男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜   作:タナん

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7話 初戦闘 命の賭け

「猩々か。どうする?リスクはあるが僕達だけでやるか?」

 

 白い猿は猩々と言うらしい。たしか猩々といえば赤い猿のようなイメージがあるが何故そう呼んでいるのだろうか。

 日本語が通じたり、名前が日本っぽい人がいたりこの世界はよくわからない。

 

「今は鎧も着ていない。戦士を呼ぼう。」

「了解。」

 

 シオの問いかけにセツが直ぐに救援を求める判断を下す。この中で最も年若いが一番腕が立って信頼されている。そのためこういう重要な判断はセツに委ねられることが多かった。

 シオが首にかけている笛を力一杯吹く。これで暫くしたら戦士が来るはずだ。

 

「頭を潰されたくなければ絶対に背中を向けないで。」

「わかった。」

「無視してくれたら良いんだけどねぇ。」

 

 セリアが願望を口にするも期待はあっさりと裏切られる。

 猩々は手に持った石を木の上で振りかぶる。

 不安定な足場だが、発達した足の指でガッチリ木を掴んで安定させている。弓のように体をしならせて石が放たれた。

 石は真っ直ぐセリアの方に向かっていく。セリアはその場から動かない。俺もセリアを庇おうにも位置が離れており、間に合いそうにない。

 

 だがセリアは焦らない。セリアの体から赤い粒子が吹き出して前面に滞留する。

 大砲のような勢いだった石は粒子の塊に突っ込んだ瞬間、粉々に弾け飛んだ。

 これは彼女の魔法、炸裂魔法だ。

 この赤い粒子に衝撃が加わると爆発を起こす。

 先輩に対していらない心配をしてしまったようだ。

 

 その間にセツとシオが弓を射掛ける。

 そのまま猩々の体に吸い込まれるかと思われた2本の矢は投擲後の体勢を更に深く捻り回避。

 そのうち一本は逆の腕で矢をつかみ取り、木の上でグルッと回転して威力を吸収してまた元の位置に戻った。

 

 俺も遅れて矢を射かけるが、猩々のもう片方の腕を前に突き出して掴み取られた。

 猩々は矢を握り折ってこちらに見せつけるように地面に落とす。猩々はニタリと笑って枝を支点に後ろ回転して勢いをつけそのまま別の枝に飛び移る。

 

 途轍もない反応速度と身軽さだ。それにこちらを馬鹿にするようなあの邪悪な笑みは知性を感じさせる。確かにセツの言うとおり面倒な相手のようだ。

 

 猩々はこちらが中々狙いをつけられない間に木々の間に飛び込んで俺たちの視線を切る。

 そうするとあっという間に猩々の姿が見えなくなった。

 

「やっぱり面倒。」

「あの様子だと逃げたという訳ではなさそうだね。」

「あいつは何で俺達を襲ってきたんですかね。」 

「不明ですねぇ。でも聞くところによると猩々は意味もなく生き物を殺して喜んでいる所を見た人がいるらしいです。」

 

 虐待趣味の猿とはまたとんでもない生物だ。だが野生動物が他の生物を遊びでなぶり殺すのは、地球でもシャチなど特に知能が高い生物に見られる行動だ。

 やはり猿の見た目通り頭がいいのだろう。

 

 猩々が見えなくなり、4人で別の方向を向いて警戒に当たる。

 時折木の上からガサリと音が立つのでまだ近くにいるのは間違いない。

 

 また石が俺に向かって飛んでくる。

 投げるには重く大きすぎる石だ。俺の膂力では受け止めたら最後、衝撃で盾代わりの剣を持った腕が駄目に成るに違いない。

 なので俺が取れる選択肢は回避の一択だ。

 俺は地面にしゃがみ込んで回避した。石は俺の頭上を突き進み、髪をかすらせて地面に突き刺さった。

 

(こえー!ギリギリだった!)

 

 一歩間違えば俺は死んでいただろう。

 俺は今更ながらこれが命のやりとりだと思い出す。

 理解しているつもりではいた。だが、実際に殺し合いをしてみてどうだ。

 死と限り無く近い位置にいる恐怖が俺の体を侵食し始める。

 

「後ろ!」

 

 一際強くガサッと音がなった瞬間セツが叫ぶ。

 俺は振り向くことなく横に飛びだし回避に専念する。

 誰に向かって言っているかは分からないが、もしまた俺が狙われていた場合、振り向いて確認している暇などない。

 

 案の定、俺が元いた位置に石がめり込む。

 この中では俺が一番弱いという事を見抜かれたのだろうか?

 俺が狙われているという事に背筋が凍って喉が乾く。心臓が強く脈打ってうるさくて仕方がない。

 

「大丈夫ぅ?まだやれそうですかぁ?」

「はぁ…はぁ…まだ…大丈夫です……」

 

 正直言うとかなり辛い。だがなけなしの男としてのプライドが弱音を吐く事は許さない。

 恐怖と何度も行われる死のロシアンルーレットに体力が何時もの何倍もの速度で削られていく。

 

「このままいくと、僕達はともかくミナトが持たないね。」

「仕方がない。私が木に登って追い立てる。その間にミナトを逃がす。」

 

 悔しいが俺が足手まといなのは事実だ。

 弱いが故に狙われ、どんどん追い詰められていく。

 もしこれが狙われているのが他の三人だだとしたら危なげなく石を回避して戦士の到着を待つことができただろう。

 

 だが俺がガチガチになりギリギリの所で回避してどんどん体力が奪われていく。

 このままではいつ避け切れなくなってもおかしくはない。

 

 セツが槍や矢筒等装備を手放す。

 残ったのは解体用のナイフのみ、彼女はこれから奴のフィールドに自ら飛び込もうとしている。

 

 俺のせいで。

 

 いらぬ危険を犯そうとしている。

 

 いいのか?

 

 俺は経験が浅いからと初心者なんですと言って甘やかされていいのだろうか。

 現代日本ならばそれで良かっただろう。優しい世界でみんな手を取り合い助けて育てていく。

 

 だがこの死の世界では、代わりに差し出すのは他人の命だ。

 勿論優れた狩人であるセツは死なないかもしれない。だが俺のせいで確実に死の確率は何倍にも膨れ上がる。

 

 それでいいのだろうか?

 

 否。それは良くない。人としても男としても命の責任は他人に賭けさせるべきではない。

 

「はぁ…俺が…はぁ…川の向こうに…行くのはどうですか?」

 

 川を渡る際は機動力が大幅に下がって無防備になる。だが、木を伝って移動する奴は追いかけて来れなくなるだろう。

 かなり危険だ。だが俺の命のための賭けにベットするのは他人ではなく、俺自身の命ではなくてはならない。

 俺は覚悟を決める。

 

「無理だね。」

「無理でしょうねぇ。」

「意味が無い。」

「…へ?」

 

 俺の命を賭けた提案が満場一致で否決される。

 俺はポカンとしたところをまた石が投げ込まれギリギリで回避する。

 

「これくらいの川の幅じゃ、あいつはやすやすと飛び移るだろうね。」

「一人きりになったらいよいよ直接襲われるでしょうねぇ。」

「…はい。」

 

 どうやら俺の考えたことくらい彼女達も考えていたらしい。俺が少し気落ちしているとセツが口を開く。

 

「でも悪くないかもしれない。川を渡る際は姿を表す。セリアなら落とせる?」

「んー飛び出す位置をある程度絞れれば行けるかもしれませんねぇ。」

「なら後は賭けに出る。もしセリアの魔法範囲外であいつが川を渡ったら、弓でカバーする。当てられるかは分からないけど。」

「了解。」

 

 トントン拍子で話が進んでいく。

 幼い頃からは一緒に育ってきた彼女達にお互いの信頼が垣間見える。

 

「そういう訳でミナトは川を渡って。後は私達がやる。」

「ふぅ…任せてくれ。」

 

 深呼吸をして気持ちを落ち着ける。

 セツが命を賭けようとしたんだ。俺が怖がってる場合じゃない。頼もしい三人を見ていると不思議と恐怖が和らいだ。

 先程まで俺の体に絡みついていた恐怖は消えたわけではない。

 ただ俺の体を支配したのが責任と信頼に置き換わったのだ。

 

「行きます!」

 

 俺は川に飛び込む。水深は深くなく腰くらいまでだ。

 だが俺の機動力を奪うのには十分な量でもある。

 

「潜って!」

 

 セツの声で咄嗟に川に潜り込む。すると背中に衝撃が走った。

 空気が肺の中から吐き出され、水を飲み込んでしまう。

 慌てて俺は水面に顔を出す。どうやら石をぶつけられたようだ。潜ったことで水が威力を減衰してくれたのだろう。

 俺はまた前へ進む。

 それほど広くは無い川だ。俺は程なくして川の対岸に到着した。

 

 後は猩々が釣れるかどうか。

 

 来い。

 

 来い。

 

 来い。

 

 来た。

 

 猩々が俺達の正面の木から飛び出してくる。

 このまま行くと、放物線を描きながら真っ直ぐと俺の頭上を越えるだろう。

 だがそうは行かない。

 

 セリアの体から大量の赤い粒子が吹き出す。

 大量の粒子はそのまま頭上で滞留し、空中に機雷源の壁を作り出す。

 かなり広い壁だ。範囲は10mくらいだろうか。

 猩々の憎たらしい笑顔が崩れたのを俺は見た。

 この粒子に触れればどうなるか?先程の石がどうなったのか覚えているのだろう。

 

 猩々が手足をバタつかせるがもう手遅れだ。空中で極端な移動などできるはずもない。

 なすすべも無く赤い粒子に突っ込んだ猩々は爆発する。

 川の対岸は飛び出していた運動エネルギーは、炸裂魔法による爆発で相殺されるどころか、反対のエネルギーを生み出し、セツ達の前まで飛んできて地面に落ちた。

 

 倒れ伏す猩々にシオとセツが飛び出す。

 シオは槍を、セツは剣を手に持っている。

 猩々は苦し紛れに腕を振るうが、シオが間合いの外から槍を振り下ろして、猩々の頭を撃ちすえる。

 やや遅れてセツが突き出された腕に剣を上段から歯を食いしばり全力で振るう。

 

 猩々は脳を揺らされてフラ付きながら手を差し出し、その腕を断ち切られた。

 猩々がキイーと苦痛の声を上げる。

 それでも狩人達の攻撃の手は緩まらない。

 

 シオが今度は横から槍をフルスイングして猩々の後頭部を打つ。

 猩々が衝撃で体をくの字曲げると、そこには剣を構えたセツが待ち構えていた。

 猩々は処刑人に対して首を差し出す形になる。

 

 断頭台(セツ)は、もう一度剣を振り下ろす。

 首に吸い込まれた剣は途中で止まることはなく地面に到達した。

 猩々の頭は血圧により吹き飛び離れた位置に落ちる。猩々の体はそのまま倒れ付した。

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