破神の愛馬のお話   作:elf5242

16 / 31
その16

「……っ!?!?げほっ、ごほっ!!?」

 

「ふむ、やはりダメか。」

 

あの夜から2日が過ぎた医務室。現在は医務室責任者のアグネスタキオンさんが原因を調べてくれている。出されたのはお粥…そのまま口に含んでは見るものの、やはり口の中には嫌悪感しか広がらない。すぐさま身体が拒否反応を示して吐き出してしまう。

 

「この二日間、様々なものを試して来たが…唯一受け入れたのは水だけか。」

 

「はぁっ…はぁっ…ごめん、なさい…。」

 

「なぁに、謝る必要は無い。君は患者で私は医師兼研究者さ。言い方は悪いが君はレアなケースだからね。」

 

たっぷりデータは取らせてもらうさ。なんてアグネスタキオンさんはくるりと椅子を回転させて、バインダーに挟んだカルテを持って来る。

 

「まだ仮定の話だが、君の味覚は完全に機能を停止している状態が高い。」

 

「味覚が?」

 

「ああ、どういうわけか分からないが、君の味覚は今全ての機能を停止している。まるで食事は不要…いや、食事という行為自体不要だと言わんばかりだ。」

 

「そんなこと…!」

 

「あり得ないというつもりかい?残念だが、私の座右の銘は『ありえないなんてことはない。』だ。まぁ、君の症状に関しては原因はさっぱりだがね。拒食症とも完全に症状が違う。やれやれ、手探りで少しずつ試していくしか無いね。」

 

「はい…」

 

「頑張れ、なんて言葉は必要無いな。現に君はこの上無く頑張っている。そんな君に追い討ちをかけるような真似はしないさ。」

 

「優しいんですね。」

 

「無駄が嫌いなだけさ。」

 

"さぁ、検証を始めよう。"アグネスタキオンさんの声が医務室にそう響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 

 

 

 

 

 

治療もそうですが、トレーニングも欠かせません。あと5日でオークス、その後に1日置いて日本ダービーです…どちらも強敵が沢山います。特にオークスに出場予定のエアグルーヴさん…そして日本ダービーでわたしにリベンジする為にもう特訓中のトウカイテイオーさん…もちろん二人に負けないために私ももう特訓中です。

 

「ぶ…ぐっ、ぎぃぃぃぃぃ…!!」

 

タイヤ引きの代わりに荷物満載の5トントラックのコンテナにロープを巻きつけ、あまりを自分の腰に巻きつけてひたすら引いていきます。練習場所はもちろんトレーナーさんが個人で用意してくれたあの岩場の練習場…一歩踏み込むたびに蹄鉄が地面にめり込んでくっきりと残ります…たぶんこれで踏まれたら背中抉れるどころの話では無いですね。

 

「はっ…!はっ…!」

 

一度トレーニングを中断して、クールダウンです。身体が冷え切らないように注意しないといけません…。そして水しか飲めないのなら水だけはしっかり飲みます。ついでにアグネスタキオンさんが処方してくれたサプリメント類も一緒に…。食事から栄養が摂取できない以上、こういう薬品類に頼るしか無い、との事…点滴は動きが制限されるためトレーニングに支障が出るのでサプリメントにしてもらった次第です。

 

「はぁ…不便だなぁ…」

 

味覚の件といい、角の件といい…今更ながらに自分の身体に不便を感じて来た…たまに角をドアや壁にぶつけたり、不意に何かをぶつけられたりすると死ぬほど痛いです…。味覚の件はほとんどアグネスタキオンさんに一任しているので進捗状況は彼女にしかわかりません…ただ、私のことだけじゃ無くて他のこともキチンとして欲しいところではありますが…。そして、携帯に何やらメッセージが送られて来る…相手はフジキセキさん…内容は動画…5分と少しの動画。内容はエアグルーヴさんのボタン押しトレーニングのlunaticチャレンジ動画だ。エアグルーヴさんは瞬発力重視のトレーニングをしているらしい。

 

「…よしっ…!」

 

動画を見終われば、また引き続きコンテナ引きを再開する…。とにかく今は足の全体的な強化だ。パワーとスピードの両立を目指しつつ粘れる足…せめて菊花賞に向けてこれだけは完成させないといけない。同時に私の味覚障害も治さないと…そうして暫くトレーニングを続けていると2台の車が入ってくる…一つはトレーナーさんの車…もう一つは屋根にランプのついた…覆面パトカーのようだ。

 

「トレーナーさん、どうしたんですか?」

 

「んー、ちょっと真面目なお話。一度学園に戻ろうかぁ。」

 

「わ、わかりました。」

 

と、トレーナーさんに連れられて学園へと戻る。もちろん覆面パトカーも一緒だ。そして学園の裏手から入りそのまま理事長室へ…そこが一番防音もしっかりしているし、重要な話をするにはもってこいです。もちろん理事長室なので理事長である秋川やよいさん、そして理事長の秘書さんである駿川たづなさんも同席しています。

 

「重ね重ね感謝する、警察の方々。」

 

「いえ、これも我々の仕事です。」

 

理事長さんに挨拶した後はわたしに警察手帳が向けられます。目の前には恰幅のいい茶色いスーツと帽子を被った男性警官とダークグレーのスーツを着た男性警官だ。

 

「捜査一課の目暮です。」

 

「同じく高木です。」

 

「どうも…」

 

と、二人の警官にお辞儀をする。なんでも私に話があるようなので同席させてもらう…しかし、理事長さんとたづなさんはあまりいい顔では無い…。

 

「五十嵐トレーナー…?」

 

「わーってるよ。僕も止めたんだけどあちらがどーしてもって聞かなくてさ。だから、本人が出す条件を全て飲めるっていうなら話をしてもいい、そういう条件を出した。ふぅっ。」

 

と、トレーナーさんが耳垢を指で穿りながらたづなさんと話します。警察の方々…要件は以前の薬物騒動の事でしょうか?

 

「大事な時期なのに本当に申し訳ない…しかし、君にも大きく関わりのあることなんだ。」

 

「はい…それで、一体なんでしょうか…?」

 

「数ヶ月前に起きた児童養護施設放火殺人事件のことだ…貴女は当事者だから、伝える義務があると思いここに参りました。」

 

「ッ!…分かりました…。」

 

正直にいうとあまり気分は良く無い…みんながバラバラになって、私がトレセン学園に来る元凶になった事件でもあります。

 

「その事件の犯人なんだが、先月逮捕されている。」

 

「……!!…そう、なんですね…」

 

犯人は逮捕されたんですね…新しい被害者出ずに無事に逮捕されてホッとしている。あんな思いをするのは私達だけで十分だ…いや、この言い方は良く無いのかもしれないが…。

 

「だが、問題が出てな…。」

 

「問題…?」

 

「その犯人なんだが…君を同席させないと何も話さないと黙秘を続けている。そして、君にお願いがある…今度その容疑者の取り調べがある…そこに君の同席をお願いしたい。」

 

黙秘…?証拠も揃っていて逮捕なのに…?今更黙秘する意味がわからない…そして、なんで私を…?

 

「…分かりました、ただ…いくのは日本ダービーが終わった後です。そして…犯人って誰なんですか?」

 

「………」

 

どうしても疑問に思ってしまったため、警察の方二人に聞いてみる…そして渋い顔をして顔を見合わせた二人の警官…。そんなに、いいにくい人なんだろうか…?だとしてもある程度の人なら受け止める覚悟はある…。

 

「…聞きたいかい?」

 

「……はい。」

 

「分かった…」

 

「警部…!」

 

「高木君、ここで誤魔化しても遅かれ早かれ彼女は気付く。…から、ここで覚悟をさせておいた方がいいだろう。いいかい…?この顔に見覚えはあるかな…?」

 

恰幅のいい男性警官が写真を取り出し、テーブルに置く。その写真を見た瞬間に私の思考は停止した。

 

「は……?」

 

血の気が引く、訳が分からない…どういう事?思い切り動揺する。うまく声が出ない…血の気が引いて寒いのに汗が出てくる。

 

「…待ってください…」

 

「なんで、先生がシスターを殺すんですか…?」

 

写真は、トレセン学園にくる前に私の通ってた学校の担任だった。

なんで…?なんで?…なんで、なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで…?

 

「はいストップ、ここまでだ。お引き取り願ってもいいかな?彼女も言ってたように、条件は日本ダービーが終わった後だ。」

 

「わかりました…失礼します。」

 

と、トレーナーさんの鶴の一声で警官二人は出ていく。だけど、もう訳が分からない…。

 

「ごめんなさい…失礼します…!!」

 

そのまま理事長室を出ていく、ごめんなさい…今は、誰とも会いたく無いんです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 

 

 

 

理事長室から逃げ出して自室へ…。結局トレーニングも行かずじまいになってしまった…。けどいまだに先生が犯人なんて信じられない…だが、調べれば調べるだけニュースの動画やまとめサイトなどがたくさん見つかり、真実味が増してくる。

 

「はぁ…」

 

何度も携帯を消してはサイトを再度読み込み、突き付けられる真実に落胆する…。何か先生に恨まれていたのだろうか…。私が何か悪いことでもしたのだろうか…。

 

「お腹すいた…」

 

そう呟いてみるものの、固形物は拒絶反応で食べられない…となると、現在部屋に大量にあるミネラルウォーターくらいしか口にするものがない…。とりあえずミネラルウォーターを一本取り、サプリメントと一緒に半分ほど一気に飲む。

 

「寝よう…っ、とと…」

 

全て済ませた後は、寝る準備を始める…時間も時間だしトレーナーさんには明日の朝一番で謝っておこう…。そして寝る準備を始めようとしたときに手が当たってしまい目覚まし時計を落としてしまう。床に落ちた目覚まし時計は電池のカバーが外れ、電池も外に飛び出してしまう。

 

「あーあ…ついてないや…」

 

と、落ちた目覚まし時計を拾う。本体とカバーを拾い上げた後に電池も拾い上げようと電池に触れた瞬間にピリッと静電気のようなものが走り、一瞬の間を置いて、何が流れ込んでくる。

 

「……ッ…!〜〜〜っ…はぁ…」

 

大体10秒と少しだろうか…久々に満足感を感じた。美味しいものをお腹いっぱい食べたような、あの時の満足感を。

だけど、同時に恐怖感も感じた、これはダメな満足感だ…だって、だって…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんでこんなにも美味しいんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンディション【依存症】を獲得。

 




やる気
不調→好調
コンディション
"プラス" 戦闘狂
"マイナス"依存症

達成目標
メイクデビューに出走 【達成】
スプリングステークス、フィリーズレビューで3着以内 【達成】
皐月賞、桜花賞で1着 【達成】
日本ダービー、オークスで1着
秋華賞、菊花賞で1着
天皇賞春で2着以内
宝塚記念に出走
天皇賞秋で1着
有馬記念で2着以内

改めて見返してレース描写が単調気味になってきたと思うこの頃、どう思いますか?

  • このままでも、ええねや。
  • 勉強してこい、ボケナス
  • ポチンキ()
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。