走るその先に、見える世界   作:ひさっち

18 / 44
4.聞かせてもらいたい

 

 

 メジロマックイーンが生徒会室に入ったことは、実のところなかった。

 洋風の家具や絨毯が備えられ、豪華な部屋だと一目でわかる。メジロマックイーンからすれば見慣れた光景の部屋だが、一般生徒からすれば入りにくい部屋だというのも頷けた。

 そもそも生徒会室とは、生徒会の役員が使う為の部屋である。一般生徒の一人であるメジロマックイーンに、入る用件もなければ呼び出されることをした覚えもない。

 メジロマックイーンが聞いた話では、会長であるシンボリルドルフを心底慕っている中等部の生徒が“一人”よく入り浸っていると聞いたことがあった。

 その生徒に関しては、メジロマックイーンもよく知る生徒だった。色んな意味で“その生徒”と交友のある彼女だったが、この場では特にそれを話すつもりはなかった。

 目の前にいる三人と共に席に座りながら、メジロマックイーンは落ち着かない心を冷静に保つことに意識を向けていた。

 

 

「よく来てくれたな。二人とも、ご足労感謝する」

 

 

 メジロマックイーンの正面に座るシンボリルドルフがにこやかな笑みを浮かべる。

 そしてメジロマックイーンの右側に麻真が座り、左にはエアグルーヴが座っていた。

 四人が座り、用意されていた夕食である食堂の定食を食べ進めながらほどほどに会話を楽しんでいた。

 

 

「俺から言い出した話だ。わざわざ場所も用意してくれたんだから、お礼を言うのはこっちの方だ」

「先程も話したことだが、雰囲気もない場所で申し訳ない」

 

 

 シンボリルドルフが顔を僅かに下げて、麻真に謝罪する。

 麻真はシンボリルドルフに呆れたように肩を竦めていた。

 

 

「だから別に気にするなっての。飯食うくらいどこでも良いだろ?」

「そう言ってくれると助かる。だが、貴方と共に食事をする機会がこうしてまた訪れたのは、私は本当に嬉しく思ってるんだ。それくらい気にさせてくれ」

「俺と飯食うくらい、そこまで気にするなよ……」

 

 

 麻真が嬉しそうに話すシンボリルドルフに苦笑する。

 メジロマックイーンが見る限り、麻真と話している時のシンボリルドルフの表情はとても穏やかに笑っていた。

 メジロマックイーンの見たことのあるシンボリルドルフはいつも威厳のある毅然とした表情をしていて、今見ている顔は非常に珍しい光景だと思った程だった。

 そんなシンボリルドルフに、エアグルーヴが小さく笑っていた。

 

 

「ふふっ……会長は麻真さんが“大好き”だからな。麻真さん、会長のこういうところは多めに見てやってくれ」

「おい、エアグルーヴ……!」

 

 

 エアグルーヴにそう言われて、シンボリルドルフが僅かに目を鋭くさせる。不思議と彼女の頬が赤くなっている気がした。

 しかしエアグルーヴはシンボリルドルフに睨まれながら麻真に向くと、意地の悪そうな顔をして麻真を見つめていた。

 

 

「まぁ、そういう私も麻真さんのことは好きだぞ?」

 

 

 エアグルーヴが麻真の反応を待つ。シンボリルドルフが少し目を大きくしていたが、麻真はそう言われても眉を僅かに寄せているだけだった。

 

 

「お子ちゃまがマセたこと言うんじゃねぇっての。それにお前は俺と走りたいだけだろ?」

「ははっ、バレてしまったか」

 

 

 麻真に言われて、エアグルーヴが楽しそうに笑う。

 メジロマックイーンはそんな会話をしている三人を見て、思わず麻真を睨みつけていた。

 

 

「……マックイーン、なぜ俺を睨む?」

「貴方が節操なしというのがよく分かりますわ」

「おいおい、変なこと言うんじゃないって」

「事実ですわ。現に貴方はそうやって過去に色んなウマ娘に手を出してたのではなくて?」

 

 

 メジロマックイーンの麻真の評価がひとつ下がった瞬間だった。

 麻真が過去に色んなウマ娘を鍛えたという話を聞いたが、それにしても数が多いとメジロマックイーンは思わざるを得なかった。

 メジロマックイーンに言われた麻真が顔を顰めていると、彼の顔を見ていたシンボリルドルフが笑みを作っていた。

 

 

「ふふっ、言われてるぞ。麻真さん」

「まぁ、事実だから返す言葉がないんだろう? 麻真さん?」

 

 

 エアグルーヴが続いて麻真に追い討ちを掛けると、麻真は面倒そうに溜息を吐いていた。

 

 

「あれはお前達が集まってくるのが悪いんだろうが?」

 

 

 そう言って、麻真は苦笑いしていた。

 シンボリルドルフとエアグルーヴが麻真の反応を見て、揃ってくすくすと笑っていた。

 そんな光景を見て、メジロマックイーンはふと前から聞きたかったことを思い出していた。

 

 

「ところでお聞きしたかったのですが、お二人はどうして麻真さんに教えを受けようと思ったのですか?」

 

 

 メジロマックイーンの唐突の質問に、シンボリルドルフとエアグルーヴが顔を見合わせる。そして二人が麻真を一瞥すると、声を揃えて答えていた。

 

 

「「感動したからだ」」

 

 

 二人の答えに、メジロマックイーンは納得していた。確かに麻真の走りを初めて見た時、震えるような感動を感じたことをメジロマックイーンは今でも覚えていた。

 しかしメジロマックイーンが聞きたかったのはそこではなく、もう少し深いところの話だった。

 

 

「麻真さんの走りを見たきっかけ……お二人が麻真さんとお会いしたのはいつだったのです?」

 

 

 そう、メジロマックイーンは純粋に疑問だった。シンボリルドルフ、エアグルーヴと名のあるウマ娘が麻真と出会ったキッカケ、それはどんな時だったのかと。

 メジロマックイーンのその質問に、シンボリルドルフが懐かしそうに目を細めていた。

 

 

「麻真さんと出会った時か……あれは私がトレセン学園に入学してすぐだったな」

「会長と一緒だ。私も、入学してすぐだった」

 

 

 エアグルーヴも同じように懐かしそうにして笑みを見せる。

 メジロマックイーンが先の話を待っていると、それに気づいたシンボリルドルフが話し始めていた。

 

 

「当時、新入生だった私はまだトレーナーが決まってなかった。と言っても、練習はできたからあの頃はよく私も朝練をしていた。そこである日に、練習場で朝早くに走ってる人がいたんだ」

「……それが麻真さんでしたの?」

 

 

 メジロマックイーンの問いに、シンボリルドルフはゆっくりと頷いていた。

 

 

「本当に衝撃だった。まさかウマ娘ではない人間が私達と同じように速く走っているのだからな。その姿を見て……私は心の底から震えた」

 

 

 シンボリルドルフが麻真を一瞥して、続けた。その目は、紛れもない尊敬の眼差しだったことを、メジロマックイーンは知ることもなかった。

 

 

「歪みのない綺麗なフォーム、誰も文句のつけようがないその走り。それは私の想い描く“理想”、そのものだった」

「分かりますわ。私も麻真さんの走りを見た時、同じように思いましたもの」

 

 

 メジロマックイーンの返事に、シンボリルドルフが満足そうに頷いた。

 

 

「だから私は麻真さんの走りを見て、すぐ彼に言ったんだ。私のトレーナーになって欲しいと」

「……それでトレーナーになってもらえたんですの?」

「いや、それが……」

 

 

 そう言って、シンボリルドルフは可笑しそうに笑っていた。

 

 

「その時は麻真さんが新人トレーナーだとは思わなくてな。彼は私のトレーナーにさせてもらえなかったんだ」

「……どういうことですの?」

 

 

 シンボリルドルフの話に、メジロマックイーンが首を傾げる。

 そこで今まで口を閉ざしていた麻真が話し始めていた。

 

 

「俺がルドルフと会った時、俺はトレセン学園に就職して一年目だった。知らない奴が多いが、トレーナーは“ライセンス”を獲得して一年くらいは活動が制限されてたんだ」

 

 

 続けて話した麻真のトレーナー事情は、メジロマックイーンが知らないことだった。

 メジロマックイーンも知っている点も勿論あった。トレーナーとはURAからライセンスを取得して初めて活動できる職業である。ライセンスには二種類あり、“地方(ローカル・シリーズ)”と“中央(トゥインクル・シリーズ)”の二つに分かれている。

 トレセン学園は“中央”のレースであり、トレーナーは“中央”のライセンスが必要になる。ここまではメジロマックイーンが知っていることだった。

 しかしトレーナーはライセンス獲得後、特別なことがない限り一定期間の実務経験を得るまでトレーナー活動が制限されていた。

 それが麻真が話していたライセンス獲得後は、上司のトレーナーの下で一年以上の経験を積まなければ、専属ウマ娘をURAに新規登録ができないということだった。

 

 

「それを知った私も流石に困った。もう麻真さん以上のトレーナーはいないと確信していたからな。だから私は麻真さんがサブトレーナーをするチームに入ることを決めたんだ」

 

 

 シンボリルドルフが誇らしそうに胸を張る。

 しかし麻真は当時のことを思い出したらしく、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 

 

「簡単に言うけどな……あの時、大変だったんだからな。俺が名門のトレセン学園の芝がどんな感じなのかと思って走ってたらお前達が来て、俺のいるチームに入るまでは良かった。

 だけど俺が所属してたチームのメイントレーナーをそっちのけでサブトレーナーの俺のところにお前達が来るもんだから、俺があの人に当時どんだけ怒られてたと思ってんだよ」

 

 

 麻真が肩を落として話す姿に、シンボリルドルフとエアグルーヴの二人は揃って肩を竦めていた。

 

 

「そもそも、貴方が練習場を勝手に走ってたのが良くなかったのではなくて?」

「……それは言うな」

 

 

 メジロマックイーンに核心を突かれて、麻真は返す言葉がなく言い淀んでいた。麻真の反応に、三人が揃ってくすくすと笑っていた。

 

 

「そこからはメジロマックイーン、君も知っていると思うが私とエアグルーヴが麻真さんのいるチームに入って一緒に練習していると学園内の噂になったんだ。走るのがとてつもなく上手いトレーナーがいると……それで麻真さんに生徒が集まるようになったんだ」

「なるほど……それでレースも?」

「勿論、麻真さんに鍛えられてレースに負けるなど麻真さんに顔向けできないからな。麻真さんが居なければ、今の私はいないと言っても過言ではない」

 

 

 そこまで説明されて、メジロマックイーンも理解していた。走るのが上手い麻真に鍛えられたシンボリルドルフとエアグルーヴがレースで結果を出せば、当時サブトレーナーだった麻真の下に生徒が集まるのも頷けた。

 

 

「それはお前達の実力だ。俺は手伝いをした、それだけの話だ」

 

 

 しかし麻真はシンボリルドルフの話を聞いても、あっけらかんとしていた。

 麻真の態度に三人が目を合わせると、揃って笑っていた。

 

 

「なんとなくですが、私も分かってきましたわ」

「メジロマックイーン、お前も分かるか?」

 

 

 メジロマックイーンにエアグルーヴが笑みを見せる。

 

 

「なんだよ、お前達。揃って気色悪く笑って」

 

 

 だが麻真は三人の反応を見るなり、顔を顰めていた。

 そんな麻真にメジロマックイーンは彼の顔を見ていると、彼女は小さく笑っていた。

 

 

「麻真さんがそういう顔をされる時……照れてますわよね?」

「……何言ってんだか」

 

 

 メジロマックイーンに問い詰められて、麻真が顔を横に向けてそっぽを向く。

 それが答えだろう。メジロマックイーンは麻真の反応を見ると、彼に“仕返し”ができたことを満足そうに口角を上げていた。

 メジロマックイーンの顔に麻真は悔しそうに顔を引き攣らせるが、これ以上は自分の分が悪いことを察して口を返すことはしなかった。

 そしてメジロマックイーンからこれ以上の追撃もされたくなかったので、麻真は渋々ながら話を変えることにした。

 

 

「昔話はそこまでで良いだろ……まだ話すことはあるんだ」

 

 

 メジロマックイーンからすれば、麻真の“それ”は負けを認めたと言っても良い反応だった。

 不満そうな顔をして話を変える麻真に、メジロマックイーンは勝ち誇った顔をしていた。

 

 

「そうだったな。先程、麻真さんから聞いた話だったが……メジロマックイーン、君のところに中等部と高等部の生徒が集まっていると聞いたがどれ程の人数が来ているんだ?」

 

 

 そしてシンボリルドルフは、そんな二人を見ながらメジロマックイーンに訊いていた。

 しかしシンボリルドルフから出た話をエアグルーヴは知らなかったのだろう。彼女は目を大きくして驚いていた。

 

 

「高等部の生徒もだと……⁉︎」

「えぇ……ちゃんと数えたことはありませんが、少なくても二十人以上は来てますわ。来る人たちは、多分高等部の生徒の方が多いかもしれません」

 

 

 メジロマックイーンが思い出す限り、麻真が自分のトレーナーになってから学園内で麻真についてのことで話し掛けられる人数はおおよそ二十人以上は来ていた。

 

 

「中等部ならまだ分かる。麻真さんのことを知る生徒はいない。だが高等部となると……今一度通達した方が良いか?」

「会長、それよりも確認することがあります。メジロマックイーン、高等部の生徒から何を訊かれる?」

 

 

 シンボリルドルフが考える仕草を見せるが、エアグルーヴが先にメジロマックイーンに質問していた。

 メジロマックイーンはエアグルーヴの質問に、素直に答えていた。

 

 

「トレーナーの麻真さんを、自分に譲って欲しいと言われますわ」

「――なんだと?」

 

 

 そしてメジロマックイーンが答えた瞬間、エアグルーヴの目が鋭くなっていた。それと同じく、シンボリルドルフも目を鋭くさせていた。

 麻真も目を大きくしていた。まさか自分に鍛えて欲しいという生徒が自分ではなくメジロマックイーンのところに行っているとは思ってもいなかった。

 

 

「おいおい、お前のところにその話が行ってたのかよ?」

「えぇ……そうですわ」

「俺のところに来た生徒には直接言ってたんだが、まさかお前のところに行くとはな……すまなかった。それは俺が悪い」

 

 

 メジロマックイーンの話を聞いて、麻真が頭を下げる。

 いきなり麻真が頭を下げたことに、メジロマックイーンは意表を突かれていた。

 

 

「頭を下げないでください。別に麻真さんが悪いわけではありませんわ。私も揉め事を起こしたくなくて、貴方に言わなかったのも悪いと思っていますもの。それに……貴方を他の人に渡す気は更々ありませんわ」

 

 

 そこはメジロマックイーンも譲らないことだった。沢山の生徒が麻真を譲ってくれと言われようとも、彼女は決して譲る気などなかった。

 運良く獲得した北野麻真というトレーナーを、どうして他のウマ娘に渡さなければならないのかと。

 

 

「メジロマックイーン、君にひとつ言っておかなければならない」

 

 

 シンボリルドルフがメジロマックイーンに告げる。

 先程までの朗らかな表情とは違い、今のシンボリルドルフの表情はメジロマックイーンが本来知っている生徒会長としての顔だった。

 

 

「君は知らない話だが……麻真さんがトレセン学園に戻ってきた時、生徒会を通じて高等部の生徒には麻真さんはメジロマックイーン以外のトレーナーにならないことを通達してるんだ」

「……はっ?」

 

 

 メジロマックイーンがキョトンと目を点にした。

 シンボリルドルフの話であることが本当ならメジロマックイーンの元に高等部の生徒が集まること自体がおかしな話なのである。

 

 

「だから会長と私は怒ってる。麻真さんのところに直談判に行くならまだ理解できるが、お前のところに麻真さんを譲れと節度のない行動をしている生徒が学園内にいるのが遺憾なんだ」

 

 

 エアグルーヴが眉を寄せて、表情を歪ませる。

 シンボリルドルフもエアグルーヴと同様に表情から怒りの感情が伺えた。

 

 

「麻真さんに教えを受けたい高等部の生徒は大勢いる。勿論、私もその一人だ。だが麻真さんがメジロマックイーン以外の生徒を担当しないとハッキリ言っている以上、私達は麻真さんに必要以上の迷惑を掛けないようにしているつもりだった」

「レースしたいとか言ってた奴が……それ言うか?」

「それくらいは麻真さんが私達のトレーナーになってくれない代価と思ってくれ」

 

 

 麻真に指摘されるが、シンボリルドルフはふんと不満そうに鼻を鳴らしていた。

 

 

「時折、共に走ってくれるなら私達は何も言わない。麻真さんがメジロマックイーンの専属トレーナーになるのことに文句は言わない。だからこそ、私達は麻真さんの意思を尊重している」

 

 

 そしてシンボリルドルフは拳を強く握りしめていた。

 それはきっと自分の本当の気持ちを押し潰しているからこその反応だったのだろう。本来なら自分も彼に懇願したい、自分のトレーナーになって欲しいと。しかしそれを麻真が望まない以上、シンボリルドルフはそれ以上を求めていなかった。

 メジロマックイーンには、その気持ちを知る由もなかったがシンボリルドルフは確かに怒っていることだけは分かった。

 

 

「高等部の生徒には、生徒会から再通達する。今度は生徒会の意思と麻真さんの意思をしっかりと通達して、仮にそれでも節度を超えた行動には処罰も考える」

「そんな厳しいことをされるのですか……?」

 

 

 シンボリルドルフの決断に、メジロマックイーンが唖然とする。

 しかしシンボリルドルフとエアグルーヴは、その決断に迷いはなかった。

 

 

「私達が我慢してるんだ。同じように他の生徒も我慢してもらわなければ私達も我慢ならん」

「それ職権濫用……」

 

 

 エアグルーヴの言葉に、メジロマックイーンが引き攣った笑みを見せる。紛れもなく私情による職権濫用だった。

 もしシンボリルドルフとエアグルーヴのようなウマ娘達も麻真の下に集まるとなれば、流石にメジロマックイーンも麻真を取られるかもしれないと思ってしまう。その点で言えば、生徒会の節度のある行動に彼女は心の内で安堵していた。

 

 

「だから明日以降から、麻真さんを知る高等部の生徒は私達の方で止めておこう。だが――」

 

 

 そう言って、シンボリルドルフが言い淀んだ。

 そしてしばらく言いづらそうにしながら、シンボリルドルフは話していた。

 それはメジロマックイーンへの絶望の宣告とも言えたことだった。

 

 

「麻真さんを知らなかった中等部は無理だ。そこはメジロマックイーン、君が何とかしてほしい」

「中等部の方もどうにかなりませんか……?」

 

 

 シンボリルドルフの宣告に、メジロマックイーンが懇願する。

 しかしシンボリルドルフはその願いに、苦笑いしていた。

 

 

「私と麻真さんのレースを初めて見た中等部の生徒が、麻真さんに興味関心が出ないわけない。おそらく中等部の一部の生徒は麻真さんに興味津々だ。それは麻真さんの走りを初めて見た時の君なら、理解できるだろう?」

 

 

 麻真の走りを初めて見た衝撃は、メジロマックイーンも覚えている。なら同様に同じウマ娘なら、同じような反応をするのも理解できた。

 

 

「だから中等部の生徒は興味の熱が収まるまで、抑えるのは無理だ。それこそ無理矢理抑え込む方が面倒なことになりかねない。ちなみに中等部の生徒には、なにを訊かれるんだ?」

「麻真さんとどんな練習しているか、あとは麻真さんがどんな人なのかですわ」

「それならまだ良い、しばらくすれば収まるだろう。まだ“私達の頃に比べれば”可愛い方だ。もし仮にしばらくしても収まらないなら、その時に考えさせてもらう。それで手を打ってくれないだろうか?」

 

 

 メジロマックイーンの答えに、シンボリルドルフが意味深なことを話していた。

 その話に、シンボリルドルフ達も自分と同じ経験があることをメジロマックイーンは察していた。

 

 

「……むしろ会長さん達に何があったのか気になるのですが?」

「訊かない方がいい。あまり気持ちの良い話ではないからな」

 

 

 シンボリルドルフが怖い顔で笑っていたことで、メジロマックイーンはそれ以上のことを聞くのを躊躇われた。

 まだ自分は良い方かもしれない。不思議とそんな気持ちがメジロマックイーンに芽生えていた。

 

 

「……分かりましたわ。では、その件はよろしくお願いします」

「任せてくれ。メジロマックイーン、君も“色々”と大変だと思うが、何かあれば生徒会を頼ってくれ」

 

 

 メジロマックイーンが座りながら一礼する。そんな彼女に、シンボリルドルフは大きく頷いていた。

 メジロマックイーンの悩みのひとつが解決するかもしれない。そのことに麻真は胸を下ろして安堵していた。

 

 

「さて……大きな話はこれで終わろう。ところで、私が個人的に“とても”気になっていた話がある話だが……」

 

 

 そして先程まで真剣な表情だったシンボリルドルフが、朗らかな笑みを作る。

 メジロマックイーンが今度は何を言われるのだろうかと身構えていると、シンボリルドルフから投げられた言葉に彼女は顔を強張らせていた。

 

 

「メジロマックイーン、君のことを聞かせてほしい。あと――君はどうやって休職中で行方不明だった麻真さんを見つけたのか、是非とも聞かせてもらいたい」

 

 

 朗らかに笑う――いや、これは圧倒的な威圧感の顔だった。

 エアグルーヴを見ても、シンボリルドルフと同じように朗らかに笑っていた。

 拙い。もし本当のことである理事長に居場所を教えてもらったとも言い出せない。他の生徒に訊かれた時のように学園に一方的に告げられたとメジロマックイーンが答えるが、

 

 

「学園からその手の話が生徒に行くなら生徒会にも情報が入るんだ。だが、それがないのか不思議で仕方ないと思っていた……メジロマックイーン、君はどんな魔法を使って、麻真さんを捕まえたんだ?」

 

 

 エアグルーヴがメジロマックイーンの話を否定していた。

 嘘が使えない。メジロマックイーンがチラリと見て麻真に助けを求めていた。

 その視線を受けて、麻真もメジロマックイーンが本当のことを言えないことを悟っていた。

 もし理事長が麻真の居場所を知っていたと知れれば、この二人が何をするか分からない不安が麻真にもあったからだ。

 麻真とメジロマックイーンが、一瞬だけ互いに目を合わせる。

 シンボリルドルフとエアグルーヴ、この二人の質問を躱す手立てを麻真とメジロマックイーンは考えることになった。




読了、ありがとうございます。

今回はルドルフとエアグルーヴ、麻真の昔話。
それとメジロマックイーンの問題などなどの盛り合わせでした。
少しずつ気になる点を残してますが、お許しを。

また次回にお会いしましょう。
次回か次次回、走る場面が来る予定です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。