珠譬
この世界には『
喰種とは、人の姿をしていながら人を喰らうことでしか生きていけない生き物。
体内にRc細胞という特殊な細胞を多量に有しており、その細胞を蓄える
そして、赫包からRc細胞を体外に放出し、
赫子は硬化と軟化を繰り返しながら自在にうねり、血液のように流れ、歯よりも頑丈な硬度を誇る。
液状の筋肉とも例えられるそれは、普通の人間には対抗の手段がないほどに残酷な性能をもつ。
赫子抜きにしても喰種の戦闘力は高い。
身体能力が極めて高く、人間の4〜7倍もの筋力を有し、通常の武器では傷一つつかず、さらには自己治癒能力まで兼ね備えている。
では、人間は喰種に対して捕食の対象でしかないのかといえば、それも違う。
そんな喰種に対抗する人間の組織もまた、この世界には存在する。
対・喰種機関「喰種対策局」通称CCG。
CCGの捜査官は喰種からはハトと呼ばれ、人類の天敵・喰種の、さらに天敵と言える存在である。
捜査官に発見された喰種は、多くの場合、その場で駆除される。
だが、人間と同じように捕らえられる者もいる。
23区にある大型喰種収容所『コクリア』。
人を食らう怪物『喰種』を収監する場所である。
金木は、人であり、喰種でもある。
必然だったのか偶然だったのか、人としての生を歪められた青年は、半喰種でありながらCCGに籍を置き、なおかつ准特等という選ばれし階級にまで上り詰め、
先刻、喰種である
(ヒデ。僕は、君のように————)
(“
その想いだけを胸に、金木は現在、死神と対峙している。
死神———
化け物である喰種をさらに上回る化け物。
CCGにおいて最強の存在であり、金木にとっては父親に近い親しみを感じていた相手でもある。
金木はそんな彼を前にして、決意が鈍りそうになるのを自覚して思考を奮わせる。
『カネキ、あとでね』
先程、トーカからおくられた言葉を噛みしめる。
目の前に立つ死神・有馬を相手にした喰種は、ほぼ例外なく、死ぬ。
だからこそ、現状において、最も残酷で最も慈しみに溢れた言葉だ。
金木に“あと”はない。
(でも、それでも、きっと僕は…。)
過去、何度も手合わせをしてきた相手だ。
目にも止まらぬ剣戟にも、どうにか赫子で応じられる。
そして、何度も手合わせをしてきたからこそ、“チャンス”も理解している。
向かって左、CCGの死神・有馬の右目側。
金木はそこに赫子で一撃を叩き込み、有馬はそれを一見することもなく防ぎ切る。
だが、これこそが、この隙とも言えぬ刹那が好機…!
ここで生じるタイムロスを、次の一手につなげ———
ようとした金木の脚は2本ともスパリと切り裂かれた。
「まじめにやれ。」
ただ一言。
そう告げた彼の背後から、濃密な“死”を感じる。
僕だけじゃない。
トーカちゃんやヒナミちゃん、四方さん、アヤトくん…。
みんな死んでしまう。
それは、駄目だ。
まだ、行かせちゃいけない。
「…まだ 駄目。」
———ぼくが まもる
全力で放った一撃は防がれ、有馬さんは新しいクインケを使い始めた。
そこからは記憶が定かじゃない。
意識が戻ってはトんで、何回斬られたかも覚えていない。
斬られては再生し、また斬られ、もう痛みも感じない。
自分が自分の原型を留めないままにドロドロに溶かされていくような、ある種おだやかな気分になる。
———トーカちゃんたち ちゃんと逃げられたかな…きっと大丈夫だよね………。
——もう いっか。
「…いや オイッ」
「……!?」
「…もういっかじゃねえよ!…十分時間稼いだ、ってか?お役目十分と?…わかってんだろ?上で“なにか”あったって。わかってんのに…このままやられちまっていいのかよ?」
「ヒデ……僕…僕さ…君がいないと さびしいよ……」
「………ウサギか、お前は。…色々ゴタクならべて“死にたい”だの“消えたい”だの。……お前は生きる理由が見つからねーだけだろ。んなモンすぐ見つかるって。せっかく拾った命無駄にすんな。」
「ほら、もう歩けるだろ?行けよ。カネキ、“誰かのために命を懸ける?『かっこよく死ぬ』”?だっけ?」
「バァカ。あのときオレは、『お前と生きたい』と思ったんだぜ?聴こえるまで言ってやる————」
「カッコ悪くても、いきろ。」
そのあと、僕は有馬さんに勝った。
クインケを砕き、有馬さんは自分で自分の命を絶った。
「隻眼の王」の真意を語り、僕に願いを託して静かに息を引き取った。
でも、もうダメみたいだ。
薄氷の勝利だったんだ。
———もう僕の身体は…。
(ヒデ……君はさっき、最後になんて言ったの…?)
僕の身体は再生されず、そのままパタリと崩れ落ちる。
“新しい隻眼の王になれ”という有馬さんやエトさんの願いを叶えることも出来ず、
ヒデの言葉を思い出すこともできず、
有馬さんの隣で、僕は、そのまま———
死んだ。
その赤子は一際大きな産声をあげて産まれてきた。
彼の母親は出産の間際になって容態が急変、麻酔も効かない状態に陥った。
なにかの拒絶反応のように急変した母親に対して、医師は当惑した。
医師は「子どもだけでも」という切なる母親の願いに応えることしかできることはなかった。
そして、その大きな産声を聞いて、産み落とした母親は微笑みながら逝った。
死の間際に聞いたその産声は、母親にとって命の奇跡を実感させる喜びに満ちた声だった。
しかし当の赤子にとってはどうだったのだろうか。
『赤ん坊が、大きな産声を挙げるのは、悲しく苦しいから泣いているのである』
暴力なき出産/Leboyer,Frédérick
初投稿です。
最後の『暴力なき出産』から引用した言葉。
金木の状況を表したかったのと、東京喰種っぽいのを真似したいというダセェ理由で引用しましたが、金木の状況と著述の意味は全く関係ありません。すみません。