王のビレイグアカデミア   作:INANO

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邪悪に嗤うスーツの男。
不敵に微笑う綺麗な女。
二人の周りには赤い赤い彼岸花が咲いていて。
その赤が僕の視界いっぱいに広がっていく。
それを緑の閃光が切り裂いて
世界は暗転していく。




原声

 

 朦朧とする。

八百万さんの声。

相澤先生の声。

ぐわんぐわんと頭の中で何度も反響して、ついにはデクの声も聞こえた。

………これは、幻聴?

……ここはどこだ?

…僕は、何をしてたんだったっけ——?

 

 

 

「カネキっ!!」

 

 緑谷の声に、金木の意識は急浮上する。

相澤と八百万に並んで、緑谷は脳無と対峙していた。

 

「……?ぁ……!!」

 

「…正気になったか。金木、さっきの現象についての問答は後だ。持ちこたえるぞ。」

 

「……っはい。」

 

 相澤の冷静な言葉に、頭の中を駆け巡ろうとしていた思考を断ち切り、戦闘体勢をとる。

限界突破(オーバーフロー)」を使った後のような倦怠感が、その身を包む。

だがそれでも、今はここを無事に切り抜けなければ。

 

「来ます!」

 

八百万の声が上がると同時に、脳無が諸手をあげて突貫してくる。

緑谷はワンフォーオールをその拳に(まと)い、金木も個性で拳を強化する。

脳無が右腕を振るう。

その腕に向けて緑谷と金木は拳を振るう。

相殺。

2人の全力の一撃をもってしても、片腕の攻撃を防ぐので精一杯だ。

そして脳無は、無防備な金木と緑谷に向けてもう片方の腕を振るう。

その攻撃を、八百万は創造で出した盾で防ぐが、たやすく吹き飛ばされてしまう。

 

「ぅぐっ…!!」

 

「八百万さん!!」

 

吹き飛ばされた八百万を、金木が振り返った、一瞬の隙。

その隙をついて、脳無は金木に向けて拳を突き出す。

 

「カネキっ!!」

 

緑谷が金木を庇って跳ぶ。

金木に向かっていた脳無の拳は空を切る。

が、すぐさま脳無は相澤の方へと向きを変える。

 

「…まずは一番厄介なおまえだ。」

 

黒霧と死柄木の相手をしていた相澤は、背後からの脳無の動きに対応できない。

そして、脳無の巨大な掌が相澤の頭を掴んだ。

 

「ぐぁ……っ」

 

ドゴッッ。

と鈍い音がして、相澤の頭は地面に叩きつけられた。

 

「「先生っ!」」

 

金木と緑谷の声が重なる。

 

「……金木、さっきの個性……、…つかえ。」

 

焦りを浮かべる金木に向けて、相澤がそう語りかける。

そして、そのまま相澤は意識を失った。

 

(……このままじゃ、相澤先生も八百万さんもデクも…殺される。)

 

キッと覚悟を決めて、金木は個性の操作に集中する。

イメージ。

いくつもの触手を使うイメージ。

いや、身体の一部を増やすイメージだ。

再生と同じ要領だ。

 

ググッと腰のあたりに違和感を覚える。

これだ。

そして腰の皮膚を突き破って、再度、赫子が現出した。

 

 

 

 

「カネキ…?それは…?」

 

緑谷が金木の変化に戸惑っているが、今は説明している余裕がない。

 

「デク、僕がこいつを止める。相澤先生と八百万さんをお願い。」

 

緑谷と共に来た蛙吹と峰田にも視線を送り、金木は相澤を捕らえている脳無に向けて赫子を突き出す。

脳無が赫子の一本を掴むが、別の赫子で脳無を弾き飛ばす。

脳無にダメージはないが、ひとまず相澤を解放することには成功した。

飛ばされた脳無は着地と同時に大きく踏み込み、一足で金木の眼前に迫る。

そして、その場で両の拳を何度も何度も繰り出す。

金木の後ろには八百万がいる。

金木は赫子でそれをひとつひとつ弾きながら、叫んだ。

 

「デクっ!!!早くっ!行って!!」

 

その声に、緑谷と蛙吹と峰田が弾かれたように動き出す。

緑谷と峰田で相澤先生を担ぎ、蛙吹は八百万に肩を貸している。

緑谷たちは入り口に向けて走り出す。

 

 

 

 

(…これで、いいのか?)

 

 しばらく走った後、緑谷は不意に金木の方を振り返る。

脳無の拳と金木の赫子が、地面にヒビを入れながら何度も何度も叩きつけあっている。

圧倒的な力と力の応酬。

あそこに自分がいても足手纏いにしかならない。

今は金木を信じて、金木に頼るしかない。

最初の戦闘訓練でタッグを組んだ時もそうだった。

圧倒的に不利だと思っていた状況を覆してくれた。

今は自分にできることをすべきだ。

 

 

(カネキならきっと大丈夫。)

 

「……っ!カネキっ!!あとでね!」

 

緑谷はそう叫んで、慎重に、かつ最速で相澤を運ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 金木の視界は白くぼやけていた。

ヒュッ、ヒュッと風を切るような自分の呼吸の音だけが頭に響く。

眼前の脳無から繰り出されるパンチは、どれも一撃で致命傷になる威力だ。

それが息つく間もなく、何度も何度も繰り出される。

肺が焼けつきそうなほどに、酸素が恋しい。

汗なのか、血なのか、自分の顔を流れる液体が何なのかもわからない。

距離を取ろうにも、全ての赫子を防御に回してようやく防げているのが現状。

踏ん張っている脚が地面に沈んでいく。

苦しい。

息が できない。

酸欠で意識が飛びそうな中、赫子を操り、脳無の拳を相殺していく。

一発一発の衝撃で潰されそうだ。

相手は呼吸する余裕もあり、先程のダメージもまるで感じさせない。

このままじゃ…やられる。

はやく 増援を 。

 

 

「……っ!カネキっ!!あとでね!」

 

遠くから緑谷の声が届く。

————ああ、デクたちは逃げられたか。

———よかった。

——なら…もう……

 

 

 

 

 

————“ カネキ、あとでね ”

 

 

 

 ビキリと あたまのどこかが われる おと がした。

緑谷ではない、知らない女の人の声でそのセリフは再生されて、

幾つもの情景が脳内で点滅するように浮かんで消える。

 

「カネキ、あとでね」と言って女性が微笑む。

———こんなひと しらない。

 

金髪の青年と喫茶店で珈琲を飲んでいる。

———こんなばしょ しらない。

 

椅子に縛り付けられ、酷い拷問を受けている。

———こんなこと しらない。

 

だれのきおくだ ?

 

 

ぼくは だれだ?

 

 

 

 

 

 

「…ぁ」

 

 金木の意識は、そこでプツリと途絶えた。

ストンと膝が落ちる。

脳無の攻撃が幾つか顔を掠めていく。

拳は奇跡的に当たらず、金木はその場に倒れ伏した。

 

「やっと倒れたか。バケモンかよクソガキ。黒霧、他のガキどもを———」

 

死柄木からの命令、それが言い終わる前に、演習場の入り口が荒々しく開かれた。

 

 

 

 

 

 

「も う 大 丈 夫!! 私 が 来 た!!!」

 

 

 

 

 

 いつもの笑顔ではない。

怒りに燃えた表情で、その男は現れた。

平和の象徴

No.1ヒーロー

世界で一番強い男

すなわち、それらが指す者こそ、オールマイト。

 

(……っ)

 

歯を食いしばり、オールマイトは自分に腹をたてる。

子どもたちがどれほど怖かったか…。

どれほど痛い思いをしたか…。

そして、入り口付近まで来ていた緑谷たちの元へと一瞬で移動する。

 

「緑谷少年、無事か!……!!…相澤くん、すまない。」

 

「オールマイト!!カネキがっ!!」

 

改めて、敵を見る。

脳剥き出しの筋肉男に、手のオブジェをつけた細身の男。

そして、その足元で…ぐったりと倒れている金木。

 

「君たち、相澤くんを頼む!金木少年は私が必ず助け出す!」

 

位置関係と実力からして、金木が囮になって皆を逃したのだろう。

それがどれほど勇気のいる判断か…。

そしてどれほどの痛みを伴ったか…。

この件が解決して、金木が無事に起きたら、自分を責めて罵って欲しいくらいだ。

そのためにも。

絶対に救ける!

 

 

 

「カロライナ…スマッシュ!!!!」

 

 両腕を交差させ、脳無に攻撃を叩き込む。

だが、攻撃がなかったかのように脳無はオールマイトに掴みかかる。

ダメージがない。

その事実に驚愕しつつも、その攻撃を避ける。

間髪をいれず、足元に黒霧が生み出したワープホールが出現する。

足の先が飲み込まれる感触がして、すぐにその場を跳躍してこれも避ける。

そして、その勢いのままに金木を抱き抱えて超速で緑谷のところまで駆ける。

 

「金木少年を頼む!」

 

その声に緑谷たちが返答を返す間もなく、オールマイトは脳無と死柄木らの元へと戻る。

死柄木は顔についた手の隙間から歪んだ笑みを浮かべ、両手を広げてオールマイトを歓迎する。

 

「オールマイト。おまえを殺しに来たんだ。……さぁ、やろう。」

 

「やれるものならやってみろ!!」

 

ギロリと、その眼光が死柄木を射抜く。

そのあまりの圧に死柄木は肝が冷えるのを実感する。

 

「……脳無、黒霧。いけ!!」

 

その声に、脳無がオールマイトへと駆け出す。

そして、それと時を同じくして、入り口で声が上がった。

 

 

 

 

「1-Aクラス委員長、飯田天哉!!ただいま戻りました!!!」

 

声を張り上げた飯田の周囲には雄英高校が誇るプロヒーロー集団がズラリと並ぶ。

 

「………あーあ、来ちゃったな…。せっかくオールマイトが来たところだったのに。」

「………ゲームオーバーだ。帰って出直すか黒霧…」

 

 

「させるかっ!!」

 

黒霧がワープの個性を発動させる。

 

「脳無、時間を稼げ。」

 

阻止しようとしたオールマイトの前に脳無が立ち塞がる。

援軍に来たスナイプの援護射撃も意に介さず、脳無はオールマイトと組み合った。

 

「くそっっ!!!」

 

 

そして、その隙に死柄木はワープの闇の中へと消えていく。

 

「今回は失敗だったけど……」

「今度は殺すぞ。平和の象徴オールマイト。」

 

 




援軍が到着するのが早かったのは、原作でジャミングしてたやつ(上鳴を人質にしてたやつ)をどさくさに紛れて金木が最初に倒していたため、上鳴が救援要請をかけられたからです。
上鳴は金木と別れたあとすぐに連絡をつけていたので、援軍のヒーローたちはすでにUSJに向かっており、オールマイトは一人で先に、残りのヒーローたちは途中で飯田くんに事情を聞いた。という流れですね。

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