走るその先に、見える世界 作:ひさっち
1.引き継いだ名前
五月末。最後の週末、日曜日。
毎月、毎週の週末になると全国の各地にあるレース会場では、ウマ娘達によるURA公式レースが行われる。
名誉ある重賞レースなどを含め、上から下まで様々なレースを見るために、レース場にはこぞって大勢の人が集まるのは今の世間では当たり前の光景となっている。
そんな日の日曜日。麻真とメジロマックイーンの二人も理由は一般人のようなレース観戦と違うが、彼等もレース場に向かっていた。
今日はメジロマックイーンのデビュー戦。彼女のメイクデビュー戦が行われる日だった。
二人の向かった場所は、阪神レース場。兵庫県にあるレース場であることから、麻真達はトレセン学園のある東京都から大きな移動が必要とする。
朝からトレセン学園から出発して移動を始め、そしてレース場が一般開場する前に会場入りする為、麻真とメジロマックイーンは比較的早い行動を行っていた。
「昨日はほぼ休みにしていたのに、随分と眠そうだな」
そして阪神レース場内の関係者区間の控え室にて、椅子で眠そうに小さな欠伸をしながら瞼を重たくしているメジロマックイーンに、麻真は苦笑していた。
いつものトレセン学園の制服とは違い、既にいつでもレースに出られるようにと運動着姿へ着替えていたメジロマックイーンは、麻真に指摘されると驚いたように目を大きくした。
「そんなに私……眠そうにしていましたか?」
阪神レース場に向かう為にいつもより早起きをすれば眠たくもなるだろう。麻真はそう思いながら、眠たそうにするメジロマックイーンを見て肩を竦めた。
二日前のトウカイテイオーとのレース後に麻真がしっかりとメジロマックイーンの身体のメンテナンスをしたお陰で、その翌日は彼女が全身の筋肉痛を起こすだけで留まった。
その筋肉痛も一日身体を休ませれば治るようにメジロマックイーンの身体を管理していたので、現時点で彼女の筋肉に疲労はないと麻真は判断している。
可能性としてメジロマックイーンが昨日の休みの日に隠れて練習していることも考えられたが、麻真が知る限り彼女が練習を一切していないことは既に確認済みだった。
加えて、今日の朝の時点でメジロマックイーンが身体の不調を訴えなかったことから、麻真は彼女の身体に異常がないと判断している。
最初は麻真もメジロマックイーンの身体の疲れが抜けていないのかと判断したが、彼女の身体の動きに筋肉痛特有のぎこちなさもなく、疲れた様子も見られないことから“ただの寝不足”と察していた。
「あぁ、まぁいつもよりもかなり早く起きたんだから仕方ないだろうな」
麻真に指摘されて、自分が眠たそうにしている自覚がなかったのかメジロマックイーンが不満気に口を尖らせながらも、無意識に目を優しく擦る。
そして自分が無意識に目を擦っていたことを自覚すると、メジロマックイーンは思わず顔を顰めていた。
「……今日、私の出場するレースが一番最初であることが腹立たしいですわ」
「メイクデビュー戦は、大体最初の方にやるからな」
「それでもこんなに早く会場に来る必要、ありました?」
「今日行われるレース数と、それに出場するウマ娘の総数。全員が使える控え室がこの会場にあると思うなよ?」
「そんなにこの会場、狭くないと思いますが?」
「……百個を超える部屋を用意する意味ないだろ?」
不満をぼやくメジロマックイーンに、麻真が今日の開催レース一覧を思い出しながら説明することにした。。
各地のレース場のレース開催日には、その会場では原則として十二レースが開催される。
つまり会場には、最低でも開催されるレース分のウマ娘達が集まることになる。
その日、レースに出場するウマ娘達は会場にある控え室の総数の関係上、レース前とレース後の決められた時間しか控え室に滞在することができない。
それに伴い、各レースに出場するウマ娘達は指定された時間にレース場に到着し、準備、そしてレース後に控え室から退室するのが基本的な流れとなる。
ただ、例外として各レースの上位三名のウマ娘達は、それには含まれずに控え室を使用することが許されている。それはレース後にレース会場で行われる“とある行事”に参加する義務が発生することから該当のウマ娘は会場に滞在しなくてはないからである。
そのことからレース数分の各レース上位三名分の控え室を必要として、その分の部屋が使えなくなることを考えれば、必然的に使える部屋の数も限られてくる。
「大抵、どこの会場も三レース分くらいの控え室しかないだろうさ。負けた奴は、すぐに帰るか一般席でレース観戦。勝った奴は、そのまま控え室に夜まで居られる。簡単な話だ」
「またそれですか……」
麻真の話に、メジロマックイーンが辟易したように肩を落とした。
麻真と出会ってから、時折彼がメジロマックイーンに話す話である。勝てば様々な特典が得られるのが、彼女のいる世界である。
しかし負ければ、何も得られない。そういう世界だと、麻真の言いたいことはメジロマックイーンも十分に理解していた。
「レースの数だけ、そういうことも多いって話だ。理解くらいはしておけ」
「……そうですわね。そう言えば、私も今日のレース一覧を見ましたが、色々とレースが行われますものね」
麻真に言われて、メジロマックイーンもトレセン学園から阪神レース場に向かう途中の新幹線の中で確認していたレース一覧を思い出していた。
メイクデビュー戦から始まり、未勝利戦、一勝から三勝クラス戦、オープン特別などが本日行われるレース予定である。
「さっきの話になるが、お前も学園の授業や元々の知識では知ってるだろう。レースにも色々ある」
そう言って、麻真はメジロマックイーンにとある話を始めた。
基本的にデビューするウマ娘はメイクデビュー戦を始めとして、そこから出場するレースが分岐する。
メイクデビュー戦を勝ったウマ娘は、そこから一勝クラスに上がる。そのまま勝ち進めば例外を除き、二勝クラスと三勝クラスを経由してオープン特別戦に進み、そして晴れて重賞レースへと進んでいく。
麻真の話を聞いて、メジロマックイーンは分かってはいたが彼の話で“そのこと”を再確認すると気を引き締めるように深い深呼吸をしていた。
「勝たなければ……前に進めない。そういう世界なんですものね、ここは」
「そうだ。負け続ければ、永遠に未勝利クラスで終わる。そういうウマ娘も実際に多くいる」
現実として、本当にそんなウマ娘は存在する。メイクデビュー戦から一度も勝つことができず、ずっと未勝利クラスに居続け、そして夢を諦めるウマ娘がいる。
誰もが映えある道を進めるわけではない。強いウマ娘が前に進み、弱いウマ娘がその場で足踏みをする。そんな弱肉強食の世界が『トゥインクル・シリーズ』である。
綺麗な世界と世間から思われることもあるが、実のところ完全な実力主義のような世界がメジロマックイーンのいる場所であり、これから彼女が進む険しい道なのである。
「勝たなければ……前に進めない」
そして再度、メジロマックイーンが再確認するように呟く。膝の上で両手をぐっと力強く握り、引き攣った表情を見せる。
先程の話によりメジロマックイーンの態度を見て、彼女の緊張感が増したことを察した麻真は溜息混じりに肩を落とした。
「そんなに緊張するなっての。まだレースまで時間があるんだぞ? 今から緊張してたら精神が擦り切れるからやめとけ」
「……私の初めて出場する公式レースですのよ? 緊張しない方がどうかしてますわ」
メジロの名に誇りを持ち、天皇賞の栄誉たる盾を独占することを志して最強のウマ娘を目指すと言えど、やはりメジロマックイーンも今日デビュー戦を行うジュニア級。彼女もまだまだルーキーなことに変わりないことを理解しながら、麻真が思わず口角を僅かに上げる。
誰もが通る道である。初めての公式戦、自信があれど緊張するのも当然の話だった。
そう思いながら、麻真は緊張しているメジロマックイーンに向けてわざとらしく小バカにしたような表情を作った。
「また随分と弱気だな? あれだけ練習しておいて、自分が負けるとでも思ってるのか?」
明らかに声色からバカにされている。麻真の言葉を聞いたメジロマックイーンは目を細めて、彼をジッと見つめていた。
「そんなことはありません。私はメジロのウマ娘です。最強のウマ娘を目指すのに最初のメイクデビュー戦で負けるなんてあり得ませんわ……それに……」
「……それに?」
珍しく言い淀んだメジロマックイーンに、麻真が僅かに首を傾ける。
そんな麻真に、メジロマックイーンは気恥ずかしそうに上目遣いで彼を一瞥していた。
「私は、あなたに育ててもらっているんです。あなたに導かれた私の走りが間違いな訳がありません。まして、それを敗北で汚すことなんて……この私が許せませんわ」
二人が出会って一ケ月程度しか経っていない。しかしメジロマックイーンは麻真と出会って、見違えるように変われた自信があった。
確実に以前の自分より強くなっている。その自覚をメジロマックイーンは確かだと確信している。そしてその走りに導いてくれた北野麻真というトレーナーに報いる為に、自分ができることなどひとつしかないと。
「私のこの走りが決して間違いではないことを証明するために、誰よりも速くゴールへと辿り着く。それが私のできる、私のトレーナーであるあなたへの恩返しとなるんですから」
勝つこと。それがレースに出場するウマ娘ができる自身のトレーナーへの感謝の形となると、メジロマックイーンは思っていた。
結果を残す。過程など大切なことも多いことをメジロマックイーンも理解しているが、トレーナーの実績となるのはレース結果だということも理解していたからこその考えだった。
「……気張り過ぎだ。そこまで気を張るなって」
メジロマックイーンの思いを聞いて、麻真が苦笑する。
思っていた以上にメジロマックイーンは自分を買っているらしいと、麻真が理解した瞬間だった。
それはトレーナーとしては確かな信頼として受け取れるが、麻真の場合は少し違った。
その思いが本人の予期せぬ重荷になる可能性があることを考えると、麻真は少し面倒なことになると思っていた。
過剰な思いは、様々な方に向く。良い方にも、悪い方にも。
結局、レースに勝つのはトレーナーではなく、ウマ娘本人なのである。極端な話、トレーナーができるのはウマ娘の本来の力を引き出すことだけでしかない。
ウマ娘とトレーナーは一蓮托生。その言葉の意味をメジロマックイーンが理解するまで、彼女のその強い思いによって悪い結果が起きないように見ている必要があると麻真は内心で思っていた。
「いいえ、これはあなたに育てて頂いている私なりのケジメですわ。こればかりは譲れません」
しかしそう言って、メジロマックイーンが自分の胸の前で力強く拳を握り締める。
一蓮托生。その言葉の本当の意味をメジロマックイーンが理解するまでは、道のりが長そうだ。麻真は彼女を見ながら、小さな溜息を漏らした。
メジロマックイーンがどれだけ気張っても、関係ない。麻真からすれば彼女のレースの結果など既に“分かり切っている”のだから。
「安心しろ。まだ俺も他のウマ娘のパドックを見てないが、お前は負けない。気張らず、自分の走りをすれば勝てる」
穏やかな口調だったが麻真のその言葉はメジロマックイーンには、とても頼もしく聞こえた。
レースの勝敗において勝ち負けを濁すことの多い麻真が、珍しく勝つことを断言したことにメジロマックイーンは小さな笑みを浮かべた。
「勿論です。必ずメジロ家の名に恥じぬ結果を出して、麻真さんが誇れる結果を出して差し上げますわ!」
「だからそう気張るなって……」
相変わらず何度言っても理解していないメジロマックイーンに、麻真は呆れたように溜息を吐いていた。
◆
レース場ではレースが開催される前、必ず会場内で“パドック”というものが行われる。
該当のレース前に、そのレースに出場するウマ娘の調子や状態を観客に見せる為に設けられた時間が、パドックと呼ばれている。
どんなレースでも、観客は応援したいウマ娘を見つけようとパドックには多くの人が集まる。特に重賞レースにもなれば名のあるウマ娘を近くで見たいと思う人間も多く、レースによってはかなりの人が集まることもある。
しかし麻真が足を運んだパドック会場では、行われるのがメイクデビュー戦ということもあり、集まった人はそこまで多くはなかった。
麻真が歩きながら周りを見ると、純粋な観客と思われる人間が七割程度。他はタブレット端末や手帳などを開いている人間が三割程度だった。おそらく後者はトレーナー業の人間や、記者関連の人間だろうと麻真は予想した。
「あ! 麻真さん! こっちこっち!」
そんな麻真がパドックをどこで見るかと会場内を見渡している時、ふと彼は声を掛けられた。
呼ばれた方に麻真が向き、そして声の主を見ると彼は怪訝そうに眉を寄せた。
思わず、行くのが面倒だと麻真は思った。しかしその人物が陣取っている位置がパドックを見やすい場所だと察して、彼は渋々ながら呼ばれた声の主の元へと歩いていた。
そして声の主の元に行くと、彼はその人物を見つめながら眉を寄せていた。
「なんでお前がいるんだよ? ガキンチョ?」
「だからガキンチョじゃなくてトウカイテイオー!」
トレセン学園の制服を着たトウカイテイオーが麻真の前に立っていた。
「麻真さん、やはりこちらに来たんだな?」
そして麻真がトウカイテイオーに会ったと同時に、両手に自動販売機で買ったのか缶の飲料を持ったシンボリルドルフが麻真に声を掛けていた。
予想していなかったウマ娘が目の前に現れたことに麻真が更に眉間の皺を深くした瞬間だった。
「……ルドルフ? なんでお前もここにいるんだよ? 特に今日は重賞レースはないんだぞ?」
一般観客以外に、ウマ娘やトレーナーなどがレース会場に足を運ぶ理由は様々ある。
主な理由は他の好敵手となるウマ娘のレースを見に行くこと。または警戒しているウマ娘の視察などである。
シンボリルドルフのような有名なウマ娘で、更にトレセン学園の運営に携わるウマ娘ならば麻真が今いる重賞レースの開催されない日にレース場にいることはない筈だった。
麻真の言葉の意味を察したのかシンボリルドルフは小さく笑みを浮かべて、戯けるように肩を竦めていた。
「麻真さんが育てているメジロマックイーンの初レースなんだ。是非とも私も見させて欲しいと思っただけだ」
シンボリルドルフの答えに、麻真は内心で呆れていた。そんなことの為にわざわざ東京都から兵庫県まで足を運んだのかと。
「……このガキンチョは?」
「私に行きたいと懇願したから連れてきただけだ。是非ともメジロマックイーンのレースを見たいとな」
「カイチョー! それ言うのやめてよ! それと麻真さん! ボクの名前はガキンチョじゃなくてトウカイテイオー!」
シンボリルドルフにレース場に来た理由を告げられて恥ずかしそうにトウカイテイオーが尻尾を激しく振るう。
二人のレース場に赴いた理由を聞いて、麻真は思わず溜息を吐いていた。
「別にメイクデビュー戦くらい見に来る必要ないだろ? コレと言って面白くもないぞ?」
「それは麻真さん目線の話だ。私からすれば、今日のメジロマックイーンのレースは面白いモノになると思ってるから安心してほしいところだ」
「何を安心するんだよ……」
ここまで来ている以上、帰れなど言えるわけもなく麻真は二人がいることをこれ以上指摘する気力も起きなかった。
そこでふと、麻真がトウカイテイオーを一瞥する。平然とした立ち振る舞いをしているが、彼は思わず気になって彼女に声を掛けることにした。
「ところでガキンチョ。お前、筋肉痛治ったのか?」
「えっ……? 筋肉痛?」
「太腿とふくらはぎ、痛いんじゃないのか?」
麻真にそう言われると、トウカイテイオーは心底驚いた顔を見せていた。
「……なんでボクが筋肉痛起きてるって分かったの?」
「あれだけ全力で走れば嫌でも筋肉痛にもなる。それにちゃんとしたケアをしないと後二、三日は治らないからな。どうせ、適当な柔軟しかしてないんだろ?」
図星だったのだろう。トウカイテイオーが苦虫を噛み潰したように顔を顰めていた。
トウカイテイオーのそんな表情を見て、麻真はバカにしたように失笑を向けた。
「ちゃんと身体のケアをできないんじゃ、まだまだマックイーンに勝つのは遠そうだ」
「むっ……! ちゃんとやるもん!」
「なら今日帰ったら柔軟とマッサージを丁寧に三十分。風呂には三十八度くらいのお湯で二十分入れ。そうすれば筋肉痛が今よりもかなりマシになるだろうさ」
細かい麻真の指示の内容に、トウカイテイオーが頬を引き攣らせた。
しかし麻真がやれと言った時点で、それが正しいことと察したトウカイテイオーは渋々ながら頷いていた。
「……やります」
「別に無理にやれとは言わない。やるならご自由に、だ」
あくまで自分はトウカイテイオーのトレーナーではない。麻真のその言葉の意味を察したトウカイテイオーは不満そうに頬を膨らませた。
「ぜったいにトレーナーになってもらうまで諦めない……!」
「ご自由に、マックイーンに勝てたら考えてやる」
ジッと睨んでくるトウカイテイオーを横目に麻真がけらけらと笑う。
二人のやりとりを見て、シンボリルドルフは楽しげに笑みを見せていた。
「なら私もメジロマックイーンに勝てたなら、麻真さんは私のトレーナーになってくれるのかな?」
「……冗談だろ?」
「ふふっ、冗談さ……今は」
「……勘弁してくれ」
頭を抱える麻真を見て、楽しそうにシンボリルドルフが笑う。
積もり積もった昔年の仕返しはとりあえずはこれくらいにしようと、シンボリルドルフは困惑する麻真を見ながらひとまず満足していた。
『それでは第一レースのパドックを行います』
そんな時、ふとパドック会場内からアナウンスの声が響いた。
会場内にいる全員が、その声と共に視線をひとつの場所へと向ける。
パドック会場の中心に作られた演壇のような場所。そこに全員の目が向いていた。
先程まで話していた麻真達も、アナウンスが流れると自然と三人の視線もその場所へと向けられていた。
『十番人気、一番リュウセンチュリー』
「ねぇねぇ! マックイーンは何番なの?」
「六番だ」
トウカイテイオーの質問に淡白に答えながら、麻真はパドックから視線を動かさずに見つめていた。
麻真の見つめていた先にあるパドックのステージに、一番のゼッケンを付けたウマ娘が現れる。
そしてアナウンスが進む毎に、入れ替わるようにウマ娘達が姿を見せていた。
それぞれ現れるウマ娘達を、麻真が真剣な目で見つめる。そして五番目まで終わった頃にシンボリルドルフが彼に声を掛けていた。
「麻真さんから見て、今のところはどうだろうか?」
麻真の集中が緩むタイミングを見計らったのだろう。次にメジロマックイーンが出てくるところで、麻真はシンボリルドルフの質問に答えていた。
「……多分、大丈夫だろう。メイクデビュー戦ってこともあるが今のところは全員、明らかにトレーニング不足。後半でバテる」
「え……分かるの?」
トウカイテイオーが驚いて麻真を見つめる。
麻真は平然とした表情でトウカイテイオーに眉を寄せた。
「足見たら分かるだろ? 明らかな筋力不足ってことくらい?」
「いや、分からないよ?」
「ははっ、テイオーにも分かる日が来るさ」
「カイチョーも分かるの?」
「ああ、昔に私も麻真さんに色々と教えてもらったからな。概ねは分かる。私も今のところは麻真さんも同じ感想と言ったところだ」
麻真と同じように“分かる”シンボリルドルフに、トウカイテイオーが羨ましそうに彼女を見つめる。
そしてすぐにトウカイテイオーが麻真に視線を向けると、彼女は麻真に懇願していた。
「ねぇ! 今度、ボクにも教えてよ!」
「面倒。マックイーンに勝てたら考えてやる」
「むぅ……! またそれっ⁉︎」
トウカイテイオーのことで、何かと面倒なことがあればメジロマックイーンに勝てたら考えるという言葉を使えば解決することを麻真は覚えていた。
とりあえず、それを言えばトウカイテイオーが不満そうにしながらも納得しているから良しとしよう。麻真はそう思いながら、内心でほくそ笑んでいた。
『続きまして二番人気、六番メジロマックイーン』
そして遂に、メジロマックイーンの名前がアナウンスから呼ばれていた。
「えっ? 二番人気?」
「みたいだな。多分、他に注目されているウマ娘でもいたんだろう」
トウカイテイオーの声に適当に反応しながら、麻真がパドックから出てくるメジロマックイーンに視線を向ける。
緊張しているように見えるが堂々とした歩き方でステージに立ち、観客にメジロマックイーンが手を振るう。
『デビュー戦とは思えない素晴らしい仕上がりですね。今回は二番人気となっていますが、注目のウマ娘です』
『どんなレースをするのか非常に楽しみです』
アナウンスからメジロマックイーンの評価が聞こえる。
パドックに出てくるウマ娘に会場内から評価等がアナウンスで流され、そしてそれを聞きながら実際にそのウマ娘の状態を見るのが一般的な楽しみ方である。
『彼女の所属チーム名は……おお、これは』
『……どうされましたか?』
ふと、流れるアナウンスの声が困惑の色を見せていた。
パドックのステージに立っていたメジロマックイーンも、平然を装っていたが予想とは違うアナウンスに内心では困惑していた。
『このチーム名を私はとても久しぶりに見ました。これは注目です。彼女の所属するチームは――』
そしてニ拍ほど間を開けて、アナウンスから再度声が響いた。
その時、麻真がハッとした表情を作っていた。
「あ……忘れてた」
「……何か忘れたの?」
「マックイーンに登録したチーム名の話するの忘れてた」
明らかにパドックのステージ上で困惑しているメジロマックイーンを見ながら、麻真が忘れたことを思い出す。
しかし時は既に遅し。もう足掻いても無意味だと察した麻真は、困惑しているメジロマックイーンに苦笑いを向けていた。
そしてアナウンスから、声が響く。その内容に、会場の一部の人間達が揃って驚くことになる。
『チーム・アルタイル。数年前にトゥインクル・シリーズに名を轟かせた“あの鷲”が帰ってきました』
その言葉が響いた瞬間、パドック会場にいた一部の人間達が揃ってどよめいた。
その場で頭を抱える人間や、慌ててどこかへ電話している人間など、色々な反応があった。それらの人間がトレーナー業や記者関連の人間だと察したシンボリルドルフは、麻真に笑みを向けた。
「やはり、その名前を使うんだな。麻真さん」
「まぁ、引き継いだ名前だしな」
トウカイテイオーが周りの変化に驚く中、シンボリルドルフの言葉に麻真は戯けるように肩を竦めていた。
読了、お疲れ様です。
そして遅いですが、あげましておめでとうございます。
少しの間、筆を取らずにいました。申し訳ありません。
さて、今回からメイクデビュー戦編が始まります。
観戦にはトウカイテイオーとシンボリルドルフが登場。
そして麻真の率いるチーム名が出ました(一人しかいませんが)
色々と小出しになりますが、次回をお待ちください。
感想、評価、批評はお気軽に。
頂ければ、作者の励みになります。