ほどほどに愛しなさい
長続きする恋はそういう恋だ
─シェイクスピア─
主人公は若干ヤンデレ入ってますが。
あと個人的には熱烈に愛するのも良いと思います。
「………ぅ」
アラームの音で眼を覚ます。枕元に置いてあるスマホに手を伸ばしてアラームを止め、時刻を確認する。液晶画面に表示された時計は7月3日の5時30分。起き上がって窓から入ってくる涼しい風を受ける。視線をそちらに向けると、憎たらしいほどの晴れ空が広がっていた。
「……………そうか」
昨日のことを思い出す。胸の疼きはまだ消えないが、吐き気は昨日よりマシになった。昨日の夜は食事もまともに取れなかったが、今日の朝食は大丈夫だろう。立ち上がり、朝の準備に入る。
◆◆◆◆◆◇◇◇◇◇
着替えを終えてまだ朝食には時間があるため、なんとなくテレビを付ける。流れていくのは何処かの学校生徒の飛び降り自殺や隣の県で起こっている連続通り魔のニュース。物騒だな、とぼんやりそれを眺めている時だった。
「ん……?」
ピンポーン、と玄関のチャイムが鳴る。テレビの時刻表示は6時過ぎだ。こんな時間に一体誰だろうか、と立ち上がって玄関に向かい、扉を開けると。
「…………アキ姉?」
「よっ。予想通りやつれてんね、優」
そこにいたのは、上下の黒ジャージに片手にビニール袋を持っている女。その顔にはスズの顔の面影があり、胸が痛くなる。それも当然だ、この人は彼女の姉なのだから。
「上がっていい?
飯持ってきたから話でも、ってさ」
「あ、ぁ、いいけど」
橘
◆◆◆◆◆◇◇◇◇◇
出された朝食は、アキ姉が買ってきたというコンビニ弁当だった。金を使わせているので文句は言わないし、おそらく話の本題があるから簡素なものにしたのだろう。テーブルに座ってもらい、テレビを消して冷蔵庫から取った麦茶を差し出す。
「サンキュ、気が利くね」
「何を今更。アキ姉はランニングでも始めた?」
「あぁ、最近は運動不足気味だし。
一応体重はキープできてんだけどさ」
と、そこまで言ってヘラヘラと笑うアキ姉はその眼を真剣なものへと変える。俺も向かいに座って麦茶を一口だけ含んで飲む。
「話を本題に変えるけど、
まぁ………一番分かってるのはアンタだもんね。
なんていうか、ごめん」
「アキ姉が謝ることはない………ていうか、
俺は誰にも謝られるようなことはされてねぇよ」
本心だ。誰からも謝られるようなことはされていない。それにアキ姉は顔を暗くして顔を逸らして、口にする。
「……………だけどさ、アンタは覚えてんでしょ?
あの夜の約束は……私もスズに聞いたことあるし」
「勿論、一言一句たりとも忘れちゃいない」
「だったら────!」
「もういい、アキ姉」
1つ息を吐いて、そう強く言い放つ。酷い顔をしていたのだろう、彼女は肩をビクリと震わせ、眼には怯えの色すら浮かんでいる。それを見て、アキ姉が平静に戻るよりも早く、俺は我に返る。
「…っ……ごめん…………」
「い、いや…私こそ軽率だったよ、ごめん」
2人して溜め息をつく。どうやらまだ思った以上に動揺しているようだ。自分の麦茶を飲み干して、立ち上がる。
「……そろそろ学校だ。
スズの所には行かないから言って……あぁ、
その人と登校するってメールが着てたか」
「……………ねぇ、優。
『もういい』って……それって」
「スズからしたら、俺は
ただの幼馴染みに過ぎないって分かったんだ。
なら、
「…っ……」
「この話は終わりにしようか。
あの約束も所詮は子供の戯言、それで終わり。
アキ姉も早く忘れて結婚した方がいいよ」
そんなに苦しそうな顔をしないで欲しくて、そんな冗談をかましてみる。けれどアキ姉の顔は俯いたままで。
「…………ありがとう。
鍵、閉めて行ってくれ」
「っ!待って───!」
鞄を手に取って、テーブルの上にスペアキーを置く。そして逃げ出すように、俺は自宅から出ていく。
呼び止める声など聞こえないように。
あの約束を自分でも忘れてしまえるように。
昨日の話など聞いていなかったというように。
心が訴えてくる苦しみから逃れるように。
もう何も、聞こえなくなるように耳を塞いで。
彼女と会うことがないように。
学校には遠回りになる山道を、走り出す。
こんな感じで主人公の見苦しい醜態が続きますが、物語の結末は考えてありますので最後までご覧頂けると幸いです。