男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜   作:タナん

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24話 ナンパ

「こっちは俺の親父」

「ダグラスだ」

 

 どうやらこの二人の男は親子だったようだ。

 歳を重ねているせいか、ダグラスはグリードより落ち着いた雰囲気を持っているのだが、その目を見るとぞくりと背筋が冷たくなる。

 

 深くて溺れてしまいそうな何か。

 ジークやアンジのような強者が纏う圧力とも違う。

 

 俺はこの男に何を感じ取ったのかは、初めて感じる種類の感覚のため、よくわからない。

 だが、多分俺はこの男を好きにはなれないとなぜか思った。

 

「こいつらは俺の女だ」

「はーい」

「よろしくね~」

 

 次はグリードの両隣に座っている女達の紹介だ。

 グリードは両隣の女の肩に手を回しており、わかりやすいハーレム状態である。

 

 手を振って挨拶するその様子は、軽いノリの良さを思わせてなんだかギャルっぽい。

 それでも腰に剣を差しているのでこの女達もまた、戦いに身を置く者らしい。

 

 グリードやジークを見る限り、この世界の男は地球の男と同程度に性欲があるのかもしれない。

 そういう話題を避けてきたため、詳しいことはわからないが、何人もの妻との間に子供をもうけている男を何人も見てきた。

 男が少ないのに千人規模の町があったりするあたり、恐らくこの考えはあっているように思う。

 

「そいつらはお前の女か?」

「違います」

 

 グリードは両腕が塞がっているため、顎でセツ達を指した。

 勿論、そういう訳ではないので直ぐに俺は否定する。

 

「つれないですねぇ」

「その予定なんだけどね」

「違うよ……」

 

 シオとセリアは俺の答えに不満そうである。

 リタの様子が少し気になるが、ここで譲歩を見せれば、なし崩し的に嫁が決まってしまうので、俺は何も答えず苦笑いで誤魔化すしかない。

 

「違う」

 

 そしてセツは、はっきりと否定してきた。

 何時ものことで、ただの事実。

 わかっていた。でもあの夜のセツを思い出して……少し……胸が苦しくなった。

 

「じゃあお前は誰の女なんだ?」

 

 何時ものように、表情が分かりにくい人形のようなセツ。

 グリードは話を掘り下げてくる。

 

「いない」

「ほーじゃあそっちの……」

「タロウだ」

「タロウか、お前の女でもないのか?」

 

「俺は……いなくなった……」

「いなくなった? どういう意味だ?」

 

「……俺の不甲斐なさに見切りをつけられた」

「くはっ! 女に逃げられたのか?!」

 

 グリードはゲラゲラと笑い出した。

 どうやらデリカシーがないタイプの様だ。第一印象通りのあまり関わりたくないタイプ。

 タロウも事実だけに渋い顔をするだけで言い返せないみたいでいたたまれない……

 

 グリードは、腹を抱えて息も絶え絶えになるくらい一通り笑うと、ジークの方を見る。

 

「僕の妻達は村に残してきた」

 

 ちなみにジークはあんな商売をしているが、普通に子供も妻もいる。

 そこら辺の貞操観念に関しては男に都合がいいようだ。

 

「じゃあお前はまだ誰の女でもないのか?」

「そうだけど」

 

「じゃあ俺の女になれよ」

「は?!」

 

 思わず声が出てしまった。こいつは何を言ってるんだ?

 まさかセツを口説いてるのか?

 

「結構顔は好みだし、食うのに不自由はさせねぇぞ」

 

 いきなりの事で混乱する俺の顔はさぞ間抜けだっただろう。

 グリードはそんな俺の顔を一瞥すると更にセツを口説きにかかろうとする。

 

「俺は強いし、身内には優しいぜ?」

「遠慮しとく」

 

 速攻で腐れヤンキーが振られた。

 流石セツだ。

 

 とうの振られたグリードは、特に気にする様子もなく、再び俺の方へと向き直った。

 

「じゃあミナト、俺と勝負しろよ。それでお前は勝ったほうの女になる。分かりやすいだろ?」

「はあ?」

 

 確かにこの世界の女の男を選ぶ基準は強さが重要な要素である。

 でも、だからと言って、どこの馬の骨とも知らない強いだけの男に惚れたりはしないはずだ。

 そんなのライオンとかそういう獣みたいじゃないか。

 

 その時、ふとタロウの元婚約者の事を思い出した。

 もしかしたらそう言う事もあるのか?

 

「その勝負、俺が受けよう!」

「タロウ?!」

 

 色々考えていると、隣で立ち上がったタロウが叫び出した。

 モテた過ぎて頭がどうかしたのか?

 

「私はいいとは言ってない……」

 

 なぜか賞品となってしまったセツは面倒臭そうな様子だ。

 セツはライオンではないようでホッとした。

 

 そんな惚れた腫れたというか、馬鹿な話がしばらく続いた。

 このグリードという男は自分の欲望に忠実らしく、会話の途中で急に侍らせた女といちゃつき始めたり、別のテーブルへ行くはずの店員が持った酒を奪ったり、欲しいと思ったものをそのまま手に入れようとする性格らしい。

 

 俺の横で飲んでいたジークが口数の少ないダグラスに問いかけた。

 

「君たちはどこから来たのかな?」

「ちょっと南の方からな」

「へぇ~」

 

「飲まねえのか?」

「お酒はちょっと……」

 

 拒否する俺に酒を進めてくるグリードは南の方から来たらしい。

 この村の人間ではないということか。

 

「ところで……」

「はあ? 一滴も?」

「ええ……まあ……凄く弱くて……」

 

「ここら辺を荒らしている盗賊は君たちかな?」


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