男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜   作:タナん

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4話 訓練開始

(痛い…苦しい……)

 

 俺は木刀で腹を殴打され、堪らず地面に蹲った

 鈍い痛みが全身を侵食し身動き取れない。

 容赦なく俺の腹を殴りつけた張本人は不機嫌そうに眉をひそめこちらを見つめている。

 

「なにしてんの?」

「なっ…何って…お前……」

 

 セツの全く罪悪感を抱いていない様子に、俺は苛立ちを覚え抗議しようとする。だがまだダメージが抜けないため続きの言葉を紡ぐことができない。

 

「早く立って。」

「ちょっ…まって……」

 

 この女は一体何を言ってるんだろうか。俺は木刀を持ったのは初めてだし、朝食を吐き出すほどのダメージを受けているのが分からないんだろうか?

 俺は理不尽だろと心の中で悪態をつきながら震える足に力を込め何とか立ち上がる。

 

「立ったぞ……っ!」

 

 俺がなんとか立ち上がり、前を向いた時には既にセツが木刀を振り上げていた。

 咄嗟に自分の木刀を上に掲げてセツの一撃を受け止める。だがセツは最も破壊力の高い上段からの一撃、対する俺はスポーツ経験もない非力な男で、足はフラフラな状態。

 セツの一撃を受け止めきれず、木刀を押し込まれ左肩を殴打される。

 その衝撃で膝が地面に崩れ落ちる。セツはそのまま丁度いい高さになったであろう俺の頭に、長い足を撓らせた鞭のような蹴りを叩き込んだ。

 

「油断するな。獣は待ってくれない。」

 

 俺は為す術無く地面に倒れ込む。顔が地面の感触を感じとり、土の香りが鼻をつく。そして遅れて肩と頭に痛みが走る。

 意識こそ飛ばなかったものの、セツに言い返す余裕は無い。

 俺が立ち上がれない様子を見てアンジが口を開く。

 

「そこまで。ミナトはどうやら本当に戦士の訓練を積んでこなかったようだな。力が弱い。」

「心構えが甘い。」

「技もない。」

「加護も殆ど感じられない。」

 

 アンジとセツが代わる代わる俺を酷評する。

 訓練も口撃も、もう少し手加減してもらえないだろうか。女の人に力負けした上で酷評されるのは堪えるものがある。

 

「とにかくミナトが遠くから来たのは本当のようだ。俺の知る限り男が戦いと無縁でいられるような村は近くにはない。」

「……信じて貰えて良かったです。」

 

 俺はボロ雑巾にされる代わりに悲しい形で少しだけ信用を得ることができたみたいだ。

 明らかに割にあわない気がするがそう思い込むことで、何とか理不尽に対する怒りを抑えるのだった。

 

「父様、もういい?」

「ああ、大体こいつの事はわかった。ここからは基礎訓練をさせる。」

「え、あれ、父様って?」

 

 セツは俺の事を面倒くさそうな目で見ながら聞き捨てならない言葉を発する。セツはアンジの女では無かったのか?

 

「?セツは俺とアイラの娘だが。」

「でも昨日俺の女だって……」

「その通り。あの場にいた女は全て俺が守る女だ。」

「えっと…すいません。ちょっとお聞きしたいんですが、親子で結婚とか言う風習とかあったりします?」

「そんなわけ無いだろう。」

 

 どうやら俺は文化の違い故の勘違いをしていたらしい。セツがアンジの嫁ではないと聞き、砕け散ったはずの恋心が形を取り戻し始める。ついつい痛みも忘れて顔が緩む。

 そうなると不思議と今までの悪態を許せてしまった。

 顔が緩んでしまっているため、面と向かっては見れないが、横目でセツの顔をこっそり伺う。するとそこには超絶美少女が嫌そうな顔をしてこっちを見ている。

 

「私はお前の嫁は嫌。」

 

 形を取り戻し始めていた俺の恋心は更に細かく砕け散った。

 その後セツは自分の訓練に戻り、俺は薪割りをする事になった。

 全身の力の使い方を覚えるのに丁度いいらしい。

 俺は薪にやるせない気持ちをぶつける。

 

「うおおお!」

「気持ちのこもった良い振りだ。これは鍛錬だ。その調子で一回一回全てに手を抜くなよ。」

 

 アンジは本日初の褒め言葉を俺に授けて自分の鍛錬に戻る。俺はアンジからの褒めに対して喜ぶ気になれず、セツへのイライラを薪にぶつけ続けた。

 

 俺が薪割りを始めて一ヶ月、四日に一度は休養に当て、それ以外はひたすら薪割りを続けた。

 最初、手はズル向けになり、全身筋肉痛で動く事すら厳しい状態になった。

 休ませてほしいとアンジに願いでてみたが、

 

「続けろ、大地の加護を身に賜る絶好の機会だ。」

 

 と言われ、たまたま近くにいたセツからは、

 

「男がその程度で音を上げるな。」

 

 と言われ、セツが俺の天敵だと再認識して斧を振るう事になっただけだった。

 ちなみにこの意見には他の女性も同意見らしい。

 

 大地の加護とはこの世界に満ちている力であり、鍛錬をする事でその身に力を宿すことが出来る。

 この大地の加護は肉体を酷使すればするほど、大きな力を宿すことができる。経験則として、効率のいいとされる鍛錬のサイクルが3日の鍛錬をした後、1日の休息を取る事らしく、休息の日はひたすら呼吸を深めて大地の加護を取り込む。

 そうしていると俺を悩ましていた謎の体にまとわりつく空気が一週間後には消えていた。

 

 また、この世界には魔法があることが分かった。

 アンジと女性達が訓練しているのを見ていると、木刀が体に当たるかと思うと触れる前に何かに木刀が弾かれていたり、涙ボクロの妙齢の美女が俺のズル向けの手に手を翳すと光を発し始め、皮膚が再生するといった魔法を目撃した。

 ちなみにこの美女もアンジの娘らしく、名前はクロエという。

 

 この魔法も身に宿した大地の加護を使って行うらしい。

 世界に満ちている大地の加護は人は干渉する事ができない。だが、一度体内に取り込んだ大地の加護は外へ出す事で形を変えて何らかの現象をもたらす。この力をマナと呼び、この時起こる現象は人それぞれで、ゲーム風に言うと人によって使える属性魔法があるという事みたいだ。

 

 薪割りを二週間続けると大分体に余裕が出てきた。余裕ができた分薪割りを早めに終わらせ、木刀の素振りをする。アンジと狩猟衆の女性達がどうやって剣や槍を扱っているのか観察し、見様見真似で木刀を振る。

 

 薪割りを始めて一ヶ月、呼吸から力が肺に入り込み、体内を行き渡るのを感じるようになった。

 力の使い方も大分わかるようになった。体の軸が振れると腕や足の先に負担がかかり、負荷の割に力が込められない。力とは体の中心から生み出すものなのだ。

 

 今日も薪割りをしているとアンジから声がかかった。

 

「そろそろいいだろう。模擬戦を再開する。ボロ!相手してやれ!」

「分かった!」

 

 相手は俺より遥かに体が小さい子供である。だが、俺はこの一ヶ月の皆の訓練を見ていたのだが、その中には当然ボロも入っている。この子供は確実に俺より強い。

 俺は油断することなく木刀を構えた。

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