『どんよりと重い雲が覆う空の下、18人のウマ娘が死力を尽くして競い合います。』
本日の天気は曇り、雲の多さから後もう一足あれば雨が降り出すといったところ。そんな天気の中このレースを目標に定めてきた18人のウマ娘達が鎬を削るために次々とターフに入ってくる。
『それでは各ウマ娘紹介しましょう。虎視眈々と狙います、本日の3番人気 5番 フジキセキ。』
『この評価は少しばかり不満か?2番人気、4番 サイレンススズカ。』
『スタンドに押しかけたファンの期待を一身に背負い、11番 エアグルーヴ 一番人気です!』
『さぁ、各ウマ娘スタート準備整いました…!』
全員がゲートの中に入り、出走の準備が整う。今から走るのが楽しみな顔、負けられないという強い覚悟が宿った顔、漸く誰かと走れるとそんな期待のこもった顔…みんながそれぞれの顔をしていて…。
そして空を覆うどんよりとした黒い雲から、光が発せられる。まるでカウントダウンをしているかのように二回、光った後に…。
『各ウマ娘、一斉にスタートしました!』
避雷針に落雷が一つ落ち轟音がなったと同時にスタート、そして100m過ぎたころには霧雨が降り始める。この霧雨と言うのがいやらしいところだ。これが気になるようなら、集中出来ていない、と言うことになる。
『200m通過、現在先頭は4番サイレンススズカ、そのすぐ後ろに5番フジキセキ、並んで11番エアグルーヴ、1バ身離れて9番ダイワスカーレット、並んで7番ウォッカ、クビ差で大外から13番イクシオンと続きます。さらに1バ身離れて、16番ライジングホッパー。』
現在は200mから300mの間、まだそれほど差も無くと言ったところだが、後100mもすればその差はくっきりと出て来るだろう。
『400mを通過!サイレンススズカ!先頭を進む、が、後ろも気にしている様子。これはどうでしょうか?』
『後ろの方で大人しくしている子も沢山いますからね。特にオークスでしてやられたイクシオン、ハナ差とは言え差されたエアグルーヴ、復帰戦山場のフジキセキに最も警戒を置いているかもしれませんね。』
と、一通り解説が終わればこの秋華賞の重要なファクターとなる出来事が起こる。それはほんの小さな、音。
「すぅ…!」
「「「「「(…っ!!)」」」」」
400メートルを過ぎようとしたところで、大きく息を吸う音を前方のウマ娘たちは聞き逃さなかった。聞き取れたのは前方集団のウマ娘、そしてその中の半分のウマ娘がギアを上げ始める。そしてもう半分は訝しむ。
「(らしくない小細工だな…)」
「(来ないね、やるじゃないか。)」
「(やっぱり…)」
特にすぐに気付いて今のこのペースを守り、拮抗状態を崩さなかったのはこの3人。サイレンススズカ、エアグルーヴ、フジキセキ。理由は簡単。ここで仕掛けるメリットがあまりにも無さすぎる。もし失敗すれば悪戯にスタミナと脚を削っただけになる。狂気の沙汰ほど面白い、というウマ娘であればまた話は別であろうが。
「(流石にあの3人に小細工は通用しないか…)」
ちょっとしたフェイントを仕掛けたイクシオンだが、前3人に聞かないことは予想していた。そして、騙された数人もすぐに自分のペースに戻していく…が、ある程度脚は削れたはず…。
「(実験的な意味で仕掛けたけど、失敗したな…もう使えない…もうちょっとベストなタイミングもあったはず…これは私の経験不足だ。)」
と、ちょっとだけイクシオンが顔を顰める。だがすぐに表情を戻す。まだ、まだ仕掛けない…ゆっくりと、ゆっくりと足を溜めていく。チラリと左側を見ればウオッカも同様のようで。
「(いつまでも悠長にしてられない…ならっ…!)」
そして600メートル地点でレースが動き始める。思うように埒を開けようとギアを上げたのは、ダイワスカーレット。それに触発されるように周りのウマ娘も一段階ギアを上げていく。もちろんそんな中このウマ娘が黙っているわけがない…。
「すっ…ふっ…!」
みんながギアを上げたなら自分も上げる…ただしみんなの倍は上げるが、と言わんばかりに、イクシオンは周りが一段階上げたのに対し三段階ぐらいまで一気に上げて、第1コーナーを超大外で回り、コーナーの立ち上がりで前方3人を差しにいく。いつものお得意のパターンだ。
『13番イクシオン!!仕掛けていったっ!』
『なかなかにチャレンジャーですね。決まれば前方3人へかなりプレッシャーを掛けれますよ。』
「(いける、このまま…!)」
と、その進路を塞ぐのはウオッカ、そしてライジングホッパー。
『おっとぉ!それを阻んだのはウオッカ!』
『彼女もオークスで13番にしてやられていますからね。徹底マークしていると言っても良いでしょう。13番ちょっと厳しいですよ。』
「(差そうと考えてんのはお前だけじゃあ、ないんだぜっ…!)」
そんな様子を見ていた先頭3人も、ギアを上げてスピードが上がる。それを見ればイクシオンが大人しく大外をそのまま走っていく。コーナーの立ち上がりで差すのはやめた…と言うわけではない。今も虎視眈々と狙っている。隙あらばすぐさまその疾風迅雷の差し足がすぐにでも前方3人のその喉元へと飛んでいくだろう。
そんな攻防を続けて、現在800メートル地点…順位の変動は現在ハナを進むサイレンススズカ、半バ身離れてエアグルーヴ、その後ろにつく形でフジキセキ、さらにその後ろにダイワスカーレット、ウオッカ、イクシオンが3人で並んでいる状態で。
「(さて、どうしようか…)」
と、大外で様子を見るイクシオン。現在順位は7位。目の前には6人…この6人を追い抜かない限り勝利は無い…後ろは、特に気にしなくても大丈夫だろう。とあたりをつける。まずは目の前の3人…ライジングホッパー、ダイワスカーレット、ウオッカのこの3人だ。
いける…やれる、やるんだ!心の中でイクシオンは自分にそう言い聞かせて思いっきり息を吸う。3人と言わず、6人まとめてぶち抜く…やってやる…!
「(全員、覚悟は良いか?私は出来てる。)」
奥歯をぎりっと噛みしめれば頭にツノが現れる。一応は見えなくしてるので周りからは見えていない…だが確実に身体に電気が流れる。身体は軽い、いける。
現在900m…折り返し地点となる1000mまで100m…覚悟は出来た。折り返し地点と同時に仕掛ける…だが、すぐには仕掛けない。ベストタイミングがあるはずだ。自分の足と目でしっかりと距離を測る…960…970…980…990…ここだっ!!!とギアを最大限まで上げる。後はそのまま走り抜けるだけ。
『おっと、ここでウオッカ、ライジングホッパー!同時に仕掛けた!!』
『前方の拮抗状態が崩れましたね…これを見逃すウマ娘はいませんよ。』
『おっとぉっ!!イクシオン!再び大外から上がってきた!!持てる全速力で大外から上がってきた!!』
そのまま大外からイクシオンが上がって来る。それもそのスピードは明らかにラストスパートのスピードで。
「(持ってよ…心臓…!ここを、ここを越えれば後一つなんだからさぁ…!)」
「(来たな…!)」
「(今度こそ負けない…!)」
「(残念だけど、私も負けられないんだよ…!)」
鬼気迫るそのギアの上げ方に前方3人が本格的に足を回す。そのまま前方が四人になる。その四人を追いかけるように後ろの三人もギアを上げる。ここで前方集団と後方集団がはっきりと分かれる。
『残り800m!!ここで前方集団、激しいデッドヒート!!』
『11番と5番はキツイ状況ですよ。前方に加えて後方、さらに大外も見なくてはいけません。』
イクシオンが現在4位…。前には残り三人。後ろにも三人…。
「(後ろは気にしなくて良い…左右も…特に気にしなくて良い。ひたすら前だけを…前だけをみろ…!)」
全く脚色を衰えさせずに少しずつ少しずつ、前方三人との距離を詰めていく。前の三人も先程チラリとイクシオンを見た後は全く他所を見ていない…他所を見るくらいなら前を見る…おそらくそうしないと勝ちきれない…。そしてそのままコーナーに入る。異変が起こったのは第三コーナーでの立ち上がり直前だ。
「(い"っづぅっ…!!)」
イクシオンのコーナー立ち上がりの際に不意に感じた一瞬の左足の激痛…それを歯を食いしばって耐える。痛みで動かなくなりそうなのを電気で無理矢理動かす…。かなり負担の掛かる行為だが後先を考える余裕はなかった…まずは目の前の勝負に勝ちたい…!それだけが今のイクシオンを突き動かす。
『サイレンススズカ、エアグルーヴ、フジキセキ、イクシオン!この四人の足色は一切衰えない!完璧な拮抗状態!』
『四人がそれぞれを牽制し合ってる状態ですね、最終コーナーで誰がこの拮抗を崩すのかが重要になってくると思います。』
『さぁ、最終コーナー中盤で残り400!』
『ここの立ち上がりまでに崩さなければ苦しいですよ。』
最終コーナー立ち上がり、まず仕掛けたのはエアグルーヴ。そのままラストスパートでサイレンススズカに追い縋る。もちろん二番目に仕掛けたのはサイレンススズカ、エアグルーヴのラストスパートに反応するようにラストスパートを掛ける拮抗状態が崩れた今、それを見逃すでは無いとばかりに、二人のウマ娘がほぼ仕掛ける。
「はっ、はっ、はっ…!すぅっ…!!」
やはり目を…否、耳を引くのは雷鳴にも聞こえるその踏み込み…。だが奇しくも踏み込んだのは左脚。
「ぶっ…!?ぐっ、ギィィィィッ…!!」
無理矢理動かしてるとはいえ、痛覚までは遮断出来ない。普段なら悲鳴を上げそうになる激痛に奥歯を砕きそうになるくらいに歯を食いしばって耐えて、そのままコーナーから直線へ移行する。視界の端に映るものは、無い…なら、今追い越しているか、並んでいる証拠だ。
『残り200!最後の直線を制するのは誰だ!』
「(抜け出せるっ…!いけるっ!)
足の激痛はもう気にしない…気にしてたら勝てない、勝つんだっ!と、必死に足を回す。他の3人も一緒だろう。ゴールがもう眼前に迫ってくる。150…175…150…125…。まだ並んでる…ならっ、と踏み込もうとすると左脚が先ほどよりも力が出ない、やはり限界か…と、ほんの少しだけスピードが落ちる。100…75…50…そして。
『ゴール!鮮烈なレースとなりました!』
そのまま四人が纏ってゴールする…。そのままゆっくりとスピードを落とす…ゆっくり、ゆっくりと落としつつ、外側からの電気信号で左足を無理矢理普通に見えるように動かす…ブーツの中は少しじっとりとしている…正直言ってブーツを脱ぐのが怖く感じるイクシオン…。そしてターフで結果を待つ…。そしてその時は来た…。
『…順位は…!エアグルーヴっ!秋華賞を制したのはエアグルーヴ!!見事オークスでのリベンジを果たしました!
2着はフジキセキ!3着はサイレンススズカ!』
順位が発表されればイクシオンはやっぱりか、という感じで笑ってからそのままターフに座る…そろそろ限界だ…。ゆっくりとブーツを動かす…やはり、嫌な予感は当たっていて…。そしてそれを予期していたかのように、トレーナーと救急隊が来る…そこからはよく覚えていない。
ただ…。
「無茶したねぇ…まぁ、仕方ないか。菊花賞は辞退だね…これは。」
トウカイテイオーとの菊花賞を走れなくなった…その小さな後悔がイクシオンの胸に残った。
改めて見返してレース描写が単調気味になってきたと思うこの頃、どう思いますか?
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このままでも、ええねや。
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勉強してこい、ボケナス
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ポチンキ()