう側に空間があるようには到底思えなかった。
「……最悪呼吸が出来なくなるね。冷静でいないと無駄に酸素を消費する」
風の流れが読めないので一応それを共有しておく。ここが霊的ダンジョンならどんなことでもあり得るかもしれないけれど、それに賭けるにはまだ早すぎる。
「火属性アーツはご法度かな」
「そうだね。控えておこう」
そんな風にクオーツの組み換えをしながら気をつけるべきことや全員の装備を確認するけれど、あいにく誰もまともな食料を持ち込んではいない。辛うじて保存食が少しだけ。まさか閉じるとは思わなかったので仕方ないけれど。
さてどうしようかというところで、ジョルジュが手を挙げた。
「パーティ分割の件だけど、現状で一番戦術リンクの連携が取れるペアにするべきだ。そして僕は可能ならバックアップに回りたい。なんとか手持ちの工具でARCUSの通信出力を上げられないか試したいしね」
つまり、トワとアン、クロウと私のペアになるということだ。それが一番お互いがお互いをわかっている組み合わせだと思う。
「まあ構わねえだろ。理に適ってるしな」
言いながらクロウがアンと戦術リンクを解除し、私に接続をする。アンも同様にトワへ接続を果たした。ヴン、と一瞬だけ足元が光るのを見て、これ探索中もスイッチか何かでずっと光るように出来たらいいのになぁ、なんて考えてしまう。採用されるかどうかはともかくとしてレポートには書いておこう。
そうして準備が終わり、全員で頷いて拳を出した。
「────女神の加護を」
さあ、ダンジョン攻略を始めよう。