あれから少し練習したあと、俺たちは買い物をしにデパートに来ていた。
ちなみに俺は、ストライクアーツの練習のお誘いは断った。
4人ともすごく残念がっていたけど、別に格闘技をうまくなりたいとは思わなかったからだ。
今日は始業式とHRだけだったため、先ほどの練習の時間を差し引いても、まだかなりの時間がある。
俺はこれといってみるものはないので、ついて回るだけだ。
はしゃぎながら品物を手に取ったり、おしゃべりをしているヴィヴィオ、リオちゃん、コロナちゃんをノーヴェさんが注意している。
平和な光景である。
これがほんの数分後に壊されることになるとは、この時の俺は知らなかった。
「おいヴィヴィオ、口にクリームついてるぞ」
「え? あ、ほんとだ。ありがとう、お兄ちゃん」
買い物がひと段落したので、お店で勝ったクレープを食べつつおしゃべりをしている。
ヴィヴィオにクリームの事について教えた俺は正面を向いてぼーっとしている。
その時、俺はあることに気付いた。
ジジジとノイズ音のようなものが聞こえてくる。
最初は耳を澄まさないと聞き取れないほどのものだったが、だんだん音量が大きくなる。
そして、お客さんのほとんどがそのノイズを聞き取り立ち止まるようになった時だ。
《こんにちは。善良な市民の諸君。私はジェイル・スカリエッティだ》
ジェイル・スカリエッティを名乗る男の声が聞こえてきた。
「「ッ!!」」
ヴィヴィオとノーヴェさんは、その声に息をのんでいる。
そう言えば、なのはさん達がヴィヴィオのことを話してくれた時言ってたな。
ヴィヴィオは数年前に『JS事件』に巻き込まれたとか。
で、その主犯がジェイル・スカリエッティだとか。
《私たちは留置所からの脱獄に成功した。よって私は、管理局崩壊という悲願を達成するために、ここに管理局に対して宣戦布告をする》
管理局に対して宣戦布告か。
ずいぶんとまあ大きいものを敵に回すんだな。
正直、たかが1犯罪者がどう頑張ったところで、管理局は崩壊したりしないと思うけどな。
《そしてこれはあいさつ代わりだ。受け取ってくれたまえ》
その言葉を最後に、声は聞こえなくなる。
なんだ、何が起こる。
そもそも、このデパートに何か起こるのか、それとも、ここではなく他の場所で何か起こるのか。
ポピュラーなのは爆破か?
なんてのんきに考えていた俺がバカだった。
「キャーーーーーーーーーー」
どこからからか聞こえてくる悲鳴。
そちらの方を見てみるとたくさんのカプセル状の機械が、青いビームを人や商品に撃ちながら近づいてきていた。
「ガジェットを……ドクター……ッ!」
ノーヴェさんは歯を食いしばってそんなことを呟いている。
『ドクター』って誰の事なんだろうか。
とりあえず、そんなことよりも、
「早く逃げましょうノーヴェさん!」
俺はノーヴェさんの腕を振りながら叫ぶ。
「お前らは先に行け! あたしアレを叩き壊す! ジェット・エッジ!」
「あ、ちょっと待ってください!」
ノーヴェさんはそれだけ言うとデバイスを起動させてガジェットのところに走っていく。
「大丈夫だよお兄ちゃん。ノーヴェさんは管理局の救助隊員だから。言われたとおりにしよう!」
そうか、ノーヴェさんは管理局員だったのか。
じゃあ今はその言葉に甘えさせてもらおう。
「じゃあみんな、早く行こう」
ここは年長者の俺がしっかりしないとな。
とりあえずデパートの出入り口に着いた。
が、俺たちはなかなか外に出られないでいる。
理由は単純で、人が多すぎるため、入口のところでつまってしまっているのだ。
みんな不安そうな顔をしている。
それもそのはずで、今でも断続的に破壊音が聞こえてくる。
小さい子供の中には、泣き出してしまっている子もいる。
ヴィヴィオ達は泣いてはいないが、涙目で今にも声を上げて泣き出しそうだ。
という俺も不安で不安でしょうがなく、しきりに後ろを気にしている。
もしかしたらガジェットが、後ろから現れて、あの青いビームを撃ってくるのではないかと。
何回も後ろを見ているうちに、商品棚の後ろに小さな女の子がいてうずくまっていることに気が付いた。
どうする、助けに行くべきか?
でも、あそこは上に続くエスカレーターに近いから、もしガジェットがやってきたら……
いや、そうじゃないだろ。
迷っている暇があるんだったら、助けに行こう。
「みんな、ちょっと待っててくれ」
俺はそう言い残し、女の子のところまで走っていく。
「大丈夫? お母さんかお父さんは?」
優しく問いかけると、女の子は泣きながらもある方向を指さす。
そこには、倒れた商品棚の下敷きになり気絶している女性の姿が。
持ち上げようとするがびくともしない。
「大人の人に手伝ってもらわないとだめだな」
自分一人で持ち上げるのを早々に諦め、大人がたくさんいる入口の人だかりを見た時だ。
俺の目の前を青いものが通り過ぎ、すぐ横の壁にひびがはいる。
ガジェットが、来た。
もちろん狙いは一番近くにいる俺達だ。
さっきよりも近づいてきたガジェット群は、もう狙いを外さないだろう。
予想通り青いビームは俺への直撃コースだ。
しかし、ギリギリのところで体を動かし、カバンを撃ちぬかれるだけにとどめる。
その勢いで背負っていたカバンが肩から外れかかり、白いものが少し飛び出る。
それはあの白いデバイスである。
それが目に入った時、俺の頭の中に声が響いたような気がした。
―――腰に巻く―――カード―――ベルト?
何だかわからないけど、俺は夢中だった。
白いデバイスを腰に近づける。
するとベルトが現れ、腰に巻きつき、さらには左側に四角いものが出現する。
―――体は勝手に動いていた。
四角いものからカードを取り出す。
―――俺はこれを知っている。
カードを構えて一言。
「変身ッ!」
《KAMEN RIDE―――DECADE》
電子音と共に半透明の人型の物体が現れ、俺に重なる。
そして、黒い板状のものが顔に突き刺さり、装甲にマゼンダ色が入る。
「これは……」
変わり果てた自分の姿を目にした俺は、なぜか懐かしい気分になっていた。
敵は目の前にいる。
そういうことを考えるのはあとだ。
俺は目の前のガジェットをパンチで破壊する。
ガジェットの大部分が人だかりの方に向かったのが見えたので、俺は急いで女性から商品棚をどかす。
ガジェットはもう少しで射程圏内に入る。
今から追いつこうにも1,2発はビームが撃たれるのは必至だ。
ならば。
カードを取り出す。
そのカードを手に取った瞬間、また頭の中に声が流れる。
―――俺は天の道を行き、総てを司る
―――おばあちゃんが言っていた……
《KAMEN RIDE―――KABUTO》
《HENSHIN CHANGE BEETLE》
電子音とともに今度は、全体的にスマートな赤い装甲、頭部はカブトムシを模した姿に変わる。
さらにもう1枚。
《ATTACK RIDE―――CLOCK UP》
全ての物体の動きがスローモーションになる。
その中を走り、カブトに変身すると同時に装備された短刀―――カブトクナイガン・クナイモード―――ですれ違いざまにガジェットを切り裂く。
全てのガジェットが爆発すると同時にクロックアップ、カブトへの変身が解ける。
ガジェットはまだ残っているが、幸いなことに俺をターゲットにしてくれたようだ。
「じゃあ、今度はこれを使ってみるか」
―――ちょっとのお金と、明日のパンツさえあれば
―――手が届くのに手を伸ばさなかったら、死ぬほど後悔する
《KAMEN RIDE―――OOO》
《タカ トラ バッタ タ・ト・バ タトバ タ・ト・バ》
奇妙な音楽が流れ、上、中、下、三色の姿に変わる。
オーズ特有の独特な構えをすると当時に、トラクローが展開される。
それを駆使して、残ったガジェットをすべて切り裂いてしまう。
「これで……終わりか?」
あたりを見回すが、ガジェットの姿は見えない。
すでに姿は一番最初に変身したものに戻っている。
「とりあえず、一件来着か」
だが俺は、この先に起こる事件のことなど、想像していなかった。