[完結]わすれじの 1203年   作:高鹿

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08/31 購買アイス

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1203/08/31(月)

 

故郷での課外活動も今回こそイレギュラーなく無事終わり、領地運営の勉強などの名目で長期帰省が認められていた貴族生徒も帰ってきて、学院はまた賑やかさを取り戻した日のHR。

 

「さて、今日は二ヶ月後に迫った学院祭の出し物について話したいと思います」

 

委員長副委員長が教室の前の方に立ってそう切り出した。まあ前にと言っても委員長は教壇に、副委員長は黒板板書待機といった立ち位置ではあるのだけれど。

一年生は強制参加なためこの八月中それなりにみんな考えていたのか、いろいろ意見が出る。東方仮装喫茶、お化け屋敷、クレープ屋、プラネタリウム、などなど。けれどどうも、コレ、という決め手がないのか話し合いの空気がダレ始めたところで、女子の一人がすっと手を挙げ立ち上がった。

 

「ひとつ確認したいことがあるんだけど、このクラスで導力カメラ使える人って何人いる?」

 

促されて、自分含む何人かが手を挙げる。六人。十七人のクラスでこれはだいぶ多いんじゃなかろうか。この学院にも写真部があるとはいえ、まだそこまで値段として手が出しやすいというものでもない。感光クオーツだって安くはない消耗品だ。

立ち上がった彼女は少し考えるそぶりを見せて、うん、と頷く。

 

「貸衣装屋はどうかな。衣装の方はクラスの面子的にいろいろ集められそうだし、なんなら他のクラスに打診してもいいと思う。カメラ扱える人がこれだけいるなら二日間のローテーションも組みやすいんじゃないかな」

 

つまり、その場で衣装を選んでもらい撮影し後日郵送、そして希望するなら追加料金でその衣装を着たまま学院祭を回ることもOK、という。なるほど。これは他のクラスと被ることもなさそうだし、アトラクション系じゃないのでそこまで安全管理も要らない(それにアトラクション系はクロウの言っていた通りほぼほぼIII組が出してくるだろうし、クオリティ的に勝てるとも思えない)。

 

「賛成、いいアイディアだと思う」

 

さきほどカメラが扱えると手を挙げていたひとりがそう発言をするので、私も手を挙げる。

 

「私も。面白そうだしやってみたいかな」

 

そうしてVI組の学院祭の出し物は、貸衣装撮影屋となったのだ。うん、楽しそう。

 

 

 

 

授業も終わりいつものようにちょっとだけ技術棟に行こうかな、と思ったところで、何となく購買部のジェイムズさんのところに顔を出そうと足を向ける。衣装についても何か相談出来るかもしれないし。あとツテとして使えそうなのは商店街で店を構えるミヒュトさんとか、文句を言いながら協力してくれるのではなかろうか。

 

「こんにちはー」

「お、タイミングいいな」

 

何かと生徒と雑談をしていて学院内の結構な噂を知っているジェイムズさんが嬉しそうに手を振る。何か変なネタありますか?、と首を傾げると、いやいや、と指を振って取り出された紙に書いてあるのは。

 

「……アイス、ですか?」

「そう。せっかく食堂が近くにあるワケだしよ、業務用冷凍室の一角を借りてアイスを入荷してみたんだ。今からチラシ掲示するところでな」

 

暑い夏に、アイス。そんなの。

 

「ジェイムズさん、五つください」

「景気がいいな! ちょっと高いぜ?」

「大丈夫です、いま懐があったかいので」

 

実は帝国時報から例の写真と情報と記事の提供で賃金がこの間支払われたのだ。いや賃金というよりは元々あそこには情報提供者謝礼規定があるそうなので、扱いとしてはそちらなのかもしれないけれど。とにかく(もしかしたら公子経由の口止めも込みで)結構な額を頂いてしまったので、これをみんなに還元するのは悪いことじゃないと思う。なにせあの記事は私だけのものではないからだ。

 

「おうおう、幸先良くて嬉しいねえ。何ならちょっと宣伝してきてくれよ。どうせまた校内散歩するんだろ?」

「技術棟に顔出してからは一応そのつもりですね。いやでもこれ売れますよ」

「だったらいいんだけどなあ。お試しだから博打っちゃ博打なんだよ」

 

そんな会話をしながら会計を済ませ、購買所から出たジェイムズさんは食堂へ入っていきアイスと同数の木製スプーンをつけて渡してくれた。ひんやりとした感覚が奇妙に手のひらへ収まっている。溶ける前に急いで渡してしまおう、と挨拶もそこそこに二階へ急いだ。

 

学生会館の二階。生徒会室。いろいろ案件はあるけれど、最近はやはり二ヶ月後の学院祭の調整で多忙を極めているらしい。学院のあちこちで青い腕章をつけた生徒が走り回っているのを確かによく見る。

ここん、とノックをするとトワの声。入ってみるとトワとアンだけがそこにいた。他の人は出払っているらしく、入って左手の応接セットで書類仕事を。アンはたまに手伝いをするためにこうして生徒会に出入りしていたりするのだけど、まあたぶん、トワの傍にいたいという話なのだろう。一種のボディガードというか。

 

「あ、セリちゃん。どうかした?」

「うん、これ差し入れにって」

 

ととん、と二つアイスとスプーンを置くと、おや、とアンが首を傾げる。

 

「これはアイスか? また珍しいものを」

「実はついさっき購買で売りに出されたらしくてね」

 

こういう時の自分のタイミングの良さはなかなかのものだと思う。

 

「わあ、本当にいいの?」

「いいのいいの。あと二人にも届けてくるから今日はこれで退散するよ」

 

暑い中、窓全開にして書類仕事をするトワになにかしら出来たならそれでいい。ありがとう、という二人の言葉に軽く手を振って、残りの三つを腕に抱えて私はまた走った。

 

学生会館を飛び出して右手、技術棟。重い扉を肩で開けて入るとそこには作業中のジョルジュと机でだらりとしているクロウが。そう、最近夏バテでもしたのか妙にクロウの元気がないような気がするのもあって差し入れをしようと思ったのだ。これだけで元気になるものではないかもしれないけれど、少しぐらいは気分があがるといいな。

 

「よかった、二人ともいるね」

「おー? どしたどした」

「アイスの差し入れ」

 

腕に乗っけていた残りのアイスを、クロウの前に一つ、その隣に一つ、クロウの対面の席に座る自分に一つ。うん、よし。

 

「トリスタにジェラート屋でも来てたのかい?」

 

ジョルジュが作業を一旦止めて机にやってくるので、購買部で今日から売りに出されたんだよ、とすこしニヤリ顔で解説してしまう。いや偶然なのだけれど。でもそういう偶然に当たれるかどうかも大事だと思う。

 

「へえ、それじゃあありがたく頂こうかな」

「オレも」

 

二人がスプーンを手に取ったので、私も手を軽く合わせてカップの蓋を取る。勿体無いので蓋の裏をスプーンでこそげていると、まあ二人も似たようなことをやっていて少し笑ってしまった。

まずは一口。ひんやりとしたなかに牛乳の味が濃い甘さが広がって思わず顔が緩んでしまう。おいしい。うん、これは絶対に売れると思う。売り切れて買えなくなるのが勿体無いような気もするぐらい……でも頼まれたし後で号外的なチラシ新聞書いて複製機で各所に貼っておこう。

 

「そういえば二人のところは学院祭の出し物について何か話した?」

「話したよ。ちょっとしたコースター系アトラクションになりそうかな。具体的な構想はまだ詰めるところだけど」

 

やっぱりIII組はそっちの方向から攻めるのか、そうだよな、と頷いてしまう。ジョルジュがいるならそのジョルジュの手腕を存分に使って何かしたいと思うのは仕方のないことだ。私だって同級生ならいかにそれでアピール出来るか考えると思うし。何ならアンケート優秀賞も狙っていけるポジションだ。

 

「クロウは?」

「オレんとこはボドゲ場だな。トリスタってそれなりにガキが多いだろ?図書館で児童書コーナーもあるみたいだけどよ、保護者と子供が一緒くたに遊べたら楽しいんじゃねえかって話が出てな。近くの街にボドゲ専門にしてそうな店も見つけてるし仕入れもなんとかなんだろ」

「おー、楽しそうだね。時間があれば覗きに行きたいな」

 

特に大人と子供が遊べるというのは、うん、いいと思う。何なら購買とかで取り寄せてもらい後日取りに来て家庭でまた遊ぶというのも全然ありだ。そういう発想すごくいいなぁと感心するし、さすがだなと。

 

「あとはまあ、他にも色々やりてえな」

「有志系にも参加……いやクロウだから企画側かな」

「おう、楽しみにしとけよ」

 

ニヤッとした笑顔が久しぶりに見られて、こういう企画モノで動くの好きそうだし要らない心配だったかも、とアイスを口に運ぶ。あ、溶けてきたアイスもなかなかに美味しい。コーンに収まったジェラートじゃないから急いで食べなくても垂れてこないのはカップ系の利点かな。

 

「セリのところは決まったのかい?」

「VI組は貸衣装撮影だよ。カメラ扱える人が結構いたのと、結構みんな実家が帝国のあっちこっちで各地の衣装みたいなのが集まりそうなんだ。もしかしたら他クラスにも衣装提供呼びかけるかも」

「へえ、楽しそうじゃねえか」

「うん、私も楽しみ」

 

出来ることなら衣装撮影だけでなく、背景ボードとかも作って凝りたいけど、時間あるだろうか。ケインズ書房に写真集とかを取り寄せてもらって、それを参考に各地の風景を描くとかになりそうだけど。いやでもそもそも衣装がどういう傾向になるのかある程度出揃ってからでないと無駄になる可能性も。

 

「たぶん10月の課外活動はないよねぇ」

「あったら地獄すぎんだろ」

「恐らくないとは思うけど、スケジュールにも影響するし早めに聞いておくのがいいかな」

「だよねー」

 

ジョルジュの言葉に頷きながらアイスを食べ終えたので、白い紙を取り出して号外チラシ新聞を書き始める。どんなふうに書こうかな。ジェイムズさんが少し驚いた通りちょっと値が張りはするものの、アイスが帝都に出ずとも学院で友人と食べられるというだけでなんか非日常感があっていいと思う。ジェラートはジェラートでいいと思うけど。ドライケルス広場でいつも屋台出してくれているあそこも美味しいしね。

 

うん、感想混じりにドンと直球に行こう。

 

 

 

 

「こんにちはー」

「お、昨日は号外新聞ありがとうな!」

「その様子だと売れ行きいいみたいですね?」

「なんと完売」

「わお、おめでとうございます」

「来年はも少し早く仕入れてもいいかもなー」

「今から楽しみにしておきます」

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