[完結]わすれじの 1203年   作:高鹿

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03/13 会長就任

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1204/03/13(土)

 

ガレリア要塞の見学レポートは結局、目測・歩測した見取り地図を添付して要塞内の改善案や要塞の在り方を論じ、ナイトハルト教官に提出したところ特にお咎めもなしにそのまま受理され今に至る。トワはああ言っていたし、自分も簡易見取り図すらないことに警戒はしたけれど、結局のところ学生に見学を許している範囲の施設の見取り図など大したことがないということなのだろう。あるいは、てんで的外れだったか。

兎にも角にも問題もなかったのでよかったとしよう。

 

まぁそんな過ぎたことは取り敢えず横において、今日はトワの生徒会長就任のお祝いだ。

課外活動で得たセピス塊も食事会でそれなりに減ってきてはいたけれど、今日のお祝いでパーっと全部使ってしまおうと言うことになった。

もちろん食事は自分たちで作るので材料費ということになるのだけれど、大量に買い込んだらブランドンさんに用途を尋ねられたので素直に答えたらかなりオマケをつけてもらったのでなんでも作れそうだ。メインはクロウとアン、サイドをジョルジュ、デザートが私という布陣なのでかなりバラエティ豊かになるだろう。

 

四月から始まった私たちの活動も導力バイクで延長戦に入っていたけれど、今日の料理で本当の本当に一段落になるだろうか。四月のラントでの活動のことを思い返すと、まさかクロウとアンが肩を並べて料理をする未来があるだなんて想像だにしていなかった。きっとそれは本人たちもだろうけれど、まぁ、こんな話は今更か。だってアンはジョルジュに差し入れるためにフィッシュバーガーの作り方をクロウから教わったりして、ずっと前から仲良くしている。

 

「楽しそうだね」

 

工程の関係上で少し離れたところで料理をしている二人を眺めていたら、隣にいたジョルジュからそんな言葉をかけられた。クッキー生地を混ぜる手が止まっていたな、と思いながら手を再開して笑う。

 

「楽しいよ。トワのためにご飯を作るのもだし、好きな人たちが仲良くしてるのもね」

「はは、まさかセリの"好きな人"の枠にアンが入るとはね」

 

言われて、そうかジョルジュにとってはそうだよな、とここにきて初めて思い至る。

 

「アンとは付き合い長いんだっけ」

「うん、それなりかな」

「だったら初期のアンと私の関係とか胃が痛かったでしょ」

 

笑って言うと、それはもうね、なんて言葉が肩を竦めながら返ってきたものだから更に笑ってしまった。ジョルジュも散々アンに困らされて来たんだろうなぁ。そして、おんなじぐらい、彼女の気高さと牽引力に惹かれているんだろう。それはカリスマという言葉にまとめたら陳腐だろうけれど、確かな光がアンにはある。

 

「アンはさ、どうしても私の許せないところに踏み込んできた」

「……そうなんだろうね」

「でも、その許せないことを理解してくれて、謝って、誓ってくれたんだ。真っ直ぐ」

「そういうところがアンらしいというか、何というか」

「本当に」

 

謝罪されたからと言って、それを許すかどうかは謝られた側の感情ひとつだ。それでもあの時の私は……そう、たとえ友人としてじゃなくても、お互いの領分を侵さない範囲で上手くやっていけるんじゃないかと願いを込めた。結果はこれ以上にないってぐらいになってくれたけれど、それは私の努力と言うよりかはアンはもちろん、三人の在り方のおかげだと思っている。

 

ボウルの中で生地がまとまってきたので、少しだけ四角く整形し、かたく絞った濡れ布巾で包みバットに乗せて冷蔵庫へ。これで30分ほどなので、休ませている間にきちんと使った器材は洗っておこう。こういう細かな洗い物が後々効いてくるというのをティゼルとのお菓子作りで心底学んだ。クッキーが終わったらかぼちゃのパイの方も作りたい。

 

「ジョルジュには本当にお世話になったよ」

「まあ元々僕は試験要員だったから」

「ううん、ARCUSだけじゃなくて、人間関係的にも」

 

試験運用チームとしての要は誰がどう見たってトワだった。だけどこんなにアクの強い面子を彼女がまとめ切れたのは、影ながらもチームの空中分解を防いでくれていたジョルジュの功績もあるだろう。……私は、その、どちらかと言えば分解させる側だったと思う。

そっと意見を出したり、誰かを嗜めたり、そういうことを当たり前のようにいつも出来るというのは案外難しいことだ。それをジョルジュはずっとやってくれていた。バトルスタイルで言うと柔和なジョルジュが不沈盾というのは一見結びつかない気もするけれど、緩衝的存在と言い換えればわりと納得があるのではなかろうか。

 

「きっとね、誰が欠けてもこんな結末にはならなかったんじゃないかなぁって」

「はは、同意するよ。そしてこれが、全員にとって好ましいものであって欲しいと思う」

「うん」

 

課外活動が終わり、導力バイクの試作も概ね終わり、私たちはもうあと二週間ちょっとで二年生になる。元々全員クラスはバラバラだし、卒業後のことだって考えなければいけないし、どう考えても将来の道が重なることはないと分かっている。

だけど、アンが前に技術棟で言ってくれたように『何年ぶりに会ったとしても、昨日まで一緒にいたように笑っていられる』、そう信じられる仲間たちだ。

 

 

 

 

「トワの生徒会長就任を祝し、乾杯!」

「「「「「「かんぱーい!」」」」」」

 

アンの乾杯の音頭に食堂のあちらこちらから声が上がった。

料理をしていたらうっかりいろんな人が合流してしまい、結構な大人数によるパーティになってしまった。さすがに先週やった二年生追い出しパーティよりは少ないけれど、一人を祝うためにと言うのなら十分すぎる人数だ。これもトワの人徳のなせる技だなぁと一人で震えてしまったのは内緒の話にしたい。

そして私は台所の方で食器が足りるか確認を終えたところで、棚の扉をそっと閉めてパーティの中心に視線をおくる。

 

「み、みんなありがとう。生徒会長、精一杯頑張らせてもらいます!」

 

主役のトワは生徒会長を引き受けるかどうかかなり悩んでいたみたいだけれど、結局のところ周りから推しに推されて断れずに引き受けることにしたようだ。貴族生徒ではないから、と最初固辞していたのに。生徒の中では一番の権力を持つのでこれ以上にないと言うぐらい適任ではあるのだろうけれど、いろんなものを抱え込んでしまわないかという不安もある。そういう意味ではある程度気心の知れた私たちが傍で見ていたほうがいいかもしれない。

とは言っても、誰かに仕事を割り振るのも不得意ではないので心配しすぎかな。でも心配ぐらいさせて欲しいなと言うのも本音なわけで。

 

いろんな人からお祝いの言葉をもらってグラスを鳴らし合わせるトワを眺めていると、じわじわ嬉しさが込み上げてくる。ずうっと、トールズ……いやトリスタに住む人たちのために奔走し続けていた姿がいろんな人に認められていたんだなぁと。もちろん獅子心善行章を受け取っているのだからそれは当たり前ではあるのだけれど、こういう集まりに我も我もと合流する人が増えて賑やかになっていったのは本当に面白かった。

 

「結局お前何作ったんだ?」

 

台所から戻り壁際でちみちみといろんな料理をつまみながら飲み物に口をつけていたところでクロウが尋ねてくる。

 

「あの辺にあるクッキーとメインディッシュの付け合わせぐらいだね。ケーキは調理部のニコラスが合流して来たから補助はしたけど大部分を任せちゃった」

 

クッキーはいろいろ混ぜ込んだのとか、アイシングを施したのとか、種類は用意したけれど結局クッキーだ。デザートのメインにはなり得ない。まぁこの人数を考えるとケーキの類が複数あっても問題なかったかもしれないけどね、と笑えば、そんじゃ今度作ってくれよと頭を撫でられる。……そんなこと初めて言われたような気がして、内心驚いてしまった。

クロウは結構なんでも好き嫌いなく食べるから逆に今度食べたいなんてリクエストはもらったことなかったのに。実は楽しみにしてくれていたとか?ありえるんだろうか。まぁいいか。作った時に訊いてみよう。

 

そんな風に暫く食堂の端から全体を眺めていると、人の波が一旦途切れたっぽいので自分も今日の主役に近付いていく。小柄な我らの次期生徒会長の隣の椅子へ。

 

「トワ、食事できてる?」

「あ、セリちゃん。うん、えへへ、みんな気にして持って来てくれるから」

「そっか」

 

確かにトワがいる食卓にはご飯が載せられたお皿が並べられているけれど、これ全員別々に持ってきた結果だったのか、と笑いがこぼれる。愛されてるなぁ。大事な人がいろんな人に大切に想われている姿を見るというのはどことなく気分がいいものだ。

私がグラスを掲げると両手で持ったそれを、かちん、と静かに合わせてくれる。

 

「トワ、おめでとう。これからもっと忙しくなると思うけど、手が必要そうに見えたら要請がなくても駆けて行っちゃうかも。なんて、トワに手を貸したい人間なんてたくさんいるかな」

「セリちゃん……うん、本当にありがとう。入学試験の時にもお世話になっちゃったのに」

「あは、あれはあれでいい経験になったよ」

 

緊張する受験生たちを見送る立場というのも、それを阻む立場というのも、どちらも面白い役割をもらったと思っているし。ああやってセーブしなければならないことも今後出てくるかもしれない。……あんまり歓迎したいことではないけれど、まぁ、うん。想定するに越したことはないかな、なんて。

 

「……心配?」

 

グラスを両手に視線を落としていたトワに問いかけると、金糸雀色の瞳がすこしだけ揺れたのが見える。だけどそれは出会った当初にあったような弱々しいものでは決してなく、自分の能力に確固たる自信がある人の色だった。傲慢ではなく、ただただ事実として自分の能力を把握している。だから私の質問は愚問だったろう。だけどトワは微笑んでくれた。

 

「心配、とはちょっと違うかな。この一年を通して、私にも出来ることがあるんだってみんなに教えてもらったもん」

「ふふ、出来ることがたくさんたくさん増えたからね、お互い」

「うん」

 

人間関係も、戦技も、スキルも、いろんなことが磨かれていった。誰か一人が完璧超人にならなくていい。チームだから、誰かが出来ないことを自分は出来る、自分が出来ないことを他人にやってもらう、そういう分担を最初はぎこちなく、いつしか当たり前のように。

 

「セリちゃん、ありがとう」

「それ、さっきも言ってもらったよ」

「ううん、違うの。就任お祝いの言葉へのものじゃなくて」

 

真っ直ぐ、トワに見上げられる。それはどうしてか、いつものことでもあるのにすこしだけ心臓が跳ねてしまった。

 

「あの日、あの夜、私の話を聞いてくれたのがセリちゃんでよかった。あの時背中を押してもらって、取り敢えず一回でもいいからARCUSに携わってみようって思えたから今の私がここにいるんだと思う」

 

トワのその言葉を聞いて、うっすら視界がボヤけ始めてしまった。まさかそんな風に言ってもらえるだなんて思っていなかったというか、いや、クロウじゃないけど不意打ちのそういう言葉は本当に胸が詰まってしまう。……嬉しさと、愛しさで。

 

「私も、あの夜にトワと話せてよかった」

 

最初は単なる気配の勘違いだったけど、今思えばそういうことまで含めて人は────出会いを運命と呼ぶのかもしれない。

 

「そうそう、明日の登校前に提案なんだけどさ……」

 

 

 

 

1204/03/14(日)

 

「ねぇ、アンってば本当にそれで写真撮るの?」

「うん? 何か問題がある格好かな」

「セリ、アンは言い出したら聞かないよ」

「まぁ制服よりバイクスーツの方が似合ってる気がしないでもねえだろ」

「あはは、先生たちもそれで登校してももう何も言わないもんねえ」

 

昨日、登校前に校舎の前でみんなで記念写真を撮ろうと提案したら全員乗ってくれて、朝に弱いクロウもなんだかんだきちんと起きてくれた。……ARCUSで朝にモーニングコール寄越してくれっていうのは通信の無駄遣いだと思うけど。でもまぁ朝にシャワー室を使って半裸で廊下に出てくる人もたまにいたりするらしいので、直接行くよりは穏便だったのだろう。

 

「はいはい、五人ともさっさと中心に集まる! 太陽光がいい具合だから!」

 

写真撮影を頼んだロシュからそんな言葉が飛んできて、ごめんごめん、とトワを中心に五人で並んで、アンがトワをぎゅっと抱きしめ、クロウは私の頭に腕を乗せてきて、ジョルジュが苦笑して、そんな風に私たちはチームでの活動を一葉の写真で締めくくったのだ。

 

大切な仲間たちと一緒にいられたこの日々を、きっと私は忘れない。




閃2アンゼリカがトマトバーガーの独自料理扱いであるフィッシュバーガーを作成可能なのでシステムデータの観点から1203年組の仲の良さを目の当たりにさせられたのはやばかったよ。
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