強くなくていい、6
直線で、迷いなく家へと駆けたオウロを後から追いかける二人が先回りする。玄関の前に立つ二人を見たとき、急激に自分の中で暴れ狂っていた熱量が醒めていった。
つまりこういうことなのだ。
、最早、驚くに値しない。フォルグストン最高峰の武芸者と、自分の如き凡百の武芸者の技の差など比べられるはずもなかった。
「頭は冷えたか?」
至極、真面目な調子のソウジンの声が沁みる。
「もう、いいだろう。戻って来い」
「役立たず、なんてことはないよ」
二人の優しい言葉が痛かった。
なるほど、今の冷静な自分なら頷いたかもしれない。本来ならここで素直に頷いておけばいいのだろう。タイミング的にも本心をさらけだして、和解してもいいと思える頃合いだ。
「嫌です」
しかし、口をついたのは自分でも予期していた言葉だった。微妙に顔を曇らせる二人を傍観しつつもう一人にの自分が代弁する。
「弱いことに、納得できません。俺が武芸者を目指した初期動機は強くなることですから」
「……詳しく」
ソウジンの声に敵意の低音が含まれるが怯むつもりはなかった。いや、確かに身体は筋肉と骨が内部で擦れ合い、膝関節から下の感覚が乏しくなっていることは判る。本能的な部分で自分はは酷く怯えているのだ。
「強くないんだったら、武芸者じゃなくていい。子供のころに憧れた古の達人達に届かないのであれば、俺は武芸なんてやりたくない」
我ながら随分と子供じみた理由だ。都市を、人を守るべき武芸者が自分の理由に拘るなんて、呆れられて当然かもしれない。
けれど、オウロにはそれしかない。
数多の時間を鍛錬に捧げてきたオウロには他に戦うべき理由なんて、全て現実味がなさ過ぎた。守るべきはただ自分一人で、家族も、友人も、恋人もなく。
一瞬遅れて奇怪な音。
ぐっわひゃひゃ。
どうしようもなく勘違いしているガキを見てソウジンは笑いが止まらなかった。こいつは余りにも馬鹿過ぎる。なんでこんな簡単な事にきづかないのだろうか?ソウジンにはオウロの夢?本心?を否定するつもりなどさらさらなかった。
どころか、その考えには共感さえ覚えることが出来る。当たり前だ、武芸者の誰もが強くなりたいと願っているだろう。力の探求は逃れられない武芸者の業である。
「悪い、悪い」
目つきが鋭くなっていくオウロに一言断りをいれて、
「でさ、どうして今弱いこと、勁量が足りないことが達人を諦める理由になるんだ?」
過去の達人たちが云々、わめくオウロの言などに耳を貸す必要などない。
「一生かかっても届かない領域かもしれない、けれど、そんなことは初めから判っていただろう」
「いや、…確かに」
それでも、まだ何かいいたそうなオウロに先んじて言葉を放つ。
「笑えたのはね、強くなりたいと言っておきながら。諦めちゃったってことなんだよ。強くなれないなんて規定したのはつまり、誰でもなくただお前がそう思い込んだ」
腑に落ちる言葉だったのだろう。理解するより先に到達したそれは頭の反応を置いてきぼりにして、ぽかんと、オウロの間抜け面が夜気にさらけ出された。
「強いことと勁量の方は余り関係がない。強さってやつはつまり何でもありなんだから」
何でもあり、しかしオウロの顔には混乱と表示されている。そうだろう、こいつはいままで強さと言うものを剣という単一の物差しでしか計ってこなかったのだから。
そりゃ、弱い。直接戦闘ではやはり勁量が物を言う。だったらそれ以外で戦えばいい。汚染獣を討滅する方法は何も接近戦だけではないのだ。
「つまりさ、武器を変えてみたらどうだ?」
とりあえず、ソウジンに出来る提案はこの程度だ。
けれども、その言葉にオウロの顔の曇りが晴れた。
「そうか、いいんだ。俺は……。は、はは、はははは!」
余りにも、バカバカし過ぎてオウロは笑いが止まらなかった。
いいんだよ。
剣じゃなくてもいい。俺の新たなる可能性。
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武芸者と言うのは基本的に止めることが出来ない。それはフォルグストンとて例外でなく、どうしても止むに止まれぬ事情がある場合は予備戦闘員と言う形で書類を作成することになっている。ただし、そんなことはごく稀な例でしかなく、予備戦闘員出願書類が使われるのは年に2回あるかないかだ。
だからこそ、一昨日書類を出しに来た少年を見てミーシャは軽く驚いた。15の時に受付を初めて7年ぐらいたつがこんな若い武芸者が書類をもらいに来た例はない。どこか悪いところでもあるのかと観察してみても、表情は険悪だが、五体のどこかに欠損があるわけでもなく、武芸者としてどうしようもない事情なんて、どこにもなかった。
「すいません、錬金鋼の変更をお願いしたいのですが」
「はい、ただだいま」
声に呼ばれて意識を向けると、件の少年が立っていた。一昨日の険悪な表情はどこえやら、病み上がりのようなスッキリとした表情で錬金鋼変更の書類を要求してくる。
別に、どうでもいい存在だがしかしあの晴れ晴れとした表情は気になった。
一体いかなる心境の変化なのか?
僅かでも、手掛かりがないかと手元の書類を探索する。けれども、手掛かりと言えるほど確かなものはそこには無く、ただ剣型青玉錬金鋼から狙撃銃型軽錬金鋼への変更が記されているのみだった。
はい、主人公狙撃手に転向。いつになったらサイハーデンするのか?
2話ぐらいあとです。