都市を動かす駆動音が地下の薄闇に響く。
骨を砕いて固めたような長方形の戦舞台の上。
頭上の仄かな照明に照らされて二人の男の影が落ちる。ほんの少し前までは声援と罵声とを飛ばし、ひしめいていた観客たちも既に去って、祭りの後の静寂を漂わす地下の闘技場。
「さて、やりましょうか」
「ああ、」
サヴァリスが何かを待っていた訳でもなく気楽に開戦を告げ、オウロも応じた。
「「レストレーション」」
同時に音声鍵語を口にして錬金鋼を復元する。サヴァリスの錬金鋼はオウロの予想通り、手甲と脚甲だった。どちらも白金錬金鋼で実戦用のものにしては装飾が多いようにも思える。だが関係ない。サヴァリスと自らの実力の差は先の握手で明らかにされている。
復元した小太刀をオウロは右半身の中段に構えた。
さて、如何にしてあの男と戦うか。勝つか、ではなく戦うか―――対抗するか。もっというならば生き残るか。
そんなことを闘技場に着くまでの間、オウロは考え続けていた。
まずは向こうに有利な点を考える。勁力は比べるべくもなく向こうの方が上だ。確か、天剣になるには通常の錬金鋼を自壊させるほどの勁力がなければならないと、ハイア・ライアは語っていた。と言うことは衝勁の撃ち合いとなる遠距離戦闘は絶対に避けなければならない。まず一方的に瞬殺される。賭け闘技場で行った詐術が通じる様な相手とも思えない。
戦闘経験はどうだろうか。確かにオウロは二年程度傭兵団に在籍していた。けれども向こうの戦歴は不明なのでこの箇所は飛ばす。
活勁、まともに打ち合えば力と速度で圧倒されるのは目に見えている。
では、技術力。
これはどうだろうか。判らない。それでもオウロはこの点については自信があった。
では最後に、自分が絶対的に有利な点はなんだろうか?
恐らく刀―――刃物を使うという点に於いて、オウロは有利だ。如何に手甲脚甲に身を固めているとはいえ、向こうは剥き身の箇所がある。
当たり前だが刃物は当たれば切れる。それもオウロの腕で使えば老成体の甲殻なら斬れる程度には。
ならば、取るべきは唯一手。
サイハーデン流刀争術―――水鏡渡り。
旋勁を超える神速の移動法。耳元を勁弾が通り過ぎる―――一足一刀、格闘戦の間合いへと。
そうくるか。
格闘戦。
衝勁など放つ暇もない徹頭徹尾の原始的な殺し合い。
それがお前の望みか!
オウロの意図を理解したサヴァリスは右の拳から入った。
大気を引き裂く拳。
踏み込みは十分。活勁は充実し角度、拍子どれをとっても申し分のない一撃だったとサヴァリスをして言える。
小太刀が踊った。
空中に白銀の軌跡が奔り、拳が明後日の方向に運ばれる。咄嗟に手を捻ったにも関わらず受けの刃がサヴァリスの前腕を傷つけていた。
「しゃあっ!!」
続けざまに繰り出すサヴァリスの豪打は、その全てが並の汚染獣ならば一撃で屠ってなお余りある必殺。衝撃波がかすめただけでも一般人なら脳震盪を起こす――――――。
小太刀が踊る。まるでそれ自体が意志を持って動いているかのように。たかが平均、悪くすればそれ以下の勁量しかない武芸者の小太刀が超絶の打撃を躱し、いなし、ともすれば傷さえつける。
いや小太刀など末端に過ぎない。恐るべきはオウロの技量―――こちらの拳をまともに受ければ粉砕されると知って、まともに受けないことを選択しそれを実行する胆力。勁量に劣る自らでは遠距離戦にに分がない。そう判ずるのは容易なれど、しかし天剣授受者の間合いに入っていくのは簡単なことではない。僅かの角度とタイミングの誤差も許されない位置取りと、サヴァリスが分析した限りでは八手しか用いない刀術の形を瞬間的に取捨選択する判断力。僅か八手と侮ることは出来ない。ある時は攻撃に使われた一手が外形はそのままに、角度、拍子、身体内部の力の出し方を変え、受けにも崩しにも変容する戦闘応用力がそれを可能としていた。
厄介な――――。
そして時折出される気配の錯覚を利用した刃が、意外なところから侵入しサヴァリスの皮膚を刻み傷跡を残していく。止まることなく一足一刀を保った間合いの境界面を白刃が蠢き圧力をかけ、執拗にサヴァリスを追い詰める。
なるほど、面白いとサヴァリスは笑っていた。戦闘中にも関わらず狂気に口角を釣り上げる。これであるいは勁量があれば天剣に至れたかもしれない。その思いは一瞬、繰り出した左の貫手に甘さを生み、サヴァリスの左小指と薬指が宙を舞った。そして、オウロの左掌がぴたりとサヴァリスの脇腹を照準し――――――。
捉えた。
いや、
甘かったか。
予想を遥かに上回る速さでサヴァリスが間合いを踏み越える。放たれるは右拳―――迎え突き。水鏡渡りに回転をかけ、体を捌いて斜めに下がる。これでもう届かない。いかに目の前の男が強かろうと所詮は人間。人体に可能な動きはオウロと変わらず、手が伸びたりはしないのだから。
殺勁で気配を無くしたオウロの刃が跳ね上がるのは、退避とほぼ同時だった。真下から手甲の隙間を縫ってサヴァリスの右拳を切り落とさんとする形である。
微笑をうかべたまサヴァリスはこれに反応した。回転させた手甲で斬撃を受け同時に左の前蹴り―――「バカな、早すぎる」右手を小太刀ごと粉砕する一閃。オウロの手首が反転し、暴圧の前蹴りを小太刀がいなす。刃の部分と接触して肉が裂けサヴァリスの血が飛んだ。
勝機とオウロは判じ、一刹那に満たない六徳の間に違和感を覚える。
違う、ここそうではなくて、
これは。下から来る―――右の、二段蹴り。
咄嗟に受けたオウロの左腕が、弾けて消える。違う左肘から先が叩き潰されて変形している。
無論、これで終わりではなかった。
着地したサヴァリスの左手がオウロの右手を抑えた。―――感触、鳩尾に肩、背中。
それは恐らく鉄山靠。真正面から汚染獣の突撃でも喰らったような衝撃にオウロの身体が木の葉の様に吹き飛ばされ、ほとんど直線の軌跡を描いて観客席に叩きこまれた。
通常の武芸者ならば五体を木端の如く変えられて、闘技場に血の川を作っていたことは間違いない。だが、オウロはこの程度でなら、まだ死なない。汚染獣の突撃程度では死なない体になっている。
しかし、
「あー、やばいな」
最後の一撃には浸透勁が乗っていたようで、五臓六腑が悉く破裂し腰骨と背骨は完膚なきまでに粉砕されていた。
これは不味い。汚染獣、彼の老成体を相手に戦い死ぬのであればそれはまだ満足できる逝き方だが、こんなところで虫けらのように踏み潰されて死ぬのは願い下げである。
一体何のために、力を蓄え続けて来たのかと言う話だ。そうとも、持てる力の全てを出し切らず死ぬのはあまりにも下らなさ過ぎる。
「レスト―レーション」
囁くように、オウロは蓄えを解放する。
「おや、意外と呆気ない」
反応はまずまずだった。サヴァリスに血を流させたことも、それなりに評価に値する。僅か数合の打ち合いだったとはいえ相当な充実感があった。相手の策に乗った甲斐があるというものだ。
そうして、異様な手応えが残っていたことにサヴァリスは首を傾げる。人体を叩いたものとは思えない、まるで別の弾力は、サヴァリスの持つ数多の打撃経験のそのどれにも当てはまらない。
「まあ、なんにせよ」
一際強い勁が脈打ち闘技場を揺さぶった。
戦えばわかる。
拳を軽く握り自然体―――無駄な力みが抜けサヴァリスの顔は一層綻ぶ。
死闘の始まりだった。
うん、サヴァリスさん=かませっておかしいと(´・ω・`)らんらんは思うのよ。ぶっちゃけ、今回もサヴァリスさんが主人公の誘いに乗ってくれたから主人公は善戦出来たと言うだけでして、本来は千人衝でぼっこぼこ。
ていうかサヴァリスさんは全然本気でないからね。