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あいつのことが好きだって気付いちまって、でもそれはどうすることも出来ない感情だってのは重々理解していることだ。俺はテロリストとして生きることを決めもう血に汚れているようなもんで、あいつは両親はいなくとも街ぐるみで愛されている。完全なる断絶がある存在だ。
オレに対してそういう好意があるのかは正直不明だが、少なくとも嫌われてはいないだろうと、思う。じゃなかったらあんな気配に聡いやつが、貞操観念がそれなりに高いだろうやつが、早朝に薄着でオレと気が付いて声をかけてこねえだろ。いくらストールがあるにしたって脚は丸見えだったしよ。鍛えられて綺麗な脚をあんな惜しげもなく晒して。
いや違う、そういう話じゃない。
そう。いつ"その日"が来るかは未だ俺にもわからねえけど、それでもいつかは"その日"が来る。来させてみせる。その為に俺たちは生きているんだ。たった一人を殺す、その為に、その末にこの帝国を破壊することを、ずっと前に決めた。その準備として細々と破壊工作や人員配置を施して、起爆の日を今か今かと待っている。
だから頭がおかしくなりそうなんだ。
お前がジュライにいて、俺の幼馴染のような顔をして、未来について語ったあの日のことをたまに夢に見る。そんなことはあり得なかった。わかってる。知ってる。俺は、オレとしてセリとあの四月に初めて会話をした。そう一つ一つ丁寧に辿らないと訳がわからなくなっちまいそうなほどに、あれはあんまりにもリアルだった。人間の脳は導力端末よりずっと高性能だってことなのかもしれねえ。ンなことわかりたくもなかったが。
覚えていなくて良かったと思う反面、この記憶を共有できる唯一の相手をオレは喪った。
それは、本当に幸福だったのか。わからない。
自分の感情に気が付く前に殺した方が良かったんじゃないかと、そう考えることもある。でも結局、それは無意味なんだろうとさすがにわかるわけで。単に気が付いたのがあの瞬間ってだけで、おそらく、俺はもうずっと前からあいつに惹かれていたんだろう。
だから夜中に気配を感じて度々顔を出しちまった。今考えればタイミングが良かったんじゃねえ、合わせてたんだ。マメな自分に笑うしかない。自分から深みにハマりに行ってるじゃねえか。
単なる隠れ蓑の為に入った学院で、最新の戦術オーブメントを使えるアドバンテージを手に入れられるってんなら受けない理由はなかった。やることある方が動いてても目立たなそうだったしな。
そんで最初のチームアップで頭を撫でた時のクソ迷惑そうな顔。だけどそこに同居する、トワに向ける信頼を置き始めた顔。初課外活動で森のヌシだとかと対峙した後にされるがままに笑っていた顔。
ブレードに付き合う人よさの後ろにある、知識欲と戦闘欲の面。戦闘訓練で見た本当に悔しそうな表情はきっと今でもオレだけのものだ。そして躊躇なく魔獣と救助対象の間へ割って入る危うさ。あいつは自分の命をいとも簡単にベットする。
オレが作った料理になんの疑問も持たずに(いや持つ筈がないように誘導しているのは俺だが)、旨そうに食う姿。他人の赤点を心配して勉強を見るバカみてえなお人好しさと、茶化した時に茶化されてくれねえ真っ直ぐさ。そして他人の命をベットしたことに気が付いて精神を砕いちまう、よくわからねえ常識人側面(これは本人の瞬発的な倫理観と、冷静な思考で発露する倫理観の乖離によるもんだと推測している)(俺が言うのもなんだが生きづらそうだ)。
風邪をひいた人間を見舞いにくる優しさに、茶化した言葉をいっそ真っ直ぐに受け取るひねくれた素直さ。古代遺物に魅入られたのも(俺が精神防護魔術をかけられていたってのも大いにあるだろうが)、そういう地味にある実直さのせいかもしれねえ。
そして。
故郷をこれでもかと愛している姿。俺が、ずっとそうでありたかったモノを、あいつは今も心に抱えられている。そうだ。俺は、あの国を、あの街を、愛していたかった。両親が早くに亡くなった俺を引き取ってくれた祖父さんが何よりも誰よりも愛していた、あの場所を。
それでも、感情はそれだけじゃいられなかった。
この行動を祖父さんが望むとか望まないとかじゃねえ。俺が、そうすると決めた。俺自身のための戦いだ。
嗚呼、本当に感情ってのは厄介なモンだ。一度自覚しちまえばなかったことにも、無視をすることも難しい。だけど。オレがこれからあいつに唯一出来ることは、これ以上の仲にならないってことだけだ。
いつかの未来、道が違わない筈がない。逆説的で自虐的だが、テロリストである俺の横に笑ってあのままいてくれるあいつは、俺が好いちまったあいつじゃないんだろう。今なら押し方を考えれば絆されて落ちてくれるんじゃないかって考えちまうけど。それでも、それだけは。
まあ、トワやジョルジュやゼリカと似た程度には、きっと傷付けるんだろうが。
それくらいならあいつらがどうにでもしてくれんだろ。たぶんな。
俺は《C》を捨てられない。そう決めちまったから。
1203/09/15(火) 放課後
今年のトールズの学院祭は来月の24と25だ。あとひと月強しかねえ。有志に話持ちかけていくつかイベントは企画したけどそれを全部取りまとめんのも大変だと参加してくれた二年に押し付……まあもといある程度の裁量を頼んで来たところで妙に騒がしい教室にかち合った。
どこだ?と視線を向けたところで一年VI組。嫌な予感しかしねえ。
「あー! アイツどこで油売ってんだ!」
距離を取るって誓ったろとUターンしかけたところで件の教室から女子が一人怒り心頭に扉を開けたのが見えた。見えちまった。視線があって、やべえと逸らして歩き出そうとした。のに。
「クロウ! いいところに!」
人間にあるまじき速さでオレの肩をそいつは掴んだ。いやオレも忙しいんだけどよ、と渋面作って対応すると、前のブレードの負け金貰ってないなぁチャラにしてあげてもいいんだけど、とニヤり笑い。いやどう考えたってそれ含みがあるやつだろ。オレを巻き込むな頼む。金なら今度払うっつーの。今度な。
「おーい、ロシュ。カメラ扱える奴が出て行くなよーい」
「あ、アイツ来ない代わりにクロウ取っ捕まえたわ! 借金のカタに!」
「捕まえられてねえ!」
オレの意思とは裏腹にずるずると首根っこを掴まれて教室に持ち帰られちまう。いや、まあ、話だけなら聞いてやるか。あんまり勝ち続けるのもアレだからってこいつに負けたのは事実だしな。
「ねー、誰かファスナーあげ……あれ、クロウ」
「……なんだお前その格好」
教室に入った瞬間、簡易更衣室的なカーテンがついた折り畳みボックスから出てきたそいつは、セリは、真っ白なドレスらしきもんを身につけて上半身だけ覗かせている。いや、どう言う状況だこれ本当に!
「あー、セリごめんクロウいるから出てこないで出てこないで」
「じゃあ誰か入ってきて」
「手ぇ空いてるウチが入るわー」
そして宣言通り他の女子がカーテン内へ入ってファスナーを上げる音。どう言う状況だ。
諦めて教室を見渡すと複数のハンガーラックにおおよそ普段着じゃねえ衣装が所狭しと置かれているのが見えて、教室の中央には導力カメラが三脚に固定されて、そのレンズの向く方向にはビロードの光沢がある布が吊り下げられて。つまり、写真撮影。想像しやすいように衣装の着用写真とかを撮ってんのか。……いや?ちょっと待て。セリの写真が来場者たちに公開されるってことかそれ。まぁ本人が了承してるならオレがなんやかんや言うもんじゃねえが。
「ドレス着せたよー」
「ありがとね」
その言葉と共に姿を表したセリは、白くレースとフリルがふんだんに使われた、いわゆる、おそらく、ウェディングドレスに相当するだろうもんを着用して出てきやがった。胸上から首がレースで覆われてるデザインだから背中とかが露出してるわけじゃねえんだろうが、いや、これは。
「……傷だらけの身体には似合わないよねえ」
オレが眉を顰めたのを見てかセリが苦笑する。確かに腕まくりで通常露出させている部分に生傷はそれなりにあるが、普段は隠れている肩から肘までは綺麗なもんだと思う(多少筋肉質ではあるがそれはそれでオツなもんだろ)。指先から肘までなら手袋しちまえば隠れるんじゃねえか。
いや違う。そう言う話じゃない。
「ってえ!」
何て答えたらいいんだ、と逡巡したところで背中をドンッとかなり強めに叩かれた。いやどう控えめに表現しても殴られた。
「ドレス姿の女子を前にして褒めることもできんのかクロウ貴様」
「いいよ、クロウは普段の私を知ってるし、困ってるって」
いや、掛け値なしに、綺麗、なんだが。言っていいのかこれ。言ったらまずくねえか。どうなんだ頭が働かねえ。こんなところでポンコツになるなオレの頭。
「いーや、セリ、アンタの顔は最高にいい! 被写体として! それはアタシが保証する!」
「ロシュ、それ本当に外では言わないでね嫌味じゃなく気にしてるから」
常日頃からいわれてるのか若干呆れ気味の声音でセリは突っ込む。あー、これは本人に言われてしっかり対応してるゼリカの方がまだマシだな。そりゃセリからあいつへの好感度も上がるわ。……いやでもその顔で目立つの嫌いだろうになんでこんなん請け負ってるんだか謎すぎるんだが。
「はいはい、クロウ、アンタはこれ」
「あ?」
そう言いながらオレを引き込んだやつが持ってきたのは白いタキシード。それを無理矢理持たされ更衣室に押し込まれそうに。いや、もしかして。おいちょっと待て。
「あ、でもアンタ銀灰色か。微妙に飛んじゃうかな~。今から黒髪にならない?」
「ならねえよ!」
はちゃめちゃすぎるだろこのクラスの女子は。
ったく、と困惑しているところに案の定手袋をつけてドレスのスカートを持ち上げてセリが寄ってきて、ぱん、と申し訳なさそうに手を合わせて見上げてきた。
「ごめん、クロウ、着用イメージ作成今日中に今の分は終わらせたいから協力してくれないかな。衣装二着分だけでいいから」
「……つったってオレ別クラだぞ」
「まあそこは約束の時間に来なかったヤツが悪いって」
せっかくセリのパートナー役なのにねえ、と導力カメラをいじる奴が後ろから答えてくる。あー、つまりここでオレが逃げるとセリの横にこの衣装を着た別のヤローが立つってことなんだなちくしょう。
目元を押さえて項垂れてから、借金チャラなんだよな、とだけ何とか絞り出した。
「はーい、予備含めてカメラの設定変えながら四枚撮るから。それじゃ最初のいちまーい」
背もたれのある椅子に座って、しっかりと背筋を伸ばすセリの右後ろに立ち、背もたれに軽く手をかける。背中と触れちゃいないが何か妙にざわざわする気分にさせられるのは確かな話で、ああくそ早く終われと内心悪態をついちまった。
それがどうも気配で伝わったのか、「ごめんね」と前を真っ直ぐ見ながらセリが小さく謝る。いや、お前に謝られることじゃないんだが、と言いかけたところで「姿勢崩すな!」と声が飛んでくる。おっかねえ。ちらりと見下ろしたセリは、変わらず微笑みをレンズに向けていた。
一枚目の撮影が終わり、セリだけドレスを変えて二枚目の写真を撮るらしい。衣装二着分ってそういうことか。めんどくせえなあ。
「いやー、あんがとね。あそこでアンタが通ってくれなかったらセリがドレス着た時間がまるまる無駄になったわ。やっぱああいうのはピン写よりペアの方が雰囲気伝わるしね」
「そいつはどーも。……ところで学院祭終わったら全部ちゃんと破棄すんだろうな」
声を潜めて暗に『横流しとかすんじゃねえぞ』と問いかけると、「そこまで腐っちゃいないよ」とため息を吐きながら肩を竦められちまった。
「確かに何枚か貰えないか焼き増ししてくれないかって内密依頼で言われたけど全部断ってる。アタシはセリを撮るのが楽しいけど、カメラマンとしては本人の許可のないブロマイドには何の価値もない。感光クオーツも光に当ててデータを全部削除する予定だって。まあ何枚かは本人希望の焼き増しがあるけど、それぐらいだね」
ああ、ティルフィルにでも送んのか。普段着ない服でお淑やかに座ってる姿は結構見栄えいいだろうしな。あの人たちなら勝手に本人の意思を無視して見合い写真に流用するとかもねえだろう。
「はいはい、その話そこまで」
ジャっとカーテンを開けて眉間に皺を寄せるセリが会話に割り込んできた。あ、やべえ。オレが声潜めてたってのに会話相手が全然声潜めなかったら意味ねえ。
「クロウが心配して質問してきたから答えただけだよ」
「だから怒ってはいないでしょう」
もっと怒った方がいいんじゃねえか、と思うが明らかに戦闘経験値が違っちまってる同クラスの相手にあんまり言うと角が立つってのはあるか。それも顔を褒めるなっていう、一部の奴からしたら自慢とも取られかねねえ。幸いこの部屋にいるやつにそれを露わにするようなのはいないっぽいが。いや、ま、仮にクラスにいたとしても呼ばねえか。
しかし着替えてきた今度の格好は、後ろがスナップボタンの少しデザインが古めかしい手首までゆったりとした布で覆われているタイプのドレスだ。フリルよか細かいレースが多めの。なるほど、クラスの親世代とかその前が使って死蔵されてたドレスが到着し始めてるってところなんだなこれ。個人的にはこっちよりさっきの方がこの……いや違うそう言う話じゃねえ。
「そんじゃ再度四枚、いくよー」
そんなこんなで都合一時間かかった写真撮影は終わりを迎えた。
クッソ疲れたもうやらねえ。
「本当にありがとう、今度何か奢るよ」
セリが写真撮影の時の感情の読めない笑みじゃなく、いつも通りの表情で労うようにオレの背中を軽く叩いてきた。さっき叩かれた箇所を避けてるのは優しさなのか偶然か。
「ま、滅多にない経験だから気にすんなよ。借金もチャラだしな」
「ああ、そう言えば。これに懲りて後に引くような校内賭博はやめときなって」
面倒の極みだよ、と崩した表情で笑われる。あー、そうだな、そういう表情の方が何倍もいい気もするんだが、人形のような方が写真映えはするんだろう。大変だな。
「じゃ、私はもう少し残るけど」
「着替えてオレはとっとと帰るわ」
「うん、じゃあね」
簡易更衣室は譲って、教室の端でささっと着替える。男ってのは気楽なもんだ。
「クロウ、今日は本当にあんがとさん」
着替えて教室を出たところで例のヤツも一緒に出てきやがった。
「あんだよ。オレはもう帰んぞ」
「それはいいんだけどさ、さっきセリがペア写真焼き増し出来るかなあってボヤいててアンタの許可もらいに来たんだよ」
「は?」
「だから」
「いや聞こえてたし理解してるちょっと待て」
……賭けてもいい。アイツにぜってえ下心はねえ。わかる。1000ミラ賭けたっていい。こんな服着たんだよ、ってティルフィルに送る気だろ。セリの叔父だかなんだか駆け込んでこないか大丈夫か?……まあ常識人っぽいし大丈夫か。結構遠いしな。
「まあセリが持つ分には構わねえよ」
「良かったらアンタの分も作っておくけど」
「あー」
コイツに弱みを握られるのは嫌だ。最高に。拡声機みたいなもんだろ。
「いや、要らねえ。使ったのも適当に処分しといてくれや」
そんな未練を残すようなことはしたくねえ。オレは、セリに、この感情を伝えないって決めたんだ。それはもう自分の思考の外側に置くべきレベルの話だ。だから、それを誰かに悟られるなんてのももっての外なわけで。
それだけ告げてオレはとっとと学院の外に足を向けた。
帰る途中、寮を通り過ぎて質屋へ向かう。有志企画の方で使う購買じゃ頼めないもんをミヒュトのおっさんに頼む算段をつけるためだ。いろいろあれやこれや頼んだら、ここは便利屋でも何でも屋でもねえぞ、と文句を言いながら受注してくれんだからおっさん好きだぜ。こなせない仕事を振る愚行はしてねえつもりだし、おっさんも出来ねえ仕事を受けるこたないだろ。
そういう意地の張り合いで話はうまく落ち着いたと思う。まあ少し時間かかっちまったが。
そんでその足で久しぶりに雑貨店にも向かって魚だのバンズだのなんだのを買う。久しぶりだなセリの嬢ちゃんは一緒じゃねえのか、なんて言われちまって、いつも一緒ってわけじゃねえって、と笑うしかなかった。
店を出たときにはそれなりに日も傾いていて、さっさと戻るか、と足早に商店街を抜ける。
「あっ」
「お」
橋を渡って第一と第二の寮分岐のところで学院坂を下ってきたセリと鉢合った。もうそんな時間か?と思ったがまあミヒュトのおっさんのところで結構時間使っちまったしな。セリは今日の買い物は不要なのか一緒に曲がって寮の道を。
「買い物してきたの?」
「おう、フィッシュバーガー久しぶりに食いたくてな。ついでにチリソース版も」
ジュライのソウルフードであるフィッシュバーガーは、もちろん旨いってのものあるがまざまざと初心を思い出させてくれる。つまり心を引き締めるために食うにはもってこい、なんだが。オレの言葉を聞いたところでぴたりと寮の扉前でセリが立ち止まる。
「美味しいやつじゃん……私もブランドンさんのところに……いや……」
本気で材料買いに行くかどうか苦悩してるそいつをみて思わず吹き出しちまった。いや、お前、美味しいやつじゃんってなんだよ、面白すぎるだろ。たかが飯一つでそんなに悩むなっつーの。
「わ、笑うことなくない!? クロウがそんなこと言うからその口になっちゃったのに!」
ああ、あるよな。そういう、もうそれしか受け付けねえみたいな。どんだけ旨いもん食ってもなんかこれじゃねえになる時。それにしてもやべえツボった。つーか聞かれたから答えたってのにそのキレ方は理不尽にも程がある。
「いや本当にお前、食うこと好きだよなあ」
どんな街に行っても、いつもの面子で料理作って食っても、それが旨かった時にすげえ顔輝かせてるもんな。屋台のジェラート屋に引っかかってる時もあったか。自炊した飯がそれなりに旨いのも頷ける話だ。ある程度必要に駆られたんだろ、自分のために。
クックック、と笑ってたところで正面が妙に静かなのが気になって視線を上げると、顔を真っ赤にしたそいつが、片手の甲で表情を隠すように固まっていた。
「そ、んなに、わかりやすかった……?」
窺うような目線。いや、うわ、やべえ。
「わ、かりやすいもわかりやすいぜ。他の奴に聞いても満場一致間違いなしだっつーの」
「そっか……ちょっと恥ずかしいな」
「あー、その、顔に出てるの自覚なかったのか?」
「あんまり」
恥ずかしさからか逸らされた視線。あ、これガチだな、と思わせるには十分な仕草で、頭を掻いちまう。無自覚だったもんをうっかり暴いちまって絶妙に気まずい。
「……フィッシュバーガー作ったら食うか?」
「……たべる。作りおきのピクルス出すね……」
頬を両手で捏ね始めたそいつはすこし平時の顔色を取り戻し、じゃあ入ろっか、と下がり眉で笑った。あほほどにかわいい。
「そう言えば、お前目立つの嫌いだろうに何で宣材写真モドキ撮られてんだよ」
フィッシュバーガーを作り、空いていた席の関係上で横に並んで飯を食う。ん、このピクルスやっぱ旨いな。酸っぱさがいい感じだ。こいつで作ったタルタルもマッチしてる。
「ああ、それ。……んー、伝わるかな」
「取り敢えず言ってみろよ」
「そうだね」
あぐりと一口食って、考えをまとめているのかしっかり咀嚼してからそいつは口を開く。
「私たちって課外活動が入ったら日曜公欠で、土曜もばたばたと慌ただしく出ていくよね」
「おう」
「その分、寮のメンテナンス作業とか出来ないわけでさ。もちろん当番作業はやるけど、ローテーション組む時に気にしてもらわざるを得ないのは確かで」
第二寮は第一寮と違って、世話を焼いてくれる所謂管理人的存在はいない。掃除も食事も洗濯も全部自分たちでこなしていかねえと生活が回らねえ。一部には洗濯代行で小金を稼いでるヤツもいるが。まあとにかく、寮の共有部分の掃除とかは全員がやるってことになってる。
「だから申し訳なさ五割と、自分で多少何か役に立てるならって気持ち二割と、あとは……撮影してくれてた彼女の目を通した自分がどう写るのか気になったのが残りかな。いろんな人の写真入り乱れるみたいだからそこまで目立たないと思ったし」
「あいつそんなに上手いのか?」
「私は好きかな。写真部は予算の関係で行動制限されるから嫌だ、って抜けたみたいだけど」
「自由奔放すぎるだろ」
しかしなるほど、そう評価を聞いちまうと実際の写真の出来上がりが気になる。当日はちょっと覗きに行くかね。もしかしたらこっちの企画に参加してもらうことにもなるかもだしな。
「だから焼き増し頼んだんだよね。作品として」
「……ティルフィルに送るとかじゃねえのか?」
「ん? まあ、それもするかもしれないけど。あ、でもさすがにクロウとのやつは送らないよ。君に許可取ってないし」
オレがバーガーを齧ろうとしたところでビシッと片手のひらをこっちに向けながら真面目に真っ直ぐ言われて、うっかり舌を噛みそうになる。あぶねえ。
「楽しみだなぁ」
そう顔を正面に戻して笑うそいつの横顔で心臓が痛くなっちまって、ああ本当に知らなかった頃には戻れねえな、なんて自嘲するしかなかった。