ファンファーレが鳴り響く東京レース場…本日はオークスの日。トリプルティアラの二つ目…これを目標にしているウマ娘も多いだろう。実際、大抵のトレーナーはオークスを山場として見ている者もおおい。
「……っ、んんっ…!っ、はぁっ…はぁぁぁ…」
控え室で手にしているのは電池、大きさは単三…コストパフォーマンスは悪いし、何より…依存しかけて…いや、依存している…しかし、現状エネルギー補給の唯一の方法がこれしか無い。そして、今日はエアグルーヴとの真剣勝負だ。イクシオンにとっては公式戦ではじめてのチームメイトとの争いになる。前日の新聞の一面も、『女帝と雷馬、相見える』なんて書かれている。
「…よし…大丈夫。この前のことはこの前のこと…今日の事は今日の事だ。」
電池に頼る罪悪感を覚えつつ、一昨日に起きた出来事も尾を引いているがそんなことには今は構ってられない。真剣勝負で尚且つ自身の目標の一つなのだ。個人的な問題による不調は全部自己責任だ。
「よし、行こう…!」
そうしてエネルギー補給を終えて控え室からターフへと向かっていく。角は五十嵐トレーナーがなんやかんやであーしてこーしてさよならベイベーでなんとか見えなくして貰った。
『力、貸してやろうか?』
「いい、今日はあくまで"私"とエアグルーヴさんの真剣勝負…貴女は関係無い…寝るんでしょ?早く寝たら?」
『お前は私で私はお前、お前の勝負は私の勝負でもある。見ていたが、正直負けるのは気に食わん。』
「…じゃあ、手は出さずに大人しくしてて。」
『はっきり言うが、奴はお前より一回り上だぞ?お前が勝てるとは思えんなぁ。』
「それでもやる…勝たなきゃ、夢に辿り着けない…!」
『はっ、なら高みの見物と洒落込もうか。』
と、もう一人のイクシオンは引っ込んだようで少しだけ疲れた顔をして。そして両方の頬を叩く、そして再び歩み始める。
「よしっ…!」
ところ変わって、ゲートの近く。すでにエアグルーヴはゲートインしており腕組みをしてその時を待っている。そして、周りの空気感が変わる。
「…来たか。」
今回の1番の強敵の姿を視認すれば、そう呟く。模擬レースは散々やって来たが、こうして公式戦でイクシオンと戦うのはエアグルーヴが最初だ。そしてイクシオンが隣のゲートに来る。
「私は、貴様が何者だろうと一向に構わん。」
ゲートの中で真正面を向きながらそう言う。実際問題エアグルーヴにそんな事は関係無い。例え何者だろうが、目の前にいるのは同じウマ娘で、チームメイトで、ライバルだ。
「だからこそ、私たち全員を下し…会長の元へとたどり着いて見せろ。」
イクシオンがその言葉を受け取り、何も言わずに大きく頷く…エアグルーヴも顔を見ようとはしない。今は優しさはいらない…必要なのは、お互いの全身全霊。
「時間だ、始まるぞ。」
「はい…!」
そのやりとりののちに、東京レース場にファンファーレが鳴り響いた。
♢♢♢♢♢♢♢♢
『澄み渡る青空の下の東京レース場、18人のウマ娘が鎬を削ります。』
『どのウマ娘も並以上の強敵が勢揃い、一番白熱するオークスとなるでしょう。』
『では、人気順を昇順で紹介していきましょう。』
エアグルーヴさんに、彼女なりの激励を掛けられ、ファンファーレが終わった後は人気順に紹介されるアナウンスが始まる。
『5番人気 4番ダイワスカーレット。』
『桜花賞では悔しい結果に終わりましたが、しっかりと仕上げて来たようです。良い顔つきですね、好レースが期待できそうです。』
『4番人気 1番ウォッカ』
『こちらも桜花賞では惜しい結果に終わっています、前回よりも差しのキレが上がっているという事なので、期待したいですね。』
『3番人気 13番イクシオン』
『今回の三強のうちの一人です。ティアラ三冠の一番の正念場です。日本ダービーも控えているという事なのでここで勝利できれば大きな足掛かりとなるでしょう。今日はどんな走りを見せるのか期待したいですね。』
『2番人気 7番サイレンススズカ』
『今回の3強のうちの一人ですね。チーム移籍を果たしてから逃げのキレが増しています。復帰してからはじめての大きな山場のレース、また全てを置き去りにする走りが見れるのか、注目です。』
『1番人気 12番エアグルーヴ』
『今回の主役と言っても過言じゃありません。シンボリルドルフに次ぐ威厳と実力、女帝が雷馬と逃走者を下すのか…このウマ娘に対して瞬きは禁物です。』
紹介が終わればほぼ全てのウマ娘達がゲートに入る。後は今か今かと始まるのを待つばかり…。
『では改めて紹介していきましょう。
虎視眈々とティアラへのリーチを狙います、3番人気イクシオン。
復帰戦での大きな山場となります、逃げ切れるか?2番人気サイレンススズカ
今回のレースの主役、眼中にあるは優勝のみ1番人気エアグルーヴ 』
『みんないい顔してますね、皐月賞のような激戦に期待です。』
『各ウマ娘、出走準備整いました。』
全員が構えると、あたりの風が凪ぐ…。そして背中で感じる微風…大きな追い風の予兆…一瞬の間を空いた後に背中に追い風を感じた瞬間、ゲートが開く。
『各ウマ娘、一斉にスタート!』
『いい追い風も吹いています。これは良いレースになりそうです。』
『先頭は7番サイレンススズカ、頭差で12番エアグルーヴ、さらに頭差で13番イクシオン。すぐ後ろに1番ウォッカ、4番ダイワスカーレット。そのすぐ後ろに15番ライジングホッパー、3番スーパークリークと続きます。』
全員が追い風の影響を受けたのか、いつもより足が軽い…だがあまり飛ばしすぎてもダメ…いまはゆっくりと足を残す。しかし、先頭を見失わないように、いつでも追いつけるように。
『400m地点を通過、差は縮まりつつあるものの順位は大きく変動していません。』
『まだ序盤です、戦闘集団のほとんどが様子見を選択していますね。』
『先頭は以前、サイレンススズカ!』
『追い風も相まって逃げの脚にキレがありますね。掛かりだけに注意したいところです。』
「今回のレースは、サイレンススズカの勝ちだろ。」
「雷馬にも女帝にも残念だけど、今回のオークスはスズカが楽なレースだよ。」
なんて、そんな声が観客席から聞こえて来るがおそらく実際は違う…サイレンススズカさんは多分、逃げさせられてる。内心サイレンススズカさんもこの状況は良く無いと思ってるだろう。楽なレースだと思ってるのは傍観者の発想だ。得意なレースなはずなのに、強いられている…とは精神的に少し来るものがある。そしてもうすぐ800m地点。
『800m地点、先頭集団と後続の差がはっきりとして来ましたね。』
『先頭集団は、サイレンススズカ、エアグルーヴ、並んでイクシオン、ダイワスカーレット、ウォッカ、そのすぐ後ろにライジングホッパー、スーパークリークと続きます。』
『先頭集団は現在七人…果たして誰が先に抜け出すのか…!?』
それぞれがそれぞれを牽制し合いながら、1200m地点を通過する。内側のインコースにいる私は前のエアグルーヴさん、そしてすぐ後ろにいるダイワスカーレットさんの牽制を受けており、なかなか大外に出れない…何処かで抜け出したいところなのだが、いかんせんかな囲まれてる状況で抜け出すのは難しい…。けど、残り1200…いわば折り返し地点だ…足を解放するには十分だろう。
「…すぅぅぅっ…!」
抜け出すために、私は思い切り息を吸い込んだ。
♢♢♢♢♢♢♢♢
「さぁて、二人ともどう出るかなぁ?」
少し時間を巻き戻して800m地点の観客席、全貌を確認するために一番上の席にいる五十嵐。そしてその隣には生徒会長、シンボリルドルフと同じく生徒会のナリタブライアン…そしてその前の席にグラスワンダー、テイエムオペラオー、エルコンドルパサー、タイキシャトル、フジキセキ、ヒシアマゾン…そして新たに五十嵐がスカウトしたライスシャワー…と、リギルの面々が揃っている。
「ドルフ、誰がどこで仕掛けると思う?」
「ほぼ同時にエアグルーヴとイクシオンが仕掛けるだろう。サイレンススズカもここで恐らく仕掛ける、いや、勝つためには仕掛けざるを得ない。」
「だろうねぇ…ねぇ、ナリタ〜。君はどう思う?」
「800m地点で先頭集団から抜け出して三つ巴。その後は知らん。」
「ま、展開的にはほぼほぼおんなじだよねぇ…ダイワスカーレットもウォッカもポテンシャル的には十分だと思うんだけど。」
と、リギルの面々と話しつつレースの行く末を観戦する。みんなそれぞれ真面目そうな表情だったりしながらエアグルーヴとイクシオンを観察していく。
「…イクシオンが周りを見始めたね、そろそろ来るかな?」
ニヤリと笑いながら五十嵐がそういえば、イクシオンが息を入れる。そして3名が動き出す。
「さぁ、始まるよ。」
腕組みをして先頭集団を見渡した五十嵐がニヤついた顔でそう言った。
♢♢♢♢♢♢♢♢
そして時間を戻して、ターフの上。残りの距離は1200mの折り返しを過ぎた直後。イクシオンの息を入れる呼吸音に耳と身体を反応させたウマ娘が二人。エアグルーヴとサイレンススズカ、この二人だ。聞こえた瞬間にはもう、脚のギアを上げていた。そして、一瞬遅れてイクシオンも脚のギアを上げる。そうして先頭集団から三人が抜け出す。
『先頭集団から抜け出した!サイレンススズカ、エアグルーヴ、イクシオン!!その三人に後続も喰らい付いていきます!』
「(やはりこの三すくみ…ここからは勝負するのみだ。)」
エアグルーヴもサイレンススズカも目だけ動かして周りを確認したならそれからは一切他を見ない。見るのは前だけ、取るのは1着のみ。
「(胸も痛い…けど、まだいける…まだ上げれる…!)」
息を肺の限界まで入れたイクシオン、胸にはズキリとした痛みが走り、頭の中にはすでに心臓の鼓動音の他にも血管が脈打つ音がうるさいくらいに響いて来る。それでも脚は止めない。今イクシオンの頭にあるのは、この目の前の二人に…勝ちたい。自分の力で。それは夢の為でもあり、それが今、自分がやりたい事だ。
『のこり600メートル、最後の曲線を抜けて来るのは誰だ!?』
そのまま三人でカーブを曲がっていく。視界の端には二人が僅かに映る。つまり、私が三人の中で一番最後尾だ。あまり、良い気分では無い…もっと、もっと脚を回せ、私。まだ、まだいける。コーナー出口で前傾姿勢気味になりながらさらに加速する。同時に思い切り息を吐き出し、肺の中を空っぽにする。
『さぁ、最終コーナー曲がって上がってきた!三人ほぼ同着!並走している!』
『この三人の中で誰が如何に意地を通せるかですね。瞬き厳禁ですよ。』
なりふり構ってられない…この二人に勝つには私の全部を振り絞るしか無い…アウトラインも何もかも後回し。加速の際に空っぽにした肺の中に無理矢理息を詰める。いまは全部を掛けて、サイレンススズカさんに…エアグルーヴさんに…勝つ…勝ちたい…!!
『残り200m!最後の直線だ!!エアグルーヴか!サイレンススズカか!イクシオンか!』
直線ならもう前を見る必要すらない…前のめり気味に体重を掛けながら、耳を伏せ、目を伏せる。後はまっすぐゴールまで走るだけ。空を切り、風を蹴散らす。さらに一段と強い追い風が吹く。背中を押してくれる。
「…っ、ぁぁぁああああああっ!!!」
肺の中の空気を1cc残らず吐き出す、いや、肺の中だけじゃ足りない。余分な空気は全て吐き出せ。スタミナもとっくに全て吐き出した…なら、あとは気力だ。何もかもを全て吐き出せ。
『ゴール!!!先頭集団三人が今同列でゴールいたしました!これよりアルティメットスローカメラによる映像審議を行います!』
そのままゴールまで辿り着く…伏せていた耳を起こして、アナウンスを聞く…また映像審議…。ゆっくりとスピードを落としながらスクリーンを見る…が、文字通り今ある全てを絞り出した…段々と上から暗闇が降りて来る。
「(まだ…まだ…あと、少し…)」
落ちて来る暗闇になんとか耐えようとするものの、もはや精も根も尽き果てた…。これ以上はダメだ…。
「(…あっ…これ、ダメだ…)」
そのまま、ゆっくりと私の身体は倒れた。芝に倒れたのかは分からない、倒れる前に私の意識は深く沈んでしまったから。
改めて見返してレース描写が単調気味になってきたと思うこの頃、どう思いますか?
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このままでも、ええねや。
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勉強してこい、ボケナス
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ポチンキ()