男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜   作:タナん

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17話 まだ14歳

「セツ、ちょっと外で話せないか?」

「何?構わないけど」

 

 タロウとの訓練を終え、宿に戻った俺は食事を終えてどこか満足げな様子のセツに話しかけた。

 俺はセツを連れて宿の外に出る。

 外はすっかり暗くなっているが、横を見ると山の斜面に沿って段々畑に建てられた家の窓からちらほらと明かりが見える。

 山の斜面は上から見たときに曲線を描いているため、左右を見るとアナンの村全体が見渡せるようになっているのだ。

 そして空には冷たく澄んだ空気で遮られるものがない星明りと、地球に比べるとはるかに大きい月が空に浮かんでいる。

 

 無言で歩く。

 聞こえるのは静かな冬の夜にサクサクという音だけ。

 明かりのついた家の前を通ると中からかすかに楽し気な声が聞こえてくるが、それも大した音ではない。

 

 暫くセツを連れて二人で歩くと民家のあるエリアから外れ、雪で平らになった土地が段々と連なっている場所についた。今は雪で何も見えないが、恐らく夏の間は畑でもしているのだろう。

 周りに民家も人の気配もないことを確認した俺は振り返ると、セツが話が始まるということを感じ取ったようで足を止めてこちらを見てくる。

 

「話って?」

「えっと……あの赤い猩々に襲われたときなんだけど、俺がセツの腕から出た血を飲んだの覚えてる?」

「……もちろん。忘れるわけない」

 

 俺の言葉を聞いたセツは口をきゅっと結んで目を反らした。

 腕は右腕を曲げて体の前で左の腕を掴んでいる。

 セツは何を感じているのだろうか。

 諦め?後悔?少なくとも喜んでいないことは確かだ。

 やはり俺が血を飲んだ事は禁忌だという事をセツは知っていたらしい。

 

「今日この村の戦士見習いのタロウから聞いたんだ。

 他人の血は猛毒で多くの村で禁忌とされているって」

「……」

「その様子だとサンの村でも禁忌にされてるようだな」

 

 セツは何も言わず首を縦に振る。

 セツは顔を俯かせ、雪のような白い髪が落ちてきて目元が見えない。

 

「本当にごめん、無理やりセツの血を飲んで…」

 

 俺はセツに頭を下げる。

 

「禁忌を犯すとどうなるんだ?

 罰があるなら俺は受けるつもりだ」

「……禁忌を犯した者は村から追放される」

 

 俺はセツの言葉を聞いて深く息を吐いた。

 白い吐息が月明りに照らされる。

 ようやく戦士の試練を受けることが許され、村の一員として認められることができると思っていた。

 身元不明の俺を受け入れてくれた村への恩返しがやっとできると思っていた。

 命の恩人であるアンジやルーク、セツ達狩猟衆の背中を守ることが、できるはずだった。

 だがそれは叶わないようだ。

 

(こんなに頑張ったの生まれて初めてだったんだけどな……)

 

「なあ、なんで教えてくれなかったんだ?」

「あんたには関係ないから」

「関係ないって……」

 

 そんな訳がないだろう。

 俺はそう言おうとしたがセツの言葉に茫然とする。

 

「追放されるのは私。

 禁忌とは貴重な男に血を飲ませて危険にさらすという事。

 だから……あなたには関係ない」

「……え?」

 

 村を追放されるのは俺じゃなくて…セツ?

 意味が分からない。

 なんで?俺のせいで?血を飲んだのは俺なのに?

 

「そんなの…駄目だろ……。

 俺が悪いのにセツが村を追い出されるなんて……。

 なにかの間違いだろ?俺が出ていくのじゃ駄目なのか!」

「駄目。私が村を出ることは変えられない」

 

「じゃあ秘密にしよう!

 俺もまだタロウにしか言っていない!

 それに俺が誰の血を飲んだかは言っていないし、あいつも胸に秘めておくと言ってくれている!

 俺がセツの血を飲んだことは誰にもわからない!」

「もう父様には伝えてある」

「な?!」

 

 アンジは知っていた。

 俺がアンジの娘であるセツの血を飲み、村にいられなくさせた事を。

 アンジは俺に何も言わなかった。

 

「じゃあ…どうしてセツはまだ……」

「ミナトが戦士として認められ次第私は村を出る。

 それまでは父様に村にいることを許してもらった」

 

(俺の戦士と認められるまでだって?)

 

「もう決まったこと。

 あんたは何も気にしなくていい」

 

セツはそう言うと話は終わりと背を向けて歩き始めた。

 

「セツ!待てよ!」

 

 俺はまだ納得していない。

 そんな理不尽を俺のせいで年下の女の子に味合わせるわけにはいかない。

 彼女を止めようと追いかけて肩に手をかけようとした。

 だがセツは俺の手を後ろを向いたまま掴むと、腕を引いて腰を落として俺を腰で持ち上げる。

 俺が気付いた時には雪の上に大の字で転がっていた。

 

「これはもう決まったこと。我儘言わないで」

 

 そうセツは言うと再び歩き始めた。

 俺は茫然として星を眺める事しかできなくてセツを止める事ができない。

 

「なんて顔してんだよ……」

 

 俺が戦士の試練を乗り越えるのは正しいことなのだろうか。

 投げられ倒れた俺が見た星空を背景にしたセツの顔はくしゃっと歪んでいて、涙を必死にこらえていた。

 初めて会った時、俺に見つめられて不機嫌そうにしたセツ。

 無表情というわけではないが、感情があまり表にでないセツ。

 俺を木刀で殴り、さっさと立てと悪態をついたセツ。

 そのどれとも当てはまらない表情をしていた。

 

 強く気高いと思っていた彼女は、まだ14歳の少女だった。




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