「……夕食どうする?」
グランローズを持ちながら後ろ手に組んで、街道からトリスタへ歩いていく。
一度は破れて諦めたけれど何故か想いが成就した相手に対してどういう距離感でいたらいいのか正直ちょっとわからなくて、手は繋げなかった。なんでクロウはあんな簡単に繋いで来られたんだろう。不思議すぎる。
……もしかしたら慣れているのかもしれない。クロウだからそういうこともありそうだ。
「あー、久々に二人で作るか?」
「そうだねぇ、花も萎れる前に部屋に飾りたいし」
まだ咲き切っていないグランローズはきちんと水を変え栄養も与えたら暫くは楽しめるだろうと思うので、ガーデニングショップのジェーンさんや、あるいは園芸部に所属している人に相談してみるのがいいかも。ああでもそもそも一輪挿しや花瓶を持っていないのだけれどこの為に買うと言うのも不経済な気がする。どうしようかな。
「あと、ええと」
「三人にどう言うかだな」
「そう、それ」
まぁ別に言わなくても察されるかもしれないけれど、いろいろと気にしてくれていただろうというのは想像に難くないので、結局こういう形になりましたという報告はしておきたい心情もある。恥ずかしい気持ちはもちろんあるのだけれど、それは私の感情を大切にしてくれた友人の想いを無下にするほどのものでは、ない。
「あいつらまだ技術棟にいたりすっかな」
呟いたクロウがARCUSを手にして通信を誰かにかけ、数コールでジョルジュに繋がったようでいろいろ確認している。そこに誰がいるのかとかいつまでいるのかとか。どうやら技術棟にいるのは二人だけで、トワは生徒会の用事で抜けたらしい。ちらりと視線が寄越されたのでトワへの通信を開始しながら頷けば、じゃあ晩飯持ってオレらも合流するわ、とクロウが告げた。
それとほぼ同時に今度は私の方で通信が繋がり、さっくり話して技術棟の方でみんなで夕食を食べる約束を取り付けて終了する。
「何作ろうか」
「簡単に食えるもんがいいよな」
「冷蔵庫にある材料だとサンドイッチかラップサンドかフィッシュバーガー辺り?」
「サンドイッチはこないだ持ってったから、バーガーにポテトフライにすっか」
「うわ、最高にジャンク」
でも何でか工学系の作業した時って油物が美味しいんだよなぁ。これは自分だけかもしれないけれど。あとはジョルジュ用に甘い何か、型も使わない混ぜて匙で落として焼くだけのクッキーでも焼いていこうか。卵やバターは夏とかであれば冷蔵保存するけれど、秋はいろんなものが常温保存で大丈夫だ。そういう意味で秋冬は思い立った時にお菓子を作りやすい季節だと思う。
トリスタに入って、お互い商店街のメインストリートを通るのは気持ち的に憚ったのか質屋方面からするっと抜けていく進路を取る。ああそっか。ミヒュトさんのお店なら手頃な一輪挿しとかあるかもしれない。要検討事項の選択肢に入れておこう。
まぁ咲かせ続けるだけならコップとか水差しでもいいのかもしれないと思いつつ、保存出来ないならせめて写真だけでも綺麗に撮っておきたいというやつだ。今日のところはコップで凌ぐことになりそうだけれど。
渡されたグランローズの花言葉は『熱烈な求愛』。まさかそんな告白をされると思っていなくって、気を抜くと本当にすごく顔がにやけてしまう。今が夜になりかけでよかった。
「……ねぇ、クロウ」
路地から出る直前、隣を歩く相手の袖をつかむ。
私も告げないといけない言葉があると、気が付いたので。
「ん?」
「好きだよ」
見上げたクロウは口を引き縛って、自由な片手で顔の下半分を押さえ目を閉じる。かわいい。クロウのそういう表情、本人は恥ずかしいのか情けないと思うのか隠そうとするけれど、私はもっと見たいなと思う。いや今の言葉はその為に言ったわけではないのだけれど。
「不意打ち好きだよなあ、お前……」
「奇襲は任せてよ」
あは、と普段のバトルスタイルで返せば、そういうことじゃねえっつの、と小突かれる。袖を放して歩き始めると、立ち止まっていたクロウも一緒に。まるで光景としてはあの日みたいだけれど、全然違う。
「改めては言ってなかったと思って」
「お前がオレのこと好きでいてくれてんのは知ってる」
「かもね。でもたぶん私は口下手だから、はっきり伝えないと」
自分の感情を口に出すということをあまりして来なかった。自分の思考を開示するのはこの半年でだいぶ慣れたけれど、感情を表現するのはまだまだ課題が多い。と思う。でもクロウに言わせたら私はわかりやすいみたいなので認識の齟齬があるかも知れない。
でもこの感情をもう躊躇わなくていいってことが嬉しくて、もしかしたら事あるごとに言ってしまうかもな、なんて考える。
「……あんがとな」
さらりと、普段とは全く違って、静かに頭を撫でられた。眼を眇めて、まるで、大切なものに触れるみたいに、やさしい指先が私の頭の形をなぞって。たったそれだけなのに心臓がぎゅっとしてしまって、敵わないなぁ、って私は当分言うことになりそうな気がした。
それをずっとクロウの隣で許されていたい、って告げたら君はどんな表情をするんだろう。
笑ってくれるだろうか。
そうだったら、いいと思う。