——チャンスは平等じゃない。
「No way」
——道がないなら作れ。
「見込みナシ」
——予想を超えてみせろ。
「Plus Ultra」
入学
春。
陽光にあたためられた風が頬を撫で、歩道に植えられた花を揺らしている。
風に揺られながらも、その鮮やかな色彩をどこか誇らしげに見せつけているようで、まるで僕らみたいだと金木は思う。
合格発表から2ヶ月、ついにこの日がやってきた。
金木と渡我は現在、雄英高校へ初登校中だ。
新品の制服に袖を通し、大きな期待と少しの緊張をその心で膨らませながら、談笑している。
「ケンくんと同じクラスが良かったです…。」
「揃って合格できたけど、クラスは別々になっちゃったね。」
「なんでケンくんがA組で私がB組なんですかねェ…何者かの陰謀を感じます…。」
「陰謀って…。まぁクラスは違っても合同授業なんかもあるだろうし、学校終わったら部屋も隣同士だし。」
もう何度目か分からないやりとりに少し苦笑しつつ、金木は渡我を
金木はA組、渡我はB組と分かった時から、少なくとも10回以上はこの会話をしている。
だがまぁ、口を尖らせて寂しそうにする渡我を純粋にかわいいと思う。
まるで飼い主が少し部屋を離れただけでこの世の終わりかというくらい悲しい声で鳴く子犬みたいだ、と思うが、これは本人に言えば怒りそうなので言わない。
金木も渡我も、通学のために学校から程近いアパートに部屋を借りている。
渡我の強い希望に流される形で、部屋は隣同士になった。
こちらに越してきてからは、毎朝管理人さんや他の住民の方に「おやおやまぁまぁ」と生暖かい目で見られている。
金木がそんな近隣住人のことを思い出していると、渡我は顔をパァっと明るくさせて言った。
「この学校にはどんな人たちがいますかねェ?」
「楽しみだね。推薦組ではたぶん僕の他に4〜5人くらいいそうな気がする。みんなすごい個性の人たちばっかりだったよ。同じクラスになったら色々教えてもらいたいなぁ。」
「ふむ、ケンくんがそこまで評価するとなると気になりますねェ。一般の方で受かってそうなのは同じ試験会場にいた爆発系の個性の人くらいです。我が強そうであんまり仲良くはなれそうになかったですけど。」
ところでっ!!と前置きした後、渡我は「推薦組にいたすごい子って女の子ですかっ?」、「同じクラスになった女の子に手を出しちゃダメですよ!」と学校に着くまで金木を
ここまで片思いの相手に自分の気持ちを開けっ広げにできる女子も珍しい。
渡我が教室に入るのを見届けた後、金木は自分の教室の前で一呼吸する。
(………さて。)
(いよいよ始まる。僕の、ヒーローになるための3年間が…)
決意を新たに、バリアフリーなのか巨大に過ぎる教室のドアを少し開けた。
少し早かったのか、教室には4人しか生徒がいない。
赤い髪の元気そうな男の子と…
ピンクの肌をした同じく元気そうな女の子…
そして推薦入試の時に見た2人。
元気そうな2人は、同郷なのか仲良さげに談笑している。
ポニーテールの女の子は分厚い本を読んでいる。
もう一人の髪色半々イケメンの子は頬杖をついてボーッと外を見ているようだ。
(よし!)と気合いを入れてドアを開け、一歩を踏み出す。
すると、4人の視線は金木に注がれる。
「お!きたきた新しい人!おはよう!あたし
「おっす!俺は
「あ、おはよう。金木研です。よろしく。」
元気な2人に微笑みながら自己紹介を返すと、ポニーテールの女の子が本を閉じて自己紹介を続けた。
「私は
「あ、僕も覚えてます。すごい個性でずっと感心しきりだったよ。こちらこそよろしくね。」
「…同じく推薦組の
挨拶しなければいけない流れだと判断したのだろう。
残る一人も金木に向けてボソリと一言だけ自己紹介を放つ。
「試験で見てたよ。個性ホントにすごくて、よく覚えてる。」
「すまん、俺は覚えてない。」
「あ…そっか、僕はそんなすごい個性でもないし、順位もたいしたことなかったから。」
意外とハッキリ言うなぁ、と思いつつも、実際自分は目立った記録を残していないので仕方ないかと納得する。
しかし、今年度の推薦組合格者のうち3人がこのクラスとは…。
あの風の個性の人はB組なのだろうか?
「お前ら3人とも推薦組かよ!すげぇな!」
「あたしらは一般入試組!切島とは同じ中学だったんだー。」
推薦と一般での試験内容の違いなどで談笑していると、次々に生徒が増えていく。
そのたび軽い自己紹介などを交わしていく。
個性という超常が当たり前の社会なのだから、そうなるのは必然なのだが、やはりみんな個性的だなという印象だ。
ややあって、教室の入り口の方で寝袋から担任が現れた。
入り口付近に溜っていた数人となにやら話していたようだが、こちらには聞こえてこない。
「担任の
「早速だが、コレ着てグラウンドに出ろ。」
次はこちらにもギリギリ聞こえる声で名乗る。
寝袋から現れたかと思えば、その寝袋から体操服を取り出して
この人が担任か…。
この人もプロヒーローなんだろうか?と疑問に思いつつ、周りの生徒たちと共に準備を始めた。
「「「個性把握テスト?」」」
相澤は、入学式もガイダンスもすっ飛ばして、個性把握テストなるものを課してきた。
行われる競技自体は中学時代にやっていた身体テストと同じだ。
だが、個性を使用してそれに挑めば、自ずと結果には大きな差が生まれる。
まずは爆豪と呼ばれた少年が個性を発動させてボールを投げる。
耳をつんざくような爆発音をたてて、ボールは勢いよく彼方へと飛ばされた。
なるほど、すごいな。
爆発の勢いと爆風であれほどの飛距離を…。
クラスメイトたちから面白そう!と声が上がる。
たしかに自分の実力を試すには絶好の機会だと思う。
合格が決まってからもトレーニングは絶えず続けてきたし、今の自分の実力を知れば先に進む道標になる。
だが、「面白そう」という言葉は相澤先生のお気に召さなかったようだ。
「トータル成績最下位の者は見込みなしと判断し、除籍処分としよう。」
その言葉に僕を含めた誰もが驚愕し、身を硬くする。
テストは全部で8種目。
体力測定である以上、金木の個性『身体活性』ならば、おそらく最下位はありえない。
だが、こういう身体能力のみに特化した個性ばかりではないだろう。
「合理性」という言葉を多用する割に、この条件は不合理では…と少し反感を抱いてしまう。
だが、テストが進むに従って、その考えは間違いだったと感じた。
どの個性も、持ち主がその特性を一番よく理解している。
八百万さんのように種目に合わせた何かを創造したり、青山くんのように50m走でレーザーを後ろに発射したり、峰田くんのように謎のモギモギを反復横跳びに使ったり。
どんな個性も、要は使い方次第なのだ。
自分の個性をしっかりと把握し、状況に合わせて応用する…確実に必要な技術だ。
プロのヒーローになれば、現場では自身だけでなく多くの命を背負う。
そのヒーローを育成する現場において、学生だからという甘えは許されない。
そもそも雄英高校に入学できている時点で、ここにいるクラスメイトたちは優秀なのだ。
みんな個性を効果的に発揮し、記録を伸ばしていく。
…ただ一人を除いて。
(緑谷くん…だったかな?)
(個性が競技に向いてないのか?)
(彼だけ個性使ってない…このままじゃ……)
本人も焦っているのか表情が曇っている。
しかし、一転。
決意を込めた目に変わる。
そして、ボールを投げた—————が、記録は46m。
その記録に誰もが疑問を浮かべるが、本人が一番動揺していた。
「個性を消した。」
個性を使ったはず…と動揺する緑谷に向かって相澤は抑揚のない声で伝えた。
見ただけで他人の個性を抹消する個性、抹消ヒーロー『イレイザーヘッド』。
それが相澤先生の正体だったらしい。
緑谷は個性の制御が上手く出来ず、個性を使うと反動で体を故障してしまうらしい。
他人を救けるはずの力を使えば、他人に救けてもらわなければならなくなる。
それは本末転倒だ。
緑谷には悪いが、自分自身思うところもあり、相澤の言葉は正しいと感じた。
本人もそう感じたのか、悔しそうな顔をしている。
そして第2投目、緑谷は個性を指先のみで発動し、大記録を出した。
「まだ動けます!!」
人差し指を痛々しく変色させながらも、緑谷は相澤に堂々と啖呵を切る。
その痛々しくも勇敢な表情に、思わずこちらも微笑んでしまった。
途中、爆豪が緑谷に突っかかったりと一悶着あったが、テストは全種目が終わった。
相澤が持つ端末から結果が発表される。
1 八百万 百
2 轟 焦凍
3 爆豪 勝己
4 金木 研
5 飯田 天哉
6 常闇 踏陰
……………………
20 峰田 実
21 緑谷 出久
なんとか4位だが、上の3人とはだいぶ差がある。
轟くんの個性は汎用性が圧倒的で、正直無敵に感じてしまう。
八百万さんの個性にいたっては、もはやチートと呼んでも過言ではない。
爆豪くんの個性も弱点らしい弱点が見当たらない。
というか上位3人は、個性の優劣だけでなく、個性をどう使うかの判断力や自分の身体を動かすセンスが抜群に高い。
つい、思考に没頭していると、相澤から「合理的虚偽だ」という言葉が飛び出した。
さすがに除籍はなかったか…と安堵する。
緑谷くんが除籍にならなくて良かった。
彼にはなぜだか少し、同じ匂いを感じてしまう。
個性も扱い切れていないとはいえ、同じ身体強化系だろう。
仲良くなれたらいいなと期待しつつ、雄英高校入学初日は過ぎていった。
ようやく高校生になりました。
最初の構想では5話くらいで、もうすでに高校生になってたはずだったんですが…。
さーせん。
ようやく原作キャラと絡ませられるぞ!
ちなみにどうでもいい話ですが、「まるで〜〜のようだ」みたいな直喩が多いのはカネキくんの食レポへのリスペクトです。