09/04 お料理チャレンジ
「セリさんって自炊されてますか!?」
放課後、いつも通りブランドン商店へ食材を買いに来たら店先にいたティゼルさんにそう問いかけられてしまった。それなりにはしているけれど何かあったのだろうか。
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1203/09/04(金) 放課後
「いきなりすみません……」
「いや、それは別にいいよ。何かあったの?」
落ち着いてもらうために公園のベンチに座ってもらい、キルシェでアイスティーをテイクアウトしてきて渡すと、ありがとうございますのあとに謝罪が始まった。
「その、父さん今年もトールズの学院祭を商店街ぐるみでバックアップしようって言っていて、私もそれは賛成なんですけど、そんな父さんに何か、こう、」
「美味しいものを作って応援してあげたい?」
言葉を予想して引き継いでみると、すこし耳まで赤くしたティゼルさんがこくりと頷く。いいなあ、大好きな人が頑張っているのを応援するために、料理をしたい。とてもいいと思う。私もそんな風に、料理をしたい、二人に楽してもらいたい、と願って台所に立ち始めたのを思い出す。結局叔母さんから教わることになって、楽させることが出来ていたのかは不明だけれど。
「セリさんも学院祭で忙しいと思うので、もしあれなら」
「まだ忙しくないから大丈夫だよ」
事実だ。衣装の手配が終わらないと背景ボードも、着用イメージ写真も、何もしようがない。そもそもたぶん導力カメラ扱える人員はそれなりに準備免除されるのではなかろうか。何故なら当日、少なくとも一日は休憩時間があってもそれなりに拘束されるだろうので。いやこれは単に私の想像と希望だけれど。
「だから、そうだね、とりあえず日曜の15時ぐらいに第二学生寮の台所でいろいろ作ってみようか。折角ならひた隠しにしてあっとブランドンさん驚かせよう。あ、でもきちんと行き先だけは伝えておいてね。心配なされるだろうし」
「は、はい! ありがとうございます!」
私もブランドンさんには常日頃お世話になっているので間接的に恩返しが出来たらいいなと思うし、何より本当に『頑張る家族のために頑張りたい』という気持ちを応援したい。それはとても尊いものだと感じるし、そのお手伝いを私が出来るなら何よりだ。
15時以降なら日曜学校も終わっているとみたけれど、ティゼルさんも予定を入れていなかったみたいでよかった。
「じゃあ明日も夕方までにお店に寄らせてもらうから、どんなものを作りたいか今日明日で考えておいてくれるかな。具体的じゃなくても、バテ防止料理とか、お肉料理ですこし凝ったものとか、そういうレベルで大丈夫だから」
「わかりました。考えてみます!」
いつも元気なティゼルさんが嬉しそうに笑ってくれたので、私もつられて笑顔になる。
でも肉体労働に効く料理とか大鍋料理とかならそれなりに得意だけれど、モノによっては調理部のニコラスにレシピの協力を仰ぐ必要があるかもしれない。今から戻って協力してもらうかも、という感じのことは言っておくべきかな。寮で会えるとも限らないし。
「それにしても9月入ったけどまだ暑いねぇ」
すっかりぬるくなってしまったアイスティーに口をつけると、ティゼルさんもおなじように。でもぬるくても多少薄くなってもキルシェの紅茶は美味しい。うん。
「はい。でも私、セリさんは上着ずっと着てるので暑くないんだと思ってました」
Tシャツにオーバーオールがトレードマークのような彼女から見たら、確かに腕まくりしているとはいえ学院の上着着用姿は厚着に見えるのかもしれない。
「案外風を通してくれるんだよ。残暑は湿度あってちょっとキツいけど」
「へえ、不思議な服なんですね」
その言葉に、うん、と頷く。
言ってしまえば単なる学院制服だというのに特殊繊維混紡で実戦に強く、デザインと制作はあのル・サージュに頼んでいるという。そういういろんな意味で不思議な服と言っても差し支えはない気がする。夏服も注文から二ヶ月ほどかかることもあるらしく、五月下旬から受け付けているというのは驚いた。というかそれだから一年生に夏服着用者が少ないのではという気もする。
「さて、それじゃあそろそろ今日の分の買い物をしてこようかな」
「あっ、えっと、今日はありがとうございました。日曜、楽しみにしてますね」
立ち上がって歩き出そうとしたところで隣に座っていた彼女も同じように立ち、頭を下げられた。私も楽しみにしてるね、と告げると、また嬉しそうに笑ってくれたのだ。もし妹がいたらこんな感じだったのかなぁ、なんて。それはティゼルさんに失礼かもしれないけれど。
1203/09/06(日) 放課後
時間通りに授業も終わったし、必要そうな材料は昨日ティゼルさんに作りたい傾向を聞いて買い込んだので大丈夫な筈だ。高等生向けのキッチンだから10歳くらいの子が使うなら台があると便利だよ、とニコラスにアドバイスをもらったのでそっちの準備も万全にしたし。
そうこうしてHRが終わって即帰り支度をして寮に戻ると、トートバッグを膝に抱えたティゼルさんが建物の前に併設されているベンチに座っていた。
「あ、中に入って待っててって言うの忘れちゃったね、ごめんなさい」
「いえ、ここの木陰気持ちよくて好きですし、待ってる間に白い猫が来て遊んでました」
それならよかった、と言いながら第二寮へ招く。着替えだけしてくるからロビーのソファで待っててね、と言い残して三階に。上着とズボンをハンガーにかけて、シャツは後で洗濯に出す。それなりに整った私服へ適当に着替えてエプロンを持ち出しまた一階へ。
春先は昇降が面倒くさいという三階勢の嘆きがよく聞こえてきたけれど、もうみんな慣れたのか体力がついたのかそういう声は聞こえなくなった。まぁ流石に半年弱も生活していれば慣れでも体力でもなく諦めがつくのも道理だけれど。嘆いても部屋割りが変わるわけではないし。
「お待たせ。人が少ないうちに台所存分に使おう。レシピは後で文字起こししたものをちゃんと渡すから、まずは一緒に作ってみようか」
「はいっ」
二人でエプロンをつけながら食堂の扉を開けると誰もいないので広々と使えることに内心嬉しくなる。寮に来て初めて知ったけれど、大きな台所というのはそれだけで楽しくなってしまう場所らしい。そういう意味では調理部に入るのも良かったかな。
「わあ、おっきいですね」
「ピークタイムだとさすがに待ち時間発生しちゃうけどね。朝だとオーブントースター足りなくてフライパンでパン焼く生徒がいたりするし」
「えっ、フライパンで焼けるんですか!」
「うん。バター溶かして焼くから案外速く出来上がるし、トースターより好みってフライパン焼きにハマった人もいるよ」
「へえ~、私もやってみようかな……」
新しいことに目を輝かせているティゼルさんが可愛くて思わず笑みが溢れてしまう。
取り敢えず調理を開始するので一緒に手を洗い、冷蔵庫に入れていたものを取り出した。もちろんすべてブランドン商店で買ったものだ。
「これ……豚肉ですか?」
「疲労回復には豚肉がいいんだよ」
「あ、そっか、そういうことも考えて料理すると良いんですね」
「ある程度余裕があればでいいけどね」
栄養素の概念は私も後から徐々に足していったし、そういうのがあるんだ、ぐらいから始めるのが良いと思う。肉体労働に明け暮れた人たちがだだっと家に来たりすることもあったし、必要に駆られたところはあるけれど。
「今日は豚肉のジンジャー焼きを作ります。まずは一人分」
「ジンジャー……ハーブって難しそうであんまり使ったことないんですけど」
「大丈夫大丈夫、これはほぼすりおろすだけだから」
それとこっちでは少し特殊な東方系調味料の醤油を使ったりもするけれど、今日使うものはブランドン商会で手に入れたものなので手に入らないってことはまずない。昨日も試しに作ってみて美味しかったと個人的には思う。
「まずはジンジャーをすったり、付け合わせの野菜を切ったりしてからお肉を焼こう。焼き始めたら結構直ぐだから」
「わかりました」
そんな風に付け合わせに使える季節の生野菜を切って水にさらしたり、肉の筋を切ったりの下拵えを丁寧にやっていく。ティゼルさんは忙しいブランドンさんの代わりにご飯をよく作っていると言っていた通り、包丁を扱う手は澱みなく結構見事なものだと思った。
「セリさんは昔から料理出来たんですか?」
「んー。私も最初は家族にご飯作りたい、って思って台所に立ち始めたよ。でもその頃は失敗も結構したかな」
うっかり鍋の底を焦げつかせてしまったり、生地を混ぜすぎて食感が堅くなってしまったり、それなりにそれなりでやらかしてきてはいる。
フライパンに並べたお肉を弱火で両面とも焼き終えたので、一旦お皿に取り出してフライパンの上でそのままタレを作り始める。これも調味料を混ぜ合わせて煮詰めるだけなので案外簡単だ。ポイントを押さえて説明をしながらおろしたジンジャーを加え混ぜたら、最後に肉をタレと絡めるためにフライパンへ再度投入。
香ばしい香りが漂ってきて授業後ということもあって空腹を自覚させられた。
「っと、こんな感じで最後に強火で絡められたらさっさと火は止めちゃっていいよ。硬くなっちゃうし。そんでお皿に盛り付けて、さっき用意した生野菜も添えて、出来上がり」
「わあ、美味しそう……!」
今の季節なら緑のキャベツと赤のトマトと肉の茶色でなかなかに彩りもいいメニューだと思う。行儀は悪いけれどそのままティゼルさんにナイフとフォークを渡し、二人で実食。うん、上手くいってるいってる。
「あ、ジンジャー結構入れてるからキツいかと思ってましたけど」
「ちょっと甘いタレと絡めるから意外にマイルドになるよね」
「これなら私も出来そうです!」
「よーし、じゃあやってみよう」
用意していたレシピメモを渡してティゼルさんが一読する間にもう一切れ口に放り込む。
これ教えてくれたのはジョルジュだったよなぁ。結構みんな得意分野が分かれているおかげで、チームの面子でご飯会をするとそんな料理あるんだ状態が多発するのがわりと面白いと思う。クロウのフィッシュバーガーとかはアンが結構手伝ってて、もう皆伝なんじゃないか?、とこの間笑っていたっけ。
「セリさん、作るので見ていてください!」
「オッケー」
そうしてティゼルさんが一人で豚肉を焼くのを私はただ見守っていた。手際がいい。
「ちょっぴり焦げちゃいました……」
調理場の後片付けをしてせっかくだからと食堂の方に移動したところで、席に着いたティゼルさんがそう呟く。
「多少焦げてても香ばしいで済ませられるのがジンジャー焼きのいいところだよ」
絡み付いたタレの部分がすこし焦げても美味しいと思う。個人的には。
「でも家でやるときはもっと気をつけます」
「その意気その意気」
うんうん、と頷きながら誰もいない食堂で二人並んで食べていく。これをサンドイッチにしたらパンがタレを吸ってそれはそれで美味しいんだよなぁ。今度生徒会室への差し入れで持っていこうかな。
「セリさんって他にどんな料理作るんですか?」
「うん? 結構煮込み系が多いかな。大勢に振る舞う機会が多かったから。逆にお菓子系とかは得意じゃなかったけど、友達のおかげで最近少しは作れるようになったよ」
「わあ、いいですね」
トワはケーキ系が大得意でパンケーキを焼いてくれたりして、秋になったらかぼちゃケーキ作りたいな、と言っていたのを思い出す。アンも得意料理はさすがに少ないけれど東方系含む麺料理が得意だったり、ジョルジュは肉料理や計量の必要なもの、クロウは肉料理に加えてざっくり大鍋系や魚介料理が得意で、本当に色々みんなから知識を得ている。
「も、もし良かったら、また料理教えてくれませんか!」
意を決したように告げられた言葉に、ふふ、と少し笑ってしまう。かわいい。
「いいよ。毎月下旬は忙しいことが多いけど、上旬なら空いてることも多いと思うし」
「わあ、ありがとうございます!」
大好きな父親のためにこうして、相手が常連とはいえ他人にお願いが出来るというのはとても強いと思う。人に頼るというのを今のうちに覚えておくというのは大層いいことだ。
「でも一つ聞いていいかな」
「はい、何でしょう」
「どうして私に声をかけたのかなって」
常連なら買い物好きのマリンダさんだっているし、料理上手でいうなら私よりもニコラスの方がずっと上手いというのはわりとわかりそうなものだ。まぁ男性に頼むよりも女性の方がという気持ちもわかるけど、それならたまに商店で会うおしどり夫婦なハンナさんでもいい筈で。
問いかけてみたところですこしティゼルさんが視線を落として、笑わないでくれますか、と。もちろん、と答えたらそっと琥耀石のような瞳が私を見る。
「私、セリさんに憧れてるんです」
憧れている。理解語彙ではある。
でもそんな風に心を寄せてもらえるようなことを私は彼女にしていただろうか。毎週ブランドンさんのお店で買い物はするし、ティゼルさんにもよく声はかけてもらっていたけれど。むしろいつもお店の手伝いをしていてすごいな、と私が言いたいぐらいなのだけれど。
「こんなこと急に言われても困るとは思うんですけど、セリさんは街の外の強い魔獣を倒してくれたりしてるってお父さんから聞いて、それでうちの店にもよく来てくれるから自炊してるんだろうなって思ったりとか、あとすごく、きれい、な人だから、私もこんな風になれたらって」
ぎゅっと目を瞑って両手を握り締めながら胸の内を告白してくれる彼女が本当に可愛くて、ああ妹ってこんな感じなのかな、なんて改めて考えてしまう。正直、心臓がきゅうっとなった。
「それは……光栄かな」
「呆れませんか?」
「そんなことないよ。嬉しいぐらい」
私の答えに、そっかぁ、とティゼルさんが両手指をゆるめて笑ってくれた。ほっとしてくれたことが嬉しくて暫く眺めてしまっていたら、私の視線に気が付いたのか彼女が僅かに顔を赤らめて視線を外される。
「あの、私一人っ子なんですけど、お姉ちゃんがいたらこんな感じだったのかな、って。いや私が妹なんて失礼かもしれないんですけど!」
その言葉に、そうかそう思ってもいいのだ、と自分の心が救われるのがわかった。そして誰かに憧れてもらえる自分になっていたのなら、それは私を形作ってくれたいろんな人を褒められているも同然で、つまるところとても嬉しい。
慌てるティゼルさんの頭を軽く撫でて、上げられた視線をしっかりつなげる。
「実は私も、妹がいたらこんな感じだったのかなって思ってた。お揃いだね」
「そ、そうなんですか? やった、嬉しいです」
えへ、とまた彼女が笑ってくれたので、私もそれに頷いた。
1203/09/11(金) 放課後
そろそろみんな忙しくなるだろうしここらで一回ご飯会やりたいです、とつい先日技術棟で全員集まっていたので提案したら、トワが金曜だけは遅くなりそうだから無理、と言っていた。それを帰り際に思い出したので、サンドイッチでも差し入れするかな、といろいろ食材を買い込んでみる。どうせ学院に戻るから上着だけ脱いでエプロンだ。
この間のジンジャーの残りで例のメニューに、照り焼きチキン、オーソドックスにタマゴは鉄板だし、ポテトサラダも美味しいし、きゅうりチーズもいいと思うし、……といろいろ食べられたら楽しいと思って作っていたらうっかり作りすぎた。
まぁ今日中に食べられなかったら明日の私の朝ご飯になるだけか、と一つずつ紙に包んで包丁で切ってバスケットランチボックスに詰めていく。うんたくさんあっていい、と頷いて蓋を閉じて再び学院へ。
夏は夕方でもまだ日が高いから何だかお得な気がしてしまうけれど、気を抜くと気付かない間に暗くなるので一長一短かな、と何でもないことを考えながら坂を登っていった。
学生会館が見えてきたところでやっぱり端にある生徒会室の灯りはついていて、いつも通り購買の前を抜けて二階の奥へ。コンコン、とノックをするとトワを含めた複数人の声。
ガチャリと開ければ、そこそこ顔馴染みになった生徒会メンバーがちらほら見える。トワはいつも通り入って左側のソファという定位置で書類仕事をこなしているようだ。アンはいないようでアテが外れたなとちょっと思う。
「あれ、セリちゃん。どうしたの? VI組の出し物に変更あった?」
「おつかれさま。そういう話じゃなくて単にご飯の差し入れなんだけど、食べる?」
「えっ」
ボックスを掲げると、トワが目をぱちくりとしばたたかせた。
「忙しいみたいだからどうかな、って。結構あるので生徒会の皆さんもよければ」
「それなら御相伴にあずかろうか、みんな。ハーシェル君も休んでくれ」
言った瞬間、生徒会長の席に座っていた白い貴族制服の男性が笑ってそう言った。
「私、紅茶淹れますね! あっ、ローランドさんも一緒にどうぞ!」
「……邪魔じゃないですかね」
想像より人数がいたので自分は置くだけ置いて帰ろうと踵を返しかけていたのだけれど。
「いや、もし時間が許すのならぜひ」
「ではお言葉に甘えて」
ふふ、と生徒会長につられ笑いをして、トワに隣が大丈夫か確認して座ると相手は私を見上げてきて、セリちゃんどうしたの?、と。いや本当にご飯差し入れに来ただよ、と告げると、そっか、と笑いながらすこし頭を肩に預けられた。どうしたのかな、と思いながら私もトワの頭に頭を預けてみると、ふふっ、と笑ってくれたのでまぁ笑ってくれているならいいかと思う。
そっと預けられた頭が離れ、サンドイッチへ手が伸ばされた。私はタマゴサンドにしよう。
「あ、これ美味しい」
「豚肉のジンジャー焼きだね。タレをパンが吸うから割とマッチするんだよ。この間ティゼルさんと作ったから手がきちんと覚えている間に何回か作っておこうと思って」
「ティゼルちゃんって、ブランドンさんのところの?」
「うん。妹みたいで可愛かったなぁ」
まぁ私は一人っ子なのだけれど、と考えた瞬間、すこし、何か、兆しのようなものがよぎったような気がした。……。
「ねぇ、トワ」
気を使われたのか部屋にいた生徒会面子は部屋の奥に並べられている長机で楽しそうに食べているため、すこし声をひそめたらこちらの声は聞こえないだろう。トワも私の意図に気が付いたのか、どうしたの、と目線で問いかけてくる。
「嫌なら答えなくていいんだけど、トワもご両親が亡くなってるんだよね」
「あ、うん。叔父さん叔母さんのお世話になってるっていう意味だとセリちゃんとおんなじ」
「そっか、ありがとう」
私もトワも両親がおらず、親戚のところで世話になっている。アンは確か前に母親を早くに亡くして父親に淑女教育をされかけている、というのを何かで話していた。クロウやジョルジュのことがわからないとなんとも言えないけれど、戦術リンクには素質が必要というのは、もしかして、そういう。
若干深く考えかけて、いや、情報もサンプルも足りないし下手したら軍の暗部に足を突っ込みそうな話だと考えるのをあえて止めた。立ち入ったらいけない。人間には生きて帰ってこられる情報ラインというのが確かに存在するのだから。それを、前にルーファス公子を見て強く思った。ああいう人物は誰かがそれを越えたら残念だと言いながら斬り捨てられる。そういう怖い人だ。
「セリちゃん、具合悪い?」
声をかけられてハッと意識が浮上する。声の方を見ると心配そうな色をたたえた瞳が私を見上げてきていた。
「いや、ごめんごめん、大丈夫だよ」
そう笑う私の嘘をきっとトワは見抜いただろうけれど、同時に話すつもりもないのだろうと理解してくれたのかそれ以上は追求されなかった。労いに来たのに心配させるのは友人失格だったな、と内心ため息をついて、手に持っていた握り潰しかけたタマゴサンドを口にした。