破神の愛馬のお話   作:elf5242

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その9

時間は流れに流れて4月の前半も終わりに近づく頃。レース出場を中心に実戦経験を積みながらトレーニングを重ねていった。出場したレースは6試合ほど…それうちの二つははじめてのGⅡレースのスプリングステークス、フィリーズレビュー…どちらもステークスでは3着、レビューでは2着に終わり悔しい結果に終わった。やはり追えば逃げて行くのだ、目標や勝利というものは。それからトレーナーさんにヘビートレーニングをお願いしてから数日。実の所最初からヘビーなウェイトトレーニングをしてたらしく、私のトレーニングシューズには40kgの合金蹄鉄が付けられていたらしい…なんて人だこの人…と思いつつそれのおかげで私みたいなのでも十分戦えてるのかなぁ、と考えるとちょっと複雑な気持ちです。

 

「よしよしっと、イクシオーン?ちょっとおいでー」

 

と、メニューを終わらせてインターバルを取る私に間延びする喋り方でトレーナーさんが手招きする。なんだか機嫌が良さそうだ。

 

「はい…なんでしょうか?トレーナーさん。」

 

「まぁ、これちょっと見てみなよ。」

 

なんて二枚の封筒を見せられる。差出人はURA…。私何か規約違反でもしただろうか…なんてちょっと思い悩む。

 

「あはははっ、心配しなくても大丈夫。悪い知らせじゃないから。」

 

「あ、そうなんですね…」

 

と、トレーナーさんが声を掛けてくれる。流石に顔に出てただろうか、と自分の手で顔をむにむにと揉み解していく。

 

「さて、まず君に言っておく事がある。」

 

「…なんでしょうか…」

 

と、急に真剣な面持ちになったトレーナーさん、つられてこっちも姿勢を直してトレーナーさんの言葉を待つ。しばらく間が空いた後にニッ、とトレーナーさんが笑えば。

 

「おめでとう。」

 

と、トレーナーさんがいきなりゆったりとした拍手と同時にお祝いの言葉を言ってくる。急な事態についていけずにキョトンとしてしまって…。

 

「第一目標達成おめでとうって言ったんだよ、イクシオン。」

 

「へ…?」

 

「君に皐月賞、桜花賞への優先出場権だ。GⅠレース出場おめでとう。」

 

…皐月賞、桜花賞…GⅠレース…ポカーンとしながらカチカチと頭の中で帳尻を合わせていって。

 

「え、ええっ…!?あ、ありがとう、ございます…!?」

 

と、理解した瞬間に思い切り動揺してしまった。もちろん他のウマ娘達もこのGⅠレースに参加するだろう。

 

「もちろん周りは…右を見ても、左を見ても、前を見ても、後ろを見ても、強敵達ばかり…ドルフ、エア、ヒシにフジ、エル…他にもテイオーやウィーク、桜花賞ならスカーレットやウォッカ…全員が並々ならぬ相手だ…君に打ち倒せるかな?」

 

「倒す…倒します…!」

 

「君ならそういうと思った。ま、だから毎日壊れるギリギリまで追い詰めたんだけどね。」

 

なんてサラッと爆弾発言を聞いたような気がするが今はスルーしておこう…それよりも今はGⅠレースだ、目標の皐月賞…そして桜花賞…まずはそれらで優勝しないと…始まらない。その次は日本ダービーとオークス…そして菊花賞と秋花賞…まだまだ長い…だが、絶対負けない…負けたくない。そんな私の思いを見透かしたように中指を立てながら。

 

「安心しなよ…今の君なら皐月賞も桜花賞も必ず勝てる。」

 

「はい…頑張ります…!」

 

「よろしい…皐月賞から2日空けて桜花賞だ。まずはこの二つを越えよう。」

 

「はい…トレーナーさん、もっと詰めた「はい、だめー。きょうはおしまーい」あ、はい…」

 

その後もトレーナーさんからオーバーワークを禁止され、その日は解散となった。

 

 

 

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 

 

 

メイクデビューや他のレースと違いトレーナーさんにギリギリまで…本当にギリギリまでシゴキを受けた後についにこの日が来た…皐月賞だ…とりあえずはいつもの体育服に着替えて精神集中をしている。今日は生憎の雨だ…みんなは雨を嫌うけど、私は好きだ…何もかもを流して、隠してくれる…。なんて、そんな感傷に浸ってる場合じゃない…!

 

「……」

 

1番の大舞台…皐月賞だ。まずはこれを取らないことにはどうにもならない。会長さん…シンボリルドルフさんと同じように無敗、とは行かなかったが…それでもトレーナーさんの言う通り、6冠が取れれば経歴としては遜色ないだろう。

 

「……すぅ…」

 

そんなわけでレース前に緊張を収めるための精神統一である。といっても座禅を組んで行うわけじゃない。目を閉じ、少しだけみっともないがあぐらを組んで、両膝に拳を立てるように置く…。そのまま少し時間が経てばやがて周りの音も、自分の心臓の音ですら聞こえなくなる。

 

…代わりに聞こえてくるのは風を切る音と踊るように不規則になる足音。それが止むと…蹴りが見えた気がした。背中から襲い掛かる左からの鋭い蹴り…それを左腕で受けた後にそれに反撃するように振り向きざまにサマーソルト。

 

私も蹴りを仕掛けた相手も跳躍し、着地はほぼ同時。3mほどの距離が出来る…攻撃を仕掛けて来た相手は…見慣れない服を着た私だ。

 

左手の平に右拳を付けた拳法家のような挨拶をお互いにした後に構える。先程のお返しに仕掛けるのは私…右左のワンツー。

 

それをそれぞれ、相手の私が受けた後に回し蹴りと背足回し蹴りの二連撃、これも紙一重で避けられた後に相手の私からの反撃で左脚での背足回し蹴り。

 

これを軽く腰を落として避け右拳を上半身に放つ。これはバク転のような動きで回避された後に右足での鋭い蹴り、これは回避は間に合わない、左手で受けて弾く。

 

お互いがお互いの死角に回り込むように動きながら跳躍しつつ手刀での切り上げ、返しでくる振り下ろし、これをきっちり回避する。そして着地の瞬間を取り掌底をねじ込む。

 

が上手く防御され軽く飛ばし距離を空けるだけになる。ニヤリと笑った私が防御を解き軽やかに3、4回その場で飛んだかと思うとバネで弾かれたようにこちらとの距離を詰めて拳を撃ち込む。

 

反射的に掌で受ける。すっごく痛い、が、受けた拳をしっかりと握りこむ。そしてお返しと言わんばかりにこちらも拳を撃ち込むが相手にしっかり受けられる。

 

「流石、私。」

 

「当然、貴女は私で、私は貴女。」

 

その後ももう一人の私と好きなだけ撃ち合う。蹴りと蹴りがぶつかり、拳と手のひらがぶつかり、拳と蹴りがぶつかり、腕と腕がぶつかる。そうして心いくまで打ち合った後に急に意識が軽くなる感覚に襲われて…段々と周りの音が聞こえ始めて…。

 

「どうした!?さっきからなんの音…!?」

 

と、扉の音に反応してしまい思わず蹴りが出てしまう。当たる感触こそ無かったもののその蹴圧は相当なものだろう。そこまでやってようやく完全に意識が浮上しきる…そして目の前には会長さんを含めたチームのメンバー…はい、お察しの通りやらかしました。

 

「そうかそうか…で?精神集中の為に瞑想をしていたらもう一人の自分と組み手をするという空想を見ていて?それで身体が勝手に動いていたと?…お前は何を言ってるんだ?」

 

「はい、申し開きもございません…」

 

絶賛エアグルーヴさんの前に正座して怒られています。ええ、はい…その通りです…何言ってるか分かりませんよね?私も何言ってるか分からないです…でもそうとしか言いようがないんです。

 

「まぁ、その辺にしておけエアグルーヴ。それだけ彼女も集中していたと言うことだろう。こちらも特に実害は受けてないんだ…まぁ、あの空気が破裂するような音には驚いたが…」

 

「…会長が言うなら…」

 

と、エアグルーヴさんも引き下がってくれた…本当に申し開きのしようもない…とりあえずもう一度謝った後に正座を解く。

 

「ところで…イクシオン、GⅠにそれで出るつもりか?」

 

と、服装の体操服を指さされながらそう言われればどこかおかしかっただろうか?と自分の服装を見渡す。

 

「…はぁ…勝負服は渡されていないと?」

 

「…?なんのことですか?」

 

「「「「「「はぁ…」」」」」」

 

なぜかみんなから呆れられた。というわけで懇切丁寧にみんなから教えてもらった。どうやらG1レースでは勝負服というものを着て走るのが決まりらしい。

 

「それで、渡されていないと…」

 

「たくっ、何やってんだあのバカ目隠し…」

 

「呼ばれた気がしてジャジャジャジャーン♪」

 

と、何やら荷物を持って上機嫌にどこからともなく現れたトレーナーさん。両手には二つの段ボール。

 

「遅えぞ、トレ公。こいつ困ってたんだからな?」

 

「いやぁ、ごめんごめん。業者がギリギリまで掛かるって言ってたの忘れちゃっててさぁ、ウケるw」

 

「いや、ウケるじゃねえよ…」

 

と、ヒシアマゾンさんの言葉をのらりくらりと交わしてから私の前にトレーナーさんが持っていた段ボール二つを置く。

 

「てなわけで…はい、これ。君の勝負服ね。」

 

「え、えっと…ありがとうございます…?」

 

「お礼なら君の保護責任者にいってあげな?君の保護責任者、ぶっちゃけすごい人だからね、彼。この勝負服作ったの彼だし。」

 

タカにいちゃんが作ったのか…なんて思いながらトレーナーさんの話を聞く。なんでもURAの指定業者しかウマ娘の勝負服は作れないらしい。しかも結構前からURAの業者指定を受けていたらしいのだから驚きだ…。

 

「さて、それじゃあみんな行くよ。勝負服のお披露目はターフでね。」

 

と、トレーナーさんが両手を叩いてみんなを引き連れるように観客席に移動する。

 

「イクシオン、good luck!」

 

と、タイキシャトルさんを皮切りにいろいろな人が声をかけてから控え室から出ていく。まるで嵐でも来たようだった…そして残されたのは私と私の前に置かれた二つの段ボール…手をつけないことには始まらないか…折角タカにいちゃんのお手製なんだし、大事に着よう。と、タカにいちゃんに感謝しつつ段ボールに手をつける。

 

「…すごい…」

 

段ボールを開けた瞬間に運命的なものを感じた。小さく細長い段ボールを開けたのだが、入っていたのは靴…というよりもブーツに近い。もちろん靴裏にはちゃんと蹄鉄まで完備されてる…凄い徹底ぶり…。水色をさらに薄くしたような色合いに黒い雷のようなラインが良い。各所にある白い毛皮もいい。大きい方の段ボールにも手をつけてみる。

 

「うわぁ…!」

 

ぱっと見はコスプレ衣装にしか見えないのにすごく良いものに見える。大きい方の段ボールを開ければ上着などの一式が入っていた。そのままスルスルと着替えていく。色やデザインコンセプトなんかはブーツと全く同じ。時折入っている赤が良いアクセントだ。下着の上から黒のインナーを着た後に上着を身につけていく。ホルターネックにプラスして背中での編み込み方式になってるらしい。地味に面倒くさいが仕方ない。そのまま手袋やニーソ、スパッツ、毛皮と布地で形成されたスカートなんかも着々と身につけていく。最後に黒に赤の装飾の入ったカチューシャをつけた後に軽く髪を整える。

 

「…すごい、ぴったりだ…!」

 

なんて、着替え終わったあとに自分の格好を見てみればまるで予定調和の如くサイズはぴったりだ。体操服よりも走りやすいかもしれない。先ほどと同じように拳や蹴りを何発か放ってみる。うん、いい感じだ。むしろ動きのキレはさっきよりいいかもしれない。コンディションはいい感じ。

 

「よし、行こう…!」

 

あとはこのまま走り抜けるだけ…まずはここで勝たないと意味が無い…それにGIレースともなれば全国に放送されるだろう。あの子達の目にもきっと入るはずだ。深呼吸をして気合を入れ直す。なんだかバチィッ!と音が鳴ったような気がするが、気にしないでおこう。そうして控室から出てターフに向かっていく。覚悟はある、力もある。あとは戦うだけ。

 

 

 

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 

 

『まもなく始まります、皐月賞。本日の天候は生憎の雨です。』

 

『状態は不良バ場…苦手な子も多いのでは無いでしょうか…今まで以上に熾烈な争いになりそうですね。』

 

とうとうレース場内に開始のアナウンスが開始される。観客も傘や雨具などを完備しながらレースの開始をまだかまだかと待ち侘びる。雨風はまだそれほど強く無いのでまだ耐えられる。

 

『各ウマ娘、ターフに出揃い始めました。』

 

『今回のレース…最も速いウマ娘では無く、最も覇気のあるウマ娘が勝つでしょう。』

 

『では本日の人気ウマ娘を紹介しましょう。一番人気は勿論このウマ娘、6番 トウカイテイオー。』

 

『2番人気はこのウマ娘、2番 ニシノフラワー。』

 

『3番人気…は、まだターフに来ていない様子ですね。』

 

と、アナウンスの直後に空模様に雷が混じり始める。まるで何者かの接近に呼応するように雷は激しくなる。そして。

 

『っと、出てきました。3番人気は安定のこのウマ娘…13番 イクシオン。』

 

勝負服を身に纏ったイクシオンがターフに出れば、大きな雷が近くにあったビルの避雷針に直撃する。その避雷針が一発で焼け焦げ、役割を果たさなくなる。

 

『訂正しましょう、本日の天候は雨ではありません…』

 

『雨では無い…?では本日の天候は…?』

 

『言うなれば…そう。』

 

アナウンスの声が途切れた後にぽつりと呟くように言った。

 

『…迅雷、です。今年の皐月賞は荒れますよ。』

 

その顔には、たらり、と冷や汗を浮かべていた。

改めて見返してレース描写が単調気味になってきたと思うこの頃、どう思いますか?

  • このままでも、ええねや。
  • 勉強してこい、ボケナス
  • ポチンキ()
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