王のビレイグアカデミア   作:INANO

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学校って閉鎖的なコミュニティだよな。
尾鰭が付いた噂が悠々と泳ぎ周って人を貶める。
閉鎖的なコミュニティだから仕方ないよな。
でもな、ようやく間違いに気付いたんだよ。
閉鎖的なコミュニティだからこそ、
人が人に与える影響は大きいんだ。
あいつは、命も評判もかなぐり捨てて、人を救った。
俺たちは、そんなつもりはなくとも、あいつを傷つけた。
みんなで伝えようぜ、ごめんなさいって。
そこからだろ、まずは。




从瑕

 

 退院した翌日、登校中の金木を待っていたのは好奇の目だった。

金木の姿を見た学生たちがヒソヒソと噂話(うわさばなし)に興じる。

 

いよいよもって本物の化け物扱いか…。

と、精神的にまいりそうになるが、昨日誓った目標と夢のために、今日からは勉強もトレーニングも本格的に始めなくてはならない。

こんなことで折れていられない…!

 

そんな強い決意を抱いて教室のドアを開くと、まるで怒号のように声が殺到した。

 

「金木ぃ!お前まじですげーよ!!」

「ヒーロー金木の登場だぁああぁああ!」

「退院おめでとう!」

「怪我はもう大丈夫なの!?」

「新聞見たぜ金木!お前すげーやつだったんだな!」

 

 いつも賑やかな男子も、いつもは金木と同じように物静かに本を読んでいる女子も、少し警戒した目で金木を見ていた子も、教室にいる生徒全員が金木の元へと押し寄せて言葉を贈る。

何が何やらといった様子で目を白黒させる金木を見かねて、クラスの学級委員の男子がみんなの言葉を(さえぎ)った。

 

「まぁ待て待て。金木は何が何だか分かってないようだから、俺が説明するよ。…この間の事件な、新聞に載ってんだよ。ホラ。」

 

 学級委員から受け取った新聞を見てみる。

見出しには『大手柄!ヒーローを救けた中学生!!』と平体のかかったゴシック体の文字が大きく書かれている。

病室でヒーローが金木に頭を下げているシーンの写真まで大きく載せられている。

いつの間にどこからどうやって撮られたのか全く分からない。

 

「他にも、こっちの新聞には女の子を庇ったって記事も出てる。」

「こっちには凶悪なヴィランを一撃で倒したって書いてあるよ!」

「ほとんどの新聞で金木くんの記事出てたよ?」

「テレビでもめっちゃ取り上げられてた!」

 

次々と手渡される新聞や週刊誌にザッと目を通す。

その全てにおいて、自分は『中学生ヒーロー』と(おだて)られている。

さすがに未成年なので金木の顔や名前が一目見て分かるようなことはない。

だが、写真の中で頭を下げているヒーローは、ヒーロー名はおろかフルネームや個性にいたるまで公開され、さらには「力が足りない」と批判的な記事まで書かれている。

金木は「何だよ、これ…」と、頭を抱える。

正直、頭が痛くなるような僻見的(へきけんてき)な記事ばかりだ。

 

「あー、金木?その……色々思うところもあるだろうが、まずは俺たちの言葉を聞いてほしい。……」

 

 

 

 

「「「今までごめんなさい!!!」」」

 

 

 

 

 数十人もの生徒たちが一斉に金木に向けて頭を下げた。

いつの間に増えたのか、周囲には前のクラスメイトまで集まっていて、男子も女子も今のクラスメイトも前のクラスメイトも関係なく、全員が一様に頭を下げている。

唖然とする金木に、学級委員がみんなを代表して言葉を続ける。

 

「俺たちは金木のこと誤解してた。噂に流されてお前を怖がってたやつもいるし、俺はお前を不気味なやつだと思ってた。こうやって新聞に載ってることを鵜呑みにすんのも噂に流されるのと同じかもしんねーけど、お前が誰かのために行動したのだけは間違ってないと思うんだ。だったら俺は、いや俺たちは金木を誇りに思うよ。」

 

「すげーよ、金木!」

 

 

 

 

———別に僕はいじめられてたわけじゃない。

自分から距離をおいていた部分もあるし、彼らだけが悪いわけじゃない。

なのに、彼らは非を認めて頭を下げてくれる。

僕をすごいと褒めるけど、そうやって素直に謝ることができるのも十分すごい———

 

金木は微笑みながら、「ありがとう」とだけ返した。

ここにいる生徒全員に、ほわっとあたたかな空気が広がっている。

 

 

 

 

「で、渡我さんとは付き合ってるの?」

 

 

 

 

 そんな空気を一撃で破壊したのは、目をキラキラと輝かせた女子の一言だった。

そこからはもうあんまり記憶が定かじゃない。

トガさんとのことでさっき以上に質問攻めにされ、トガさん本人が登校してくるまでの間それは続いた。

 

登校してきたトガさんにも当然、同じ質問が飛ぶ。

トガさんはニコニコしながら「はい!ケンくんは私のものです!」とケロリと言ってのける。

周囲の喧騒は絶叫に変わった。

 

ひゃっほおおおお!!とヨダレを撒き散らす勢いで狂喜乱舞する女子。

うぉおおおおおん!!と鼻水と涙を流して悲しみと怒りに震える男子。

 

新クラスになって9日目にして、新たな暗黙の(?)ルールが追加された。

 

ルール2 【金木と渡我は公認カップル】

 

 

 

誤解を解こうとする金木の声も虚しく、教師たちが騒音を注意したことで騒ぎは落ち着き、強制的にホームルームが始まってしまった。

 

 後日、金木は事件のことを詳しく話し、被害者だったヒーローの誤解は解くことができた。

ヒーローの汚名をそのままにしてはおけない。

だが、渡我と付き合ってないという弁明は、何度言っても照れ隠しだと笑われたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 季節は巡って初冬。

金木と渡我は、屋外でトレーニングに励んでいた。

 

「そこですっ!」

 

「っと。まだ甘いよ、トガさん。」

 

視界から一瞬で消えたと思えば、死角から肘を打ち下ろす渡我。

それに対し、金木は片目を瞑ったままひらりと身を躱す。

 

風は強くないが、気温が大きく落ちる夜。

にも関わらず、金木も渡我も半袖のTシャツにレギンスとハーフパンツという軽装で飛び跳ねる。

絶え間なく動き続ける2人は、寒さを感じていない様子で軽やかにトレーニングを続けている。

 

 

 この半年余りで金木の肉体は見違えるほどに(たくま)しくなっている。

腕や脚は筋肉で引き締まり、時折(ときおり)覗く腹筋は、くっきりとシックスパックが確認できるほどに割れている。

普段、服を着ていると見た目には分かりにくいが、筋肉量は金木が思い描いた理想通りだ。

この短期間にここまでの肉体改造ができたのには、理由がある。

個性によるものだ。

金木の個性は身体活性。

つまり、個性を使用してトレーニングをすることによって効果的な負荷をかけることができ、常人より酷使することが容易なのだ。

酷使して悲鳴をあげる筋繊維は、より強靭になっていく。

そのトレーニングを数ヶ月続けたことで、以前とは見違えるほどの動きを可能にしている。

 

そして、金木が最も注力したのが気配の察知だ。

これを強化できたのは、現在、金木に向かって何度となく打撃を叩き込もうとして、何度となくそれを躱されている渡我のおかげに他ならない。

 

 

 

 渡我には天性の才能があった。

初めて組手(くみて)をした時に金木はその才能に舌を巻いた。

そして、個性を使ったにも関わらず圧倒的な敗北を(きっ)した。

敗北の原因は、相手の死角に潜り込む渡我の動きである。

そのしなやかな体捌(たいさば)きはもちろん、相手の視界を把握する圧倒的な空間把握能力。

忍者の末裔(まつえい)か…!?と、悔し紛れに邪推(じゃすい)したことを覚えている。

 

そんな渡我の動きについていくために、金木は気配を読むことを覚えた。

気配を読むと言ってもゲームや漫画のようにオーラが見えるわけでもないし、目を閉じれば死角の映像がサーモグラフのように見えるわけでもない。

ただ単に、息遣いや相手の動作をくまなく観察し、どう動くかを予測する。

 

 渡我が体捌きの天才なら、金木は情報処理の天才である。

脳に取り込んだ膨大な情報から最適な動きを引き出す。

これは、本ばかり読んできた金木ならではの特技なのかもしれない。

 

 

 

 

 一方で渡我も大きく成長していた。

個性の使用は控えているが、その肉体は常人を遥かに上回るペースで強化されている。

金木には劣るものの、すさまじいバネのある動きを見せる。

この俊敏(しゅんびん)さで死角に入り込まれれば、取り得る手段などほぼないに等しい。

さらに個性を解禁すれば、対人戦闘における優位性は計り知れない。

そして、金木と共に定めた“血への固執を薄くする”という課題も、少しずつではあるが改善されてきている。

血の摂取は月に1度のペースに落ち着き、もう金木の血を摂って体調を崩すこともなくなった。

あと、座学も金木の指導のもと、ものすごく頑張った。

彼女が一番苦労したのは、他ならぬこの座学だった。

 

そうして、見違えるほどに強くなった二人だが、受験まであと2ヶ月を切った今でも鍛錬を欠かすことはない。

学校が終わると、毎日毎日鍛錬。

深夜まで行われることもしばしばあり、現在ではクラスメイトはおろか祖母や渡我の両親からも2人の関係を誤解されている。

これが今もっとも金木を悩ませているのだが、いくら強くなってもこればかりはどうしようもない。

 

「ケンくん、足元がおルスですよっ!」

 

「っと、うわっ!?」

 

 少し思考が脱線していたようで、その隙をついて渡我が金木の足を払う。

バランスを崩したところに、またも死角に潜り込んで当身(あてみ)で重心をさらに崩す。

地面に手をついた金木に向かって、渡我は木の棒をナイフに見立てて首筋に向けた。

 

「わあ!久しぶりに私の勝ちですねェ!」

 

「やられたー…また速くなったね、トガさん。」

 

「とは言っても、ケンくんはアレ使ってませんし。本気でやったら勝てる気がしません。」

 

「アレは組手で使うにはリスクが大きすぎるから…。それに、お互い本気だったらトガさんも個性ありになるから、たぶん奇襲で僕の負けだよ。」

 

 

 

「…受験まであと少し。このままでいけばトガさんもきっと合格できるよ!」

 

「ケンくんはいいですねェ…推薦決まっちゃいましたし。一人で受験寂しいです。」

 

 

 そう、数週間前に金木には雄英高校からの推薦がきていた。

例の事件の功績が雄英高校の教員たちの目に止まったのだと電話で説明された。

正直、受験のために渡我にも内緒のトレーニングメニューまで一人でこなして肉体改造に挑んできたのに、と少し拍子抜けしてしまった。

渡我やクラスメイトはもちろん、中学の担任教師の喜びようは凄まじく、祖母や父も喜んでくれたので、金木は甘んじて推薦を受けることに決めた。

 

だが、鍛錬を自粛するつもりはない。

たしかに雄英合格は目標だったが、推薦とはいえ確実ではないだろう。

それに、この鍛錬はもっと先、ヒーローになった時のためのものだ。

あの日病室で誓った「二人で合格する」という目標達成のためにも、受験までは渡我と共にトレーニングを行うつもりだ。

組手で汗をかき、肩で息をしながら、二人は夜空を見上げる。

 

他の受験者たちもこうして鍛錬して今頃空を見上げているのだろうか…

そんな、口にすれば渡我に「ロマンチックですねェ!!」と言われそうなことを思いながら、金木は少し微笑んでぽつりと呟いた。

 

「がんばろうね。」

 

 




またもや何も起きませんねェ!!!
金木くんたちがちゃんとトレーニングしてるよ、って言いたかっただけの回。
「東京喰種」原作で、トーカちゃんとトレーニングして四方さんにちょっと見てくださいって言うとこ好き。イトリのバー行く前のやつ。こんなかわいい大学生いねぇよ。
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