隠された神が降臨した瞬間   作:干からび

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01 最初の日

「トレーナー……何見てるの?」

 

 トレセン学園トレーニングルームのベンチに腰掛け、現在担当するウマ娘の様子を見ながら、時たまに携帯の画面に視線を移す。

 気にくわないのか、ただ単純に気になったのか、そのウマ娘が私の方へ駆け寄り携帯を覗き込む。

 

 そこにあったのは一枚の写真の画像であった。

 赤褐色と形容するのが正しいだろう、明るい茶色をした髪色に、星の形をしたメッシュがついた青眼のウマ娘。かつて私が担当していたウマ娘だ。

 長年学園に勤めていれば、担当ウマ娘が変わるという事も珍しくない。亡くなってしまう事もあれば、引退して別の未来に進んでいくこともある。

 

「可愛い子! 誰? この子!」

「……そうだな。一言でいえば、とにかくすごい子だ」

「……ざっくりとしてない?」

「そういう子だからな」

 

 彼女の活躍は一言では語れないだろう。

 私は当時、彼女を見てつい『神が降臨した』と呟いてしまった。いや、彼女の場合は神が憑依したのでもなんでもなく、ただ前を向いて、ひたすらに努力し、好機を得た結果の産物なんだろう。

 誰よりもそれを、私が見ていたのだから。

 

 ――シンザン。

 その名前は、本当にこのトレセン学園に語り継がれるべき存在だ。

 

 

 ***

 

 

「ねえ見て、あの子もウマ娘なのかな?」

「……結構小柄? しかも大人しそうだし……大丈夫なのかな?」

 

 ある日の春、桜が降りしきるトレセン学園の校門を歩む。私は陰口をたたく他のウマ娘たちと同じ新入生だ。いや、先輩のウマ娘も同じような言葉を叩いていた為、同じくというのは誤りだろう。

 幼い頃から私は、凱旋を見るのが夢だった。幼い頃見た夢と希望のレース、一つのゴールを戦闘のウマ娘がくぐり、晴れやかな歓声を浴びる。何とも凄いお話である。

 

 だけど私は、昔から身体が小さかった。こればっかりは運が悪かったと言わざるを得ないが、凱旋を夢見るウマ娘にとっては致命的な欠陥だった。

 小柄なウマ娘は、他のウマ娘との争いでは大抵力の勝負で押し負けてしまう。故に私は、力を鍛える為事前に訓練はしたものの、見た目に変化は見られなかった様だ。

 ま、見た目は余り関係ない。大事なのは本番、ただそれだけだから。

 

 

 皆がそれぞれトレーナーを見つけていくなか、私はデビュー戦が終わるまでの期間、チーム無所属かつトレーナー無しといった状態だった。この体格の小ささが災いして、誰彼見向きもしなかったのだろう。

 

「ふっ……ふっ……」

 

 一人体育館で身体を解す。体力はいつ来るか分からない本番まで、あまり使いたくない主義であった為、もっぱら走るトレーニングはせずに、身体の柔軟とダンベル等の筋力トレーニングしか行わなかった。

 これが正しいのかと言えば、嘘になるだろう。現に他のウマ娘やトレーナーから良い意味でも悪い意味でも揶揄われたりする。そういう時は仕方なく走るのだが、余り気が乗らずタイムも伸びない。

 

 何故だろうか? やっぱり走った方がいいのか? ……いや、さすがにちょっと怠い。

 

『もうすぐデビュー戦だよね?』

『そうそう、長距離のね。サクっと1着取って、私ここにありってとこ、見せなくちゃいけないね!』

 

 体育館の外にいるウマ娘の声が響く。デビュー戦はその名の通り、世界に自分がいるという事を知らしめるためのレースであった。私もそれに勝つ事が出来なければ、まともにレースへ参加することができない。

 長距離は私が最も走りやすいと感じる距離である。理由は単純、余り本気を出さずに走れるからである(最後はさすがに本気出さなきゃいけないけど)。故に、デビュー戦に出るならこれが一番最適か。

 

「……あ、そっか。自分で出さないといけないんだ……」

 

 孤独というのは、なんとも大変な話である。

 雑用係のトレーナー位は一人くらいほしいものだ。いや、こんな体格の私に就くトレーナーなんて、物好きか。

 

 ならば、次のデビュー戦で、分からせるしかない。

 自分という存在を。

 

「目指すはゴール……目指すはゴール……」

 

 脳に幾度と暗示をかけながら私は、デビュー戦に向けて再びダンベルを担いだ。

 結局本番まで、私は走る事はなかった。

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