走るその先に、見える世界 作:ひさっち
「確かに麻真さんの仰る通り、私は未熟者ですわ。麻真さんの走りと比べれば、私の今の走りはあなたの足元にも及びません。ですが……それは今だけの話ですわ。私もいずれはあなたのようになります」
それは自身の決意を告げているようだった。
メジロマックイーンが語る自身の想いを聞いて、麻真は笑ってしまいそうになった。決して声には出さないが、口角を少しだけ上げて、出そうになる声をどうにか我慢した。
まだ未熟なウマ娘が強気なことに言うのは麻真も慣れていた。どんなウマ娘も強くなる為に、その志を高くする。
だがその志があっても、才能があっても、努力があっても、辿り着けない場所がある。限られたウマ娘にしか立つことを許されない場所がある。
最も速く、強く、そして運のあるウマ娘が辿り着ける世界がある。その三つの要素を持つウマ娘は、本当に数少ない。
それが顕著に現れるのが、走り方だ。極論、その走りを極めれば、その世界に辿り着ける可能性が高くなる。しかしそれが簡単にできないから、走りは奥が深い。
だからこそ、走り方で全てが変わる。足の動かし方、足先の使い方、腕の振り方、身体を使う全ての些細な動きが走る速度に影響を与える。
今の自分の身体に一番最適な走り方を見つけること。それを突き詰めることこそが、最も速く走る術である。
その境地に辿り着く苦労を誰よりも知る麻真だからこそ、メジロマックイーンの覚悟は未熟者である故に出る安直な言葉にしか聞こえなかった。
知れば知るほど、それは先の長い道のりなのだ。自分の本当の走り方を見つけて、極めることの難しさを知れば、大抵のウマ娘は心が折れてしまう。だから妥協して、自分を納得させる。
その妥協を一度してしまえば、戻るのはとても難しい。その妥協をメジロマックイーンにさせるつもりは麻真としても毛頭ないが、その覚悟が本当に彼女に備わっているのかは本人にしか分からないことだ。
麻真自身も、彼女にその覚悟があると思っている。担当しているウマ娘なのだから、その信頼を向けてはいる。だが、実際に彼女からそれを言われると笑える話だった。
まだジュニア級になったばかりの、生まれたての小鹿のような存在でしかない小娘のウマ娘が威勢良く吠えていると。
そう語る彼女達に、麻真が思うことは同じだった。
そんな簡単に、走りの道を舐めるなと。
「随分と簡単に言うな」
「簡単ではない道ですが……それでも、そうなるのが当然ですわ」
なにがそこまでメジロマックイーンに自信を持たせているのか。
そんな疑問を麻真が抱いた時だった。
「だって、麻真さんが私をそうさせてくれますもの」
そう、あまりにも自然にメジロマックイーンは言っていた。
当然のことで、それは当たり前のことだ。トレーナーが担当ウマ娘を導くのは、普通のこと。しかし改めて彼女に言われて、麻真の目が無意識に大きくなった。
「ですから……何度でも私はお伝えします。私を強くしてくれるあなたに、私は心からの信頼と尊敬をし続けます。だから私のこの気持ちにあなたも気づいて、私だけを見てください。メジロ家のウマ娘として、最強のウマ娘になる私をあなたも信じてください。本当は嫌ですが、必要な秘密なら許しますから……だから、今後はもうふざけた隠し事をしないで、私を信じ続けてください。あなたが私を信じてくださるのなら、私はこの胸を張って、その信頼に誠心誠意応えることができるんです」
それが互いに信頼する担当ウマ娘とトレーナーの関係。一蓮托生の言葉だと言っているようだった。
全幅の信頼を向けるから、応えて欲しい。そんな担当ウマ娘がトレーナーに抱く想いを、麻真は忘れていたのかもしれない。
あれだけメジロマックイーンに一蓮托生として担当ウマ娘とトレーナーの関係性について説いても、どこか自分の中で線引きをしていたのだと改めて再認識した。
ここまでの信頼を向けられて、どう答えるのか正解か。
それは、もう麻真の中で決まっていた。肩を落として、彼は小さく頷いた。
「……わかった。もうふざけた隠し事はしない」
自分もメジロマックイーンに不必要な心配をしない。彼女のことを案じてのことだと勝手に決めつけるようなことをしないで、彼女にありのままで向き合おうと麻真は心の中で密かに決めた。
だからと言って、メジロマックイーンに対する練習が優しくなるわけではない。その点だけは絶対にないと思いながら。
「もしまた同じことをされたら、どうされるおつもりです?」
「それは時と場合によるだろ?」
次に麻真が隠し事をした際、どうするか?
それはどんな隠し事をしたかに左右されることだ。
その判断はその場の状況で大きく変わる。
麻真の返答にメジロマックイーンが顔を顰めるが、少し考える素振りを見せながら答えた。
「……では、今回の部室の件のようなことを次にしたらとしましょう。どうされるつもりです?」
「するつもりはないからお前が勝手に決めろ。別になんでもいい」
意図的にするつもりがないのだから、今回のようなことはもう起きない。そう思って麻真は答えていた。
しかし麻真のその考えたとは違い、彼の返事を聞いたメジロマックイーンの耳がピクリと動いた。
「今、なんでもと仰いましたね?」
「……めんどくさ」
奇妙な反応を見せたメジロマックイーンに、麻真が反射的に呟いた。また面倒なことを言い出すような気がしてならなかった。
メジロマックイーンが小さく笑う。どこか不気味な彼女の微笑みに麻真は顔を顰めるしかなかった。
「なに言うつもりだよ、お前」
「いいえ、まだ決めませんわ。その時が来ましたら、私が自由に決めさせていただきますので」
「いや、今決めろよ」
「それはこれからも秘密をすると言っている、と受け取れますわよ?」
途端に鋭くなったメジロマックイーンの視線に、麻真がわざとらしく両手を上げた。
降参と態度で麻真が示すと、彼女は満足そうに胸を張っていた。
「それで良いんですわ。では、満足しましたので続きをしましょう。まず今後の問題は置いておくとして、今回の部室の件を秘密にした罰をお伝えしますわ」
「は? 今回のは違うだろ?」
「……今、なんと仰いましたか?」
メジロマックイーンの威圧感が増した。本来なら麻真も気にすることではないが、今回ばかりはどうすることもできず、渋々と彼は頷くしかなかった。
「わかった、わかったよ……全く」
「えぇ、それで良いんですわ」
「それで? お前はなにが望みなんだ?」
溜息を漏らしながら、麻真が訊く。
その問いに、メジロマックイーンは元から用意していたことを告げていた。
「私が今回望むのは、ひとつですわ。それはあなたの反省会としてでもありますが……この度の私のメイクデビュー戦であなたが隠したことを全て、包み隠さず教えてください」
そう言ったメジロマックイーンの目は、絶対に教えろと告げていた。
今までのことを思い返して、そして実際のメイクデビュー戦を終えた彼女なら、その考えに辿り着くのも自然の流れだった。
その考えに至ったメジロマックイーンに、麻真はほんの少しだけ意表を突かれた。
「なんでそう思ったんだ?」
思わず、麻真は訊いていた。
その返事に、メジロマックイーンは今までのことを思い出しながら答えた。
「なにを仰ってますの? その程度、私が分からないはずありませんわ。ですが、私もいまだに分からないのは……麻真さんがどこまで先を見据えて練習メニューを考えていたか、ですわ」
走り方から始まり、あの重い蹄鉄靴の件、そして実際のレース場を見据えているとしか思えなかった今までの練習。それを麻真がどこまで想定していたのか、メジロマックイーンには分からないままだった。
「答えてやるが、先にお前の考えを言ってみろ」
それを察した麻真が、先にメジロマックイーンに話すように促す。
もし彼女が自分の思う通りの返事が返って来れば、それは良い傾向だと判断できた。
素直に話してくれない麻真にムッと口を尖らせたメジロマックイーンだったが、それでも話す必要があると察したのか渋々と口を開いた。
「まず、今回のメイクデビュー戦であなたは私に加速をする為の筋力が不足していると言いましたわ。それが原因で、麻真さんに私はとても辛い基礎トレーニングをさせられました」
今まで起きたことを、メジロマックイーンがひとつずつ思い返す。
「そして麻真さんは、私にあのふざけた蹄鉄靴を渡しましたわ。私の走りを矯正する為と言って、本当の意図が他にもあることを隠されて」
その言葉に、麻真は少し意外そうな表情を見せた。まさか彼女が気づいたとは思わなかったと。
「へぇ……? なにを思ったんだ?」
「白々しいですわね」
「良いから、言ってみろ」
「……あのメイクデビュー戦のレース場は、坂道が最難関だと言ってましたわ。あの時、私が終盤であの坂道を駆け上がった時、とてつもなく足が重たく感じました。それこそ、あの蹄鉄靴を履いていた時のように」
レースで坂道を走った時の感覚がメジロマックイーンの足に蘇る。足を振り上げることすら辛かった時の感覚は、今でも忘れられなかった。
「その時、思いましたわ。あなたは私に何度も仰ってました。私にあるのは、根性とスタミナだけだと。それはあの坂道を登るのに必要な要素でしたわ。そして思い知りました。私が実際に坂道を登る時に困らないように、麻真さんは私にあの蹄鉄靴で重い足の使い方を教えたのだと」
あの時の足の重さは、尋常ではなかった。
あのバカげた蹄鉄靴を履いていなければ、実際に経験していなければ、間違いなく動揺していたかもしれない。そう思えるほど、あの時の経験が活きてくるとは思わなかった。
「あの蹄鉄靴ひとつで、あなたは私にふたつの練習をさせました。おそらく、まだ何かあると思ってます。それを教えてください」
「思ってたより良い答えだった。評価点は○だな」
予想より良い答えが聞けたことに、麻真が驚きながらも素直に褒めるのは珍しいことだった。
そこまで分かるなら、教えても良いだろう。そう思って、不貞腐れているメジロマックイーンに麻真は口を開いた。
「だが、その答えだと正解は半分くらいだ」
「まだ半分もあるんですの……?」
麻真の答えに唖然とするメジロマックイーンに、彼はそのまま話を続けた。
「あの蹄鉄靴から得られることはお前が思ってる以上に多い。そのひとつが走り方の矯正だ。そもそもの話、あれは普通の練習じゃない」
「そんなのはわかりきってますわよ」
「うるさい、良いから黙って聞けって」
「言われるようなことするからですわ」
呆れる麻真に、メジロマックイーンが口を尖らせる。
あれを普通の練習と思う方がどうかしている。あんな練習をさせるのは麻真くらいしかいないだろう。
「あれは力の使い方が異常なウマ娘に使う練習なんだよ。お前の場合、一番的確に走り方を矯正させる方法だった。それに加えて、あの靴の経験は間違いなく今回のメイクデビューであの坂道を登るのに一番大事な要素だった。それはお前も実感してるだろうから説明は省くけどな」
そう語る麻真に、メジロマックイーンが渋々と頷く。そこまでは自分の思っている通りのことだった。
「後はそうだな……今後の話だ」
「今後、ですが?」
「あぁ、あれは自分の走りを見つめ直させてくれる靴でもあるんだよ」
「走りを見つめ直させる、ですか?」
「何度も言うが、走りってのは無意識の内に変わるんだ。本人の意図もなく、自然と走りは変化する。だから困った時、あの靴を履けば良い」
それはメジロマックイーンにとって、奇妙な言い方に聞こえた。
今、最後に言った麻真の言葉は、まるで一人で困った時と言っているような、そんな妙な言葉にしか聞こえなかった。
「なにを変なことを仰ってますの? 私の走りはこれからも麻真さんが見てるんですから、あなたが居ればそれで良いはずでは?」
「……なにがあるか分からないだろ。俺が急に事故とかで入院したら面倒見れなくなる可能性だってあるんだから」
そう話す麻真に、メジロマックイーンが眉を寄せた。
まさかと思いながら、彼女は怪訝な表情を作った。
「あり得ないこととは思いますが……麻真さん、また急に休職されるなんてことされるおつもりですの?」
「するわけないだろ?」
「……本当ですか?」
「そんなことする理由がない。そんな心配なんてするなっての。もしも俺が事故とかで面倒見れなくなった保険も兼ねてるんだよ」
「それなら良いんですが……」
麻真がそう言うなら、きっとそうなのだろう。そうメジロマックイーンは渋々と思うことにした。
だが実際のところ、麻真本人は内心で冷や汗をかいていた。また口が滑ったと。
メジロマックイーンに渡した靴は、彼女が一人で歩けるようにする為のモノでもあった。
麻真が退職した後、彼女が他のトレーナーと契約しても、一人で自身の走りを見つめ直させる為の靴。それがあの蹄鉄靴に秘められた秘密のひとつだった。
いくら秘密をしないと言っても、麻真は自分が退職しようとしていることだけは伝えるつもりはなかった。メジロマックイーンだけでなく、誰一人としてその話を口外することはない。
もしバレればどうなるか、それを考えることすら麻真は面倒だった。
「ともかく、それもひとつって話だ。まだある」
そして自然に麻真が話を続けて、メジロマックイーンからその意味から意識を逸らした。
彼の思惑通り、メジロマックイーンの意識は次の意味に向けられていた。
「アレには、お前の走りの進化を促す効果がある」
「進化?」
どことなく良い響きだとメジロマックイーンは思った。
走りの進化。それは今よりも自分が速くなることを意味している言葉に聞こえた。
「今のお前の走りは、今のお前の身体ができる精一杯の走り方だ。だが、あれは本来の先行向けの走りじゃない。それはお前も分かってるんだろ?」
「えぇ……まぁ」
メジロマックイーンが再度頷く。確かに、今の自分の走り方は先行とは言えない。あれはどちらかと言えば、逃げの走法だろう。
「それなら理解してると思うが、お前の今の走りは先行よりも逃げ脚質の走りに近い」
「そう言われれば、前にテイオーに言われましたわ。私の走り方を生徒会長がサイレンススズカさんと似ていると評したと」
「……アイツ、またガキンチョに余計なこと吹き込みやがって」
明らかに不満そうに顔を歪める麻真に、メジロマックイーンが首を傾げた。
「私の走り方がテイオーに知られたら良くありませんの?」
「それはそうだろ。他所のバカに知識を与えるもんじゃない。知られることが不利になることもある。お前が前のレースでガキンチョから綺麗にスリップストリームされた時が良い例だ」
「それはそうですが……というか相変わらずテイオーのことはバカにされますのね」
「だってバカだろ、あのガキンチョ」
「……反論はしません」
「まぁ良い。ともかく、お前の今の走り方は特殊だって話だ。段階を踏んで加速して、最大速度を維持して走り続けるあの走り方は逃げの走法になる」
それが今のメジロマックイーンにできる最速の走り方だ。
爆発的な加速力のない彼女の体で戦える唯一の走法。この走りがなければ、今回のメイクデビュー戦のような結果を彼女が残すことはできなかっただろう。
しかしそれは今の彼女だから、そうするしかなかっただけの走法だった。
「これから私の走り方は進化すると?」
「勿論、お前の走りはまだ変わる」
「今の走り方にようやく慣れてきましたのに……」
「それで妥協するようなウマ娘に俺がお前を育てるわけないだろ。お前はもっと速くなる」
「……そう、ですか」
何気なく麻真が言った言葉に、メジロマックイーンは意表を突かれた。
普段は褒めることを滅多にしない麻真が稀に褒めることに言うと胸に来るものがある。
今よりも強くなれる。それができるウマ娘だと麻真から認めてもらっている。その事実が、メジロマックイーンの心に大きく響いていた。
「ここまで言ったし、もう言っても良いか……軽く話してやる」
そんなメジロマックイーンに気づかず、麻真は話し続けていた。
まだ彼女に伝えるつもりのなかったこと。麻真の思い描くメジロマックイーンというウマ娘の本当の走りの道を。
「まず、第一に話す。俺が思うお前の理想の立ち回りは、レース全体の走るペースを乱すことだ。今のお前の走りでもジュニア級なら間違いなくレースペースは乱せるが、今のままだと重賞レースになれば通用しなくなる」
「レースペースを乱す? ですか?」
当然のように語る麻真の話が、メジロマックイーンにはあまりピンと来ない話だった。
レースのペースを作る存在は、逃げ脚質のウマ娘だ。逃げに合わせて、先行が位置を取り、その後方に差し、そして追込が走る。
逃げのウマ娘が早く走れば、その分だけ全員の走るペースが上がるが、その逆もある。
自分の理想の立ち回りが、それを乱すこと。そう麻真に言われても、メジロマックイーンはすぐに理解できなかった。
ふと、メイクデビュー戦のことをメジロマックイーンが思い返す。
麻真が言うには今の走りでもレースペースを乱していたらしい。そう思って先日のレースを振り返った時、メジロマックイーンはハッと気づいた。
確か、あの時の自分は全てのペースを無視して走った。その結果、逃げのウマ娘が勝手に脱落していた。
アレは周りのペースを無視して走った自分に逃げウマ娘が合わせたから起きたことだった。
「あのようなことが……私の走り方になりますの?」
「お前なら分かるだろ? あの走りがどれだけ周りに脅威になるかって?」
そう話す麻真の話し方は、自分を試しているような言い方にしか聞こえなかった。
自分なら分かる。そう言われてメジロマックイーンは考えるしかなかった。
あの時、メイクデビュー戦の内容を再度振り返る。
あの走りを今よりも昇華した走りでできれば、周りが自分を強敵だと認識していれば、周りはどうするか。
もし敵として自分のようなウマ娘がいた時、どう戦わなければならないのか。
止まることなく加速し続けるウマ娘に勝つには、自分も合わせなければいけない。放置すれば、置いていかれる。だから追いかけるしかない。それはつまり、必要以上に自分のスタミナを削る行為になる。
その判断をした時、メジロマックイーンは気づいた。そしてそれが、あまりにも強引で、強力な戦法だということを。
「……えげつないですわ」
そう呟いて、メジロマックイーンは全身の鳥肌が立ったような気がした。
その反応に、麻真は満足そうに頷いていた。
「それがお前の目指す長距離向けの走り方だ。スタミナと根性があるお前なら、これが一番簡単に相手の心を折れる。レースペースを強引にハイペースにして、周りを自分勝手にかき乱して、そして崩れた状況から一気に加速して先頭を走る。それが俺の考えるメジロマックイーンっていうウマ娘が使う理想の戦法だ」
「それが通用しない、とは考えませんの?」
つい反射的に、メジロマックイーンはそう言っていた。
語る上での理想と現実は違う。たまたまメイクデビュー戦ができただけで、この先のレースで本当に通用する戦法なのかと。
「通用するに決まってるだろ? こんな強引な走り方をされれば他のウマ娘達はお前に合わせるしかない。この作戦に勝てるウマ娘がいたとしたら、それはお前以上のスタミナがあって、お前に合わせて走っても十分に加速する足を温存できる奴だけだ。そんな化物みたいなウマ娘なんて片手で数えるくらいしかいない」
鼻で笑いながら、麻真が苦笑する。それは絶対に負けないと言っている顔だった。
麻真の思い描く理想。その走りを実際に自分ができるか疑問に思うメジロマックイーンだったが、それでも信じるしかなかった。
「だから、あの靴で加速が十分できる走りができればお前の走りはもう一段階上がる」
北野麻真というトレーナーを信じる。そう決めた自身の決意を変えることなどあり得ない。そう思える実感が、メジロマックイーンにはあったのだから。
その時、ふとメジロマックイーンの中にある疑問が浮かんだ。
「……ちょっと待ってくださいな」
「なんだ?」
「そう仰るということは……もしかしてあの靴、また使うんですの?」
メジロマックイーンの脳裏に過ったのは、あの辛い記憶だった。
あの蹄鉄靴を脱ぐことが許されなかった練習の日々。思うように走れないストレスを強烈に感じていた不快の日々を。
「そんなの当然だろ?」
「……また前みたいにタイムを測る練習をしますの?」
死ぬほど嫌だったが、麻真から伝えられた理想の走りを作る為ならするしかない。
そうメジロマックイーンが心に覚悟を決めた時だった。
「いや、前とは違う」
「なにをするつもりですの?」
嫌な予感がメジロマックイーンの背中を駆け巡る。
「学園の近くに山あったよな?」
「ありますけど……」
トレセン学園の近くには、山がある。そこでランニングするウマ娘がいると聞いたことがあった。
ランニング。その言葉がメジロマックイーンの頭を過った時、彼女の全身の毛が逆立つような悪寒がした。
「まだやらないが……近いうちあの山、麓から頂上まで登るぞ」
「は……え……あの靴で?」
それは、絶望としか言えない言葉だった。
確か、あの山は見上げるほど高かった。
あの山を、あのふざけた靴で走る。その事実を受け入れられないメジロマックイーンに、麻真は追い打ちを掛けていた。
「勿論、それもタイムトライアル」
「あぁぁ……終わりましたわ」
ソファに座っていたメジロマックイーンの身体から、全身の力が抜けた。
設定したタイムトライアルが終わるまで、決して終わらない山登り。きっと麻真なら終わるまで他の練習はさせてもらえない。
必死に坂道を駆け上る自分を想像して、その苦労を予想したメジロマックイーンは心が折れそうになった。
「それは流石に……隠してほしかったですわ」
「先にやることがあるからな」
「……もう何を言われても驚きませんわよ」
「マックイーン、お前は明日から格上と走ってこい」
「はい……?」
「明日から特別メニューだ。チーム・スピカと合同練習するぞ」
怪訝に眉を寄せるメジロマックイーンに、麻真はそう答えていた。
読了、お疲れ様です。
今回は麻真の考えるメジロマックイーンの理想の走り方についての話でした。
そして告げられる今後の練習についてと、スピカとの練習について、そんなお話。
アニメ三期の告知がされてましたね。キタサンブラックとサトノダイヤモンド、この二人、私は大好きです。メジロマックイーンとトウカイテイオーの二人と同じくらい好きです。
この作品でも、キタサトチビコンビを出そうと考えてましたが……出せてもかなり先なんですよね。アニメ三期が始まるまでには出したいです。
それでは、まだ次回の話でお会いしましょう。
感想、評価、批評はお気軽に。