走るその先に、見える世界 作:ひさっち
反省会という名を借りた口論をこれから始めよう。
午前の授業が終わり、昼食からの午後の授業を経て、トレセン学園内はウマ娘達の練習で賑わう時間になった。ようやく、待ちに待ったこの時間がやってきた。
トレセン学園内、別棟として建てられた各チーム毎の部室が集まる部室区画にて。チーム・アルタイルの部室に備えられているソファに座りながら、メジロマックイーンはテーブルを挟んで対面に座る麻真をじっと見つめていた。
「頼んで部室を用意してもらったは良いが……やっぱり最初だと何もない部屋だな」
そう言って、麻真は呆れた笑みを浮かべて部屋を見渡す。メジロマックイーンが鋭く見つめてくる視線に彼も気づいているはずだが、あえて反応していないのは面倒だからか、それとも単に嫌がらせなのか、彼女には判断できなかった。
とりあえず麻真の“その手の反応”はいつも通りと言ったところ、メジロマックイーンもようやく慣れつつある彼の態度に今更一々気にするのも正直なところ面倒だった。これから反省会で疲れることをするというのに、他のことで余計な体力を使う気など彼女には微塵もなかった。
故に、今の麻真に過剰に反応しないというのがメジロマックイーンの選んだ最善の選択だった。しかし自分がどんな選択を選んでも腹が立つ、という事実が変わらないのが実に苛立ちの増すポイントだった。
「……そうですわね」
麻真の言葉に、沸々と増す苛立ちを抑え込んでメジロマックイーンも何気なく部屋を見渡す。トレーナー用のデスク、ソファとテーブル、そしてロッカーと最低限の物しか置かれていないテンプレートな部室。心なしか、どの備品も新品のような真新しさを感じた。
最低限以外の物しか何もないのは仕方ない。なにせ今日から使えるようになった部室なのだから、チーム毎の個性の色が出る内装になっているはずもないだろう。
部屋の中を見て、メジロマックイーンが少し眉を寄せる。そして思わず、彼女は麻真に向けて口を開いていた。
「私と麻真さんの二人しかいないチームに学園から部室が与えられたのは、正直意外でしたわ」
今のところ二人しかいないチームに専用の部室が与えられた。普通なら絶対にあり得ない学園からの高待遇にメジロマックイーンは内心で密かに驚いていた。
本来ならチーム専用の部室は、もっと所属人数の多いチームに与えられるモノだとメジロマックイーンは思っていた。部室にも数に限りがある。そう簡単にチームで使う部室に空きができるなんて都合の良い話があるとも思えず、よく使える部室を学園から用意されたなと思うしかなかった。
「まぁ、昔にルドルフ達のおかげで作れたアルタイルの実績があったからだろうな。普通なら二人しかいないチームに部屋なんて用意してもらえない。せいぜい二人のチームなら校内のトレーナー室を貸してくれるくらいだろうさ」
「それって……普通に贔屓じゃありませんこと? あまり行き過ぎた贔屓は不必要な反感を買いやすくなりますわよ?」
あまり気分の良い話ではない。反射的に顔を顰めてメジロマックイーンは指摘してしまった。
麻真のおかげで特別扱いで使えるようになった部室というのは、彼女からすれば実に居心地が悪い場所になってしまう。
明らかに普通では考えられない優遇をされると後々に面倒事を抱えやすい。ただでさえ麻真をトレーナーとしている時点で面倒事を抱えているのに、これ以上のトラブルを招くようなことは避けたいのがメジロマックイーンの本音だった。
しかし部室を用意されて、やはり要らないと部室の使用権利を返却できる権限などメジロマックイーンは持っていない。それは麻真が持つ権限である以上、彼女は麻真へ遠回しに諭すような返事をするしかなかった。
「別に良いんじゃないか? 使える権利はありがたく使わせてもらえば良い。使っても良いって学園に言われてるなら他の奴に文句なんて言われる筋合いなんてないだろ?」
「それはその権利を使える側の意見です。私達の所為で本来この部室を使っていた方々が使えなくなった、なんて可能性も十分にありえますわ」
自分の心情を分かっていない様子の麻真に、思わずメジロマックイーンは溜息を漏らした。
普通に考えれば、新設したチームが使用できる部室なんてトレセン学園にあるわけない。約二千人のウマ娘が在籍するマンモス校のトレセン学園には、それこそ数多くのチームが存在する。それを踏まえれば、既存の部室は全て使用されていると思うのが普通だ。
つまり単純に考えれば、メジロマックイーンと麻真がいるこの部室は、以前に使用していたチームから学園側が使用権利を剥奪したと考えるのが妥当だろう。
そう考えたメジロマックイーンは、堪らず顔を強張らせた。もし自分のその予想が本当だとしたら、かなりマズイと。下手をすれば、この部室を使っていたチームから恨まれても何もおかしくない。
それは今後のトラブルの原因に絶対になると、メジロマックイーンが頭を抱えたくなった時だった。
「それはない。この部室が使えるって理由だけで妙なトラブルになることなんてないから安心していい」
そう、麻真が断言していた。彼のこの自信はなんだろうか?
一体、麻真のどこからそんな自信が出てきているか全く理解できなかったメジロマックイーンは呆れて肩を落としてしまった。
「また訳の分からないことを……この部室、本当は他のチームが使っていた場所ではありませんこと?」
「いや、先に伝えてなかったがこの部室は新しく建てた部室なんだ。ついでに言うとこの部室の建設費用は俺持ちだから余計な心配なんて要らん。前に理事長に部室を新しく用意してもらう為に建てる場所の確保と工事の手続きを任せる代わりに、その費用は全部俺持ちって契約で建ててもらったんだ」
「はい……?」
何気なく言われて、その内容がすぐに飲み込めず、メジロマックイーンは反応に困った。
そんなメジロマックイーンを無視して、麻真はまるで世間話をするような気軽さで続けて話していた。
「どうにも理事長が言うには、部室の建設場所の確保に手こずったらしい。建築云々の諸々で色々と時間が掛かって、ようやく完成した部室を先週末から使っても良いって話になった」
時間を掛けて、少しずつ麻真の話をメジロマックイーンが頭の中で反芻する。
そして脳内でその話を整理したメジロマックイーンは、彼の話を理解した上で表情を怪訝に顰めていた。
「ちょっと待ってください。費用が麻真さんから……? そんなお金、どこから?」
そう訊くことが、メジロマックイーンの精一杯だった。
特別高額とは言えないがプレハブ小屋程の大きさの建物の建設をするのにはある程度の費用が掛かる。財布に入る程度の金額でできることでないのは、流石に一般層からかけ離れた富裕層に位置する家柄の彼女も知っていた。
そんな気軽に使える額ではない。そう思って、メジロマックイーンは反射的に麻真に訊いてしまった。
「簡単だったぞ。今年度分の俺の給料なしで話が済んだ」
その疑問に、あっけらかんと麻真は答えた。
予想を超えた返答は、脳が処理できなくなるらしい。
麻真の返事を聞いて、メジロマックイーンは目をパチパチと激しく瞬きしていた。未だ、彼の話を理解できなかった。
「一年間、給料、なし?」
「あぁ、なしだ」
「キュウリョウ、ソレ、毎月の賃金、デスノ……?」
「そうだが……その口調どうした? それに最後は変な疑問系になってるぞ?」
にわかに信じられず、再度メジロマックイーンが訊いても麻真の返事は全く変わらない。
頭の中でゆっくり整理しよう。新しく建てたチーム・アルタイルの部室の代価は、麻真の給料一年分。
今、自分のいるこの空間は、トレセン学園から支払われるはずだった麻真の給料一年分で成り立っている。
理解の範疇を超えた麻真の話が、長い時間を掛けてメジロマックイーンの脳が理解した瞬間、自身の中に湧き上がる未だかつてない怒りの感情に、彼女はその表情を歪めていた。
プツン、とメジロマックイーンのこめかみの血管が切れたような音がした。
「――なんてことをしていますの⁉︎」
「なにか問題でもあったか?」
テーブルを強く叩いて立ち上がるメジロマックイーンだったが、麻真は心底不思議そうに首を傾げるだけだった。
何も問題はない。そう告げている麻真の態度がメジロマックイーンに更なる苛立ちを募らせた。
この男は全く理解していないのだろうか。自分の行った行為がどれほど愚かな行動か分かっているのなら、普通なら選べるはずがない。
メジロマックイーンは今日一番の鋭い目つきで、麻真を睨みつけていた。
「あり得ませんわ! あなたは何のためにこの学園で働いてるんですの! たとえトレーナーが好きな仕事だと言えど! その根底にあるのはひとつですわ! それが何か麻真さんに分からないわけありません!」
「別に好きな仕事って訳じゃないんだが……」
「大事なのはそこではありませんっ‼︎」
誰もが働く理由なんて決まっている。好きな仕事、嫌いな仕事があれど、その根にあるのはひとつしかない。慈善活動だけで人は生きていけるわけがない。それをもし理解していれば、麻真から返ってくる答えなど決まっていた。
「あなたなら分かるはずですわ! どうして人は働くのか⁉︎ お答えください!」
「随分と哲学なことを訊いてくるな。そんな深いことを急に訊くなんて将来のことで不安でもあるのか?」
「次にまたふざけたことを口にしたらはっ倒しますわよ‼︎」
本気で怒っているメジロマックイーンに、麻真が呆けた表情を見せる。そして呆れたように肩を竦めて、彼は面倒そうに答えていた。
「……誰しも働く理由なんてひとつしかない。生活する為だ」
「ならあなたのしたことがその生活を捨てる行為だと理解されてますの⁉︎」
「それに何か問題でもあるか?」
即答だった。それを理解した上での行動だと知って、なおのことタチが悪いとメジロマックイーンは更に麻真への怒りを露わにした。
給料がないということは、賃金がないことだ。つまり今後一年間、麻真は仕事によって得られる金銭が一切ない。
正気の沙汰ではない。給料がなければ、金銭が得られない。ずっと一年間も無給で働くことがどれほど異常なことか目の前の男が理解していない訳がない。
それなのにそれを理解した上で麻真がその選択をした理解の範疇を超えている行動に、メジロマックイーンは頭痛すら起こしそうだった。そこまでして専用の部室を得る必要があるとは、彼女には微塵も思えなかった。
「私とあなたの二人しかいないチームに専用の部室がなくても問題ありませんわ! それなのに、どうしてそんなことを……!」
「チームに俺とマックイーンの二人しかいなくても、誰かに聞かれれば困る話はいくらでもある。後々に重賞レース……それこそ天皇賞に出ることも考えれば、誰にも聞かれる心配がない場所が必要だった。この部室の防音設備、かなり凄いんだからな?」
「そんな理由で押し通せると思ってますの⁉︎ 冷静に考えてください! あなたはこれから一年間もお給料がないんですのよ! これからの生活をどうされるつもりですか⁉︎」
「そもそも別に俺は金に困ってない。生活するくらいの貯蓄はある方なんだ。一年間給料がなくても大したことじゃない。それに復職したが二年も休職すれば俺のトレーナーランクもかなり降格になって、今は一番下になってるから給料もたかが知れてる」
メジロマックイーンの知らないことだが、トレセン学園で働くトレーナーの給料にはランク制というモノがある。
最上位のSから始まり、そこからAからFまでの六段階の計七段階までのトレーナーランクがトレセン学園には存在する。これは担当しているウマ娘の実績などからランクの昇格や降格の査定が行われている。
そこから基本給を算出し、その他の付加要素を加味してトレーナーの給料が決められる。
現在、麻真は二年間の休職によりトレーナーランクが降格してFランクとなっていた。
しかしランクによって給料の変動があれど就職難易度が最高峰のトレセン学園で最低のFランクだとしても、その給料は世間からすればかなりの高給なのは言うまでもなかった。
「それにトレセン学園に居れば、金なんて使う場面なんて数が知れてるだろ?」
それがトレーナーになった人間の悲しき定めだった。
高給を得ているのに使うタイミングがないのが、トレセン学園にいるトレーナー達の抱える悩みでもあった。
トレセン学園内のトレーナー寮に住み、毎日の時間の大半を担当ウマ娘に使っていればトレーナーのプライベート時間などごく僅かしかない。平日は勿論のこと、土日の休日すら担当ウマ娘の為に時間を費やす。トレーニングの付き添いや事務仕事等の多忙な短時間で終わらない量の仕事を夜遅くまでしていると、いつの間にかプライベートの時間がなくなる。それがトレーナー達の生活だった。
故に、彼等が金を使う場面など生活必需品と趣向品、稀に同僚達との飲食くらいだ。稀に暴食のウマ娘によって高給でありながら金欠になるトレーナーも極少数だが存在する。
多忙な仕事に対する時間の使い方が上手くならなければ、自分の金が使えない。ある意味ではブラック企業とでも言えるのが、このトレーナー業である。
逆を言えば、仕事が効率良くできれば自由な時間が多いことになる。こと麻真は後者の部類に入るのだが、彼の金の使い方は特殊な部類に入るので一般的なトレーナーから逸脱しているので例外となるだろう。
だがしかし、そんなトレーナーが抱える悩みなど今のメジロマックイーンには知ったことではなかった。仮にこのトレーナー業の闇を今説明されたとしても、彼女が次に発する言葉が変わることなどなかった。
「そういう問題ではありません! 仮にあなたが貯金してもしていなくても大事なところは変わりませんわ! これから一年間もお給料がないこと自体が問題なのがどうして分かりませんの⁉︎」
「だから別に俺が困らないから良いだろ?」
「あなたが良くても! 私が困るのが分かりませんの⁉︎」
そう叫んで、メジロマックイーンは頭を抱えるしかなかった。
もう後戻りができない。現にこうして新しい部室がこの場にある以上、麻真の一年分の給料を代価にしたという条件をなかったことにする方法がメジロマックイーンには思いつかなかった。
麻真の給料の補填にメジロ家の財力を使うことすら一瞬考えたが、メジロマックイーンは苦悶に表情を歪めるしかなかった。
それだけは絶対にできない。トレセン学園に金銭の支援ですら不味いのだから、個人的な形でトレーナーに金銭の譲渡をするのは更に面倒な事になるのが分かりきっていた。
噂というのは、どこからでも出てくる。火のないところに煙は立たぬ、という言葉すらあるくらいだ。例えそれを秘密裏に行ったとしても、ふとしたことで露呈する可能性がある。
メジロ家が個人的な理由で担当トレーナーに金銭の譲渡が知られでもすれば、私的な金銭でメジロ家がトレセン学園での待遇を良くしていると良からぬ悪評が付き纏うことになる。
部室の代価である麻真の給料一年分をメジロ家が立て替えるということは、部室の代金をメジロ家が出したことになってしまう。それが仮にバレてしまい、メジロ家は金でトレセン学園で高待遇を得ていると学園内で思われるのはメジロマックイーンにとってかなり問題になることだった。
メジロ家のウマ娘は自分だけではない。メジロの名を持つ他のウマ娘達にも迷惑が掛かる可能性が大きいことを考えれば、安易にメジロマックイーンがその手段を使える訳がなかった。
そもそも、トレーナーが自分の給料を一年分使って自チームの部室を用意したというのも大概だった。それを通した学園側もどうかと思うが、そこは麻真と学園側の何かしらのやり取りがあったのだろう。トレセン学園が麻真の給料を一年分無しにしても問題ないと判断したからこそ、彼の意見が通った。そう考えるしかなかった。
「俺が困るならまだしも、お前のなにが困るんだよ?」
怒り狂うメジロマックイーンに対して、麻真は至って平然と答えた。
麻真にとって、専用の部室を用意したのは理由があった。それは彼が先程公言した通りだった。
チーム専用の部室が必要だったから用意した。麻真にはそれをする意味があったからこそ、一年分の給料を対価にする価値があった。彼にとっては、それだけの話だった。
麻真がトレセン学園に戻ってきたのは、退職する為だ。極端に言えば、彼は現時点で給料など最初から眼中になかった。戻るつもりがなかったのに、強制的に戻されただけなのだ。元々得られるはずのない金なのだから、退職する為に使っているだけだった。
もし今回のトレセン学園に戻された原因であるメジロマックイーンの件がなければ、麻真は本来ならトレセン学園に籍を置いたまま山の中で無給で過ごしていた。それができるだけの貯金を彼は持ち合わせていた。
それがあったからこそ、他のトレーナー達が絶対にできるはずのない自身の給料を対価にチーム専用の部室を得るという暴挙を麻真はトレセン学園に押し通せたのだった。
しかしそんな麻真の内情などメジロマックイーンは知らない。麻真が退職する為に自分を育てていると思いもしない彼女は、ただ純粋に“彼のことを案じて”、その怒りを露わにしていた。
麻真に分かるわけもなかった。メジロマックイーンがここまで怒る理由など、彼女が怒るのは単に無駄に金を使ったからだと決めつけていた。
故に、次に出てきたメジロマックイーンの言葉を聞いて、麻真は素直に呆気に取られることになった。
「私の所為で! あなたが本来得られるはずだったモノがなくなったことが問題なんです!」
「……お前の所為?」
麻真は首を傾げて、そう言うしかなかった。
根本的に二人の考えが違っていた。麻真はただ自分の為に金を使ったと思っていて、メジロマックイーンは彼が自分の為に金を使ったと思っている。その違いだった。
「私は麻真さんがそこまで自分を犠牲にされたことに怒っているんです! 給料一年分、私でもそれが大金なのは分かりますわ! 専属のトレーナーとして多くの時間と労力を私に使って頂いてるのに、その仕事の対価である給料まで失ってしまえば……私はあなたに何を返せば良いんですの‼︎」
そこまで言われて、麻真は自身の失念にようやく気づいた。そしてメジロマックイーンというウマ娘の少女のことを自分は理解しきれていなかった。
専属トレーナーと担当ウマ娘の関係になってまだ日は浅い。その日々の中で友好ながらも、言い争いの絶えない関係の中で麻真は気づいているはずだった。
担当ウマ娘であるメジロマックイーンというウマ娘は、根本的な部分で心優しい性格のウマ娘だったことを麻真は忘れていた。
自身の願いの為ならどんな犠牲も厭わない。その意思を持って日々を過ごしている彼女だが、実のところ優しい性格の持ち主だった。
その片鱗を多く見てきた麻真も気づいていたはずだったのだが、忘れていた。自分の今回の行動でメジロマックイーンは大して驚かないだろうと安易に答えてしまったのが運の尽きだった。
ここで麻真は自分は余計なことを口にしたと心底後悔していた。しかし後悔しても、もう遅い。メジロマックイーンの怒りは簡単に消えることはなかった。
「私が麻真さんに返せるのは勝利だけしかありません! それしか私は返せないのに、あなたが多くのことを犠牲にすればするほど私はあなたに何を返せば良いか分からなくなるんですっ!」
目を吊り上げて、睨みつけてくるメジロマックイーンに麻真は静かに見つめ返しながら首を小さく横に振った。そして呆れたと肩を分かりやすく落としていた。
「そこまでお前が思い詰める必要なんてない。俺はお前の願いが叶う手伝いをしてるだけなんだ。レースで勝ちたいマックイーンが勝ってくれれば、俺はそれで十分なんだぞ?」
メジロマックイーンの心情を察して、麻真は素直に本心を告げる。事実、彼女が勝ち続けてくれるだけで麻真は十分だった。それが彼の目的達成の近道なのだから。
しかしメジロマックイーンは、それでは納得できなかった。
「例え麻真さんが納得しても私が納得できませんの! きっとあなたは理解されないんでしょう! 私が麻真さんと出会ってから今日まであなたにどれほど感謝しているかなんて!」
麻真に向けて、メジロマックイーンは怒りを向ける。決してそれは負の感情ではなく、真逆の感情から生まれた怒りだった。
「良いですわ……そこまで分かって頂けないのなら教えて差し上げるだけですから」
そう告げて、メジロマックイーンが再度テーブルを強く叩く。そして鬼のような形相で麻真を見つめて、彼女は静かに告げた。
「では、これより反省会を始めましょう。私と、麻真さんの反省会を」
「おい、反省会ってメイクデビュー戦の反省会だぞ? 変なこと――」
「余計なこと、仰らないでくださいませんこと?」
まるでレース終盤に見せるような決死の表情で、メジロマックイーンが静かに告げる。
初めて見せるメジロマックイーンの異様なその迫力に、麻真は心底驚きながらも引き攣った笑みで頷くしかなかった。
これは予定と違った反省会になる。そんな確信が、麻真に深い溜息を吐かせていた。
読了、お疲れ様です。
久々の投稿です。帰ってきました。
久々に文章を書いたので色々と不備があったらすいません。
今回は反省会の前置き会とでも言っておきましょう。
次回、反省会です。
今までの麻真のトレーニングの解説と彼とマックイーンの食い違いについて書くことになるかと思います。
それでは次回にまたお会いしましょう。それでは。
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