吉祥。もう春な。そして新年。
倉持技研にて一夏が白式のメンテナンスをしてもらっている頃、時を同じく、学園に残っていた鈴は鼻唄交じりに紙パックのレモニカをズコズコズルズル飲んでいた。
「ふふふふん…♪ふふふふん…♪」
「鈴、それってなんの歌?」
一緒に並んで歩いていたシャルロットが聞くと、鈴はパックジュースから口を離して答える。
「え?砂場一夏のテーマ曲だけど。それがどうかしたの?」
「……えぇ?なにそれ…」
返された言葉に頭がハテナになるシャルロット。
「…あぁ、そういえばアンタはニコニ○動画って知らないわよね。ニコニ○動画っていうのは動画投稿サイトのことで、動画を投稿したり視聴したりするのはもちろん、なんとその動画の画面上にコメントすることができるのよ!」
「へぇ〜、そんなサイトが日本にはあるんだね」
「まぁ、ウチの国にもbilibil○動画っていう似たようなのがあるんだけどね…っと、それは置いといて、砂場一夏の説明をするわね」
「う、うん…」
ここで一旦、鈴は紙パックのジュースを口に含んで喉を潤す。
そして一息ついた後、また喋り始めた。
「まず最初に、ある一人の投稿者が『ひとりぼっちで砂遊びするイチカさん』を投稿したの。その時点ではさっきの鼻唄の曲は使われてなかったんだけど、その後に『争いで倒れた戦友の遺品をかき集めるイチカさん.BB』が投稿されて、そこで初めて使われたのよ。以降、元凶のBBと曲を使用する多くの動画が現れて無事、砂場一夏シリーズが出来上がったってわけ。なんでこんなに流行ったのかは分からないけど、もしかして、背を向け腰を丸めてしゃがむ哀愁を感じさせる様子とシンミリした曲がえらくマッチして人気を呼び込んだのかもしれないわね」
「へ、へぇ〜そうなんだ…」
つらつらと説明をする鈴に対してシャルロットは少し引き気味になっていた。
「(そんなのが流行る日本頭おかしいよ…)」
全くもって同感である。
「……なんか言いたそうね?」
「い、いや!?なんでもないよ!?」
「ふ〜ん、ま、いいわ」
シャルロットは責められずホッとした。
その後、いやなんで自分はホッとしているんだと自戒していると、突然廊下の灯りが一斉に消えた。
廊下だけではなく、教室も、電子掲示板も、全てが一瞬にして消えたのだ。
まるでセンパイに無視された東京タワーの照明みたいに。
「あら?散々ニコ動のネタにされた一夏がついにキレたのかしら?」
「たぶん違うと思うけど…(名推理)」
そしておまけに防御シャッターも降りてきたため、日光も遮られ完全に真っ暗闇になってしまった。
「非常灯すら点かないし、何かあったのかな」
「そうみたいね。…うーん、ISの起動は上半身しか使わないから下半身が暇になるのよね。代わりにシャルロットがつけなさい」
「え、うん」
シャルロットは拓也の黒ずんだカルパスよりも黒くなってしまった周りの状況を確かめるべく、ISをバリウケモードで起動させ、この場に最適な機能をセットしていく。
その後プライベート・チャネルにてラウラと安否の確認をしていると、
『専用機持ちは全員地下のオペレーションルームへ集合。今からマップを転送する。防壁に遮られた場合、破壊を許可する』
焦燥感を一切滲ませない千冬の強い声だ。
それにより専用機持ち達は落ち着きを取り戻した。(鈴は元から動じていない為除外)
「はぁ、こんな事件ばっかり続いてたら、マジにこの学校壊れるかもしれないわね」
「あはは…」
鈴の言葉にシャルロットは愛想笑いするしかなかった。
◇◆◇◆
場所は変わってIS学園地下特別区画、オペレーションルーム。
そこに集められた専用機持ち7名は千冬と真耶から状況説明を受けていた。
「現在、IS学園ではすべてのシステムがダウンしています。これは何らかの電子的攻撃…つまり、ハッキングを受けているものだと断定します」
真耶の表情もいつもより険しく、今回の出来事がかなりの緊急事態であることを示している。
「(なるほど、この学校自体がどこかの組織からデカ○ラでガン掘りされてるのね)」
どんなポジを持ってるか分からない正体不明の輩に掘られるのがどれだけ危険で、恐ろしいことかは皆様もよく理解している所だろう。
「今のところ、幸い生徒に被害は出ていません。防壁によって閉じ込められることはあっても、命に別状があるようなことはありません。全ての防壁を下ろしたわけではなく、どうやら一部分にのみの動作のようです」
だからトイレにも行けますよ、と補足すると「おお」「おおじゃねぇわよ」「それは大事ですわね」「だよね」「当然だな」など様々な声が上がった。
その様子を見て真耶は少し嬉しくなり千冬は額に手を当てた。
その後、いくつか質問のやり取りが行われた末、真耶に作戦内容の説明をされる。
「それでは、これから篠ノ之さん、オルコットさん、凰さん、デュノアさん、ボーデヴィッヒさんはアクセスルームへ移動、そこでISコア・ネットワーク経由で電脳ダイブをしていただきます。更識簪さんは皆さんのバックアップをお願いします」
説明を聞かされ、専用機持ちの面々の気合が入る。
電脳ダイブ中は無防備になるなどのデメリットは存在するが、そんなのは
「電脳水没プレイですって?望むところよ!」
「わたくしは一気に野獣モードのスイッチをオンですわ!」
「快感で全身が痙攣する私も興奮してきたな…」
「電脳世界かぁ…現実とさよなら系チンシコーマンしたらどうなるかはちょっと気になるね」
「ベストを尽くせば結果は出せる(至言)」
「いざ鎌倉(鎌倉殿の13人)」
それぞれが9315%のやる気を見せた所で、タネ満を持して千冬が檄を飛ばす。
「…よし!それでは電脳ダイブを始めるため、各人はアクセスルームへ移動!作戦を開始する!」
未だ復旧していないデカ○ラのシステムが一つ。
使える戦力は5人だけ──
…それは螺旋の内を巡る【アギト】待つ世界。
そして新たなクリスタルを巡る争いの始まりでもあった。
今、5人の少女によるちょっと不思議な冒険が始まります。
ザクッ… シャキッ… ガサゴソ…