隠された神が降臨した瞬間   作:干からび

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02 神が降り立った日 -前編-

『青空の広がる快晴の下、ここ競馬場で未来の栄光を掴むウマ娘たちによる長距離デビュー戦が始まります』

 

 私が初めてシンザンを見たのは、数年前の春に開催された長距離のデビュー戦だった。私がこれまで面倒を見てきたウマ娘の8割程は長距離に適正を持った子たちだった。

 今まで面倒見てきたウマ娘が怪我を機に先日引退を宣言した。何度も医者に治るか聞いても、走る事は難しいとしか返答が返ってこなかった為、仕方のない事だったと思う。

 故に次なるウマ娘を見定める為、こうしてデビュー戦の観戦に足を運んだのである。未だトレーナーを見つけていない子たちもいるらしいからだった。

 

「トレーナー。今回のデビュー戦、どう見る?」

「そうだな。今回は良バに快晴のレース場だ。今までの練習量と才能次第になるだろう。そうなったらば、私が分かる事なんて何一つない」

「……そうか。私の時は、酷い雨模様だったからな。良い状態で走れるとは、羨ましい限りだ」

「なんだ、嫉妬か?」

「いや全く。私はどんな状態にも対応できるからな」

 

 引退した元担当のウマ娘が横で同じく様子を見ていた。まもなく、ウマ娘の入場だ。

 聞いた話によれば、トレーナーがいるウマ娘は5人、対していないのは3人。名前は聞いているが、果たしてどんな子たちなんだろうが。

 

 ***

 

『あ、あの子も来てる?』

『細身で長距離? 度胸は凄いよね』

 

 パドックからレース場へ歩む途中、他のウマ娘が私への評価を陰口で言う。だけど、そんな物関係はなかった。

 というか――私の耳には、騒音(そんなもの)は入って来やしなかった。目指すはただ一つ――レースにある一点のゴールだけ。

 それ以外の事を考える必要はない。

 

 

 先ほどまではレース場に入場するウマ娘を見た観客が大いに声を荒げていたが、ある一瞬の時だけ声量が下がってしまった。

 それは、私が場に入ってきたときだった。

 

 何を言っているのか聞こえない。レース場に入ってきた時には既に、私の心の声と実況の声以外の全ての音はシャットアウトしてしまったようだ。

 最も、表情から推測するに、先ほどのウマ娘と何も変わりないセリフなんだろうけども。

 

 ***

 

「シンザン。あの子もトレーナー無しだったよな?」

「ああ。今春からの新規生だ。体格は小さいが、長距離を走るのか」

「……一応、気には止めておくとしようか」

 

 この時の私は、彼女の体格ではなく、彼女の瞳色だった。他のウマ娘は、初のレースという事もあり観客たちに手を振っていたり、他のウマ娘と健闘を称えあったりしていた。

 ――が、彼女、ただ彼女だけが、ある一点だけを見ていた。それは、このレース場で最も重要な部分、ゴールだった。

 

 初めてのレースだというのに、現時点で彼女はレースにおいて最も重要な事を理解していた。

 出る事が全てではなく、先頭でゴールをくぐり、勝利することが全てだという事を。

 

 しかし、そうだとしてもやはり体格の問題が差し当たる。隣のヴィクトルハッタンは、体格も良く力強さも感じられる。中距離デビュー戦で優勝したというウメノチカラに似たような何かを持っているのかもしれない。

 最終コーナーと直線。そこでもし彼女が前に立ちはだかったとするならば、相当な力が無ければ出し抜く事が出来ないだろう。

 それを踏まえて、今回のレースどうなるか。非常に見ものである。

 

 ***

 

『さぁ各ウマ娘、ゲートに入りました。まもなくレースが開始します!』

 

 実況の声が響く、出走前のルーティーンタイムだ。現状私にそんな物は特に持ち合わせえていない為、とりあえず『目指すはゴール』という言葉を何度も心の中に暗示させる。

 ふぅ、とそして一息つく。完全に身体がゾーンに入った。これなら何も問題はない。3つとなりのウマ娘の視線を感じるが、私にとってはどうでも良い事であった。

 記念すべき最初の初レース、負けは絶対に許されない。

 

 ――だから

 

「――勝つよ」

 

 パン!!

 私がそう吐いた刹那、目の前のゲートが勢いよく開かれる。ゲートが動き出したコンマ数秒後、私は身体を前に走らせる。幸先の良いスタートだ。

 長距離のレースはスピードだけじゃなく体力も重要になる。いかに体力を温存して勝負を仕掛けるかの戦いだ。

 最も、逃げ戦法を得意とするウマ娘ならば、そんな物考えずに駆け出していくだろうが、私はそんな無粋な戦い方はしない。というか脚質にあっていない。走りたくはない。

 

「一気に突き放すよー!!!」

「逃がさないよッ!!」

 

 先ほどまで歓声を浴びていたウマ娘たちが、スピードを上げて戦闘へ躍り出る。

 

『2200mを通過。ヴィクトルハッタンとシャインルーズが先頭争いを繰り広げています。次いで……さらに次いで……が迫ってきています。最後にはシンザンが粘っています』

 

 初めてのレースで意気揚々としているのだろう。そんなに体力使わなくても良いだろうに。

 私の前を走ってるウマ娘はよく考えている。ちゃんと体力を考えての事だろうね。最終コーナーで争いが起きるかもしれない。

 でもまだ2200m。最終コーナーまではまだ時間がかかる。

 

 ***

 

「やはり先陣はヴィクトルか。引退した頃に、少し気になってはいた子なんだが……」

「何だ、知ってたのか?」

「期待の新人って奴さ。正直、今回の優勝候補なんだがな」

 

 確かにコーナリングも非常に良い立ち回りを見せ、その体格差で周囲のウマ娘を出し抜きつつ先頭に躍り出ていた。

 他のウマ娘を力と速さでねじ伏せようとする逃げの戦法なんだろうか。体格の良さから体力も結構ありそうだ。

 

 対して例のシンザンはいまだ最後を走っている。追い込み型なのは走りを見てわかるが、あの体格差から出し抜く事なんてできるのだろうか?

 でも、彼女の眼はまだあきらめたウマ娘の色をしていなかった。ただコースに一つ、唯一存在するゴールに視線を移しながら、ひたすら好機を伺っている。

 とても初めてレースに出る子とは思えない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……果たしてここからどう出るか」

「そろそろ一周だな」

 

『一周目を通過! 未だヴィクトル先頭だ!』




ヴィクトルハッタンはオリジナルです。
余り思いつかなかったもので……申し訳ない!!
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