走るその先に、見える世界   作:ひさっち

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episode.2
1.走ってこい


 

 

 あの北野麻真が、トレセン学園に帰ってきた。

 それは麻真の過去をよく知らないメジロマックイーンには分からないことだったが、トレセン学園では大騒動になるほどの出来事だったらしい。

 まずは高等部の方で色々と騒動があったと噂で聞いた。また在籍するトレーナー達も麻真が帰ってきたことに賛否両論と分かれた反応があるらしい。トレーナー達の噂についてはメジロマックイーンは微塵も興味はなかったが、高等部の噂については少し気になった。一体、麻真についてどんな話があったのだろうと。

 

 そんなトレセン学園で有名だったらしい北野麻真がメジロマックイーンの専属トレーナーになったことは、それが必然と言えるように彼がトレセン学園に帰ってきた当日で高等部の生徒全員へ話が広まっていた。

 そして麻真がトレセン学園に帰ってきた日から、メジロマックイーンは高等部の生徒から話し掛けられることが多くなった。大体の内容はどうやって行方不明の北野麻真を専属トレーナーにしたかや、自分も彼に指導してほしいから専属トレーナーを譲ってくれという内容だ。

 また他のトレーナーからも、麻真から自分に乗り換えないかと直談判が来ていた。何故か知らないが、たまたまその時に近くにいたたづなから聞いた話だと、麻真が目をつけたウマ娘というところがポイントらしい。それについては、メジロマックイーンは実にどうでも良かった。

 無論、メジロマックイーンは即答で全て断りたかった。麻真との大事な練習時間を減らされるなど彼女には到底許さないことだ。自分も麻真に鍛えてほしいと頼み込んでいて、幸運にも彼が自分の専属トレーナーとして登録されたのだ。それを簡単に他の人に譲るなど有り得ない話だ。

 

 しかしこの件は高等部の生徒にとってはかなり大事らしい。彼女達への答え方を間違えると間違いなく角が立つ。あまり学園内で不必要な揉め事を起こすのは控えたかったメジロマックイーンは、慎重に答え方を選んでいた。

 

 メジロマックイーンのところに来た高等部の生徒には、穏やかに麻真が自分の専属トレーナーになったことを学園から一方的に告げられたと答えた。そしてトレーナー達には、麻真で満足しているから問題ないと正直に答えることにした。

 そして麻真がトレセン学園に来て一日経った翌日も、朝から放課後までメジロマックイーンのところに来る上級生から麻真を譲ってほしいという話を適当に躱しながら、彼女は放課後から約束していた麻真との練習を練習場で始めていた。

 

 

「まだ他の奴から色々言われるのか? 全く……今日、俺のところに来たやつ全員には言ったんだがな。俺は他の奴を見るつもりはないって」

 

 

 練習前に麻真とメジロマックイーンが揃って柔軟をする。柔軟をしている最中にメジロマックイーンが“そのこと”を麻真に世間話のように話すと、彼は聞くなり深い溜息を吐いていた。

 麻真がトレセン学園に来てメジロマックイーンのトレーナーになっても、彼は変わらなかった。相変わらず髪は長いままで適当に一つに結っている。普段の格好も他のトレーナーのようにスーツなどを着ているわけではなく、運動し易いジャージ姿だ。

 それが悪いとはメジロマックイーンは思わない。スーツなんて着られたら麻真と一緒に練習できないので、その点はメジロマックイーンも納得しているが――彼女も少しずつ理解してきていた。

 多分、この人は普通のトレーナーではないと。ウマ娘と同等の速さで走れるのも勿論だが、そもそも普通のトレーナーは一緒に同じメニューの練習をすると言わないし、一緒に練習場のコースを走ることもない。と言っても、それもメジロマックイーンは了承しているし、むしろ一緒にしてくれない方が困る。

 麻真の走りに魅入られたのだから、それを見て学べないのはメジロマックイーンには容認できない。むしろそれが彼女の一番の目的であるのだから。

 

 

「それにしても有名人だったのですね、麻真さんは」

 

 

 ふと、メジロマックイーンはそんなことを麻真に話していた。

 麻真はメジロマックイーンの言いたいことが分かったのだろう。彼は少し困った顔をしていた。

 

 

「まぁ、それなりに仕事してたからな」

 

 

 絶対に嘘である。メジロマックイーンは流石にそこだけはすぐに分かった。

 

 

「それなり、という部分が私はとても気になります。私は貴方のことをよく知りませんが、昨日と今日で分かりました。貴方はこの学校ではとても有名人のようですわ。ところで……聞きたかったのですが、麻真さんは休職する前は誰のトレーナーだったんですの?」

 

 

 メジロマックイーンの質問は、麻真を知らない彼女からすれば最もだった。

 北野麻真という人間を有名にした理由はおそらく多くあるだろう。その主な理由は、トレーナーの実力である。なら、彼の育成したウマ娘が誰かで、それが分かるだろうと。

 

 

「色んな奴の練習見てやってたが……最後に担当したのは……」

 

 

 そこで麻真が話を止めると、彼はメジロマックイーンの質問に少し言い淀んだ。そして彼は暫し間を開けると、

 

 

「まぁ誰でも良いだろう。別に、マックイーンが知る必要もない」

 

 

 そう言って、メジロマックイーンの質問を濁していた。

 

 

「あら、秘密にされますの? 別に答えても良いのではなくて?」

「別に秘密にしてるわけじゃない。色んな奴を見てたから最後に見てた奴は忘れただけだ。それこそタイキシャトル、マルゼンスキーとオグリキャップやら色んな奴から臨時で練習をして欲しいと言われてたからな」

 

 

 メジロマックイーンはそう答えた麻真の話に、少し首を傾げた。

 通常、トレーナーはパートナーである特定のウマ娘を育成する。それが不特定いたと言うのだから、メジロマックイーンには不思議な話だった。

 

 

「随分と有名な方ばかり……一人に選べないのは、殿方の甲斐性がないのではなくて?」

「失礼なことを言うな。これでも当時は苦労してたんだぞ? 俺がトレーナーとして面倒を見た奴は、意外と少ないんだからな?」

 

 

 苦笑いする麻真にメジロマックイーンは少しむくれるが、彼が言うには正式にトレーナーとして登録をしたウマ娘はあまりいないらしい。

 本当は嘘かはメジロマックイーンには分からなかったが、とりあえずは――彼女は何故か少し安心していた。

 北野麻真は、メジロマックイーンの専属トレーナー。これは変わらない事実、つまりは彼を独占できると言うこと。

 他のウマ娘に渡したくない。そんな自覚のない気持ちがメジロマックイーンにあった。

 

 

「そうは言いますが、貴方が人気者と言うのは変わりませんわ。今日もどうせ練習終わりに私以外のかたと走るのでしょう?」

 

 

 柔軟をしているメジロマックイーンがそう言って視線を向ける。

 視線の先には、トレーナーの東条ハナが率いるチームが揃って練習している光景があった。

 視線の先にいるチームを見て、メジロマックイーンは口を尖らせた。

 

 

「そうだな……東条さんのところから一人だけ、約束してる奴がいる。なんだマックイーン……妬いてるのか?」

「なっ……⁉︎」

 

 

 麻真の言葉に、メジロマックイーンの顔が僅かに赤くなる。

 メジロマックイーンはそんな麻真を睨むと、ふんっと彼から視線を外した。

 

 

「別に妬いてなどいませんわ……麻真さんは私のトレーナーですのに」

 

 

 言葉の最後が小さくなっていく。メジロマックイーンが話していた最後の方は麻真も聞き取れないほど小さい声になっていた。

 麻真もメジロマックイーンが言いたいことが分かったのだろう。麻真が柔軟を切り上げてメジロマックイーンの近くに寄って行く。

 そしては麻真が芝生の上に座って柔軟していたメジロマックイーンの前でしゃがむと――そのまま彼は彼女の頭を撫でていた。

 唐突に頭を撫でられたことにメジロマックイーンが驚くが、麻真の手を拒むことはしなかった。

 麻真がメジロマックイーンの頭を撫でながら、彼は苦笑いしながら彼女に語り掛けていた。

 

 

「悪かったから、拗ねるな。別にお前を放ったりしない。約束しただろ、お前を天皇賞に連れていくって」

 

 

 確かに昨日、メジロマックイーンは麻真と約束をした。

 昨日の夜。トレーナー登録に関わる諸々のことは後日に説明すると言われた後、麻真がメジロマックイーンに訊いていたことを。

 

 

『マックイーン。お前の目標はなんだ?』

『私の目標は、メジロ家の悲願。天皇賞制覇ですわ』

 

 

 麻真の問いに、メジロマックイーンはハッキリとそう答えたのだ。

 そして麻真は、メジロマックイーンに答えていた。

 

 

『……分かった。お前の目標、俺も手伝ってやる。天皇賞の唯一無二の“盾”が欲しいなら、勝ち取るしかない。だからお前もその為に全力で俺についてこい』

 

 

 その言葉を聞いた途端、メジロマックイーンの胸が熱くなるような感覚があった。

 この人について行こう。そう確信できる何かが、メジロマックイーンにはあったからだ。

 しかしそうは言っても自分以外のウマ娘と麻真が交流を持つのは、メジロマックイーンからすればあまり面白くなかったのだった。

 

 

「ですが……」

 

 

 不貞腐れるメジロマックイーンに、麻真は「大丈夫だ」と言い聞かせた。

 

 

「お前が勉強になるような走りしかしない。まだメイクデビュー前のお前は“見る”のも勉強だ。特に今日、俺が一緒に走る奴は特に勉強になる」

 

 

 そう言って、麻真が撫でていたメジロマックイーンの頭から手を離す。先程まであった感触がなくなったことに「あっ……!」とメジロマックイーンが少し名残惜しい気持ちになる。

 どうしてそう思ったのか……メジロマックイーンには分からなかったが、麻真にそれを悟られないように平然を装うことにした。

 

 

「だ、誰と走るんですの?」

 

 

 たどたどしくメジロマックイーンが麻真に訊く。

 麻真はその質問に、少し考えたように顎に手を添えていた。そして彼は意地の悪そうな顔をしていた。

 

 

「それは今日の練習が終わるまでのお楽しみだ。もしかしたらお前も一緒に走ってもらうかも知れないしな」

「……はぁ?」

 

 

 麻真の濁した答えに、メジロマックイーンは小首を傾げるしかできなかった。

 

 

「さて……そろそろ練習始めよう。まずは俺が“お前のこと”を知るところから始めるか」

 

 

 そしてメジロマックイーンが柔軟を終えたタイミングを見計らって、麻真が柔軟を終えて立ち上がる彼女にそう促す。

 それを聞いて、メジロマックイーンは少し緊張した。無意識に彼女の耳が少しピンと立ってしまう。

 何か特別な練習をするのか、それとも前と同じように麻真の後ろを走るのか……メジロマックイーンが考えを巡らせたが、彼はコースを指差すと一言告げた。

 

 

「まずはランニング一周」

「……えっ?」

「とりあえず一周。絶対に全力で走らない。ジョギングのくらいの速さ程度で良い」

「そ、それだけですか?」

「それだけだ」

 

 

 あまりにも普通だった。しかしトレーナーの指示に従わない訳にもいかないメジロマックイーンは、渋々麻真に言われるままにランニングを始めた。

 

 

「貴方もついてくるんですのね」

「俺のことは気にしなくていい」

 

 

 走るメジロマックイーンの後ろを麻真が同じ速度で走る。

 走っているのを後ろからじっと見られている感覚になれないのか、メジロマックイーンは居心地の悪そうな顔をする。しかし麻真は特に気にも止めずに走っていた。

 そして一周を終えてメジロマックイーンがインターバルを入れていると、麻真はポケットからストップウォッチを取り出していた。

 

 

「次、もう一周。自分が一番走りやすい速度を維持して走ってくれ」

 

 

 また一周するらしい。メジロマックイーンは麻真の指示に従うと、位置についてから走り出した。

 自分の走りやすい速度というのがメジロマックイーンにはよく分からないが、自分がいつも練習場で練習している速度で良いと判断して走ることにした。

 先程と変わらずにメジロマックイーンの後ろに麻真がついてくる。

 そして二周目が終わると、今度は先程よりも長いインターバルに加えて、麻真はいつの間にか持ってきていたスポーツドリンクとゼリー飲料をメジロマックイーンに渡していた。

 

 

「これは?」

「水分補給と栄養補給、ちゃんとしろよ」

 

 

 言われるままにメジロマックイーンは麻真から渡されたモノを飲む。そしてインターバルを終えると、彼は次の指示を彼女に伝えた。

 

 

「三周目、今度はタイムを測る。二千四百メートルを一人で自己ベストを越えるつもりで全力で走ってみろ」

「……また走るんですの?」

「さっきまでのはただのアップだ。本番はこれから」

 

 

 麻真の意図の分からない指示にメジロマックイーンが不服そうに顔を顰める。しかし麻真はそんなマックイーンを無視していた。

 

 

「良いから走ってこい。後ろでタイム測ってやるから」

 

 

 そう言われて、メジロマックイーンは三週目を走った。

 ここ最近はタイムは伸びている。麻真から走り方を学び、自己ベストを更新した走りでメジロマックイーンが走る。

 そしてメジロマックイーンが三周目を終えた後で麻真がストップウォッチを見ると、彼は納得したように頷いていた。

 

 

「良し、最後だ。俺と競争するぞ。俺が逃げるからマックイーン、俺を差せ」

「今度は……麻真さんと?」

「良いか、本気で走れよ。本当のレースのつもりで全力で走れ。俺を抜けなかったら……そうだな、俺は今日から一週間はお前と一緒に走らない」

「えっ……」

 

 

 聞いた途端、メジロマックイーンが固まった。もし今から麻真と競争して、負けたら一週間は彼と走れない。それは彼女には死活問題と言えることだった。

 

 

「なら、差せたらどうします?」

「何か奢ってやる」

 

 

 安い対価だった。別にお金に困っているわけではないメジロマックイーンからすれば、特に喜びはない。むしろ負けた時の対価の方が問題である。

 しかしメジロマックイーンは知っていた。トレセン学園の学食には、高額の食べ物があることを。

 

 

「後悔しませんわね。なら学食の特製ハチミツニンジンパフェを所望しますわ」

「……お前、甘いの好きなのな」

 

 

 麻真があからさまに嫌な顔をしていた。

 それもそのはず、メジロマックイーンが言った“特製ハチミツニンジンパフェ”は本当に高額なのである。稀に学食でスーパークリークが食べている姿がある程度で、それ以外に頼む人がいないことで有名である。

 

 

「よろしくて?」

「分かった。それで良い、だから全力で走れよ」

「勿論ですわ。約束を破るのは駄目ですわよ?」

「そんな子供みたいなことするか、まったく」

 

 

 そして麻真とメジロマックイーンが位置につくと、すぐに二人は勢い良く走り出していた。

 二千四百メートルの中距離レースになると、スタミナを消費し過ぎない為のペース配分とレースセンスが求められる。最後にラストスパートを仕掛ける足を残したまま後半まで焦ることなく走り、良いポジションを維持しつつ、最後にラストスパートでトップになる。これが大まかな流れである。

 唐突に始まった麻真とメジロマックイーンの競争。それは自然と他のウマ娘達の視線を集めていた。

 麻真が先頭を駆ける。その少し後ろをメジロマックイーンが追う。

 走りながら、時折麻真が背後を確認してメジロマックイーンの位置を確認。しかしメジロマックイーンは動揺して足を速めることなく、麻真との距離を一定で維持していた。

 二人の距離は三バ身。第二コーナーを曲がって、二人が直線を走る。一向に麻真は速度を落とさない。メジロマックイーンも必要以上に距離を離されないように心掛けて走る。

 そのまま第三コーナーに入り、第四コーナーに入った瞬間――メジロマックイーンは第四コーナーから仕掛けるタイミングを窺うことを意識した。

 

 

(……ここっ‼︎)

 

 

 そして第四コーナーを曲がるタイミングで、メジロマックイーンが速度を上げた。

 加速をする為にメジロマックイーンが足に力を込める。そして彼女は、勢い良く駆け出した。

 メジロマックイーンが加速したことにより、麻真との距離が縮まっていく。三バ身から二バ身、そして一バ身と麻真との距離を縮める。

 残り四百メートル。その時、麻真が更に加速した。

 

 

(――また速くなりましたわっ‼︎)

 

 

 しかしメジロマックイーンも逃げる麻真に離されないように加速する。

 全力疾走するメジロマックイーンだが、麻真との距離が一バ身から縮まない。

 自分は全開で走っているはず、なのに追いつかない。メジロマックイーンは先を走る麻真を見て、心が折れそうになった。

 

 

(――絶対に諦めませんわッ‼︎)

 

 

 だがメジロマックイーンは先を走る麻真に負けじと食らいついた。

 脳裏にあるのは、初めて麻真と会った時のこと。初めて彼と走った時のラストスパートを思い出す。

 必死になって忘れていた。あの時に感じた感覚と、今の走り方は違うと。

 思い出さなけば、メジロマックイーンは僅かな時間であの時の感覚を思い出すと――すぐに身体が動いていた。

 一度だけ、強く足を踏み切る。次から走るフォームを意識。そして次の瞬間――メジロマックイーンは更に加速した。

 

 

「やああああぁーッ‼︎」

 

 

 声を上げながら、メジロマックイーンが駆ける。

 残りは二百メートル。麻真との距離は一バ身から半バ身。そしてメジロマックイーンは彼と並んで走っていた。

 

 

(まだいける! まだゴールは先ですわッ‼︎)

 

 

 そして文字通り全力全開で走るメジロマックイーンは、ゴール手前で――麻真を抜いていた。

 ゴールした瞬間、メジロマックイーンが倒れるように膝を地面につける。荒くなった呼吸、限界まで使い切った足が小さく震えていた。

 

 

「はぁ……! はぁ……! 勝ちましたわっ⁉︎」

 

 

 そして地面に膝をついたまま、メジロマックイーンが小さくガッツポーズした。麻真に勝てたと、心から喜んで。

 麻真はどんな顔をしているだろうか、自分に負けて悔しがってるのか、それとも自分に勝ったウマ娘を誇らしく思っているのか。

 メジロマックイーンが気になって麻真の方を向くと、彼は平然としていて楽しそうな顔をしていた。

 

 

「良し……これで一通り分かった」

 

 

 手に持ったストップウォッチを見て、麻真が楽しそうな顔をしていた。

 予想外の反応だった。全力で自分は走っていたのに、麻真は元気そうにしている。メジロマックイーンはその姿に、キョトンと呆気に取られていた。

 

 

「あの……どういうことです?」

 

 

 メジロマックイーンが麻真に訊くと、彼は手に持つストップウォッチを彼女にぷらぷらと見せながら答えた。

 

 

「改めてお前の能力がどんなものか見てみたかった。何度か走りを見てなんとなく分かっていたが、流石はメジロ家と言ったところだ。メイクデビュー前でこれか……素質は十分、お前は更に速くなれるぞ。今よりも」

 

 

 麻真が疲れ切ったメジロマックイーンに、そう告げる。

 たったの四回走っただけで、麻真は何か分かったような口振りだった。

 しかしそれよりも前に、メジロマックイーンは言わなければならないことがあった。

 

 

「特別ハチミツニンジンパフェ、約束ですわよ?」

「はいよ。全く……あんな高いの選ぶのは性格悪いぞ」

「それは私の台詞ですわ」

 

 

 麻真に奢らせる約束を取り付けて、メジロマックイーンは満足そうに微笑む。

 そんなメジロマックイーンだったが、麻真は疲れた果てた彼女が落ち着くまで待つと、早速彼女に告げていた。

 

 

「マックイーン、お前はしばらく基礎トレだ」

「なっ⁉︎ 約束と違いますわ……!」

「お前の練習メニューとは別の話」

 

 

 そう言われた瞬間、メジロマックイーンの目から光が消えていた。

 

 

「一緒に走れないのですか……?」

「基礎トレ終わってから考えてやる。走れるなら、だけどな」

「なんですか……その言い方……」

 

 

 麻真の意味深な答えに、メジロマックイーンは幸先不安な気持ちになっていた。




読了、お疲れ様です。

気づいたらお気に入り数がとんでもないことになってました。
皆様ありがとうございます。ご期待に添えるように頑張ります。

前回のタイキシャトルと麻真の競争については、ちゃんと後から出ますのでご安心を。

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