こんにちわ…ただ今勝負服姿で瞑想中のイクシオンです。調整は完璧、気力体力も万全…天気は最高…充電満タン…戦闘準備はバッチリです。誰よりも早くターフに来てしまったので、目立たないところであぐらで瞑想中です。スパッツ完備なので見えてません、大丈夫です。
「………」
『〜〜〜』
アナウンスやターフに集まり始めたウマ娘達の声も全てスルーしてただひたすらに闘争心を高めつつ、過度に暴発しないように宥めていく…目指すのは獰猛…イタリアあたりの元警官のギャングが言ってそうなセリフですが、「獰猛、それは爆発するかのように襲い、そして帰るときは嵐のように立ち去る」今回の勝負はこれが理想です。
ゆっくりとゆっくりと、熱く真っ赤に焼けた鉄のような闘争心を切れ味鋭い刃物になるようにゆっくりと研いでいく。それがこの瞑想の役割でもあります。
「…すぅ…はぁ…」
だんだんと深めていけばいつしか音が聞こえてくる。焼けた鉄、私の闘争心を鍛えてくれるその音が。時には細かく、時には力強く間を置いて。そして焼けた鉄を水に浸す音が聴こえる。叩く音、水の音、また叩く音、また水の音…と、繰り返し聞こえてくる。それが10回以上もループする。そして次に聞こえて来たのは研ぐ音…鍛えた鉄に刃をつけていく音。切れ味を確認しながら、何度も何度も。僅かな歪みも許されない、一片の刃毀れも許されない…闘争心を鍛え、鋭く研いでいく。そして、研ぐ音だけで何時間たっただろう。そして、鍛えてくれていた人物が、出来た刃物を鞘らしきものに収め、一気に抜き放つ。そして斬撃が地面から壁に付けられた瞬間に目を覚ます。
「よし…」
以前のレースや皐月賞とはまた違った力の漲り方。触れれば斬られる刃物そのもの…よし、行こう。覚悟はある、戦える。軽くトントンと小さくジャンプした後に、ゲートに入る。
『強めの春風が吹き荒ぶ阪神競バ場、18人のウマ娘の乱れ立つ夢の刃が鍔迫り合います。』
『さぁ、どんなドラマが生まれるのか楽しみですね。瞬きする暇はありませんよ?』
『5番人気からご紹介しましょう、7番 ライジングホッパー。』
『瞬発力と脚の伸びが武器のウマ娘です。』
『4番人気 11番 サクラバクシンオー』
『スピードとパワー、根性が揃った突進力の強いウマ娘です。囲まれた時は強いですよ。』
『3番人気 3番 ウォッカ』
『こちらもパワーとスピードが揃ったウマ娘です、残り200mの差し合いに注目ですね。』
『2番人気 1番 ダイワスカーレット』
『全てのバランスが取れている、全体的に苦手の少ないウマ娘です。周りをどれだけよく読んで冷静に最善手を撃てるかの勝負ですね。』
『1番人気 13番 イクシオン』
『スピード、パワー、スタミナ…どれを取っても見劣りしない、私の最推しのウマ娘です。周りがどれだけ喰らいつけるか、それらをいかに振り切れるかが重要ですね。ダイワスカーレットと同じでどれだけ冷静になれるか、注目ですね。』
アナウンスを聞き流しながら、出走予定のウマ娘が全員ゲートに出揃う。あとは、走り抜けるだけ。
『改めて参りましょう、3番人気 ウォッカ。』
『この評価は不満か、2番人気 ダイワスカーレット』
『さぁ、一番人気はこのウマ娘 イクシオン。』
『全員気合の入った良い顔ですね、好レースに期待です。』
『各ウマ娘、ゲートに出揃いました。』
スタンディングスタートの構えを取る。腰を落とし重心は軽く前のめりに低く。そうすれば前の方の足に自然と力が掛かる。そうすれば意識するのは後ろ足だけで良い。あとはしっかり前を向いて、集中する。
『各ウマ娘、一斉にスタート!』
私の二つ目の戦いの火蓋が切って落とされた。
♢♢♢♢♢♢♢♢
ゲートが開けば、イクシオンは普通のスタートを決める。最初は団子状態だが100mも行けば引き伸ばされて大体順位が分かれる。イクシオンの目の前には…4人。1200付近までは、様子見だ。
『先頭は1番ダイワスカーレット、半バ身差で3番ウォッカ、さらに半バ身差で7番ライジングホッパー。一バ身離れて11番サクラバクシンオー、すぐ後ろに13番イクシオンと続きます。』
『13番が非常に大人しく、良い位置にいますね。これは後続も前方もやりずらいでしょう。』
アナウンスの実況通り、イクシオンのこの位置は前方も後続もやりにくい位置だ。現にバクシンオーやライジングホッパーはイクシオンを見る頻度が高い。それに後続も後続でイクシオンから感じるプレッシャーに押されて仕掛けるタイミングを見失っている。残りは1200m。
そのタイミングでイクシオンの目つき変わり、大きく息を入れる。この時にイクシオンはスイッチを入れ替える。先行or差しの考えから、脚を解放しての大逃げへと。そして、大き過ぎるほど聞こえるその呼吸音は周りを一瞬硬直させるには、十分なインパクトを持っていた。
『おっとここでイクシオン加速!!!』
『展開が早いですね、決着が着くのはそう長くありませんよ。』
「(ちょっと嘘でしょ!?)」
「(マジかよ…!キメに来るの早すぎだろ…!!)」
アナウンスは嫌でも耳に入ってくる、同時に迫ってくる足音も。明らかに前方の四人は動揺が見てとれた。
そのまま一気に脚を解放し、まずはサクラバクシンオーを抜かしていく。さらに大外から直接ウォッカへと差し込む。
ライジングホッパーと競り合う必要は無い、そしてそのままダイワスカーレットの背中をハナ差で捉える。背中から感じるプレッシャーに歯噛みしながら、ダイワスカーレットも感覚で理解する。
「(見なくても分かる…追い、付かれてる…!!)」
『残り800m!イクシオン!先頭のダイワスカーレットをついに捕らえた!このレース展開はどうでしょう?』
『前方4人、掛かり気味かも知れませんね。息を入れて落ち着きを取り戻せるかが肝になりますね。』
「(落ち着けって…どうすりゃ良いんだよ…!)」
嫌でも耳に入ってくるアナウンスにウォッカが悪態をつく。しかしすぐに考えを切り替えようとして自分に言い聞かせる。違う、これは自業自得だ。どこかで甘く見ていたのだ、イクシオンというウマ娘を。そして後悔した。多少のトレーニングを渋ってでも皐月賞での走りを見るべきだった、と。
「(おいおいおい…マジかよ…!)」
一方でライジングホッパーも焦っていた。なにせ、前に戦った時よりも走りのキレやスピードが増している。ライジングホッパーとて、遊んでいたわけでは無い。あのあとすぐにチームカノープスに入り、トレーナーと一緒にスタミナとスピードを重点的に鍛えた。
「(こんな、遠い訳…ないっ…!俺だって…そんなっ…!)」
自身の築き上げたものにヒビが入り、広がっていく感覚がする。無理矢理心を奮い立たせようとするものの、浮かばない…ライジングホッパーの頭に、今のイクシオンを抜かせるビジョンが浮かばない…。差しを狙うにしても、ウォッカが邪魔だしバクシンオーも隣にいる…打てる手は一か八かのみ。
「(嘘っ…なんなの…なんなのっ…!)」
一番プレッシャーを背中で感じているダイワスカーレット。一番かかり気味なのは彼女だった。
おかしい、フィリーズステークスではこんなプレッシャーは感じなかったのに。内心はぐちゃぐちゃだ。フィリーズステークスでは余裕を持って勝てた…もちろんこの桜花賞も負ける気は無かった、ウォッカと競い合いながらトレーナーと話し合いながらトレーニングも積み重ねた。体調も整えた。むしろ絶好調なくらいだ。でも、今まさに感じているこのプレッシャーはそんな調子を捻じ伏せてくる。まるで、獣に追われている気分だ。
『残り600m、第三コーナー曲がります。曲がって立ち上がってきたのはダイワスカーレット、並んでイクシオンだ!』
「(もうここしかありません…!バクシン…っ!!)」
「(ちっきしょう、負けられっかよ…!)」
『おっとここでサクラバクシンオーとウォッカ、前方二人に対して差しに行った!』
サクラバクシンオーとウォッカがコーナーを曲がり切ったところで加速する。加速の始まりはほぼ同時。前方二人に追い縋る形になる。それを見たライジングホッパーも少し遅れて加速。だがサクラバクシンオーにとって、お世辞にも得意とは言えない差し…これで大きくペースを乱したサクラバクシンオーは少しずつスピードが落ち、後ろに下がっていく。差しはウォッカとライジングホッパー。二人はまだ前方二人に追い縋る。
「(落ち着け、俺…!ゼッター油断するはずだ…そこを差し切ってやる…!)」
「(…ダメだダメだ!弱気になるな!あいつらを止められるのはただ一人…俺だ!!)」
♢♢♢♢♢♢♢♢
「なーんて、考えてるんだろうねぇ。」
「トレーナーさん…?」
と、チームの何人かを引き連れてリギルのトレーナーである悟がぽたりとレース展開を見ながら呟く。つぶやきを聞き逃さなかったのはグラスワンダー。
「これどーなるよ、トレ公。多分このままだと皐月賞みたいにビデオ判定だぞ?」
と、今回はヒシアマゾンも同行してるようだ。他のメンバーは日本ダービーやオークスに向けてのトレーニングや調整に入っている。
「ん?多分ビデオ判定にはならないよ。あとー…そうだね、あと3カウントでダイワスカーレットが落ち始める。」
「「え?」」
「3」
「2」
「1」
と、そのまま悟がカウントダウンをすればダイワスカーレットのスピードが落ち始め、ウォッカ、ライジングホッパーと競り合う形になる。そして現在のトップがイクシオン。
「スタミナ切れだね、あの子頭悪いなぁ。」
「トレ公…どういう事だよ。」
「簡単だよ、序盤でペース乱しすぎ。先行のつもりが慣れない逃げっぽい走りになった…いや、逃げにさせられた、かな?だからあと一歩足りなかった、って感じだね。」
最序盤にあの位置につけたイクシオンもイクシオンだけどね、と口元を手で隠しながら体を震わせて笑う悟、周りのトレーナーはその様子にドン引きしている。
「ゴールまでにウォッカと3バ身は付くね。」
そう言ってターフに碧眼を向ける悟、目の前ではイクシオンとウォッカで2バ身半の差がついていた。波乱の桜花賞ももうすぐ幕を下ろす。
♢♢♢♢♢♢♢♢
「(クッソ!!もうあと200mしかねえのに…!)」
「(やっべぇ…!ペース乱しすぎた…!)」
一方、差しに行った二人は差しきれずに歯噛みしていた。距離はもうのこり200mの直線…すでに先頭のイクシオンとは2バ身半離れている。お互いに差せる体力は…出来て一回。
ダイワスカーレットはサクラバクシンオーとライジングホッパーの間、現在4着、ウォッカと半バ身差でライジングホッパー。その二人と2バ身半差をつけているイクシオン。残り200mを切った今、もうここしか無い、だが、差せない…近づけない。
「(ちきしょう…!こんなんじゃぜってー、終われねぇ!)」
意地でもウォッカが差そうとするも、あの真紅の眼光に映されれば足がとたんに動かなくなる。「死ぬ。あれ以上踏み込んだら…殺される。」まるで足がそう言ってるように頑なに回ろうとしない。隣のライジングホッパーも同じようで苦しんでいるようだ。そうこうしてるうちに残り100m。
「「(このまま何もせずに負けるくらいなら…!)」」
死んだ方がマシ、その考え一点で脚を回す…残り100m。二人ともあとのことは考えないようにした。そして前に踏み出た瞬間に二人ともがそれ以上近づけ無かった。代わりに二人とも対して走っていないのに汗びっしょりだ。そして。
『ゴール!!イクシオン、見事に3バ身差で逃げ切りました!』
『鬼気迫るとはこの事ですね、お見事でした。』
『2着はウォッカ、ハナ差でライジングホッパー!一バ身差でダイワスカーレット!』
いろいろとイレギュラーの起きすぎた桜花賞はこうして幕を閉じた。
イクシオンが負けるならどれ?
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菊花賞でライスかテイオー
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秋花賞でダスカ、ウォッカ、ライホ
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有馬記念でルドルフ
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天皇賞(春)でライスかマックイーン