ここはとある管理世界。文化レベル的に言えば、日本の明治時代くらいのところだ。
普段なら馬車や人でにぎわっているはずのこの場所も、今は人と呼べるものはいない。
いるのは異形の怪物達と、全体的な色はマゼンダと白、顔にはバーコードのような模様がある人物だけだ。
建物は破壊されて、道はえぐられ、橋は落とされている。空や海も怪物に埋め尽くされている。
バーコード模様の人物は、たった一人でそれらすべての異形の怪物数百体を相手にしているのだ。
「ハハハ、もう終わりだなディケイド」
異形の怪物が誰ともなしにそう言い放つ。
確かにディケイドと呼ばれたものは満身創痍である。
しかし、黙って手にしている剣の刀身を撫でる姿には、闘志の衰えが全く見られない。
「あいにくと、終わりだろうがなんだろうが、あきらめる気はないんでね。もし諦めでもしたら、この力を託してくれたあの人たちに申し訳が立たないからな! ……来るなら来い……すべてを破壊してやる!!!」
その言葉を合図にして、一斉に異形の怪物がディケイドに襲い掛かる。
そして。
数日後。
この世界には管理局の調査部隊が派遣されていた。
数日前にこの世界に現れた大量の怪物の調査である。
その調査の中心人物は『フェイト・T・ハラオウン』。金色の死神のという名前を、犯罪者から頂戴している執務官である。
「ひどい……」
彼女はこの惨劇を見て思わずつぶやいていた。
惨劇と言っても、どういう訳か死亡者は一桁しかしない。
この街を襲った怪物はどこに消えたのか。
誰かが倒したのか。それとも、どこか違う世界に行ったのか。
とにかく何か手がかりになるものを探している。
その時だ、彼女はみつけた。
彼を。
歳は、自分の養子である少女よりも少し上ぐらい。
服はぼろぼろで黒い髪が目立つその男の子は、うつぶせに倒れたまま微動だにしない。
「君ッ!!」
フェイトは急いで駆け寄り、デバイスに少年の状態を確認させる。
命に別状はないと判断できたフェイトは少し安心しつつも、声を張り上げる。
「要救助者一名。早く担架を!!」
その声によって、素早く担架が運ばれてくる。
フェイトは、少年が運ばれていったことを確認して、捜索を再開した。
???SIDE
目が覚めた。
最初に目に入ったのは白い、天井。
起き上がろうとするが、体にあまり力が入らない。
やがて起き上がるのをあきらめて、唯一動かせる顔を使って部屋の中を見渡す。
その作業もすぐに終わった。
左を見るとベットがあるだけで、右を見ると窓があるが、寝ているため外は見えない。
しばらくして、部屋の扉があいた。そこから、綺麗な金色の髪の女の人が入ってくる。
「起きたんだね。どうかな、気分は?」
女性は微笑みながら聞いてくるが、俺はその質問に対する答えをせずに、質問で返す。
「ここはどこですか?」
「ここはミットチルダの病院だよ」
女性は怒ることなく答えてくれる。
それにしても、ミットチルダか……なんでそんなところにいるんだ?
「あの……なんで俺はこんなところに?」
「覚えてない? あのね―――――」
それからその女性は、俺がこの場所で寝ている理由を事細かに説明してくれるが全く身に覚えがない。
それよりも、話を聞いているうちにさらに重大なことに気付いた。
「――――と、いうことがあったんだ。」
「そうなんですか……ところで、俺の名前ってなんていうんですか?」
「え?」
「その話自体も、全く身に覚えがないんですけど」
自分の名前だけではなく、『思い出』と呼べるものを何一つ思い出せない。
今思い出せるのは、漠然とした『知識』だけだ。
「そう……なんだ。覚えてないんだ……」
女性は一瞬、顔を伏せるが、すぐにこちらを向いてカバンからなにかを取り出してくる。
「これも覚えてないかな? 君が持っていたデバイスなんだけど」
彼女が取り出したのは、白い六角柱の真ん中がレンズになっていて、その周りに様々なマークが描かれている物だった。
「覚えてます。何となくですけど」
これだけは、頭の中にぼんやりとだけど思い浮かべることができる。
よほど大事なものだったんだろうか。
「そう……ねえ、突然な話になるけど、君、私の養子にならない?」
「え? いや、そんなこと言われても」
「実は君が寝ている間に、この事件で子どもとはぐれた人たちに問い合わせているんだけど、君の親が見つかっていないの。住民票も役所が壊されちゃったから紛失しちゃったし。だから、本当のお父さんお母さんが見つかるまで、ね?」
この人は簡単に言うけどそうではないだろう。
単純な話、子供を一人養うというわけだ。
お金だって相当かかるだろう。
「でも、お金とか……」
「子供はそんなことを気にしちゃダメだよ。お金なら大丈夫だから」
俺はもう一度、その女性の顔を見る。
そこには悪意なんてない、善意100%の笑顔がある。
俺の答えは決まった。
「お願い、します」
こうして、真っ白だった俺の物語が始まった。