リリンの文化を満喫するチルドレンたちのほのぼの日記   作:nam3

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漫画、アニメ
ジャイアントロボ:地球が静止する日


……碇シンジと式波・アスカ・ラングレーは、リビングの床に寝そべって、冷房を全身に浴びている。

 

外からは、雨の音が聴こえていた。

 

「ど~してこう日本は湿度が高いのよ……!暑くて暑くて仕方ないわ」

 

アスカのいつもの愚痴にも、今日は何だか力がない。それはシンジも同様で、アスカの言葉に力なく返事をする。

 

「雨が降ってるから、余計に湿気てるよね」

 

「はあ……頭も身体も汗と湿気でベタベタして気持ち悪い……。シャワーでも浴びようかしら」

 

「あ、それいいね。僕も後から浴びようかな」

 

「ちょっとシンジ、アンタ私がシャワー浴びてる間に、アイス買って来なさいよ」

 

「ええ?この雨で?」

 

土砂降り……とまではいかないが、部屋の中に雨の音が響くくらいには降っていた。

 

傘をさせば外に出れなくはないが、それでも雨とは、人の外出させる気を削がせるものだ。

 

それに、今既にぐったりしているシンジにとっては、例えもっと小雨だったとしても、外に行く気分にはなれなかったろう。

 

「なによアンタ、私のためにアイスを買ってきてくれる優しさは持ち合わせていないわけ?」

 

「あいにく、今日の優しさは売り切れました」

 

アスカは口を尖らせて、シンジにまだ文句垂れているが、彼は全く耳を貸さない。

 

 

ピンポーン

 

 

そんな時、家のインターホンが鳴った。

 

「きっとコネメガネたちね」

 

数日前にミサト宅で集まる予定を入れていたため、アスカはすぐに来客が誰か察しがついた。

 

「はいはーい、今行くよー」

 

気だるい身体を起こして、シンジが玄関に彼女らを出迎えに行く。

 

「やっほーワンコ君!」

 

目の前にいたのは、真希波マリである。

 

底抜けに明るい笑顔を見せながら、彼女はシンジに手を振る。

 

そしてその両隣には、綾波レイと渚カヲルがいた。

 

「こんにちは、碇くん」

 

「やあシンジくん、お邪魔しに来たよ」

 

「三人ともいらっしゃい。どうぞ上がって?」

 

シンジが家に招き入れると、マリがいの一番に入っていた。

 

そして、手に持っているビニール袋を高らかに上げて叫ぶ。

 

「アイス買ってきたから、みんなで食べよー!」

 

「ほんと!?」

 

それに最も反応したのはアスカであった。

 

さっきまでぐったりしていたのが嘘のように、直ぐ様起き上がり、マリの元へ駆け寄っていった。

 

「アンタ、中々気が利くじゃない」

 

「お?我らが姫はアイスをご所望だったと見える!どーぞ、好きなの食べなよ!」

 

マリはアスカへ袋ごと手渡してあげた。中を確認し、棒タイプのアイスをひとつ貰ってマリに返した。

 

「コネメガネ、これいくらだったの?」

 

「え?なにが?」

 

「アイスの値段よ。いくらしたの?」

 

「えーとね、確か120円とかそんなだったと思うけど、なんで?」

 

「なんでって、その分ちゃんと返すからに決まってるじゃない」

 

「えー?いいよそんなー。私が好きで買ったんだし」

 

「良いから」

 

アスカは一度自室へ行き、財布から120円を取り出して、それを持ってくるとマリの手に握らせた。

 

「むふふ、姫は律儀だにゃー」

 

「ふん!アンタに貸しをつくるのがイヤなだけよ!」

 

そっぽを向きながらアイスを口にするアスカを、マリはニヤニヤしながら見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえねえ、雨で何処にも遊び行けないしさ~、今日はこれ観ようよみんなで!」

 

マリはテレビに映っている、ネットで無料配信中のアニメを指差した。

 

『 ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日』

 

「ロボットアニメ?」

 

シンジが尋ねると、マリがどこか自慢気な口調で答えた。

 

「ロボットアニメだけど、あんてゆーか、“ロボ並みに強い奴らを観るアニメ”って感じ?」

 

「???」

 

シンジは頭を傾げるばかりだ。

 

「何よこれ、セカンドインパクト前な古くさいデザインじゃない」

 

「おいおい姫~、それがこのジャイアントロボの良さなんだよ~?」

 

ぶーたれるワガママ姫をマリが説得していた時、ふいに綾波がシンジにこんなことを尋ねてきた。

 

「碇くん」

 

「何?綾波」

 

「ドラえもんは出てくるの?」

 

「え?ドラえもん?」

 

「だって、タイトル……」

 

「……あー、えーとね綾波、これは『ジャイアントロボ』であって、『ジャイアンとロボ』って訳じゃないと思うよ?」

 

「そう、ジャイアンとは関係ないのね」

 

「うん」

 

「…………」

 

「綾波は、ドラえもん好きなの?」

 

「前に、メガネの人から教えてもらった。ドラえもん……可愛い」

 

(あ、綾波の口から『ドラえもん可愛い』と聴く日が来るとは……)

 

そもそもドラえもんすら知っていなさそうな人物からの言葉である。シンジが驚くのも無理はない。

 

「ね?取り敢えず四話まで!ここで面白くなかったら姫だけ止めてもいいから!」

 

「もう分かったわよ!たくっ、どんだけ観せたいのよこれ」

 

とうとう、マリの説得にアスカが折れた。

 

「よっしゃ!じゃあ早速観よー!」

 

そうして、テレビの再生ボタンが押されたのだった。

 

 

 

 

 

ジャイアントロボ:地球が静止する日。

 

それは、来るべき近未来のお話である。

 

完全無公害なエネルギーシステム『シズマドライブ』が世界中に行き渡っているその地球では、二つの派閥が争っていた。

 

シズマドライブを悪用しようと企む秘密結社BF(ビッグファイア)団と、それを阻止するために組織された国際警察機構。

 

その国際警察機構側に属している、草間大作という少年が物語の主人公だ。

 

彼は科学者だった父に作られた最強兵器“ジャイアントロボ”を操り、BF団との死闘を繰り広げる。

 

『行け!ジャイアントロボ!』

 

草間大作の声紋のみに反応するため、ロボを操れるのは彼しかいない。

 

ちなみに、他のメンバーはだいたいみんな生身で戦う。ロボ並みに強いので問題ないのだ。

 

「ロボ……か」

 

シンジがぽつりと呟いた。

 

それは、自身と大作の境遇に、不思議な一致を感じたからである。

 

父の作った兵器を使い、戦うこと。

 

そしてその兵器は、自分しか操れない。

 

(大作くんと僕って……似てるかも知れない)

 

そんな風なことを思うシンジであった。

 

 

 

『どうした?大した抵抗もできないのか?』

 

 

「キタキタ!衝撃のアルベルト!」

 

マリは、登場してきた渋くてダンディーなキャラクターを観た瞬間、指をさしてはしゃぎ出した。

 

「何なのよあいつ、結構強いじゃない」

 

「衝撃さんは十傑集だかんね~、中々強いっすよ~」

 

「あ、大作くんも襲われてるよ

。どうするんだろ?ロボを呼ぶのかな?」

 

 

『アルベルトのおっさんよ、俺のいない間に、好きにやってくれたな?』

 

 

「あ!載宗さんだ!」

 

「ここで載宗のアニキが助けに来るのめちゃ良いんよね~!」

 

 

『載宗、ちょうどいい……この前の借りを返してくれよ』

 

『ふん、その借り、ちょいと高くつくぜ?』

 

 

「どうやら二人は、昔からの宿敵のようだね」

 

「……?宿敵って、なに?」

 

言葉の意味を尋ねてきた綾波に、カヲルは丁寧に答えてあげた。

 

「ライバルのことさ。因縁のある敵同士……でも、その間には不思議な絆がある。そういう関係性を、リリンはそう表現するのさ」

 

「絆……」

 

この時の綾波は、敵でありながら絆があるという関係性がよく分からず、理解することができなかった。

 

何せ今の彼女にとって敵と言うのは、あくまで使徒のこと。やつらとの絆なぞ、想像するのも難しい。

 

「あ、一話終わった」

 

アニメの第一話がひとまず終了ししたので、シンジはぐうっと背筋を伸ばした。

 

「あれ?もう三時なの?マリさん達が来たのは二時頃だったのに」

 

「ああ、これはねワンコ君、一話で一時間あるのよ」

 

「そうなの!?その割には、結構早く感じたかも」

 

「うむうむ、それは面白かったってことでいいかにゃ?」

 

「うん。僕は続き気になるよ」

 

「よっしゃ!じゃあ二話目いっちゃう?」

 

「僕は良いけど、みんなはどう?」

 

「私も良いわよ。一応、四話まで観るって約束したし」

 

「私も問題ないわ」

 

「僕も構わないよ。シンジくんと共に観られるなら、なんだって素敵なドラマになるさ」

 

というわけで、彼らはさらに続きを見始めた。

 

 

 

 

 

 

このアニメの素晴らしいところは、一旦見始めてしまうと、止まることができないところにある。

 

話数を重ねるごとに、その内容は面白さを増していくからだ。

 

 

『私はこれと共に生き、これと共に死す!今さらなんの躊躇いがあろうか!』

 

 

「この“十年前にバシュタールの惨劇”っていう大きな災厄があったって設定が、ちょっとセカンドインパクトを彷彿とさせるよね」

 

「でもこれ、セカンドインパクト起こる前の時期に作られたやつなんだよね~」

 

 

『この糞坊主がー!』

 

 

「ええええ!?何よあれ!?どういう回避なのよ!?」

 

「はははは!唐突にギャグが入ってきたね!」

 

この作品ならではの独特のノリを、マリ以外はギャグとして受けとった。

 

(いや、ぶっちゃけギャグだと思うけど、展開的にはまあまあシリアスだから余計にびっくりだにゃ)

 

だが、こういう冷静に考えるとギャグにしか見えないシーンが盛りだくさんなのも、ジャイアントロボの醍醐味なのである。

 

 

……ふと気がついてみると、彼らは既に二話を終え、三話を超えて、とうとう四話目に突入していた。

 

 

『これが……俺の役目だ』

 

 

「え!?そんな、載宗さんが!!」

 

「きっと、生と死は等価値なんだ……彼にとってはね」

 

 

『何を言う載宗!わしは、納得いかんのだ!貴様との決着が、こんなもので良いはずがあるまい!』

 

『……未練だぜ』

 

 

「……これが、絆?」

 

「そうだね、きっと彼らなりの絆なんだろう」

 

「…………」

 

 

『大作、短い間だっけどさ、アンタは私と亭主の子どもだったよ。だからさ、良い大人になるんだよ?』

 

 

「ああ……楊志さんまで……」

 

「この辺、結構バタバタ仲間も敵も死ぬから辛いのよね~」

 

 

『大作の運命やいかに!』

 

 

「もう四話終わっちゃった」

 

「コネメガネ!早く続きを再生して!」

 

「お?いいの姫?一緒に続き観る?」

 

「何言ってるのよ!こんな尻切れトンボで終われる訳ないでしょ!ほら早く!」

 

「ア、アスカ、続き観るのは良いけど、ちょっと休憩しない?さすがに四時間ぶっ通しで観てて疲れてきちゃったよ」

 

「何よシンジ!アンタあの続きが気にならない訳!?」

 

アスカの催促する姿を、マリは微笑ましく眺めていた。

 

 

 

 

真っ暗な外では、雨はよりその強さを増していた。

 

空気が冷やされて肌寒く、風もごうごうと吹いている。

 

 

『命と引き換えに撃つ地上最強の爆発技、ビッグバンパンチ!』

 

 

「中條長官ってそんな技持ってたんだ!」

 

だが、この作品を見ている彼らは、寒さなど無縁の世界にいる。

 

それほどに、熱い展開の最中にいるのだ。

 

「命と引き換えのパンチ……。また犠牲を生むことになってしまうのに、なぜ?僕には分からないよリリン」

 

「犠牲無しで勝てる訳ないのよもともとが!その辺、大作はまだまだ子どもね!」

 

「で、でも大作くんは偉いと思うよ?ちゃんと頑張ろうとしてるし、色んな人と向き合おうとしてるし……」

 

語り合いに深みを増してきたチルドレンたち。

 

それは、作品に対する熱が込められてきたことを意味する。

 

 

『ビッグファイア様の御前であるぞ!』

 

 

「キターーー!!我らがビッグファイア様の登場にゃ!!」

 

「想像してたのと全然違う。悪役の親玉って高齢なイメージあったけど、少年がボスって意外だったしすごくカッコいい……。雰囲気とかはカヲルくんにちょっと似てるかも」

 

「どっちかって言うとファーストでしょ。あの無口そうな感じは」

 

 

『真実が何なのか、僕には分かりません……幸せのためには犠牲が必要なのか、僕には答えを出すことはできません……。でもお父さん、僕は精一杯、できることをしてみます……一生懸命戦います!だから……だから見ていてくださいお父さん!僕が本当の答えを出せる……その日まで!!』

 

『さあ行くぞロボ……ジャイアントロボ!!!』

 

『そいつをやっつけるんだああああ!!!』

 

 

「大作くんが成長してるのがすごく胸熱……。僕、ちょっとウルッときちゃった」

 

「ふん、まあまあ頑張るじゃないの、大作」

 

 

『今こそ戦え皆の衆!!』

 

 

「色んな人が味方になる……とても心踊る展開だね」

 

 

『言っただろ?これからは、俺が守ってやるって』

 

 

「あーーー!?この人がこんなところで出てくるなんて……」

 

 

『うむ、よくぞ生きておった!!衝撃のアルベルト!!』

 

 

「ここ!!ここのシーンめちゃカッコいい!!」

 

「アルベルト……初めてカッコいいと思ったかも」

 

「これなら、勝てるかも?」

 

「でも…… 銀鈴さんがまだ大怪球の中にいるわ」

 

「突っ込めばいいのよ!そのためにあいつは命がけで死んだんだから!」

 

 

 

……チルドレンたちは、一話一時間、全七話を一気に観ていく。

 

全く休憩を取らず、ぐいぐい次を観れるのは若さ故。

 

そして、それほどまでに人を引き込むこの作品の力故である。

 

 

 

それからしばらくの間、『我らのビッグファイアのために』がチルドレンたちの合言葉になったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 


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