男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜   作:タナん

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33話 してるよ

 ダグラスの持つ身の丈ほどもある大剣は易々と木造の建物を破壊した。

 重い大剣はダグラスの膂力により目にもとまらぬ剣速を与えられている。この重さと速さを併せ持ったダグラスの大剣の一撃を受けて耐えられる物はこの村には存在しないだろう。

 

 そんな一撃を身をかがめることで避けたジークは、目の前にあるダグラスの腹を攻撃することなく横合いに飛びだし距離をとることを選んだ。

 身を宙に投げ出した一瞬の時間で矢をつがえ終えていたジークはこちらに向き直るダグラスの眉間に向けて矢を放つ。

 

 赤い猩々のような獣すら貫く一矢の狙いは精密である。

 

 寸分たがわぬ狙い通りの場所、目を見開いたダグラスは眉間に飛来する絶死の矢を視線に捕らえ剣を上段に構える。

 上段に構えた大剣をダグラスは破壊力に似合わぬ精密さで自分の正中線を割るよう、真っ直ぐに大剣を振り下ろした。 

 

 暗くて白い夜を火花が照らす。

 

 獣を貫く矢と大剣の衝突は矢の敗北で終わった。

 

 いくら獣を貫く威力を持った矢とはいえ、ダグラスの持つ大剣とあまりにも重さが違いすぎる。

 速さでは矢の方が上とはいえあまりにも軽すぎた。

 

 ジークの矢を叩き落したダグラスは超重量の大剣を支えるにふさわしい脚力をもってジークの方へと疾走する。

 それに対し、ジークは既に第二、第三の矢を放っているが、ダグラスはそれを大剣を前に構えて突進することで正面から弾き飛ばす。

 防壁での攻防の焼き直しの光景にジークは表情を殺し、再び回避に移ることにした。

 

 ジークの手前で右足を前に出して急制動をかけたダグラスは大剣を横一文字に振り回す。

 ジークはそれを後ろに倒れこむように体をそらせることで鼻先かすめながら大剣を避けた。

 

 一撃を避けられたダグラスの攻撃はまだ続く。

 

 ダグラスは重い大剣の空振りを筋力にものを言わせ空中でびたりと止める。

 振り切ったはずの大剣を返す刀で切りかかるその様は慣性の法則が働いていないかのように不自然だった。

 だが地面をえぐりながら踏ん張るダグラスの足が、これもまた物理法則に則った動きである証拠となっている。

 

 ダグラスのその二撃目は、間合いの外に逃げたジークをさらに一歩踏み込むことで再び間合いに捕らえている。

 

 ジークにはもう一歩飛んでダグラスの間合いの外に逃げる時間はない。

 

 ジークは右手に持っていた矢を後ろにバックステップしている態勢から振り上げ、迫りくるダグラスの大剣に合わせる。

 ジークを上下に千切ろうとする大剣の側面にぶつけられた矢は、速度の乗った大剣をそらす程の重さは備えていないためダグラスの大剣は変わらずジークに迫っている。

 ジークはそれでも構わず矢をダグラスの大剣を下からかち上げ続けた。

 

「惜しいな。なぜ剣を選ばなかった?」

 

 避けも反らしもできないはずのダグラスの大剣は空を切った。

 ジークが振り上げた矢は大剣を反らすことはできなかったが、代わりにより軽いジーク自身を反作用の力が大剣の下方向へと押しやっていた。

 

 ダグラスは今の攻防に驚き、称賛した。

 鍛錬を積んだ男の超人的な筋力を持ってすれば、矢という棒一本で自分の体を動かすことは造作もない。

 だが幾らそれだけの筋力を持っているとはいえ、ダグラスの神速の大剣の一振りに、側面から不安定な態勢で矢をたたきつける技量と反射神経を持つものは少ない。いや、皆無と言っていいだろう。

 

 なぜならダグラスの長い戦いの経験則から判断して今の一撃で終わったと思ったからだ。

 故にダグラスは自分の予想を超えたジークを称賛し、前述の言葉を述べたのだった。

 

「駄目かな?」

「距離を離したとしても一撃を凌ぐことさえできれば後退するお前に前進する俺が追い付けないはずがない」

 

 距離をとるだジークにダグラスは今度は距離を詰めず語る。

 

「故にお前は防戦に回るしかない。にもかかわらず一歩間違えればお前の矢は俺を射抜いていた。もしお前が剣でっ」

 

 語るダグラスの横をジークの矢が通り過ぎた。

 戦士と戦士の戦いは誇りを賭けたものである。

 ジークも戦士との正々堂々の戦いであれば戦いの途中でも言葉に耳を傾けたはずだ。

 だがこの戦いは盗賊との戦いである。ジークはまともに会話する気はなく、攻撃の手が緩んだ瞬間を狙って矢を放った。 

 

「だってさ……これなら……」

 

 ジークが放った矢はダグラスから頭三つ分は反れていた。

 正確無比なジークらしくない外れ方である。

 

「手が届くだろ?」

 

 矢を外したにもかかわらず、日常会話のように静かに話すジークの言葉の意味は女の悲鳴が聞こえてきたことでダグラスは理解した。

 ダグラスの耳に聞こえてきた悲鳴は自分の女の一人である盗賊の声だった。

 

 ダグラスが振り返ると離れた場所で狩猟衆に馬乗りになる盗賊の女が、矢が突き刺さった腕を抑えて痛みに呻いている。

 

「貴様……集中せんか!」

 

 怒るダグラス。

 その怒りは一向に自分との戦いに集中しないことへなのか、自分の女が傷つけられたことへなのか。

 ジークには興味がない。

 

 ジークの目にはこの戦場のありとあらゆるものが見えていた。

 誰がどんな相手と何人で戦っているのか。

 優勢なのか劣勢なのか。

 

 視界の端に入ったどんな小さな情報も脳で処理し、頭の中で俯瞰図を更新し続ける。

 ジークはダグラスと死闘を演じながらも常に戦況を把握し続けていた。

 

 勿論ダグラスも出来るだけジークが女達を狙うのを阻止しようと動いているが、ジークの卓越した位置取りにより女を狙う隙を作りだす。

 

 ダグラスという同格の相手を前にそれを続けるのがどれほどの集中力が必要なのか。

 

「してるよ……この上なくね」

 

 ジークは決して油断しない。

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