男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜   作:タナん

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6話 狩りへ

 この世界に来てから4カ月、俺は狩りに同行するようになっていた。狩りは2つの目的を持って行われる。一つ目は冬に向けて食料や毛皮を手に入れる事。もう一つは俺が初日に出会ったケシャのような強力な獣を駆除して非戦闘員もいる村に近づけない事だ。

 

 この村では通常、食料を得るための狩りは女性が行う。この世界の大多数を占める女性は、地球で男が担ってきたような仕事もこなさなければならないため、強く逞しい。弓や槍を使いこなし、鹿くらいの大きさの獣であればナイフ一本で仕留めてしまう。

 

 そんな強い狩猟衆の女性達だが一人で森に入ることは禁じられており、必ず複数人で森に入ることになっている。

 森には強力な獣が徘徊しており、もし一人で遭遇した上、獲物と認識された場合、獣相手では逃げることも難しい。戦おうにも圧倒的なタフネスと膂力の前に勝つことも難しい。

 ならどうするか。複数人で弓や槍を用いて連携して遅延戦闘を行うのだ。その間に笛を吹いて待機している戦士と認められた男を呼んで止めをさしてもらう。これがこの村の狩猟衆の基本的な戦い方だ。

 

 強力な獣の目撃情報が無いときは、狩猟衆は3人ほどの人数で森のあちこちに狩りや山菜などを取りに出掛ける。そのため、戦士と認められた男が5人しかいないこの村では男手が足りないのでこのような方法を取っている。

 

 当然、戦士としても村の人間としても認められていない俺は、狩猟衆の女性達に混じって森に入っていた。

 一緒に森に入っているメンバーは俺を含めて4人。

 

「この蹄の跡はイノシシですねぇ。」

 

 おっとりとした口調で周りを安心させるこの女性はセリア、18歳らしい。

 セリアは明るい栗色の髪を腰まで伸ばしている。全体的にややふっくらした体形だが、太りすぎというわけではなく、むしろ多くの男が好むであろう包容力を宿している。そして特筆すべきはその胸だ。その大きさたるや天を衝く山脈を想起させる。登山に目覚めてしまいそうだ。

 

「近いな。足跡がついてからまだ2,3時間と言った所か。」

 

 思わず背筋が伸びるような凛とした声の持ち主はシオ、17歳。

 シオは綺麗な黒髪をポニーテールにした、まさに美人という言葉がぴったりの女性で、いわゆるモデル体形で背が高く手足も長い。もし彼女が日本の学校に通っているならば、男子より女子からラブレターを貰いそうだ。

 

「今日は肉が食えそう。」

 

 最後に言葉を発したのはセツだ。俗っぽい事を言っているのにも関わらず、周りを自分の空間にしてしまうような神秘的な雰囲気を発している。

 

 初めて出会った時はケシャという強力な獣の目撃情報があったため、10人という大所帯で鎧もしっかりと着こんでいた。だが最近はそういう強力な大型の獣は見つかっていない。こういう時は動きやすさ重視の普通の服に弓矢と槍と必要最低限の道具しか持たない。なので今回は兜で顔が見えない事もないし、鎧で色んなところの揺れが見えない事もない。

 

 狩りに同行することになって1月、このセリア、シオ、セツ、俺のメンバーで森に入る事が多い。年齢は皆若く、俺とそれほど変わらないように見える。もしかしたらアンジは俺をこの3人とくっつけようとしているのかもしれない。

 

「これがイノシシの足跡か。」

 

 魅力的な未来予想図はこの辺りにして、俺は膝をついて蹄を観察し始める。

 地面の足跡には2つの大きな蹄とその後ろに小さな2つの蹄が並んでいる。俺はこの形を記憶に焼きつけようとする。何度か狩りに同行しているが、まだシカの足跡との見分けがつかないため特徴を必死に覚えようとしているのだ。

 そうしているとセリアが胸を揺らしながら俺の様子を覗き込んでくる。

 

「ミナトさん。足跡は覚えられそうですかぁ?」

「うーんこういう4つの跡がついてたら分かり易いんですけど、後ろの小さい跡が残ってない時は分からないですね。」

「その場合は僕でも判別は難しいから気にしなくてもいいんじゃないか?」

 

 経験のあるシオでさえ見分けるのは難しいらしいが、俺は昔から凝り性な所があるのでなんとか見分けようとする。だがあまり時間を無駄にする訳にはいかない。こうしている間にも獲物は動いているのだ。

 言い忘れていたがシオさんはまさかの僕っ子である。

 

「私はニオイで分かる。」

「…すげーな。」

 

 どうやらセツは鼻がいいらしい。俺には全く分からないが、重要な判断材料なのだろう。これも訓練が必要そうだ。

 

「すいません。お待たせしました。行きましょう。」

 

 俺のために待たせてしまった3人に謝罪をしながら立ち上がり、先を促す。

 1時間ほど足跡を追いかけていると一匹のイノシシが川で水を飲んでいた。

 

「いた。いつも通りミナトが最初に射るんだ。もし外しても僕がなんとかする。」

「はい。いつもありがとうございます。」

 

 俺はこの4カ月の間に弓の訓練も行っていた。最初は普段使わない筋肉を使うため、全く引く事が出来なかったが、今ではそれなりに引けるようになっている。

 俺は目いっぱい力を込めて弓を限界まで引き絞る。弓を持っている左手は肩を入れて真っ直ぐ骨で支える。右手は広背筋をつかって頭の後ろまで目一杯引く。弓を持つ左手が呼吸によってブレてしまうため、息を止める。

 狙いを定めるがすぐには矢を放たない。獲物はまだこちらに気付いていないため焦る必要はない。絶対に当たる確信を持てる時まで待つ。

 

(まだ…まだ…まだ………いける!)

 

 俺の直感が今なら当たることを確信する。俺の手から放たれた矢はイノシシへ向かって飛んでいき、イノシシの足の間を通り過ぎる。矢は川の中に吸い込まれた。外したようだ。

 イノシシは音に反応してこちらに振り向くが、振り向いて目がこちらから見えた瞬間、すかさずシオの放った矢がイノシシの目に命中する。矢は目を潰しそのまま頭蓋骨を砕いてイノシシを一撃で絶命させた。

 

「シオさん流石ですね。助かりました。」

「ああ、どういたしまして。」

「あんたはいつになったら上達するの?」

「まあ、セツちゃんまたそんなこと言ってぇ。」

 

 見ての通り俺の弓の腕は未だに未熟だ。止まっている的にさえまともに当たらない。セツの嫌味にぐうの音が出ないほど自分の弓の腕前に上達の兆しが見えない。はたして俺が獲物を仕留める日が来るのだろうか。

 俺はため息を吐きながらイノシシに近づいていく。狩りで役に立たないのならば、せめて血抜きや獲物を運ぶのを受け持とうとしたのだ。

 俺はナイフを腰から取り出し、イノシシの首に近づける。イノシシの首を切り裂こうとしたその時、襟を掴まれ後ろに引き倒された。

 

「いってぇ…一体何が……」

「獲物をしとめたからって油断しすぎ。」

「油断って…なんだこれ……」

 

 俺が血抜きしようと近づいたイノシシの頭には20cm程の石がめり込んでいた。もし、セツが俺を引っ張っていなければ、俺の頭が石に砕かれていた事は想像に難くない。背筋にゾッとした感覚が走る。

 セツ達の方を見ると後ろの森の方に向けて弓を向けている。

 弓の差す方向を目で追う。どうやら木の上を狙っているようだ。視線を上にあげていく。

 ……いた。木の上に白い体毛の生物がいる。見た目は端的に言うと大きな猿だ。人と同じくらいの大きさはあるだろうか。器用そうに発達した手には石が握られており、恐らく先ほども投げてきたのだろう。

 セツがそいつから決して目を離すことなく口を開く。

 

「面倒な奴に見つかった。」

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