『燦々たる日差しが降り注ぎ、晴々とした気持ちを与えてくれる今日、この東京レース場にて18人のウマ娘達が互いの意地と意地をぶつけ合います。』
『パドックに続々と集まってくるウマ娘たち、人気昇順に紹介していきましょう。』
『18番 ウゾダドンドコドン 18番人気です。』
「ウゾダドンドコドーン!」
アナウンスからの紹介で始まった日本ダービー。鍛えに鍛えた百戦錬磨のウマ娘達が意地と意地をぶつけ合う場所でもある。なお、7番人気から下のウマ娘達は、18番を見て…「アレに負けたら恥だ。」という共通の見解と認識を持ったらしいのはナイショの話。
『さぁ、ここからの人気順にほぼ差はありません。』
『7番人気、エルコンドルパサー』
『力強い踏み込みが光るパワー自慢のウマ娘です。先行の脚質が似合う、力強い走りが見れるか注目ですね。』
『6番人気、スペシャルウィーク』
『中長距離で光る粘り強い末脚が武器のウマ娘です。先頭に対してどれだけ差しにいけるか乞うご期待です。』
『5番人気、ナリタタイシン』
『差し、追い込みが得意なウマ娘の中でも一際キレの鋭い追い込みと差しを見せてくれるウマ娘です。先頭になったウマ娘は常にこの子に気を配らないといけませんよ。』
『4番人気、テイエムオペラオー』
『スピードとスタミナに優れた前での争いに強いウマ娘です。仕上がりも完璧なので競り合いでこのウマ娘に勝つのは困難を極めるでしょう。』
『3番人気、ビワハヤヒデ』
『スピード、スタミナ、パワー、賢さと全てが高水準で纏まっているウマ娘です。賢さに裏打ちされたレースには並のウマ娘では太刀打ちできないでしょう。』
『2番人気、イクシオン』
『幅広い脚質と気質を有した、万能なウマ娘です。皐月賞、オークスで見せてくれた激戦に期待ですね。特に今回は有名どころ多数…瞬き厳禁ですよ。』
『1番人気、トウカイテイオー』
『言わずと知れた人気のウマ娘です。皐月賞でのデッドヒートには誰もが息を呑みました。一番人気を背負ってこの日本ダービー、勝ち抜けるのか。』
ウマ娘達の紹介が終わればそれぞれがアップを終わらせた順にゲートに入っていく。私、イクシオンはいつもの通り13番。なにかとつけて私は13番らしい…。そして、心の中には先のことに対しての迷いはまだ少しある…。
「……ダメダメ…今は考えたらダメだ…うん、ここはターフ…余計な事は今は考えない…!」
と、半ば無理矢理に近い形で自分の心をレースに向けさせて奮い立たせる。ゲートに入れば最後、何も言い訳は通用しないのだ。レースにやり直しは効かないのだ。それに、自分は負けられない理由が…ある。と気持ちを引き締める。
「よし…行こう…後のことは勝ってからだ。」
両方の頬を手のひらで叩いて気合を入れ直す。良く無いことは後ででも構わない。今はまずはレースが優先だ。一度悪い事やマイナスな要素は心の底に押し込める。この場に居なくてもテレビ越しでも良い…動画サイトの切り抜きでも、なんでも良い…遠くにいる弟妹達にこの姿が、自分が勝つ瞬間を見せられる…そのためならどんな代償だって払う。手放したくないものはどれ?もちろん大事な弟妹達に決まってる…その為に私はここまで来たんだ。そのままゲートに入ればアナウンスが鳴るまで瞑想する。
『苛烈になるであろう日本ダービー、18人のウマ娘が火花を散らします!』
『今回の評価は少し不満か?3番人気 ビワハヤヒデ』
『三冠にリーチをかけられるか?2番人気、イクシオン』
『今日の主役を紹介しましょう、1番人気、トウカイテイオー』
『さぁ、みんな良い顔してますね、好レースに期待しましょう。』
『さぁ、各ウマ娘出走準備整いました。』
さぁ、始まる…此処が正念場だ。いこう、風を切って。
『各ウマ娘一斉にスタート!』
そのまま、一斉にスタートする…もちろん出てくるのは7人。最初の400メートルではっきりと分かってくる。
『400メートル地点を通過、現在一位は6番ビワハヤヒデ、一バ身離れて4番トウカイテイオー、そのさらに半バ身で7番テイエムオペラオー、頭差で13番イクシオン、10番エルコンドルパサー、1番スペシャルウィーク、直ぐ後方に9番ナリタタイシンと続きます。』
距離にはまだ余裕がある、少し周りを見てみる。今回のレースは右回り…つまりは時計回りだ。右にはフェンス、左はスペシャルウィークさんとエルコンドルパサーさんで固められている…後方ではナリタタイシンさんが少し距離をあけながらも鋭い視線を送ってくる…仕方ない、これは一度抜けようと足を回そうとした瞬間に予定していた進路をテイエムオペラオーさんに塞がれる…まずい…これは…。
「(囲まれた…!?)」
しまった…いつも前に抜けるレースばかりだったせいで囲まれることに慣れていない、大抵は囲まれる前に抜けるが…模擬レースを繰り返したおかげか、私の抜ける常套手段が全て潰されてしまった…。
『おっと、13番イクシオン…囲まれてしまった!!』
『ちょっと掛かり気味になっているかもしれませんね、うまく抜けれると良いのですが。』
なんとか抜けるルートがないかと周りを見るも完全に左側は固められてしまっている。無理に抜けようとしても接触事故になるのがオチだ…まずい、囲まれて固められたままのレースがここまで精神的に来てキツいものだとは思わなかった。アナウンス通り、ペースも少し乱れて掛かり気味になってしまっている。だが泣き言を言っても現状は変わらない…。
「(前や横に抜けれないなら…)」
足を貯めるために一度大きく足を落とす…また倒れることになるかもしれないけど…それでも良い、此処を含めて後三つ…負けるわけにはいかない…。うまい具合に足を落とし続けて、ナリタタイシンさんの肩甲骨あたりが見えるまで下がる。よし、此処だ。
「はぁっ…すぅぅぅぅぅっ…!」
一度肺の中の空気を全て吐き出した後に、もう一度大きく吸い込む。日本ダービー前からトレーナーさんに言われた私の武器…他の子よりも丈夫な肺…そして肺活量による瞬間的な爆発力…。酸素を取り込めば取り込むだけ、運動能力は増す。けどこれは諸刃の剣…。新鮮な空気が肺の中いっぱいに入り込んでくる。視界も思考もクリアになる、心臓がさらに動く、鼓動が高鳴る、血液が加速する…いける。この瞬間だけ私は、迅雷になれる。
「シッ…!」
短く息を吐き出しながら加速する。目的はもちろん、大外から回り込む事。そんな私に並走するように右側に並んできたのは、エルコンドルパサーさん。どうやらチームメイトには手の内はバレていたらしい。
「(オペラオーの前に私と戦ってもらいマース!!)」
そのまま並走して、800メートル地点…そろそろエルコンドルパサーさんを振り切らないと不味い、それにナリタタイシンさんも上がってきた。前ではテイエムオペラオーさんが、ビワハヤヒデさんが、トウカイテイオーさんがいる。
「(…まだ遠い…距離はあるけど悠長にはしてられない…全部出し切ってやる…後のことなんて、考えてられない。此処で勝たなきゃ、意味が無い…!)」
足を回したときに空いた肺にさらに空気を詰め込む。肺が軋む、血管が揺れる、心臓が痛む。それでも構わない…あの日常をもう一度過ごせるならいくらでも酷使し続けてやる。だから。
「邪魔…するなっ…!」
絞り出すようにそう言えば限界まで脚に力を込める。一度大きく力強く踏み込む、芝に足跡をつけるくらいに。そして、一気にさらに加速してエルコンドルパサーさんを振り切ろうとする。何も考えてない、ただただ今を勝つためだけに全てを振り絞る。
「(先の事は知らない…!今はこの目の前を必ず取る…!絶対取る!!)」
骨と筋肉が悲鳴をあげているのが聞こえる。本当にごめん、でもまだ待って。折れないで。あと…あとたった1400メートルなんだ。
『"それ以上絞り出せば、お前死ぬぞ。"』
頭の中で声がする。もう一人の私が話しかけてくる。
「(そうかもね。でもあの子達が一人でも悲しんでるままなのはもっと嫌だ。)」
『なら死んだほうがマシだと?』
「(そう、だね…あの子達が悲しんだまま過ごすなら死んだほうがマシ。)」
『"お前が死ねば、さらに奴らは悲しむだろう…まったく、自らの愚かさに命まで賭けれるっていうのか。"』
『"それが
『"面白い、ならば私も其れ相応のものを賭けよう。ただし、必ず勝てよ?私達は…いや、お前は破神の愛馬だ。負ける事は許さん。"』
そういえば、私にビリッと電撃が流れる…固まっていた筋肉が解れる…これでまたさらに走れる。
『"私はお前でお前は私…勝つぞ。"』
うん、勝とう。さらに加速する。会場から驚きの声が上がり観客席がざわめき始める。
『13番イクシオン、速い!加速する!加速する!加速する!』
「(あははっ、流石デース…。今回は完敗したデース…)」
あいも変わらず心臓は痛いし、肺もキツい。でも口元が思わず緩む。そのくらい身体が軽い。オペラオーさんのさらに前、ビワハヤヒデさんとトウカイテイオーさんの二人の背中を視界に捉える。でもまずは目の前のオペラオーさんだ。
「(エルコンドルパサーは撒かれたか…良く此処まで上がってきた。さぁ、僕と華麗な舞台の上で踊ってくれますか?)」
『"電流と電圧を上げる、一気に抜き去れ。お前になら出来る。"』
「(うん、一緒に勝とう!)」
『"当然だ。ほら、行くぞ。"』
『速い速い速い!イクシオンも加速する!テイエムオペラオーも加速する!触発されて前の二人も、後ろの3人も加速する!』
全身に電気的な刺激と痛みを感じた後にさらに加速する。そのあとはオペラオーさんとの差し合い、抜き合いになる。お互いに螺旋状に軌跡を描きながら抜いては抜き返してを繰り返す。残りの距離は1200m…。ここで、決める。
『"行くぞ、絞り出せ!"』
「(もちろん!!)」
さらにもう一度の電撃が身体を走る。歯を食いしばりながらそれに耐える…けど口元は笑ったまま…そう、楽しいのだ…どうしようも無くこの状況が。
「(オペラオーさん…勝たせて、貰います!!)」
前に踏み込むと同時に身体を屈めながら前に倒し、体重を全て前に前に押し出すようにする…足が追いつかなければ即転倒…大怪我にも繋がるが加速力は得られる。そして、加速する前に肺の中の空気を入れ替える…心臓も肺も痛いけど、大丈夫…。まだ走れる。あと3人を1200メートル以内に抜かす…。大丈夫、出来る!思考は再びクリアになる。視界も良好…行こう!
『"我、不迷"』
そう聞こえた瞬間にはもう駆け出していた。もう前だけしか見ない。耳は伏せて閉じる。聞く必要はないから。そのまま走り続ける。前には二つの影…オペラオーさんは、抜かした…なら、あと二つ…!ビワハヤヒデさんとトウカイテイオーさん…どちらがどちらの影かなんてのは…どうでも良い、二つの影を私の視界から消せば良いだけだ。
『〜〜〜〜!ーーーーーっ!!!』
耳を伏せているからアナウンスが何を言ってるのか聞こえない…いや、行く気もない。距離を気にする必要はない。カーブを曲がったならあとは直線…直線なら、もうあとは全部を吐き出す。最終コーナーを抜けて、最速で立ち上がる…。二つの影が並んでくる…。もう少し、もう少し!!
「あと、ひとりぃぃっ…!!」
絞り出すようにそう言ったためか、周囲には聞こえていないだろう。もう、アナウンスも観客の声も区別がつかない…でも良いんだ。影は残り一つ。それももうすぐそばだ。段々とミリ単位で近づいてきて…そして後ろに流れていく。けど一度止まって、そしてまた前に影が競り上がってくる…それをまた後ろに流そうとする。そして無我夢中で走り続ければ。
『ーーーーっ!!』
耳を閉じたままなので何も詳しくは聞こえない、歓声なのか悲鳴なのか…そのまま段々と力が抜けていく。視界が歪む…そしてそのまま全身に激痛を感じたと同時に目の前が真っ暗になった。
改めて見返してレース描写が単調気味になってきたと思うこの頃、どう思いますか?
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このままでも、ええねや。
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勉強してこい、ボケナス
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ポチンキ()