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1204/03/31 221期生入学式
「いやー、まさかまさか」
「ARCUS特科クラスが出来るとは聞いちゃいたが」
「直接の準備に駆り出されるとは思ってもいなかったね」
数日前、入学式に先駆けてサラ教官から打診があった。
内容としてはARCUS特科クラス専用オリエンテーションに例の旧校舎を使うからその手伝いをして欲しいというものだ。もうそれだけで教官が何をするのか全員察してしまい苦い顔をしたのだけれど、人数が九人というのを聞いて、なんだそれなら大丈夫かと思ってしまったのは完全に感覚が麻痺っていたかもしれないと少しだけ。
ARCUSクラスに振り分けられた当人たちの大事な武器を講堂案内前に預かり、旧校舎の最奥ホールに設置をする。つまり例の穴から落ちて適当に、というわけにはいかないのだ。だから正攻法で階段を降りて三人で配置しに行っているのだけれど、さすがに広間のガーゴイル以外は魔獣も本能で力量差がわかるのか怯えて襲ってくることはない。石造魔獣はおそらく命令が下してあって、相手の力量を測るという機構がない故の襲撃なのだろうけれど。
そしてそのガーゴイルはクロウと私が武器を抜くまでもなく、アンの掌底一撃で粉々に砕けてしまった。入学式終了までに復活するのは以前測っているので大丈夫……な筈。再生しなかったらどうしよう。まぁその時は多分私たちの誰かが駆り出されることになるだろう。
「あん時のガーゴイル、結構強かったよなあ」
「そうだね、判断ミスを思い出してちょっと脇腹痛くなるぐらいには」
「はは、ジョルジュの重槌が炸裂しなかったらどうなっていたことやら」
台車を使いながらゴロゴロと運んでいくその中に、例の東方の太刀があった。東方文化に何かと詳しいトワがそうだと言い切ったから間違いない。彼も無事に合格して、なんの奇妙な偶然か私たちの直接の後輩となった。喜ばしい。
そして他に注目するべきは二振りの魔導杖。これもRF社が開発した新技術を駆使した武器だそうで、魔法発動時の威力増幅はもちろん、通常攻撃時に駆動時間ナシでアーツを発動しているのと同等の効果が得られるらしい。私たちには残念ながら高適性者はいなかったけれど、貴族クラスには若干名魔導杖へ持ち替えている人もいる。
前々から分かっていたけれど、RF社の実権を握るイリーナ会長が理事を務めているだけあってトールズ士官学院は中規模な実験場だ。しかもARCUS特科クラスに配備すると言うことは、実践データをレポートとして寄越せ、ということでもあるのだろう。
そしてそのARCUSは私が提出した例のレポートが最初の指摘だったようで、適合者の条件緩和に繋がったとお礼の手紙をヨハン主任から頂いた。いつかARCUSの特性を引き継いだ次世代機が出る時にはもっと幅広く使えるように出来る筈だ、とも書いてあって嬉しくなった。
耳介装着型通信器を作ってもらったお礼がすこしでも出来ていたらいい。
「そういえば前年度のよしみで生徒データの概要は見せてもらったけど、どう見る?」
「ありゃあ一筋縄じゃ行かねえだろ。っていうか大物揃いすぎねえか?」
「ふむ、親のことを持ち出すのはあまりいい趣味ではないが……そうだね、難アリというか訳アリというか。そういう言葉が似合うクラスにはなるだろう」
やっぱりそういう総評になるよなぁ、と苦笑してしまう。
例の太刀を使う彼の男爵家という肩書きが可愛く思えるほどで、RF社の一人娘、正規軍で名を馳せている人物の息子、帝国武門片翼のアルゼイド流の後継者、革新派帝都知事の身内、かと思えば貴族派筆頭アルバレア家、猟兵上がりの少女にノルドからの留学生。ここに入れられる辺境出身の女の子に若干同情を禁じ得ない。
トールズ士官学院は貴族は貴族、平民は平民、という帝国の在り方の縮図のようなクラス構成をしているのに、VII組は貴族も平民もごった混ぜという言葉が似合うクラスだ。これで軋轢が生まれないはずがない。だけどそれでいいんだろう。現に前年度、クロウとアンがしばしばリンク断絶に陥っても特にメンバー交代の動きなどはなかった。というか逆にそういうデータの方が欲しいまであるんじゃなかろうか。なかなか内部試験では再現しにくい事象だから。
話しながら最奥ホールまで辿り着き、クロウが扉を開けてくれたのでお礼を言いながら中へ入る。導力灯を点けて、昨日みんなで運び込んだ机にそれぞれ武器とARCUSとマスタークオーツを置いていった。武器はその人の心でもあるわけで、こうして預かったものはきちんと誠意ある対応をしたい。……私の相棒も、ちゃんとまた整備しないとな。
「うっし、これで取り敢えず終わったか」
「そうだね、アンの方も大丈夫?」
「ああ」
すべての配置と確認をトリプルチェックし、前に私たちが落とされた時は導力灯は消されていたけれどそれはあんまりだろうので明かりは点けたまま、最奥ホールの扉をゆっくり閉めた。
そうして入学式も終わり、サラ教官が率いるVII組が旧校舎へ入っていくのを小高い丘から三人で見送る。トワとジョルジュは他の新入生のサポートで走り回っていることだろう。
「あれがオレたちの後輩ってわけか」
「まあ、名目こそ違うが似たようなものだろうね」
クロウとアンがそんな会話をし始めたところで、最後尾を歩いていた黒髪の男子生徒が旧校舎内に入りその扉が閉まる。なんというか、どういうクラスになるんだろうなぁ。でも全員同じクラスってことはカリキュラムも特別だろうし、課外活動をするとしても私たちみたいに日曜欠席とかしなくてもいいのは少し羨ましいと感じてしまう。いいなぁ。少し遠くの土地に行くのだって組み方次第じゃ自由だ。メンバーを見るにノルドへの遠征もあったりするんじゃないだろうかと。
「コナをかけるな男子が寂しい思いをしたとはいうが、クロウにはセリがいるだろう?」
「ん? 呼んだ?」
あまり自分には関係のない話だろうと途中から会話をスルーしていたところで自分の名前が聞こえたので思わず反応してしまった。するとアンが笑って私を抱きしめようとしてきたので、それは丁重にお断りした。今のは下心があったでしょ、と指摘をすると、あったね、とあっけらかんと悪びれもなく。全く。
「いや何、クロウが寂しい思いをする暇なんてないだろうって話さ」
「あー……まぁ、なんというか、浮気したら即別れるから言ってね?」
「即別れるって言われて律儀に言う男いるか?! いやするつもりはねえけどよ!」
ナンパも浮気の内だと思うけどなぁ、とボヤいたところで、見捨てないでくれよー、とクロウが背中から抱きついて肩に頭を預けてきたので、はいはいと剥がしもせずにその頭を撫でる。まるで大型犬だ。かわいい。
「も~、クロウ君、セリちゃん、学院内だよ!」
そんなことをしているとトワとジョルジュがやってきて第一声がそれだ。まぁ確かにあまり褒められた行動ではない。トワの言う通りにクロウが離れるので、すこしだけ寒さを感じた。春先だって言うのにまだ寒い風が吹くのかな。
「おや、二人ともお疲れ」
「他のヒヨコどもは一通り仕分け終わったみてーだな?」
クロウの問いかけにトワが嬉しそうに両手を握り拳にして肯定を返すものだから、四人で笑いがこぼれる。本当にトワが会長就任したのは的確な人材配置だったと思う。これだけ誰かのために奔走できる人もそうそういないだろう。
ARCUS特科クラスVII組の特別実習は全面的に生徒会……というかトワがサポートに回ることになった。昨年度のサラ教官の事務仕事の雑さを思えば誰かそういう作業員がいた方がいいのはわかるのだけれど、些かトワに頼りすぎじゃなかろうかとも思うわけで。やっぱり何かにつけてまた生徒会へ覗きに行く必要がありそうだ。
「そちらの準備も一通り終わったみたいだね?」
「ああ、教官の指示通りにね。しかし何というか……彼らには同情を禁じ得ないな」
「何事もなくまるく平穏に、とは一切いかないだろうねぇ」
ジョルジュへの返答をしたアンの言葉には苦笑とともに首肯を返すしかなく、これからのことを思うと波乱万丈という言葉が似合うことになるだろう。けれど出来ることなら、彼らにとってかけがえのない学生生活になればいい。かつての私たちがそうだったように。
「ま、本年度から発足する"訳アリ"の特別クラス……精々お手並みを拝見するとしようかね」
こうして、私たちの最終学年の幕も上がったのだ。
【あとがき】
1203年ARCUS試験運用組の話は一旦ここで終了となります。
個人的にめちゃくちゃ楽しく書いた話でしたが、いかがだったでしょうか。
2020年4月末に何となく零碧を再プレイし(プレイしようかなと調べた日が改発売の二日後だったので勝手に運命を感じました)、創で独立調印式の話をするようだと知り、どうやら三ルート方式で内二ルートが閃関係者だということでとりあえず6月半ば辺りから閃をプレイしたところ見事に転がり落ちて今に至ります。どうしてこうなった。
閃Iプレイ中に「二年生組って斥候担当者誰?」「学院祭ライブでキーボード担当がいない!?」など数々の疑問を持った末に『これは……もう一人いる……?』という妙に(自分の中で)確度の高い幻覚を見始めてしまい、閃IVまでプレイして結局その立場の人物が出てこなかったので書くに至ったお話でした。原作ではあの段階では技量が飛び抜けていたであろうクロウがこっそりフォローする形で務めていたのかな、と考えていますがどうなんでしょう。謎が深まります。
ともかく、『VII組発足の前年度にあった、ARCUS試験運用チーム』の一年をこうして載せきることが出来て本当に良かったです。
クロウとアンゼリカの喧嘩や、二年生組がガレリア要塞に訪れていたとか、ジョルジュがルーレの先輩方に無茶ぶりをしたとか、その先輩方にクロウがブレードで勝ち続けたとか、トワさんが断り切れずに生徒会長になっただとか、帝国交通法のこととか、その他こまごまと原作軸で漏れ聞こえてくる前年度を形にできていたら嬉しいです。
そんな中で苦悩するクロウを書くのはとても楽しかったですし、オリ主が西ゼムリアにいる感じが伝わっていたらいいな、なんて。
とはいっても、この一年は本当に、原作軸と比べたらとても平穏です。クロウは動き出していないですし、本心もさらけ出しておらず、恋仲相手は何も知らない状態という。なので今回の話は単純な前提として書きました。この話がないと原作軸の話を書いても伝わりづらいというか、意味が不明だろうなぁと思ったので。
続きは細々と書いていますし、可能であればIVまで書きたい気持ちはありますが、どこまで走れるかはわかりません。ですがもしよろしければ、縁が合えばまた読んで頂けたら幸いです。
おまけとして帝国全土地図を載せておきます。縮尺とかわりと適当。
【挿絵表示】
改めてとなりますが、読了ありがとうございました。
(加えて予告通り一年というのんびりした更新にお付き合い頂いた方々はお疲れさまでした。)