どれだけ小さな情報でも早く伝えた方が反響は大きい。
逆にどれだけすごい情報でも、遅すぎたら
「まだその話してんの?」って言われるの。
でも私は、本当にすごいと思ったことは
いつになったって真実を伝えたい。
そう、思ってた。
いつからその想いを忘れたのかも、もう忘れた。
「へェ〜、ケンくんが手こずるとは…あの爆発くんやっぱり強かったんですねェ。」
「爆豪くん、だよ。」
「うん、強かった。入試までトガさんと2人で随分鍛えたつもりだったけどまだまだだった。奥の手使ってようやく対等に戦えるレベルだった。爆豪くんがもっと冷静だったら、たぶん普通に完封負けしてただろうね。」
「そのわりにはあんまり凹んでないように見えますねェ?」
「そうかな?…うん、そうかも。実戦だったら悔しいで済まないけど、あれは訓練だからかな。自分のできることとできないことがはっきり分かっただけでも収穫だよ。」
「いいなー!B組は戦闘訓練まだやってませんし、普通のお勉強ばっかりでつまんないです。」
先日の戦闘訓練について、いつもはわりと言葉数少ない金木にしては珍しく語る姿を見て、渡我は嬉しく思う。
中学の時は、金木は事件以後に和解したクラスメイトと談笑することはあったが、必要以上に近づくことはしなかった。
そんな金木が語る授業やクラスメイトの話には、隠しきれない喜びが含まれていて、彼の心が充足しているのを感じて嬉しくなってしまう。
そんなほのぼのとした2人の足は、学校の目の前で止まった。
校門のゲートを大勢の人が塞いでいたからだ。
「キミたち雄英生?ヒーロー科?」
「オールマイトの授業はどう?」
「コスチューム着て授業してるの?」
「ていうかキミ…どこかで……?」
「!!キミ…もしかして『中学生ヒーロー』!!?」
「おいおい!オールマイトだけじゃなく中学生ヒーローまで雄英きてんのかよ!」
校門前に集結していたのはマスコミの人間だった。
矢継ぎ早にオールマイトについての質問をぶつけてくるが、まぁそれも仕方ないと思う。
現役のNo.1ヒーローが教師として教えるというのは、それほどのことなのだ。
オールマイトの質問だけならば応えようと思っていたが、『中学生ヒーロー』という言葉が出た時点で少し嫌な気持ちになる。
自分が『中学生ヒーロー』と呼ばれることになったあの事件。
そのマスコミの対応は、正直気分が悪くなった。
自分を必要以上に持ち上げ、被害者のはずのヒーローを叩く。
被害者のヒーローは少なくとも犯人を止めようとしていたし、自分の実力のなさを反省することはあっても叩かれる必要などない。
報道の自由という免罪符のもと、湾曲させた情報で他人を傷つける。
そんなものは暴力と変わらない。
「ちょ…えと…。オールマイトの授業は、すごく勉強になります。普段から気さくな方で、授業の時はコスチューム着てました。あと、すみません。中学生ヒーローっていうのやめてください。僕もう高校生ですし、まだヒーローじゃないので……。じゃ、これで。トガさん、行こう。」
「ちょっ!もうちょっと話聞かせてくれない!?できればうちの誌面でオールマイトと2人で対談とか…ってもうあんなとこに!」
「災難でしたねェ。」
「うん…。オールマイトってやっぱりすごい影響力だね。」
マスコミの囲み取材を切り抜けた渡我と金木は、大きくひとつ息を吐くと、それぞれの教室に向かって歩き始める。
過去の事件のことはひとまず置いといて、オールマイトの教師就任について再度考える。
“No.1ヒーロー”……その言葉が持つ意味は果てしなく大きい。
実力はもちろんだが、存在そのものが犯罪の抑止力となる。
悪しき者はその名に恐怖し、平穏に生きる人々はその名に安堵する。
まさに平和の象徴。
その偉大な人物が教鞭を執る、雄英の生徒にとってはこの上ない幸運だ。
だが、他校の生徒からすればずるいと思うだろうし、市民にとっては彼が教師になることによってヒーロー活動が縮小されるという不安に繋がるのかもしれない。
じゃあ、悪しき者にとっては…?
「金木、何してる。早く教室に入れ。」
険しい表情で教室のドアに手をかけたまま固まっていると、相澤の気怠げな声が聞こえて我に返った金木は、「すみません。」と言いながら自分の席に着く。
オールマイトが教師になることで生まれる少しの不安と、ヴィランにとっての隙。
そんなものはきっと、自分よりもオールマイト本人や雄英高校の先生方が何度も思索を巡らせているだろう。
なんでもかんでも不安に思って深く考えすぎるのは却って良くない。
「昨日の戦闘訓練お疲れ。Vと成績見せてもらった。」
「爆豪、お前もうガキみてえな真似するな。能力あるんだから。」
「…わかってる。」
「で、緑谷はまた腕ブッ壊して保健室か。いつまでもできないじゃ済ませねえぞ。やれるようになればできることも多い。」
「っはい!」
「さて、急だが今日はお前らに…」
((また抜き打ちテストか…!?))
「学級委員長を決めてもらう。」
「「「学校っぽいのキターーーーっ!!!!」」」
誰もが我こそはと手を高々と挙げる。
普通の学校ならば学級委員長などをやりたがる者は少ないだろう。
いたとしても内申点目当てであったり、ただ目立ちたいだけだったり、とそんなものだ。
だが、ことヒーロー科において、集団を率いるのは何にも代え難い経験になる。
いかにエリート校のヒーロー科といえど委員長に与えられる権限は大したことがないだろう。
それでも、将来のことを考えれば、委員長という役割を経験できるのは3年間しかない学校生活の中で限られたチャンス。
そんな考えがあるのだろうか、誰も譲ろうとはしないし、クラスのほぼ全員が挙手している。
しかし、金木の右腕は挙がっていない。
特に深い理由もないが、集団を導くのは苦手だと自覚しているからだ。
クラスメイトの熱量に少し気圧されていると、飯田から投票すべきだという案が出た。
(投票か…。正直みんなのことあんまり知らないしなぁ……。)
(言い出しっぺの飯田くんでいいか。)
特に悩むこともなく、金木は投票用紙に飯田の名前を書く。
結果は、緑谷が委員長、八百万が副委員長ということになった。
まぁこのクラスは誰が委員長になってもきっと大丈夫だ。
午前の授業が終わり、金木は食堂に来ていた。
ランチラッシュの作るメニューは、どれも本当に美味しくて毎日メニューに悩む。
そして、どのメニューを頼んだとしても味はもちろん、栄養バランスなども考慮されているようで、さすがプロだと感心してしまう。
今日は何を食べようかと熟考していると、後ろから肩を軽く叩かれた。
「あのー、あなたもしかして『中学生ヒーロー』じゃありませんか?」
振り返ると知らない顔だった。
というか顔がものすごく近くにあった。
「…ぅうわっ!?」
「フフフフフ…ひどい反応ですねぇ。私サポート科の発目といいます。あなた去年『中学生ヒーロー』って騒がれてた方ですよね?」
「そうですけど…その呼び方はちょっと。ヒーロー科の金木です。…えっと発目さんは、僕に何か用があるんですか?」
「まぁまぁ、そんな警戒せずとも!ちょっと有名人に会えたから声かけてみただけですよ。」
「有名人って…。そんな大層なもんじゃないですから。」
「ケンソンしますねー!まぁ本題を言うと私のベイビーの実験台に…おっと。コスチュームなどでお困りのことはないかな、と思いまして。」
ベイビー。
実験台。
確実にヤバイ単語が出た。
「建前はサポート科はヒーローをサポートするのが仕事。なんですが、本音は有名人に使ってもらえば私のドッ可愛いベイビー、つまり発明品のアピールになると思ってのことです。」
「カネキさんはコスチュームの改良ができる、私はアピールになる。どうです?Win-Winでしょう?」
コスチュームというワードに少し興味を惹かれた。
先日の戦闘訓練の時、戦闘そのものは反省点もあったが、充実したものだった。
だが、その直前。
みんなが凝ったコスチュームに身を包んでいるのを見て、正直本当にコスチュームを適当に発注したことを後悔した。
改良というよりがっつり考え直したいと思っていたところだ。
実験台というのはちょっと引っかかるが、話を聞いてみる価値はある。
「まぁ!急にこんな話をされても困るでしょう!またゆっくりお話しましょう!では!!」
「あ…ちょ…」
金木がどう返答すべきか考えていると、発目はそう言い残して去って行ってしまった。
次に見かけたらこちらからお願いしてみようか、と発目の後ろ姿を見送っていると、背後から禍々しいオーラを感じた。
しかも2つ。
どちらも刺すような強大な殺気。
先日の爆豪をも超えるような殺気。
ゾクリ、と背が冷たくなる。
そしてその殺気は音に乗って怨嗟の声として金木に届けられる。
「金木ィ…また女子かぁ?」
「ケンくん…さっきの女ダレです?」
峰田くんとトガさんだった。
「あ、トガさん。さっきのはサポート科の人だよ。コスチュームの件で相談にのってくれるみたい。お昼まだ?一緒に食べようか。」
「はいっ!!」
金木は渡我の扱いに慣れてきていた。
他の女の話題はサラリと流して一緒の時間をつくれば、だいたい丸く収まるのだ。
蛙吹が言うように、渡我を懐柔しているジゴロのようであまり気は進まないが。
「おいいい!!無視して女子誘ってんじゃねぇよ!!紹介すべきだろ!?友達だろ!?」
血の涙を流しながら峰田が金木を見上げてツバを撒き散らす。
その形相に少し気圧されつつ、金木はスルーしてしまったことを謝って両者を紹介した。
「この子が前に言ってたB組のトガさん。トガさん、こちらクラスメイトの峰田くん。」
「峰田だ。よろし…」
「ふーん、興味ないです。」
金木の紹介が終わるや否や、キメ顔で親指を立てながら自己紹介した峰田の言葉を最後まで聞くこともなく、渡我は顔も見ずにバサリと袈裟斬りに一刀で断ち切った。
その後、何度か金木が声をかけたのだが、峰田はそのポーズのまま動かなくなったので、金木と渡我はランチを手にその場を去っていった。
「お昼一緒に食べるの初めてですねェ!」
「そういえば雄英に来てからは初めてだ。」
「ところで。さっきの話ですけど、コスチューム変えるんですか?」
「うん、被服控除の時すごい適当に決めちゃったから。もうちょっと個性に合わせたりとか動きやすさとか追求してもいいし、サポートアイテムみたいなのもアリかなって。」
「ケンくん、あんまり服とか気にしないタイプですもんねェ。ていうか私のコスチュームは一緒に考えてくれたのに、自分のは適当に決めたんですか。」
「うん…いや、自分のは単純に動きやすければいいかな、って…。トガさんの個性を活かすにはけっこう特殊なコスチュームが必須だったしね。」
「そのおかげで、かぁいいコスチュームができて大満足です!」
ウウーーーーー!!!!
『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんはすみやかに屋外へ避難して下さい。』
渡我との談笑は、けたたましいサイレンの音でかき消された。
続いて電子の声で聞き慣れない警告が鳴り響く。
(セキュリティ3って…なんだ?ともかく今は外に出なきゃ!)
キョトンとする渡我の手を引き、食堂の出口へと向かう。
だが、食堂にはヒーロー科だけでなく普通科やサポート科、経営科など、大多数の生徒が集結している。
その大量の人間が警報の言葉通りに屋外へと出ようとすればどうなるか。
結果は群集事故だ。
人間が密集した現場を甘く見てはいけない。
たかが人混み、たかが雑踏。
そんなものは無知な者だけが言える言葉だ。
ドミノ倒しになれば、一人にかかる圧力は一人分の体重ではない。
骨折、内臓破裂、荷物が前の人間に突き刺さる、などの大惨事に繋がることもあるのだ。
どれだけ敏捷性に優れていても、どれだけ強い個性をもっていても、自分が動けない状況なら?動けない原因が周りにいる学友だったら?
そんな時に、自分が取りうる手段などほぼないに等しい。
(……くそっ。どうしたら…)
金木たちも人の波に飲まれ、群集の中に取り込まれている。
警報の原因が何かはわからないが、このままでは二次災害は免れない。
(…窓を叩き割るか?いや、でもガラス片で怪我する人がいるかも…)
金木は焦りを浮かべながら、窓を注視する。
その奥、つまり窓の外にカメラやマイクを抱えて集まっている報道陣が見えた。
(マスコミ…!?)
どこまで。
どこまで自分都合なのか。
信念をもって仕事をしている人もいるのだろうが、何の罪もない人間に迷惑をかけてまでやることに正義などない。
過去の事件の後の報道、そして今朝の一件もあって、心の中でマスコミに対して、どよりと暗い感情が淀むのを感じる。
「大 丈ー夫!!!!」
「ただのマスコミです!なにもパニックになることはありません、大丈ー夫!ここは雄英!最高峰の人間に相応しい行動をとりましょう!」
前方、やや上。
飯田が壁に張り付いて声をあげている。
集団心理という言葉がある。
人が密集した時、感情は伝播する。
特に、不安や怒り、そういった負の感情は瞬く間に広がる。
今、飯田の声が響く前の群集は、明らかに不安に呑まれていた。
金木も自分自身が不安や焦り、マスコミへの怒りに呑まれていたことを自覚する。
たった一言。
「大丈夫」
不安な時に一番かけてほしい言葉だ。
一言でこの場の異常な集団心理を打ち払い、群集を導いてみせた。
(すごい。)
心中で正直に飯田を賞賛する。
状況を認識した上で、かけてほしい言葉をかけられる。
実力がどうとか、個性がどうとか、そんなものを超えた“ヒーローとしての振る舞い”だ。
自身を恥じると同時に、先ほどの委員長投票で飯田を選んだのは間違いじゃなかったと再認識する。
飯田の声で生徒たちは落ち着きを取り戻し、慌てず騒がず迅速に移動を再開する。
ほどなくしてパトカーのサイレンが聞こえた。
警察がマスコミを退散させたようで、雄英には日常が戻った。
「委員長は、やっぱり飯田くんが良いと…思います!」
午後、他の委員を決める前にデクが言った一言に異論を唱える人はいなかった。
誠に申し訳ありません。
あろうことか、1話まるまる投稿し忘れていました。
特にこの回がないと次の展開と繋がらない、ということはないんですが…。
なんか話数が合わないと思ったら…。
何回読み直しても誤字脱字はあるし、こんなクソでかいミスするし、ダメ人間だ私は…。