男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜 作:タナん
「遅くなってすまんな」
男の一言により女性達の緊張が緩んだ。
あれだけのタフさを見せていた獣を一瞬で叩き割った男の元に女性達が集まってくる。
「いや、よく来てくれたよ。むしろ思ったより早かったくらいさ。」
「そうか、だがどうしたんだ?戦士のだれかが到着するまでは戦う事は禁じていた筈だが。」
「そこの男が丸腰で襲われそうになってたからね。仕方がなかったのさ。
合図の笛は吹いてあんたが着くまでなんとか耐えてたんだ。」
「男?……確かに細いが男だな。」
男はこちらの顔をまじまじと見てくる。
俺は別に女顔というわけでは全くなく、ただのフツメンで女に見られるような事は今までなかった。
疑問は残るが今はいいだろう。
「あの…助けてもらってありがとうございます。
俺は原田湊といいます。
家の近くを歩いていたらいつの間にか森の中にいたんです。
本当に助かりました。」
「無事で何よりだ。どこも男手は貴重だからな。
お前はどこの村の男だ?近くには俺たちの村しかない筈だが……」
「俺は日本という国から来たんですが、聞き覚えはありますか?」
俺は先程の見たことのない獣と、普通の人間では持ち上げる事すら難しい大剣をこの男が振るっていた事からここが異世界だと考えていた。
この質問は念の為だ。
「日本?聞いたことのない国だな。ここはアズマの国だが…?お前ら知ってるか?」
男の問いかけに女達は一様に首を振る。
マイナー言語である日本語が通じているはずなのに日本を知らないわけがない。
この問いかけで俺はここが異世界だと確信した。
「異世界キター!」
「大丈夫かお前……」
憧れていたシチュエーションに俺は喜びの声をあげる。
異世界転移といえば能力を貰って好きなように生きるのがお約束である。
それが今俺自身に起きたのだ。嬉しくない訳がない。
周りが胡散臭そうな目で俺の事を見てくるが、つい発作的に叫んでしまっても仕方がないだろう。
とにかく、そうと分かればやる事は一つ。なんとか保護を求め、生活基盤を整えることだ。
「すいません。お願いがあります。俺をあなた達の村へ連れて行ってもらえませんか?
俺はアズマ国という名前に聞き覚えがなくて帰り道がわからず途方に暮れているんです。」
「アズマ国を聞いたことが無いだと?一体どれだけ迷ったらこんな所にくるんだ……」
「怪しいとは思うんだけどあなた達しか頼れる人がいないんです!」
どうやら俺の事を怪しんでいるようだが、ここで見捨てられたら本当に死んでしまう。
さっきの様な獣がうろついている森に、武器も食料も無く置いていかれるわけにはいかない。
俺は頭を下げてとにかく誠意をアピールする。
「図々しいとは思いますが、帰る目処がつくまであなた達の村にいさせてください!しっかり働きますんで!」
「仕方がない…仮にも男を死なせるわけにはいかんか。
嘘をついてるようにも悪人のようにも見えない。
いいだろう。ついてこい。」
以外なほどあっさりと保護を求める事が出来た。
いい人なようで本当に運が良かった。
「っ!ありがとうございます!」
「俺はサンの村の戦士アンジだ。」
男は兜を脱いで脇に抱え、アンジという名前を名乗る。
身長は190cm程で、その体の分厚さから鎧の上でもその肉体が鍛え抜かれていることがわかる。
髪は灰色で髪は短く刈り上げており、後ろだけ伸ばして編み込んでいる。
精悍な顔つきで歳は40歳くらいだろうか?
「私はサンの村のアイラだよ。狩猟衆の長をしている。」
続いて兜を取って名乗ったアイラは号令をしていたリーダーと思わしき女である。
赤い髪色で歳はこちらも40歳くらいに見える。
目は赤色で意志の強さが伺える。
ウェーブのかかった長い髪ですこし皺があるが、若い頃はさぞ美人だっただろう。
サンの村の女達が次々に兜を取り、自己紹介をする。
皆色とりどりの髪色をしており、ここが異世界だという事を強く匂わせた。
年齢はバラバラで、10代〜40代くらいのようだ。
日本語が通じることから、黄色人種なのかと思ったが肌は白い。
といってもどちらかというと白人に近いが、きつすぎる印象はなく、日本人とのハーフというのがしっくりくる。
その中でも一際目を引いたのは剣で獣の動きを止めた女だった。
「私はサンの村の狩猟衆の一人、セツ。」
髪はショートヘアで色は処女雪のような透き通る白。これ程汚れの無い色はないだろう。
目はやや吊り目で色は純銀。その色は深く、何処までも吸い込まれそうだ。
肌は顔しか露出していないがきっと全てを包み込む柔らかさをしているのだろう。
歳は恐らくこの女性達の中では一番若いのだろう。俺とそんなに変わらないように見える。
彼女が醸し出している神秘的な雰囲気に目を逸らすことが出来ない。
「……何?」
「えっ!いや!なななんでもないでふ!」
セツの事を見つめる俺の視線が気になったのか、不機嫌そうな顔でジロリとこちらを睨んでくる。
焦って目が泳ぎまくりの上、吃って最後には噛むという醜態を晒してしまった。
(やっちまった!キモいとか思われてんのかな?ヤバい!顔が熱い!あ、なんかいい匂いが……)
「なんだ、セツの事が気にいったのかい?」
「うぇ?!」
俺の様子を見てアイラが目敏く質問してくる。
「そっ!そんなんじゃ……」
「まあそんな細腕じゃセツはやれないけどね。」
「……はい。」
アイラと俺のやり取りをセツは興味がないようで冷めた顔で明後日の方向を見ている。
どうやらファーストコンタクトは失敗したらしい。死にたい。
「行くぞ。」
そうこうしているとアンジが出発を告げる。
いつの間にか先程の獣の足にロープがくくりつけられ、アンジと3人の女性がそのロープの先を持っている。
アンジと女性はそのまま獣を引き摺って持ち帰るようだ。
「あの!手伝います!」
体は疲労困憊で動くのも嫌な状態だったが、アンジに見捨てられないように少しでも役に立とうと思ったのだ。
ロープの余りはそれ程余裕がないため、女性の一人と引く役を変わってもらう。
残り少ない体力をかき集め、汗をだらだら流しながら獣を引き摺って行く。
だが5分ほどしたところでアンジから待ったがかかった。
「頑張っている所悪いが狩猟衆と代わってくれ。非力すぎて役に立たん。」
「え?…すいま…せん……」
セツが俺に近寄って来て手を差し出してくる。
ハッキリと役立たず宣言をされた俺は素直にロープをセツに渡した。
セツにロープを渡してからの獣を引く速度は明らかに俺の時より速い。
自分がセツより非力な役立たずだという事。それと疲労困憊で代われと言われた事に喜びを感じてしまった事が只々惨めだった。
気落ちした俺の足取りは更に重くなり、獣を引っ張っているアンジ達に着いていくのにも精一杯だ。
謎の体にまとわりつく空気が憎らしい。
この事を質問しようにも疲労のあまりそれどころじゃない。
俺は無言で歩き続けた。
30分ほど歩くとようやくサンの村にたどり着いた。
「ここが俺たちの住んでいるサンの村だ。」
「ここが……」
サンの村の家は木造でできており、入口付近の屋根はせり出している。
窓にはガラスが嵌っていない、この世界にガラスは存在しないか高価な存在のようだ。
ドアノブは金属でできており、建物の所々に丸い錆びた金属のような物が見えるので恐らく釘を使っているのだろう。
「こっちだ。」
獣を引き摺って歩くアンジについて村の中を歩いていると、子供を見守る老婆や、家の窓から女性が顔を出したり、アンジに気付いた女性全員がアンジにお帰りなさいと声をかける。
「ここが俺の家だ。」
アンジの家は一際大きい家だった。
やはり今までの立ち振る舞いからしてサンの村では力を持った人のようだ。
アンジはそのまま家の横にある屋根と台だけで壁のない東屋に獣を引き摺って行く。
東屋の台にはいくつかの種類が違う刃物が置かれていた。
「「父様お帰りなさい!」」
東屋の床に獣を置くとアンジの家の中から子供がワラワラと出てくる。一人を覗いて全員女の子だ。
続いて涙黒子のある黒髪の妙齢の美女がアンジを出迎える。
「解体しておけ。」
「はい、承知いたしました。あなた達手伝いなさい。」
妙齢の女性は少女達と共に獣の解体作業を行うようだ。
東屋を妙齢の女性に任せて家の中に入る。
アイラとセツを含めた狩猟衆の内5人も一緒に家の中に入り、残りの5人の狩猟衆とは分かれた。
家の中に入ると8人の女がアンジを出迎える。
「こいつはミナト。森で迷っていた所を拾った。暫くは泊めてやることになったから面倒見てやれ。」
「はい、旦那様」
「湊といいます。アンジさんには森で助けてもらいました。暫くはお世話になります。」
(あれ?さっきの黒髪の女の人は奥さんじゃなかったのかな?)
家の中で出迎えてくれた女性の一人の言葉に疑問を覚える。だがその疑問は直ぐに解消される。
アンジは鎧を女に脱がせながら疑問の答えを話した。
「紹介しよう。」
アイラとセツを含めた狩猟衆と出迎えてくれた女性達が並ぶ。
「こいつ等が俺の女だ。」
俺は初恋が終わった事を知り、疲労が限界を迎え意識を失った。