[完結]わすれじの 1203年   作:高鹿

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05/25 クラス合同訓練

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1203/05/25(月) 放課後

 

「はい、これが今月の課外活動の詳細ね」

 

自由行動日も終わったしそろそろかなと思っていたら、すこし遅い日付でミーティングルームに呼ばれ、いつもの面子でサラ教官の楽しそうな表情を眺めることになった。何かあったんだろうか。まぁいいか。

 

とりあえず渡されたレジュメに目を通すと、今度は打って変わって西のラマール州にあるグレンヴィル市。リーヴスとミルサンテのちょうど真ん中にある街だ。南にトリシュ川をいただく田園風景が綺麗で、ミルサンテのガラ湖と並んでちょっとした観光資源になっているそれなりに大きい街のはず。

 

「往復はしやすいけど、向こうの市長さんが話したいことがあるみたいで今回も前日から出発を予定しているわ」

 

それじゃあね~、とまた説明もそぞろにサラ教官はミーティングルームを去っていく。こういう事態になるだろうと思って予め持ってきていた帝都全土の地図を机に広げ、全員でそれを見下ろした。

 

「今回は鉄道沿線の街かぁ」

「大陸横断鉄道本線で、帝都乗り換えでラマール行きに乗って総二時間ぐらい?」

「乗り換え含めてもそんくらいなのか」

 

放課後すぐに出たら18時頃には到着出来るだろうか。まぁラント到着と似たような感じだけれど、街道を歩いての二時間と鉄道乗り継ぎでの二時間はワケが違う。

 

「……これ鉄道のチケットも手配自分たち?」

 

基本の疑問を呟くと、全員一律で若干不安があるような顔をしてしまい、そういった事務的なことにおいてはサラ教官への信用がないというのがありありとわかる。

 

「さすがにお金は学校から出る……とおもう、けど……、うん」

「サラ教官よりマカロフ教官に聞いた方が良さげだね」

「なんだ、じゃあジョルジュが聞くのが早いじゃないか。兄弟子なんだろう?」

「そうなのか?」

「……まぁあの人からの無茶なオーダーに付き合わされてた同士ではあるかな」

 

この一ヶ月半でその温厚さがようくわかったあのジョルジュが、うんざりしたような表情を見せるというのは大層珍しいのではなかろうか。G・シュミット博士、三高弟の一人であり今でも精力的に活動されている高名な研究者の方で、ゼムリア大陸で最も有名な人に数えられる。導力革命辺りの話は日曜学校でもやっていたし、たぶん。……まぁ日曜学校が普及していない地域もあるのであまり言うとあれかもしれないけれど。

 

「なら確認するのは、チケット、風土、周辺地域の魔獣、出来れば地図、の四つかなぁ」

「じゃあトワ以外で巻き取ればいっか。私が風土やるし」

「そうだね。じゃあ僕はチケットについて」

「ならオレは地図」

「一番簡単なのを持って行ったなクロウ。まぁいい、魔獣を調べるさ」

 

流れるように、まるで打ち合わせでもしていたかのような速さで各々分担を決めていく。トワだけが、えっえっえっ、と狼狽えているのだけれど、まぁたぶんみんな考えていることが似ているってことなんだろう。

 

「生徒会、忙しいんだろ?」

 

ぽん、と頭で弾ませるようにクロウがトワの頭を撫でる。そう。トワは本当に忙しくなっているのだ。生来の気質に加えて、生徒会故に見えるもの、生徒会故にやらなければならないもの、権利があるからこそ出来るもの、そういったものが見えてしまい、そして見えたものを放っては置けない。それで最近帰りが遅いというのはもう全員承知している。

 

「あ……」

「大丈夫大丈夫、資料集めるぐらいさすがに出来るって」

 

そこまでトワに面倒を見てもらわないといけないというのは、同学年として情けない限りだ。

 

「うん、じゃあ、お願いしちゃうね」

 

誰かに寄りかかるのが苦手だろう彼女が、そう言ってくれる。個人的にはそれがすこし誇らしかったりするのは、おかしなことだろうか。ううん、そうでもないと、思う。

 

「私は麗しのトワのお願いならいくらでも聞く準備はできているけれどね」

「はいはい」

 

アンとジョルジュのいつものやりとりを見つつ、私たちはミーティングルームを後にしてそれぞれやるべきことに足を向けた。

 

 

 

 

「ミヒュトさーん」

「帰れ」

 

図書館でグレンヴィル周辺ついて調べてから、トリスタ商店街の外れにある質屋に顔を出すと店主であるミヒュトさんは新聞を広げタバコを咥えたまますげないことを言い放った。

 

「開口一番に酷くないですか。……って、ジョルジュがいる」

 

確か教官室にマカロフ教官はいなかったみたいだけれど、見つかったんだろうか。まぁいいや。クロウならともかくジョルジュが疎かにしているとは全く思わないし。

 

「持ち込まれたラジオの修理を頼まれててね。セリは?」

「ミヒュトさん妙に物知りって話だから、今度行くグレンヴィル市で何か起きてるとか知らないかなと」

 

街の人から噂を聞いてちょいちょい立ち寄って何かを買ったり話を試みたりしているのだけれど、どうやらそろそろウザいらしく、わりとさっきのような応対をされることもままあったりする。客を追い返すのはどうかと思う。

 

「は? グレンヴィルに行くのかお前ら」

 

けれど、思っていた以上の反応が返されて、二人で真顔に。

 

「それ、どういう意味ですか」

「あー、いや、用心して行けよ」

 

クックック、と笑ったっきり、ミヒュトさんは黙ってしまった。あぁこれはもう教えてもらえないなと判断して、ちょっと使いそうな消耗品でも適当に買って行こう、と棚を見たところで"それ"が目に入った。透明なケースに入った赤いカード。

 

「……」

「それ買ってくなら500ミラだぞ」

 

目線の先を目敏く取られてしまい、一瞬悩んだところで、包んでくださいとお願いしてしまった。なんの確信があるわけでもないけれど、たぶん、あいつが流したんだろうな、なんて。とはいえ楽しかったのは事実なので、まぁ気が向けば布教に力を貸すのもやぶさかじゃない。

 

ちゃりんと500ミラを払い、適当な紙袋に入れられたカードを手にジョルジュと一緒に店を出た。夕方の、影が伸びる商店街をゆるゆると歩いていく。

 

「さっきの反応、気になるねぇ、ジョルジュ」

「うん。他の三人にも共有しておきたいかな」

 

グレンヴィル。州の境というわけでもなく、現状政治的にそこまで不安定という感じでもなさそうだし、あれは本当にどういう反応だったんだろう。というか、やっぱりミヒュトさんってそっち系の仕事を生業にしている人だったりするのだろうか。確定事項でも言いふらすことでもないから口にはしないけれど。

 

「セリはこれから寮に?」

「うーん、そうしようかと思ったけど、端末室使えないかなぁ」

「あぁ、導力ネット」

「そうそう。まぁでもそんなに繋がってる場所もないから手に入る情報もないかぁ」

 

授業で使わせてもらっている端末室や導力ネットは技術の進歩の賜物だと思う。離れた場所にある情報を、取得できる。それも通信機よりずっと遠くまで。もちろん、それが偽証であるということも考えなければならないけれど、とにもかくにも、革命とも言っていいレベルのものだ。

 

「……技術棟の使うかい?」

「えっ、あるの」

「うん。ルーレにある工科大学とすこし連携したりしてるから、その関係で」

「じゃあ貸してもらおっかな」

 

ピアノをやっていたせいか、端末のキーボードはあまり苦じゃなかったし。同級生にはまだキーボードを見ながら打っている人もいるので、大変だなぁと思う。それでもあれだけ高価な端末を生徒に触らせてくれるというのは、本当にいい学校なんだなとしみじみしてしまうほどだ。まぁ戦争によって技術が発達するというのは世の常なのだろうけれど。軍事大国というのは、そういうことだ。

 

「そうだ、例の導力器、何かわかった?」

「構造解析はしたけど、さすがに市販で出回ってるものじゃない、ってくらいかな」

「フルスクラッチ?」

「というよりは、いろんなものをつなぎ合わせてだから応用系かな」

「そっか」

 

フルスクラッチなら逆にその技術の出所と流出を考えて、技術者の動きから何かわかったりするかもしれないと思ったけれど、応用系だと範囲が広すぎてさすがに絞り切れる気がしない。

 

「でも、ツギハギ部分がすこし雑だから、専門の技術者じゃないかもしれないね」

 

やっぱりジョルジュは私たちが見えているものとは全く異なる観点で物事を見られるので、本当にチームにとって要だと思う。そういう点で、自分は何か担えているだろうか。……まぁあんまり気にしすぎても空回りするだけだし、斥候に関してはそれなりに頑張っていると思う。うん。でもまだまだというところも自覚しているので向上あるのみだ。

 

「わからないものはしょうがない、か」

「気にはなるけどね」

 

そんな風に言いながら技術棟へ二人で向かい、端末でネットに潜っては見たけれど、結局『わからない』ということが分かっただけに終わってしまった。まぁグレンヴィル自体がそういうネットが発達した場所ではないので、さもありなんなのだけれど。

 

 

 

 

1203/05/27(水) 二限目

 

カメラポーチをロッカーに押し込んで、足の端末ケースと腰に乗る武器の重さだけを確かめながらグラウンドへ向かうと、珍しくクロウが遅刻もせずにそこにいてV組の面々と楽しそうに話していた。……あ、でもまただ。アンゼリカに殴られたとはいえ、妙な笑顔は健在で、すこし次の課外活動が心配になってしまう。せめて目の前で殴り合ってくれたら止められるのだけれど。

 

階段を降りていくところで相手も気づいたのか、ぱちん、とウインクをされてとりあえず手を振っておいた。隣を歩いていたおなじクラスの人からは、あれクロウと知り合い?大丈夫?、と心配されてしまい、まぁいいところもあるんだよ、とだけはフォローしておいた。駄目なところもあるけれど。

 

 

 

 

「今日はそれぞれにとって初めての相手と戦うことになる。とはいえ部活動で戦っている者、また共闘している者もいるだろう。それによる隙は思う存分突いて戦うといい」

 

整列した二組の生徒たちの前で、クリップボードを持ったナイトハルト教官が私たちを見据える。通常授業でも手を抜いたら即容赦なく《剛撃》の名に違わず叩き伏せてくるのだから、ここでも友人同士だからといって和気藹々行動をしてしまったら容赦のない檄が飛んでくることだろう。うっかりすると物理的なものが。

 

挙げられた手に合わせ、ザッ、と全員揃って爪先を90度動かしV組とVI組が向き合った。この一ヶ月でだいぶ訓練されてきたと思う。

 

「なお、スリーマンセルで行うが、このクラスには一部戦術オーブメントが異なる者もいるため、それも含めて対戦相手は考慮している」

 

言われて、対面に並ぶV組の後ろの方にいるクロウと視線が合った。あ、どうしよう。戦術リンク切断していない気がするから、ARCUS起動したらうっかり敵同士でリンクが繋がってしまうかもしれない。そんなことが筒抜けているのかいないのか、にやりと笑ってきた相手にはすこしだけ目を眇めて対応しておいた。

 

「第一組は────」

 

 

 

 

「第三組!」

 

同級生たちの戦いを見ながら、あそこでなら自分はどう動くだろう、なるほどそう動く、動ける、といろいろ勉強させて貰っていたところで、クロウの名前が呼ばれ、対戦相手として当たり前だけれど自分の名前も呼ばれた。

 

こちらの構成としては大剣・片手剣・導力銃でバランスがいい。向こうは重槌・双銃・短剣だろうか。クロウは短剣より前でありつつもやや後ろに位置しているとはいえ、フィジカルの強さから前へ突っ込んでくる可能性があるし、後衛にスイッチする臨機応変さも兼ね備えている。ただ戦い方を知っているからこそ警戒が引っ張られてしまうけれど、情報を知らない相手は一番おそろしい。────戦術リンク、OFF。

 

逆手ダガーと片手剣を構え、横にいる大剣の同級生にアイコンタクトを。速攻で前衛を叩き潰す。ただしクロウが直接牽制してくるだろうからそこをどうやっていなすかだろうか。

 

「構え! ────始め!」

 

 

 

 

戦闘開始し暫くしてお互いの後衛が相打ちで倒れ、先にこちらが相手の重槌を持つ前衛を倒したっていうのにヒットアンドウェイのクイックスイッチが上手いクロウへ致命傷が与えられずにこちらのもう一人も削り切られてしまった。

 

「────っ」

 

剣の腹で銃撃を受け、奥歯を噛み切りなんとか耐える。あと一撃。お互いそう思っているのか距離を取り、息を整える。背筋を通る汗が気持ち悪い。赤い瞳が私を射すくめてきて、嗚呼、普段魔獣たちはあんな瞳で見られているのかと思ったらなんだかすこし羨ましくなってしまった。こんな感情、戦場では笑い話にしかならないけれど。

ふ、ふ、ふ、と呼吸をクロウと、かさね、て。

 

瞬間、飛び出して銃弾が頬を掠めるギリギリの脇を通り過ぎ、奇策として地面に手をつき側転の要領で持ち上げた足でクロウの片腕を引っ掛け全体重をかける。銃を使うにもARCUSを使うにも腕が取られているというのは対応できないだろうし、あわよくばそのままバランスを崩してくれという賭けも あった。

結果は。

 

思いの外相手の体幹が強く、逆に絡ませた足を肘に挟まれぐるりと回転、からの、背中に衝撃。がは、と息を全部吐き出してしまい意識が体に追いついた時には、青空を背景にして汗だくのクロウが傷だらけになりつつも逆光の中で笑っていた。喉に押し付けられた導力銃の、ひやりとした感触だけが現実感のあるもので。

 

「そこまで!」

 

教官の無情な声と共にクロウが退き、既に出番が終わった生徒たちが飛び出してきて他の戦闘不能勢を回復したり起こしたりしている。まだまだ後のグループもいる、とさっさと退場するために軋む上体をなんとか起こしたところで、手が差し出された。当たり前のように。印象や見た目よりも分厚いそれに自分の手を重ねながら、私は自分の敗北をまざまざと思い知ることになったのだ。

 

 

 

 

「ひっでえ顔」

 

夜中、喉が乾いて階下の食堂奥にある台所へ水を飲みにきたところで、Tシャツにラフなズボンのクロウが入ってきた。階段上付近にいるあたりから気配はうっすらわかっていたけれど、わざわざ煽りに来たのだろうか。私が導力灯をつけていなかったせいか向こうもつけるつもりはないらしく、窓から採光される月だけが唯一のあかりになる。

そんな暗い食堂の入口に肩を預けて、奥まった冷蔵庫前の私への一言がさっきの言葉だ。

 

「……」

 

ごっごっごっ、とコップ一杯を飲み干し、即片手に持ったままの水差しから次を入れる。またごっごっごっ、と勢いよく飲み干した。こういう時にお酒が飲める年齢でなくて本当に良かったと思う。負けて酒を盛大に飲む人間になりたいとは思わないけれど、うっかり手を出してしまう弱さがあるかもしれない。成人までにそういう節度を持つ強さを持ちたいものだと切に考える。

────というより、自分が、こんなに負けず嫌いだとは思わなかった、とも、言う。

 

「正直危ないと思ったぜ」

 

当たり前のように食器棚からコップをとり差し出してくるので、とくとく、とそこに注いだ。あんがとさん、と涼しい顔でクロウはそれを飲み始める。私はと言えば水差しの中身を補充するためにヤカンに水を汲み蓋を閉めてコンロにかけた。

ゆらゆら揺れる炎の前、暗い部屋の中、コンロの前で作業台に体を預けながら並んでいる。

 

「……術者への駆動解除の判断を早いうちに下すべきだった」

「そうだな、お前ならそれが出来たろうよ」

「あともう一人の前衛のフォローに入れなかったのがなぁ、痛かった」

「存分に動かれると面倒だってのは百も承知だったからな」

 

ちみちみちみちみ、水を飲みながら今日の反省点を上げていくと的確に答えが返ってくる。あぁもう本当に、こういう感想戦が存分に出来てしまうところが、にくい。いつもちゃらんぽらんなら覚えていないと言ってくれたらいいのに。

 

「しかしあんな簡単にぶん回されるなんて想定が完全に甘かった」

「思ってるより鍛えてるだろ」

「うん」

 

ちらりと横を見上げると、普段髪の毛を上げているバンダナがないせいか平素より少し大人びて見えた。1~2歳ぐらい。いや、それはさすがに言い過ぎか。顔から視線を下ろして、シャツの袖から覗く二の腕を見る。うん、確かに。普段制服で隠れているけれどこうしてみるとなかなかに自分との差を感じた。存外胸板も厚い。

 

「ウェイト差はどうしようもないなぁ」

 

すこし落とした頭の両の目頭を、空いている手で押さえ支えて嘆いてしまう。回避メインにしている自分にとって体重を増やすのはあまりよくない選択肢だ。攻撃を与えるためにある程度の体重は必要だとはわかっているけれど、体重が増えたときの、あの、自分の体がうまく動かない泥のような感覚が本当に好きじゃない。感覚が果てしなく狂ってしまう。

まぁそれならそれで体重を使う博打なんて打つなという話だ。情けない。判断を誤りすぎている。あの時の自分は、賭けるなら導力銃を叩き落とす方にベットするべきだった。

 

「ま、お前はそれでいいと思うし、隙はオレが潰してやるっての」

 

ぐしゃぐしゃと髪の毛を掻き乱されて、ここでもされるがままというのは多少腹が立ったのでその腕をすこし前にしていたみたいにしりぞける。その時に見えた笑い顔が、そうそう、みたいな表情だったので、つられて私もすこし笑ってしまった。

 

「次は勝つよ」

「期待しとくぜ」

 

かちん、と今更ながらお疲れの乾杯をして、沸騰した水を暫くそのままにして火から下ろすまで、他愛のない話を私たちは続けていた。

 

 

 

 

……あーあ、それでも本当に、悔しかったなぁ。

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