人骨を固めたような四角の舞台。
狂気を集めたような照明が照らす。
地下闘技場―――通称・賭け闘技場。
武芸は所詮勁量だ。
幾ら技術を磨いたところで圧倒的な勁量がこれを覆す。最も基本的な針勁という勁技でさえ、天剣授受者と打ち合いをしたのならば、いかな達人とて敗北するだろう。それはホースの水で津波を押し返そうとするがごとき愚行である。
翻って我が身はどうか。そこの地面に倒れ伏す男と比べて、果たして技術が優れていたと言えるのか。
答えは否だ。
ルツタ・フェインは全く持って勁技に優れていない。まず、多彩さがない。次に圧倒的に精度が足りない。最後に徹底的に向上心というものが不足している。
しかし、だ。ルツタには一つだけ人並外れたものがある。
それは勁量。
天剣授受者に匹敵するであろう勁量で、圧倒的にねじ伏せる。
右手の大剣から放たれる衝勁は錬金鋼を自壊させんばかりに強烈。万敵を踏破するにはただ一閃を持ってすれば十分に過ぎる。
左手の盾は鉄壁。ルツタの全身を覆うに足りる装甲板は勁を奔らせれば、大抵の勁技を弾き飛ばし、雨散霧消させる防御性能がある。
ここでならば全力で暴れても誰一人文句は言わない。うっとしい師範代も足を引っ張る弱者共の怨嗟の声も、この舞台の上では全てが無価値。強さは正義であり、武芸者とは強さが全てであり、従って、取って付けたような薄っぺらい題目などゴミの屑のように踏み潰す。技?工夫?=「そんなもの」はお前たちで共有すればいい。
さあ、もっと俺に血を味合わせてくれ!
「おおっと!王者が吠えるーーー!!さあ、今宵の次なる生贄は!!」
激発する司会の声に会場内は狂乱する。宙を舞う紙ふぶきは夢の名残、大穴狙いに出たものを嘲笑う天の采配だった。
この前、同僚を連れていったところ、こんなものが面白いのかと不機嫌そうな声で返された。
面白いに決まっている。
といっても、ここの王者は別に面白くはない。勁量任せの攻撃の連打で対敵を圧倒する。そんな光景を喜ぶのは、武芸の武の字も知らないような派手好きの無知なる一般人だけだ。
サヴァリス・ルッケンスは強さに貪欲である。
彼が見ていて面白いと思うのは、しっかりとした技術を持つ者同士の接戦であり、あるいはあの巨大な汚染獣めいた戦いをする王者に挑むことになった、ごく一般的な武芸者達だ。
彼らの工夫してきた技、圧倒的ともいえる王者の勁量を捌き切るために考え抜いて、探り続けて、ついぞ閃いた一工夫。そういうものに見る価値がある。
勁量で圧倒する戦いなど自分にでも出来ることだ。
サヴァリスが見たいのはそういうものでは無い。
工夫、弱者が強者に挑むためのもの。
例えば、手も足も出ない大敵を前にして、なお戦いこれを打破せんとするならば―――。
危機は人の能力を開花させるとサヴァリスは信じている。
ならば、ここで見た工夫がいつの日か役に立つかもしれない。必ず訪れるであろう極限の戦闘―――我らが女王陛下のいう地獄の日に。
「次なる挑戦者はイルマーーー!ヘブネフーーー!」
朗々と男司会者の声が挑戦者を告げる。サヴァリスにも覚えがある名前だった。確か、前回の正式な試合で大敗した武門の師範で、弟子が次々と辞めていき道場は経営難に陥ったとか。そのせいで嫁と子供に逃げられそうだとか、久方ぶりに訪れたルッケンスの道場で練習生たちの噂話が耳に入って来た。もっとも、彼らはサヴァリスの接近に気付くとすぐに噂話を止め練習に戻って行ったのだが。
さて、
「おや、イルマ選手臆したのか登場しな……おおおっと!誰だこれはぁーーー!」
別人。
挑戦者側のゲートをくぐり抜けて来たのは、まったく別の男だ。痩躯を覆う黒の外套は、畑の案山子に巻き付けた襤褸も同然の状態で、本来の機能など遠の昔に失っているに違いない。非人間的に白い肌と同色の髪の毛。顔は今にも喀血しそうな病人のそれだ。目はどぶの澱みにすむ魚のように黒かった。
「か、確認したところ。選手控室の選手たちが全員何者かの手によって意識不明だそうです!これは、まさか、あの男がやったのか!解説のボクトウ・チョウ・スキさんどうでしょうか?」
司会者に促され訳知り顔で、もう一人若い男の声が開設を始めた。
「そうですね、まあ不意打ちの浸透勁ではないですかね。見たところ彼の発生勁量は平均より下ですし、何を考えているかはさっぱりです」
「との事です!!今回は不測の事態につき、イルマ選手に賭けた金額をこの謎の男――――名前が判明しましたオウロです!ただ、オウロだそうです!―――オウロに賭けたものとさせて頂きます!」
たちまちのうちに怒号が飛び交う。面白半分、からかい半分。ちらほら威嚇術を使ったものまでサヴァリスの耳には届いていた。だがそれすらも、今のサヴァリスには遠い。
「これは、」
上手く殺勁を使い隠しているため、サヴァリスの活勁を持ってしても定かには見切れないが分かる。あまりにも特質すぎる勁の乱流が男の体内を渦巻いている。それはおよそ人間には、武芸者にはあり得ない勁の錯綜だ。
そう、まるで男そのものが勁の気体で出来ているような。錬金鋼に勁を透している様を見ているような。
おもしろい。
ごくり、とサヴァリスの咽喉が鳴る。
この勝負見逃すわけにはいかなかった。
えー、はい。ここから主人公がチート気味な狂い方をしていきます。
まあ、分かっている人には分かるネタしか仕込んでおりませんし、分かっている人は出来れば御内密に。うp主の( ´・ω・`)←こんな顔が見たいからといって、感想欄にネタバレは勘弁して下さい。