ヒーローごっこでヴィラン役のやつを
ぐるぐる巻きにして捕まえたり
公園の遊具をテープ使ってピョンピョン飛び超えたり
俺は友達の間では頭ひとつ飛び抜けた存在、
つまりヒーローだった。
中学の時、“中学生ヒーロー”のニュースを見た。
同い年なのにすげー奴もいるもんだ、と思った。
でも、そんなすげー奴が集まるのがここなんだな。
「…なんだあれ!チートだろっ…くそっ!」
現在、瀬呂は飯田と合流すべく来た道を引き返している。
もちろん、個性のテープで通路に即席トラップを仕掛けながらだ。
少し卑怯な攻撃で金木にテープを巻きつけたが、きっとあんな拘束はすぐに解くはずだ。
先程の、戦闘と呼ぶにはあまりにも短い攻防で、金木の実力が自分を遥かに凌駕していることを思い知った。
2対1だとしても、あの金木に勝てるのか…?
(…いや、それでも。)
(飯田の機動力と俺の個性を組み合わせれば…いけるはずだ!)
少しの光明が見えた気がして、瀬呂は幾分か顔に笑みを戻しながら走る。
数分前。
ヒーローチームがスタートして間もない頃。
飯田と共にハリボテ(核兵器)を守っていた瀬呂は、爆音と地響きに見舞われた。
それは爆豪の籠手の一撃によるものだ。
だが、飯田と瀬呂は、爆豪がヒーローチームにやられてしまったのでは?という懸念から何度も無線による連絡を試みる。
一向に返事がない。
これも、実際は爆豪が聞こえていながら無視していただけだ。
だが、制止する飯田を残して、瀬呂は爆豪を探すために一人で階下へと降りていった。
セッティングの時間に綿密に作っておいたトラップを、自分で解除しながら戦闘音のする方へと走る。
トラップの解除に手間取って、少し時間がかかってしまった。
しかし、爆豪たちのいる階に着いた時、来て良かったと心底自分の判断を褒めた。
金木に組み敷かれている爆豪と、確保テープに向かって走る緑谷を見て、咄嗟に状況を把握して攻撃したのも、優れた判断だったはずだ。
では、なぜこうなった…?
それは金木の実力が想像を遥かに超えていたからだ。
現在、激昂した爆豪が緑谷に猛攻を仕掛け続けている。
自分が緑谷の相手をするつもりだった瀬呂は、出鼻を挫かれて肩を竦める。
全くもって爆豪に振り回されっぱなしである。
そのトラブルメーカーは、緑谷を追って、通路を曲がって見えなくなった。
自分の相手はこっちか、と金木に向き直る。
「いくよ、瀬呂くん。」
金木は深呼吸をしながらその場で軽く跳ねて、告げた。
その言葉を受けて、瀬呂が身構えるよりも速く、金木は見えなくなった。
「っ!?」
新品のコスチュームのヘルメットにヒビが入る音がして、直後に後ろに吹き飛ばされた。
いや、たぶん殴り飛ばされただけなんだろうが、どうやって殴られたのかも分からなかった。
砕けたヘルメットを脱ぎ捨てると、それを待っていたかのように金木は小さく飛び跳ねながら「そのヘルメット、下方向が少し死角になっちゃうね。」と言った。
「あ!でもかっこいいよね…!」と謎のフォロー付きで。
正直、ダメージは
だが、あのスピードで接近されて爆豪にしていたように関節技を決められたら、終わりだ。
「くそっ…!」
(…飯田と合流するしかねえっ!!)
一発殴られただけ、しかもダメージもほぼ入っていないが、実力差は
ならば逃げる!
なぜなら自分は今、ヴィラン(という設定)なのだ。
ヒーローが逃げるのはどうかと思うが、ヴィランなのだから問題ない!
そう自分を納得させた時、ヴィランというワードから、あることを思い出した。
「……すげぇな、金木。個性把握テストん時は正直ここまでやるヤツだと思ってなかった。さすがは推薦組だな。いや……それより、中学の時に本物のヴィラン捕まえてんだもんな。敵うわけねぇよ。」
「なぁ、『中学生ヒーロー』。」
「え…何で知って……」
「……お前に捕まったヴィランな、俺の兄貴なんだよ。」
「なっ……!!?」
当然、嘘だ。
ニヤリと笑いながら、金木にカマをかけてやった。
金木のことは詳しく知らないが、出身地くらいは知っている。
そして中学時代、一時期メディアを騒がせた『中学生ヒーロー』の事件も、少しくらいは知っている。
名前は公開されていなかったが、推薦組であること、出身地と年齢が同じことで、あの事件で騒がれた中学生ヒーローは金木であるとアタリをつけたのだ。
どうやら当たっていたようで、明らかに金木は動揺した。
その隙に、今自分が出せる最高の速度で個性のテープを射出し、金木に巻きつける。
そして、一目散に来た道を引き返し始めたのだ。
(つーかマジでヴィラン捕まえたの金木だったのかよ…!!)
(…あんだけ騒がれた中学生ヒーローに俺がどうやって勝つってんだよ!早すぎて見えもしなかった…)
「…なんだあれ!チートだろっ…くそっ!」
(やられた………。)
腕と胴体に巻かれたテープを、瓦礫で切れ目を入れて一気に引きちぎる。
なおもコスチュームに張り付いているテープの残骸を外しながら、金木は脳内で反省会をおこなっていた。
中学時代の事件のことが知られていても、別に問題はない。
だが、虚をつかれたことで少し動揺してしまった。
相手はヴィランになりきっているのだから当然、嘘くらい
(そろそろ
時間とは訓練の制限時間のこともあるが、もうひとつ。
個性の反動である。
金木は個性によって身体能力を向上させることができるが、それは常識の
個性把握テストで使ったのが、現状での正真正銘100%の強化なのだ。
そして、今使っているのは、あえてパーセンテージで表すのなら300%の強化。
自分の中では「
右脚を一歩踏み出せば右脚の、拳を振るえば腕の筋繊維を、甚大に損傷してしまう。
それほどの強化を施している。
そして、それを活性によって瞬時に再生しているのだ。
再生し、また強化の個性を巡らせる。
———その再生のインターバルと動きの確認作業がその場での跳躍だ。
ちなみに視界から消えるのはスピードもさることながら、渡我との訓練で身につけた死角に潜る技術の応用である。
だが、そんなチート級の個性使用がノーリスクなはずもない。
再生されるとはいえ、筋繊維が千切れる痛みが常に付き纏い、この裏技を使えるのは10分が限度。
そしてそれを過ぎれば、猛烈な筋肉痛と猛烈な怠さで、半日は抜け殻同然になる。
300%の発動をし始めて、もうすでに5分は経過している。
あと5分弱…おそらく訓練の制限時間も残り10分あるかどうかだろう。
どの道、この5分でクリアするしか、ヒーローチームに勝ちの目はない。
あと5分で瀬呂と飯田を探し出し、2人が守っているであろう核兵器を回収するしかない。
瀬呂を見失ってしまったのは、制限時間の観点から見れば痛恨のミスだ。
ヴィランチームは逃げ切りのために隠れていることも有り得る。
こうなったら、
覚悟を決めた金木は、瀬呂の逃げた方角に全力で走る。
そして、瀬呂が通路に張り巡らせたテープを見て驚愕した。
「これはっ………!」
テープがあるとこ通れば どこにいるか分かる!!!!!!!!
飯田と合流した瀬呂は、金木の戦闘力の高さと、その対策について
「なるほど、金木くんがそこまで強いとは…。」
「ありゃチートだぜ。でも負ける気もねぇ!金木が来るまでもうちょい時間あるだろうし、さっき言った作戦なら……」
「あ、やっぱりいた!」
冷や汗と不敵な笑みを同時に浮かべていた瀬呂の背後。
数メートル後方にあるフロアの入り口から金木が現れた。
「なっ…!金木くん!?早すぎるだろう!?」
「…いや、僕も2人を探してたらもっと時間かかると思ってたんだけど、瀬呂くんが目印残してくれてたから…。」
金木は少し申し訳なさそうな顔をして、その手に握っていたテープの残骸を見せる。
——え?全部外してきたのか…?
——ていうか俺、墓穴掘った…?
「それにしても1個くらいトラップ引っ掛かれよ!」
「瀬呂くんのテープは個性知らなきゃ透明だしトラップとして有効だろうけど、個性知ってて、なおかつあの量で張り巡らされてたら気づくよ…。普通に貼ってあるだけだったから外すのも簡単だったし…。」
——完っ全に墓穴だ!!!
——飯田からの視線が痛い…!!
「…時間もないし、その核兵器…回収させてもらうよ。」
スッと戦闘態勢をとる金木に、思わず生唾を飲んでしまう。
反省は後だ。
今はさっきの作戦を遂行する。
飯田に目を向けると、キッチリ首肯して応えてくれた。
「へへ。金木、悪いな。さっき言った話は嘘だ。」
「知ってるよ。ちょっとビックリしたけど。」
「今はヴィラン役だからな。飯田なんてさっきまで一人でヴィランっぽい口調の練習してたくらいだぜ。」
ニヤリと歯を剥き出して笑いながら、瀬呂は金木に向けてテープを射出した。
そしてもう1本、飯田に向けてテープを射出する。
飛んできたテープを躱しつつ、(仲間を…!?)と金木は一瞬戸惑うが、テープは飯田を越えてフロア中央の柱に巻きついていく。
そのままテープを巻き取りながら瀬呂がフロア中央へと跳んでいく。
その間に、飯田は個性を使って金木に肉薄していた。
「行くぞ、金木くん!!」
超スピードで接近してきた飯田は、勢いそのままに金木の頭部めがけて脚を振り上げる。
疾い…!
身体を無理矢理に折り曲げてその一撃を避ける。
髪一本ほどの隙間を空けて、飯田の脚は空を切り裂いた。
まさしく間一髪。
あのスピードと脚技の威力。
脅威だ。
金木のこめかみに一筋の汗が伝う。
そして、そこにフロア中央からテープが飛来する。
目の端でそれを捉え、避けようとするが、飯田もさらに攻撃の姿勢に入っている。
金木は「
そこに飯田が超加速で迫る。
小回りや対人戦闘においてならばスピードは互角だろう。
だが、直線距離のスピードだけならば飯田に分がある。
(とにかく脚技に気をつけろ…っ)
飯田は金木の間合いスレスレまで加速すると、突如その場で高く跳躍する。
なにを…?
突然の跳躍を不思議に思うが、飯田がいた場所の奥にはフロア中央。
そこから、瀬呂が射出したテープが迫っていた。
金木はそれに反応もできず、右腕をテープに絡め取られる。
「くっ…」
巧い。
正直にそう思う。
脚技の威力を見せて同時攻撃で距離を取らせ、飯田の身体で隠しながらテープを射出。
テープ自体が透明なこともあり、気づきにくい。
気付いたところで避けられない。
そのギリギリのタイミングで跳躍した飯田が巧かった。
なぜ瀬呂に背を向けながらそんな絶妙なタイミングで跳躍できたのか。
それは飯田の背にテープがついており、そのテープを引くことで瀬呂がタイミングを指示していたのだ。
「よっしゃっ…金木悪いな!」
瀬呂は金木に巻きつけたテープを力一杯引っ張る。
だが個性で強化している金木はビクともしない。
まぁここまでは想定内だ。
さらに、瀬呂は金木の腕に付いたテープの反対側を違うテープに貼り付けて射出し、飯田の脚に巻きつける。
金木の腕と飯田の脚、両者の間にピンッとテープが直線を描く。
「ぐへへへへ。金木くん、ちゃんと受け身をとれよ!!」
ここにきてなぜかヴィランっぽい口調で注意を喚起した後、飯田は個性『エンジン』の力でテープが巻きついた脚を振り上げる。
そして、ギュルリと軸足で地面を焦がしながら金木とは反対方向の空中に渾身の蹴りを放った。
「……!!っぐぁ!」
右腕が引き抜かれるような途轍もない引力に見舞われ、金木は飯田の方へと引かれ飛んでいく。
引っ張られている右腕だけでなく、全身の痛みに顔を顰める。
個性300%使用の反動が始まりかけている。
もう時間はない…!
ここで、決める。
「っ飯田くん!ちゃんと受け身…とってね!!」
金木は引っ張られた姿勢のまま、空中で身体をねじる。
身体が飯田に辿り着く直前、金木は右手でテープを思いっきり引っ張る。
そして、自分の右腕の引きの力を軸に、引っ張られている勢いを乗せて左拳を飯田に叩き込む。
あまりの勢いと無理な姿勢からの攻撃に、金木の全身にビキリと嫌な音が響く。
ゴドォ!と重い音を鳴らしながら、金木の拳は飯田の腹部に突きささった。
「がは………っ」
金木の一撃の衝撃でテープは千切れ、弾かれた飯田がハリボテに向かって吹き飛ばされていく。
ハリボテとはいえ核兵器という設定だ。
攻撃を加えるわけにはいかない。
金木は千切れたテープを掴み、そのまま飯田の身体を瀬呂に向かって投げる。
「瀬呂くん!ちゃんと受けとってね!!」
「はぁっ!?…っちょっ…!!」
勝利確定、と信じて疑わなかった作戦を逆手にとられた瀬呂は、目の前の光景についていけない。
飛んでくる飯田をなんとか受け止める。
ここからどうすれば……
そう考えてフロアに目を戻した時、金木の姿はもうそこにはなかった。
そして、そんな瀬呂の真後ろから声が届く。
「…ハァっ、ハァ……降参、してくれる?」
「……まいった。」
もう瀬呂の心はバキバキに折れていた。
『…っヒーローチーム!!!ぅWIIIIIIIIIIIIIIIIIN!!!』
いや戦闘の描写むずすぎやろ。
何がどうなってるのか理解できない方、
あなたは悪くありません。
すみません。
とりあえずカネキがチートってことです。