走るその先に、見える世界 作:ひさっち
良い方向に向かっている。ここ数日間、メジロマックイーンの走りを見守っていた麻真はそう思っていた。
走る練習を始めて五日目。メイクデビュー戦まで残り五日と折り返し地点になって、メジロマックイーンの走り方は麻真から見ても目に見えて変わってきていた。
現在の第二目標タイムである四分に、先程でメジロマックイーンは四分五秒までタイムを縮めてることができた。これで残り五秒縮めるだけで、彼女は二つ目の目標タイムである四分をクリアできる。
おそらくこの調子ならば今日中に目標の四分をクリアできるだろう。メジロマックイーンの後ろを走りながら、右手に持っているストップウォッチの時間を一瞥して麻真は小さく笑っていた。
「マックイーン。次のコーナー、分かってると思うが遠心力で身体が外側に持ってかれないように意識しろ」
「――はいっ!」
麻真の言葉に、メジロマックイーンが大きな声で返事をする。
この五日間でメジロマックイーンの走り方が改善され、彼女が耳にタコができるほど麻真から受けていた指摘も、今ではかなり少なくなっていた。
またそれに比例して、麻真がメジロマックイーンに掛ける言葉の内容も少しずつだが変わっていた。
今まではメジロマックイーンの走り方で悪い点の指摘しかしなかった麻真だったが、今では彼女の走り方を良くする為の指摘もしていた。
悪い点を指摘されず、良くするための指摘を受ける。それはつまり、メジロマックイーンの走り方で悪い点が少なくなり良い点が増えているということである。
メジロマックイーンもそれを理解したのだろう。突然、麻真の指摘する内容が変わってきたことに内心で驚いていたが、同時に察していた。
麻真の指摘する内容が変わった意味。それは麻真がメジロマックイーンに“それ”をするに値する走り方をしていると判断されたことだ。
それを理解した時、メジロマックイーンは内心では飛び跳ねたくなるくらいに喜んでいた。あの“北野麻真”に認められている。こと走る上で、誰よりも尊敬している人に少しでも認められたことを彼女が嬉しく思わないわけがない。
それ故に、そのことに気づいたメジロマックイーンは麻真から受ける指摘を聞き逃すことはなかった。身体の動きに意識を向けながら、耳はいつでも麻真から指摘を受けても良いように常に集中していた。
「足の力で外側に流れる遠心力を抑え込むな。身体の軸を内側に倒して走れ。力技で誤魔化すな、身体全体で曲がれば勝手に曲がる」
「――はいっ!」
麻真の指摘を受けて、メジロマックイーンが彼の言葉通りに走る。
メジロマックイーンの走り方は、麻真から見て初めの頃よりも良くなった。今まで見られた癖も大方消している。力の使い方を理解して、今までの“足に負荷の掛かる走り方”から“力を効率良く使える走り方”へと変化していた。
やはり見た目通り、メジロマックイーンは賢い。麻真は彼女の対応力に密かに感心していた。
言われたことを言葉通りに実行できるのは、教える側の麻真としてはありがたい限りだった。またメジロマックイーンに関して更に評価できるのは、言われたことに加えて自分で更に良くしようと考えられていることだ。
自分の意見を言えることは勿論のこと、言われたことよりも更に良くしようという姿勢が良い。仮にそれが悪くなることなら自分が指摘するだけのことなので、麻真はメジロマックイーンのそれを特別否定するつもりは微塵もなかった。
「やっぱり頭良いな、アイツ」
麻真がポツリと、小さな声で呟いた。
こうして麻真がメジロマックイーンの成長の速度を見ていると、彼女の地頭の良さが垣間見えた。走る練習を始めてから、麻真の予定よりも早く彼女は自分の身体の使い方を理解している。
賢さで言うなら、麻真が今まで見てきたウマ娘達の中でもメジロマックイーンは高い方だと思える。
その為、麻真は僅かに困惑していた。なぜ、こんな賢い子があんな間違った走り方を覚えていたのかと。
おそらくある意味では、メジロマックイーンは頭が固いタイプなのだろう。頑固な面もあることから、自分の考えを正しいと思う節もある。
そんな面があるからこそ、一度覚えた自分の走り方を確かなモノと信じ、その走りに色々な手を加え続けた結果が以前の走り方になったに違いない。
しかし柔軟な考えもできるのを見る限り、その妙な“歪さ”は中等部に入ったばかりの幼さ故なのだと麻真は心の中で納得することにした。
だがどちらにしても、この様子を見る限りメジロマックイーンの今後の成長に期待ができた。麻真は彼女の目標でもあり、自分の退職する為の目標のひとつでもある天皇賞制覇への期待が僅かに高まっていた。
「ねぇねぇ! 麻真さん! ボクのトレーナーになってよ!」
しかし麻真がそう思っていた時、彼の後ろを走っていた鹿毛のウマ娘――トウカイテイオーが彼にそう話し掛けていた。
「……全く、困ったガキだ」
溜息を吐きそうな声で、麻真がぼやく。
折角の良い気分が台無しだった。ポツリと呟いた麻真は聞き飽きたと言いたげに呆れた表情を作った。
ご丁寧に制服からジャージに着替えてトウカイテイオーが麻真の後ろを追うように走る。麻真に捕まった日の翌日から、彼女はいつの間にか二人の練習に無理矢理付き纏っていた。
そんなトウカイテイオーに何度も麻真が邪魔だと言っても言うことを聞かずに付き纏うことに心底呆れて、一周回って麻真は彼女を放置していた。
麻真のその対応を良いことだと思ったのか、トウカイテイオーは彼の意図も気にせず今日も二人の練習に無理矢理参加していた。
「しつこいな、ガキンチョ。ならないっての」
一向に諦める様子のないトウカイテイオーに、麻真は振り返ることなく何度目か分からなくなった答えを告げる。
「ボクはガキンチョじゃなくてトウカイテイオー! もう! 別に良いじゃん! 一人くらい増えてもっ!」
しかしトウカイテイオーも諦めが悪かった。淡白に答える麻真に、彼女は不服そうに頬を膨らませていた。
「俺は複数人見れる有能なトレーナーじゃないからな。一人で一杯なんだ。すまんな、ガキンチョ」
「だからトウカイテイオー! あと嘘はダメだからね!」
走りながらトウカイテイオーが麻真に不満そうな顔を向ける。
しかし麻真はそんなトウカイテイオーの顔を見ることもなく、前を走るメジロマックイーンを見つめていた。
「カイチョー達の担当してた時、ぜったいに一人以上担当してたの知ってるんだよ!」
麻真は一瞬トウカイテイオーが言っている“カイチョー”が誰なのかと目を細めるが、すぐに理解した。
カイチョー。それは生徒会長のことを指しているのだろう。トレセン学園の生徒会長はシンボリルドルフだ。
つまりトウカイテイオーは、シンボリルドルフから自分のことを何かを聞いたのだろうか?
シンボリルドルフから何を聞いたかは知らないが、別に知られたところで麻真はトウカイテイオーのトレーナーになるつもりは微塵もなかった。
元々、麻真はメジロマックイーンのトレーナーになることすら断っていた。しかしトレセン学園の理事長である秋川やよいに強制されて、仕方なくトレーナー業に戻っただけなのだ。
それに加えて、もう一人担当を増やすことなど願い下げであった。よって麻真はどれほど懇願されようと担当を増やすという選択を選ぶつもりはなかった。
「お前が何を言おうが俺はやらない。いい加減諦めて他のトレーナーを探せ」
「嫌だっ! 絶対に麻真さんにトレーナーになってもらうまで諦めない!」
だがトウカイテイオーも麻真と同じく意思を曲げるつもりがないらしい。何度目か忘れるほどの同じやりとりをして、麻真は頭を抱えたくなった。
ここまでしつこいウマ娘は初めてだった。麻真がトレセン学園に戻ってきてから、自分のトレーナーになってほしいと直談判に来るウマ娘は多くいたが大抵は断るとすぐに諦めていた。
しかしトウカイテイオーは麻真が見てきた中で、随一でしつこいウマ娘だった。
邪険に扱っても、何度も断られても、麻真に飽きずに付き纏ってくる。トウカイテイオーのメンタルが図太いのか、それともただの子供なのか疑問に思ってしまう。おそらくは後者だと麻真は呆れながら思いたくなる。
「マックイーン。第四コーナーを曲がったら最後の直線だ。直線に入る前で身体を更に前に倒せ、絶対に姿勢を上げるなよ。前傾姿勢を維持しながらバランスを崩さずに踏み込みを深く、身体の軸を前にしたまま全力で走ってみろ」
「――はいっ!」
麻真の指示を受けて、メジロマックイーンが最後の直線に入り、前傾姿勢を維持したまま加速を始める。
麻真の思っていた通りのフォームを維持したメジロマックイーンが加速していくのを見て、走りながら彼がストップウォッチを確認していた。
悪くない加速だった。身体の軸もしっかりと前で維持している。だが筋力不足なのか、もう少し加速力が欲しいと思ってしまう。
しかしまだメジロマックイーンのクラスがジュニア級を考えれば上々の加速だろう。
加速したメジロマックイーンがそのまま一周を走り終えたタイミングで麻真は緩やかに減速ながら立ち止まり、ストップウォッチの時計を止めていた。
「……良い感じだ」
そしてストップウォッチのタイムを見て、麻真は小さく笑っていた。
一周を終えたメジロマックイーンが減速しながらUターンして、立ち止まっていた麻真の元へと戻ってくる。
「麻真さん、どうでした? 今回のタイムは?」
「自分で見てみろ。受け取れ」
麻真がそう言ってストップウォッチを放り投げる。
綺麗な放物線を描いて、投げられたストップウォッチがメジロマックイーンの元へ向かっていた。
「えっ、ちょっと――!」
唐突にストップウォッチが放り投げられて、メジロマックイーンは慌ててそれを両手で咄嗟に受け取っていた。
なんとか受け取れたことに安堵した表情を見えるメジロマックイーンだったが、すぐに彼女は麻真に向けて目を鋭くさせていた。
「麻真さん! 行儀が悪いですわ! 物を投げて渡さないでください!」
「はいはい。良いからタイム見てみろって」
「はい、は一回ですわ! まったく……!」
麻真の行儀の悪さに、メジロマックイーンが呆れる。
しかしそんな彼の素行に慣れてしまいつつある自分にも呆れそうになりながら、メジロマックイーンは受け取ったストップウォッチに視線を向けた。
そして目に映ったストップウォッチのタイムを見て、メジロマックイーンは目を大きくしていた。心なしか、無意識にストップウォッチを持っていた手に力が込められていた。
タイムを確認したメジロマックイーンの反応を見て、麻真は微笑むと彼女の頭を雑に撫でていた。
「四分、クリアだ。良くやった……これで次のステップに行けるぞ」
ストップウォッチに記されたタイムは、三分五十八秒。第二目標だった四分をメジロマックイーンは達成していた。
麻真に目標を達成できたことを褒められて、メジロマックイーンの頬が僅かに緩む。
しかしハッと気づき、メジロマックイーンは緩めていた表情をすぐに凛とした表情を戻していた。
「私ならばこれくらい容易いことですわ! というか頭を乱暴に触らないでくださいませ! 髪が乱れますわ!」
「はいはい、そりゃ悪かった」
メジロマックイーンに指摘されて、麻真が大袈裟に彼女の頭から手を離す。
麻真の手が離れて、彼が大袈裟な態度を見せたことにメジロマックイーンがむっと眉を寄せていた。
「別に乱暴にしなければ、触るなとは言いませんわ。もっと優しく触るのであれば私は何も言いませんのよ」
「はいよ、次から気をつける」
「本当に分かってるのかしら、この人は……」
軽口で返事をする麻真に、メジロマックイーンが肩を落とす。
しかしとりあえずは目標を達成できた。そのことにメジロマックイーンは良しと思い、麻真の見慣れた態度を特に指摘するのを放棄していた。
「ところで四分をクリアしましたから、もう終わりですわよね?」
そしてメジロマックイーンが麻真にそう訊ねる。麻真からの課題だった四分を達成した。それで彼の課題は全て終わったと思って。
麻真はメジロマックイーンに微笑むと、静かに現実を突き付けていた。
「まだ終わりじゃないからな」
「……まだ、あるのですか?」
麻真の言葉に、メジロマックイーンが崩れ落ちそうになる。ようやくクリアした四分より先があることに、目眩がしそうになる。
麻真はメジロマックイーンがげんなりした表情を見せているのを見ても、小さく笑いながら告げた。
「最後の目標、タイムを三分三十秒。残り五日で頑張ってみろ」
「――三分三十秒⁉︎」
「三分にしてないだけありがたいと思え」
メジロマックイーンが麻真から告げられた最終目標に顔を引き攣らせる。
三分三十秒。どうにかクリアした四分から更に三十秒縮める。これがどれほど大変なことなのかをメジロマックイーンは理解していた。
残り五日。まだ終わらない走る練習に、メジロマックイーンが頭を抱えたくなる。
しかし麻真がそう言った以上、彼は絶対に止めることはないのを知っていたのでメジロマックイーンは渋々ながら頷いていた。
「分かりましたわ……やります」
「それで良い。とりあえず、インターバル入れておけ」
「……はい」
肩を落としながら、メジロマックイーンがコースの隅に歩いていく。
そしてコースの端まで歩くと、メジロマックイーンはその場に座ってゆったりと身体の柔軟をしていた。
「おい、マックイーン。これ忘れてるぞ」
そんなメジロマックイーンに、麻真が鞄から取り出したペットボトルと棒状の菓子を渡す。
いつものやり取りだった。メジロマックイーンは麻真からペットボトルと棒状の菓子を受け取るが――それを見るなり顔を強張らせていた。
「……食べないと駄目ですか?」
「食べないとこれで練習は終わりだ」
「くっ……食べますわ」
麻真が用意している菓子の摂取カロリーを知ってから、メジロマックイーンは彼から菓子を渡される度に無意味な抵抗をしていた。
無駄と分かっていても、抵抗したくなる。それは女の子には絶望的な摂取カロリーを知ったからこその抵抗だった。
渋々、メジロマックイーンは渡された菓子とペットボトルの飲料を口にする。それを見て、麻真も彼女と一緒の飲料と菓子を口にしていた。
「ねぇねぇ! 麻真さん! それボクにもちょうだい!」
「お前、まだ居たのかよ。いい加減帰れって」
「嫌っ! 麻真さんがボクのトレーナーになってくれるまで諦めないからね! 別にマックイーンの練習の邪魔もしてないから良いでしょ! あとボクにもお菓子ちょうだい!」
麻真の周りでぴょんぴょんとトウカイテイオーが跳ねる。
確かにトウカイテイオーは、メジロマックイーンの走る邪魔はしていなかった。メジロマックイーンの進行を妨害するようなこともせず、彼女が走っていた時は必ず一番後方を走っていた。
トウカイテイオーの言う通り、メジロマックイーンの邪魔はしていない。だが、それは間違いなく麻真の邪魔になっていた。
先頭を走るメジロマックイーンの後ろを走りながら指摘や走るフォームを確認していた麻真に、トウカイテイオーは常に彼に話し掛けていた。
自分のトレーナーになってくれと何度もしつこく懇願し、麻真の邪魔をトウカイテイオーはしていた。
そして走る時以外にも、メジロマックイーンに練習についての話をしていないタイミングを見計って、トウカイテイオーは麻真に付き纏っていた。
それこそ何故人間なのにウマ娘と同じように走れるのかや、シンボリルドルフとどんな練習をしてきたのかなど、色々な質問を怒涛のようにトウカイテイオーは麻真にしていた。
だがそんなトウカイテイオーに、麻真はまともに取り合うつもりもなく適当にあしらっていたのだが――それはある意味、悪手だった。
「だから俺はお前のトレーナーになるつもりはない。だからもう帰れ。この菓子やるから、大人しく寮に帰って食ってろ」
「お菓子はもらうけど、帰らないからね! ボクは麻真さんにトレーナーになってもらうまで諦めないもん!」
麻真から受け取った菓子をその場で頬張りながら、トウカイテイオーが誇らしげに胸を張る。
諦めの悪いトウカイテイオーに、麻真は遂に頭に手を添えて呆れてていた。
「もん! じゃねぇって! 俺はお前のトレーナーにならないからな!」
「ならなってもらうまで諦めないもん! カイチョーみたいな最強のウマ娘になって無敗の三冠ウマ娘になるのがボクの目標なんだから!」
「ならルドルフが所属してるチームに入れば良いだろ!」
「カイチョーが三冠ウマ娘になった時にトレーナーだったの麻真さんでしょ? ならボクも麻真さんに担当になってほしい!」
「ああ言えばこう言う……! いい加減腹立ってきた……!」
麻真も数日付き纏われて理解したことだが、トウカイテイオーは大人びたメジロマックイーンと違い、見た目通りの“子供”だった。
疑問を疑問のままにしてしまうと、トウカイテイオーは何度も同じ質問をしてくる。そして答えなければタダをこねる。まさしく子供という言葉を体現したようなウマ娘だった。
麻真もトウカイテイオーのようなタイプを相手にしたことが殆どなかった為、特にその点を考えていなかったのが運の尽きだった。
雑な対応をした故に、麻真の予想以上にトウカイテイオーは彼にしつこく付き纏っていた。
学園の先生でもなく、トレーナーという身分であり自分の担当ウマ娘でもない以上、担当以外のウマ娘を叱ることも憚られ、麻真は子供なトウカイテイオーの対応に困るのもある意味では必然とも言えた。
「マックイーン、お前もコイツになんか言ってやれ」
そして思わず、麻真はメジロマックイーンに助け舟を求めていた。
トウカイテイオーと麻真のやり取りを我関せずと見ていたメジロマックイーンが話を振られて呆気に取られる。
思わず麻真とトウカイテイオーの顔を交互に見て、メジロマックイーンは眉を寄せて考える素振りを見せていた。
しかしメジロマックイーンは僅かに目を伏せると、彼女は麻真に首を横に振っていた。
「私からは何も言えませんわ。テイオーの件は麻真さんがなんとかしてくださいな」
「……勘弁してくれよ」
メジロマックイーンから見放されたことに、麻真が肩を落とす。
しかしメジロマックイーンは、決して麻真を見放したつもりはなかった。むしろトウカイテイオーの思っていることを理解しているが故に、彼女は何も言えなかったと言うのが正しかった。
メジロマックイーンは、本当に運良く北野麻真を自分のトレーナーにできた。理事長に紹介され、よく分からないままに彼が自分のトレーナーになっただけなのだ。
麻真の走りに魅入られ、彼に鍛えてほしいと思っていたからこそメジロマックイーンは彼が自分のトレーナーになって良かったと心の底から思っている。
だからこそ、トウカイテイオーの気持ちも理解できなくもなかった。シンボリルドルフを鍛えたトレーナーである麻真に、トウカイテイオーが興味関心が出ないわけがない。
トウカイテイオーのことを少なからず理解しているからこそ、彼女が麻真に付き纏うのも理解できる。メジロマックイーンが仮に逆の立場なら自分も同じことをすると自信を持って言える。
そしてメジロマックイーンがトウカイテイオーが麻真に付き纏うことに文句を言わない理由は、もうひとつある。
それはトウカイテイオーが麻真がトレセン学園に来てからメジロマックイーンに彼を譲ってくれなどという戯言を一切言わないことだった。そして彼女に、自分もトレーナーにしてもらうように協力してほしいと懇願することもない。強いて訊かれることがあるとするならば、練習はどんなことをしているのかや麻真の人柄について訊く程度だ。
おそらく、今までメジロマックイーンの元に麻真目当てで尋ねて来たどのウマ娘達よりも、トウカイテイオーは麻真にトレーナーになってほしいと言う気持ちは強い。
そんなトウカイテイオーの気持ちを察したからこそ、メジロマックイーンは昨日に一度だけ彼女に訊いたことがあった。
『テイオーは私に……麻真さんを譲ってくれとは言いませんのね?』
そう訊いた時――トウカイテイオーが平然とした顔で答えた言葉に、メジロマックイーンには呆気に取られていた。
『だって麻真さんはマックイーンのトレーナーでしょ? あんな凄い人をトレーナーにできたマックイーンはすごいと思うよ? だからボクに頂戴なんて言うわけないじゃん?』
『でもあの人は、私以外の担当を持つ気はありませんわよ? それでもよろしくて?』
そしてそう訊いたメジロマックイーンにトウカイテイオーが答えた言葉は、彼女には印象的だった。
『知ってるよ。だから……ボクはあの人にボクを認めてもらって、ボクのトレーナーになってもらうまで諦めない! ボク、カイチョーみたいな強いウマ娘になりたいから!』
そう言われた日から、メジロマックイーンは不思議とトウカイテイオーが自分と麻真の練習に付き纏うことに何も思わなくなっていた。
トウカイテイオーが練習に混ざろうとしていた時は、メジロマックイーンも彼女のことを邪魔だと思っていたことも勿論あった。
しかしトウカイテイオーの気持ちを知って、メジロマックイーンは彼女を自分と重ねていた。
まるで麻真と初めて会った時の自分を見ているような気分だった。麻真に付き纏うトウカイテイオーを見ていると、自分もこんな感じだったのだとメジロマックイーンはつい苦笑してしまう。
勿論、メジロマックイーンは麻真に担当を増やしてほしいとは思っていない。麻真と練習する時間を他のウマ娘に取られるのは、メジロマックイーンの本意ではない。
だが譲ってくれと言ってくる他のウマ娘と違い、人一倍に自分と同じようにトレーナーになってほしいと麻真本人に懇願するトウカイテイオーをメジロマックイーンは邪険に扱う気にもなれなかった。
その為、メジロマックイーンが行き着いた答えは静観することだった。
麻真がトウカイテイオーのことを諦めさせるのなら良し。もし仮に、麻真が彼女を担当ウマ娘にするようなことがあれば――その時は彼の頭をかち割れば良いと心の中で結論を出すことにしていた。
「ねぇ! マックイーンが休んでる時にボクの走り方も見てよ!」
「誰が見るか! 絶対に見ないからな!」
「えぇぇぇ! 良いじゃん! ちょっとくらい!」
「仮に見たらお前が図に乗るのが目に見えて分かるっての!」
目の前で麻真とトウカイテイオーが言い合いをしているのを見ながら、メジロマックイーンが菓子をポリポリと囓る。
自分の練習を邪魔しなければ、今のところは放っておこう。メジロマックイーンはそう決めると、激しい言い合いをしている二人を気に留めることはなかった。
そんなことよりも、次の目標である二千四百メートルを三分三十秒で走れる為にどうすれば良いか考えなければならない。
ポリポリと菓子を食べ進めながら、メジロマックイーンは言い争う二人を他所に思考を巡らせる。
麻真に指摘された身体の動かし方や、コーナーの曲がり方などを頭の中で反芻しながらメジロマックイーンは頭の中でイメージを作り上げる。
「ボクもカイチョーみたいに無敗の三冠ウマ娘になりたいの!」
「勝手になってろ! いい加減にしないと頭に拳骨叩き込むぞ⁉︎」
「やられたらやり返すからね! ウマ娘の力舐めたらダメだよ?」
騒ぐ二人を他所に、メジロマックイーンは特に気にせずイメージトレーニングを続けていた。
そしてメジロマックイーンがインターバルを終えて、彼女が麻真を呼ぶまで二人は飽きもせずに同じようなやり取りを繰り返していた。
読了、お疲れ様です。
結構遅れてしまいました。申し訳ないです。
書くのがスムーズにできなくなってきました。
キャラが増えると動かすのが難しくなってきますね。
あとはジェミニ杯のせいです。ごめんなさい。
新しく追加されたセイウンスカイが可愛いですよね。今作で出る予定ありませんが……
でもやっぱり一番可愛いのはマックイーンなんですよ(持ってない)