「八百万さん、移動手段の方は?」
「もう少しかかりますわー!」
現在、八百万だけ大きな岩を挟んで金木たち3人とは反対側にいる。
個性で大きなものを創造しようとすると、時間がかかり、服が破れてしまうためだ。
「八百万さんの創造が終わったら、3人は固まって他のみんなと合流してほしい。あと、なんとか外に連絡をつけてくれないかな?」
「3人は…って金木はどうすんだよ?」
「今、相澤先生はたぶん苦戦してる。僕はそこに加勢に行く。」
「…ウチらもそこに行くべきなんじゃない?」
「いえ。それには及びませんわ。相澤先生の元へは金木さんと私で向かいます。」
創造が終わったのか、八百万がその姿を現す。
服も創造で作り直したようで、新品そのものだ。
「いや、八百万さんも…」
そう言いかけた金木の言葉を遮って、八百万が先程創造したものを引きずってきた。
それは、まさかのバイクだった。
「え…バイク……え?」
「ええ、バイクです。正確には250ccモトクロスバイクです。エンジンは水冷4ストローク4バルブ単気筒で…」
「いや、ヤオモモ。それ聞いてないから。」
「かっけぇえぇえ!!」
「この山岳エリアで最も早く移動できるのはオフロードバイクです。運転は私がしますから、金木さんは後ろへ。」
「えと、免許は………?」
「当然ありませんが、ここは私有地ですので。それに私、運転は得意ですのよ?」
こうなってしまっては仕方ない。
金木にバイクの運転はできないし、2人ずつで行動するのがベターだろう。
「それと、お二人にはこれを。」
そう言って、八百万は上鳴と耳郎に武器を手渡す。
金木に渡した模造刀とは違い、それぞれの身長や体格に合わせた長さの武器になっているのは、さすが推薦組といったところだろう。
「サンキュ!俺らはさっさとみんなと合流して先生呼んでくっから2人とも気をつけろよ!」
「このバカと一緒ってのは気に食わないけど、まぁしょうがない。気をつけてね。」
上鳴と耳郎は武器を受け取ると、金木の指示のもと隣の火災エリアに向かって走りだした。
「金木さん。我々も行きましょう!」
「うん。えと、これ、僕どこを持てば……?」
「しっかり掴まっていてくださいね!」
すでに個性で創造したヘルメットを被り、バイクに
金木はそれを被りながら、タンデムシートに座る。
座ってみて気付いたが、眼前の八百万は露出度の高いコスチューム。
体に触れるのは
そんな金木をよそに、八百万がブオン!とエンジンを一度吹かしてバイクは走り始めた。
結局、金木は掴まり方が分からず、
自分が高速で動くのと、高速で動いているものにしがみつくのでは勝手が違うな、と、ふと思った。
山岳エリアというだけあって、道が舗装されていないのはもちろん、地面の凹凸や砂利で、思ったよりもバイクが跳ねる。
だが、それを恐れてスピードを落とせば安定感も落ちる。
無免許でオフロードバイク、しかも二人乗り。
実際のところ、運転している八百万にとっても恐怖でしかない。
それでも、先程見せつけられた金木の実力ならば、相澤を救えるのでは?という期待。
そして、そんな金木に置いていかれたくないという想いで、必死に恐怖を乗り越える。
今の自分は足手まといにしかならない。
個性『創造』は万能ではない。
自身の脂質を媒介に構造を知るものであれば生み出すことができるが、大きなものを作れば、
それだけ体からエネルギーを消耗するのだ。
だから、相澤のもとにたどり着けても自分は戦力にはならない。
しかし、それでも金木を送り届けるくらいはしてみせる。
高速で横を流れていく景色を眺める余裕はない。
数メートル先の地形のみに集中してバイクを操る。
ややあって、2人を乗せたバイクは舗装された地面へと降り立った。
相澤の元まではまだ遠い。
だが、ここからはフルスロットルでいける。
「金木さん!!!しっかり腰に掴まってください!!!!」
バイクの駆動音に負けないよう、あらん限りの大声で後ろの金木に向けて声をかける。
金木には伝わったようで、遠慮がちに腰に手が回された。
同級生の男子に抱きしめられている、という状況だが、恥ずかしがっている場合ではない。
アクセルを思いっきり開ける。
風を切る音が半オクターブほど高くなった気がする。
金切り声のような風の悲鳴を聞き流しながら、バイクは疾走する。
「!!」
まだ数十メートルは先だが、相澤と多数のヴィランの姿を視認できた。
手のオブジェをつけた男と交戦している。
相澤の肘打ちを手の男が防ぐ。
すると、なぜか攻撃した側の相澤がダメージを負う。
そして、他のヴィランが負傷した相澤を狙って攻撃を繰り出す。
それを避けるも、脳を剥き出しにした巨大な筋肉の塊が背後から相澤の腕をとる。
そのまま相澤は地面に叩きつけられ、腕を折られた。
使い終わった爪楊枝でも折るかのように簡単にへし折り、そのまま相澤を拘束している。
悲痛な光景に息を飲む。
だが、良かった。
間に合った。
「——っ…!」
相澤は悲痛な声を噛み殺していた。
折られた腕、乗せられた体重。
動けない。
万事休すか、と思った時、バイクの駆動音が聞こえた。
それはどんどん近づいてきて、
「八百万さん、掴まって!」
聞き覚えのある生徒の声がした後、乗り手のいなくなったバイクは、派手な音をたてながら少し先の壁にぶつかって、ほどなくして停止した。
金木と八百万。
やってきた生徒の顔を見る。
なぜここにきた…!
この状況で小言を言うつもりはないが、ここは余りに危険すぎる。
相澤は顔を上げようとするが、拘束しているヴィランはそれを許さない。
「八百万さん、周りのヴィランの牽制を!」
「っえぇ、わかりましたわ!」
金木はそう伝えた直後、
が、微動だにしない。
「…!?」
ならば、と指のみに攻撃を集中して相澤の拘束を解く。
そしてすぐさま相澤の身体を抱えて八百万の元へと跳躍する。
「相澤先生!…くっ、傷がひどい!」
八百万に相澤の身体を預けると、周りのヴィランを瞬く間に片付ける。
残りは手をつけたヴィランと脳剥き出しのヴィランの2人。
なんとか時間を稼げば、救援がくるはず…。
金木が決意を固めると、手をつけたヴィラン…
「なんだこのガキども?おい、脳無。やれ。」
やめろ!
相澤がそう叫ぶよりも先に、脳無と呼ばれたヴィランは、その巨体からは想像もつかないスピードで八百万へと迫った。
「っく…!!」
脳無の拳は八百万へと向かう。
全く反応できていない八百万を、金木は手加減もできずに突き飛ばす。
ぼごり。と。
いやに生々しい音がした。
脳無の拳は金木の左腕に直撃し、腕はあらぬ方向に曲がっている。
「——っぁぐああ”あ”ああ”あ”ああ”ぁあ”っっっ!!」
赤黒く変色した左腕を押さえて、金木が蹲る。
肘のあたりで骨が皮膚を突き破り、吹き出す血が辺りを染めていく。
以前にも経験がある、意識が飛びそうになるほどの痛み。
再生させようにも、痛みがそれを阻害する。
「うるせぇな。おい、脳無…避けられてんじゃねぇよ。さっさと殺せ。」
——殺す?
———僕を?
八百万が叫んでいるのが聞こえる。
相澤が怒りと悲しみを
——僕が死んだら八百万さんも相澤先生も殺される
————殺させない
ドクン。と心臓が一際大きく跳ねて。
血が全身を駆け巡っているのを感じる。
————摘まなきゃ
いつの間にか金木は叫ぶのをやめていた。
声を発しなくなった金木に、また脳無の拳が振り下ろされる。
ゴッッ!!と隕石でも落ちたかのような轟音を響かせ、脳無の拳は地面を粉砕していた。
辺りには粉塵が舞う。
八百万と相澤は悲痛な顔でその光景から目を反らせない。
数秒の後、粉塵がおさまった地面には、2人が想像していた金木の無残な姿はなかった。
地面に突き立てられた脳無の拳の隣で、金木はゆらりと幽鬼のように項垂れたまま立ち上がっていた。
左腕から噴出していた血がピタリと止まる。
ひしゃげた左腕が、ギュルリとそっくりそのままの形で再生される。
そして、その左手の感触を確かめるように、指をパキリとひとつ鳴らした。
その光景に八百万と相澤は言葉を失っていた。
「……脳無。」
ポツリと呟いた死柄木の言葉に、相澤はようやく我に返る。
「かね…」
そして金木に呼びかけようとして、また固まった。
金木の腰から異様なものが飛び出したからだ。
ニュルリと伸びたそれは、全部で4本。
赤い、血液のようにテラテラと怪しげに光る表面。
触れた地面に傷をつけるほどの硬度。
何もかもが異様だった。
金木の個性は身体強化のはずだ。
こんなものは、知らない。
脳無は、そんな混乱の極みにある相澤や八百万には目もくれず、またも金木へとその拳を突き立てる。
金木は依然無言のまま、それをひらりと躱すと、腰から生えたその異様な触手…
ぞ ぶ り
肉を掻き分ける音がして、
直後に脳無の悲鳴がこだまする。
金木は右手の指をパキリと一度鳴らすと、ついにその口を開いた。
「僕を殺そうとしたんだ。」
「……僕に殺されても」
「 仕 方 な い よ ね ? 」
大きく目を見開き、金木は脳無に向けて無感情にそう呟いた。
もはや、相澤や八百万の知る金木ではなかった。
左眼の色が変わっているだとか、腰から異様な触手が生えているだとか、そんな変化が些細なことだと思ってしまうほど、今の金木が
「ちっ!脳無、早くそのガキ殺せっ!」
死柄木の声に、脳無は悲鳴をあげるのをやめて金木に向き直る。
そして風穴を開けられた箇所を、金木と同じように再生させた。
それを見た金木は、また脳無に向けて赫子を突き立てる。
だが、脳無にその赫子を掴まれ、赫子ごと振り回されて地面に叩きつけられた。
ゴシャッと嫌な音と共に、またも砂塵が舞う。
その砂塵を弾き飛ばしながら、再度、脳無に突撃する。
今度は個性で強化した肉弾戦と赫子を交えて手数を繰り出す。
左脚に足払いをかけ、バランスを崩した脳無の右脚を杭のように赫子で刺して地面に縫い付ける。
血飛沫と脳無の悲鳴があがるが、それを意にも介さず、さらに脳無の顔面に向けて個性全開の拳を打ちおろす。
その腕を脳無が掴み、ボキリと折り、折れた腕ごとまた放り投げられる。
体勢が悪かったのか先程よりも勢いが弱い。
折れた腕を事もなげに再生させながら、金木は空中で身を翻す。
そして、突き刺していた赫子を引き抜き、4本全てを振り上げて脳無に叩きつけた。
さきほどの轟音をさらに超える音と衝撃波、そして粉塵が辺りを包む。
「ちっ…」
死柄木は舌打ちをすると、金木に向き直る。
対して金木は、無言のまま赤く染まった瞳だけを死柄木に向ける。
そこに突如、黒い靄が出現した。
「死柄木弔。」
「…黒霧、13号はやったのか?」
「行動不能には出来たものの、散らし損ねた生徒がおりまして…一名逃げられました。」
「あぁ”?………ちっ。脳無はガキ一人もまともに殺せねぇ…生徒には逃げられる…散々だな。黒霧がワープゲートじゃなく、脳無が先生がくれたモンじゃなきゃ2人とも俺が粉々にしてやんのに…………」
「けど、その前に…このガキだけは殺す。」
死柄木は立ち尽くす金木を睨む。
「脳無ッ!!こいつ殺せっ!!」
地面に深々と埋められていた脳無は、その声でまたムクリと起き上がる。
それでも金木は動かない。
謎の触手はいつの間にか消え、瞳も黒に戻っている。
脳無は、そんな金木に向けてズンズンと一歩ずつ歩を進める。
だが、金木の前に相澤と八百万が立ち塞がる。
「……させませんわ。」
「…さっきの話。生徒に逃げられたって言ったな。だったらもう間も無くヒーローが援軍に駆けつけてくる。お前らは逃さない。」
「どいつもこいつも……っ!!脳無!!全員殺せ!!!」
逃さない。
相澤はそう言ったが、内心では逃げてくれることを期待していた。
相澤の個性「抹消」は、対象を見ている間、個性を消すことができる。
だが、インターバルがあり、今の自分の状態では3人全員の個性をまとめて抹消できるのは数十秒が限界である。
そして個性を消してもなお圧倒的な力を誇る、あの脳無という怪人。
対して、ここにいるのは先程から様子がおかしい金木と、成績優秀とはいえ八百万1人と負傷した自分だけ。
明らかに分が悪い。
生徒の命に関わる事態なのだ。
そんな相澤の内心をまるで無視して、脳無は相澤たちもろとも金木に向けて拳を振り上げる。
相澤は個性を発動しつつ、脳無に捕縛布を飛ばす。
八百万は金木の身体を支えたまま、脳無に向けて創造で作り出した武器を構える。
先程の戦いを見ていた2人は、これで脳無の一撃を防げるとは思っていない。
それでも2人は金木を見捨てられない。
金木は動かないのではなく、個性の反動で動けないということを理解していたからだ。
相澤もダメージでまともに脳無を止められない。
風切り音が聞こえるほどに、脳無の拳が迫る。
もうダメだ、と八百万はその身を硬くした。
そこに、一筋の緑色の閃光が瞬き、ドゴッという音と共に脳無の拳を弾き飛ばした。
「先生!!カネキ!!」
絶体絶命のピンチに駆けつけたのは、誰よりも焦りの表情を浮かべた緑谷だった。
…バイクの描写いらんやろ。
それはともかく、赫子やっと出せたー!!!
なんかヤモリ戦のオマージュみたいになりましたが…。
カネキはこのまま闇堕ちするか、無双するか、それとも弱体化するか。
どれがいいか。
『え ら べ ぇ』
※アンケートではありません。