王のビレイグアカデミア   作:INANO

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入試1位だからって何言ってもいいのか?
あんなこと言われたら
何が何でもアイツを勝たせるわけにはいかねぇ。
覚悟しろよ。
俺たちは絶対にお前を許さねぇ。




雄英体育祭編
開会


 2週間後。

ついに雄英体育祭当日を迎えた。

この2週間、金木は学校生活に加え、新たな個性の調整や、それに伴ったコスチュームの改良など、忙しい毎日を過ごしてきた。

そのおかげで赫子(かぐね)の操作にも少し慣れてきた。

そしてコスチュームも、まだ素案の段階だが完成すれば、高機能作業着と称された今のものよりは数段良くなるはずだ。

だが、体育祭開催当日に至って、金木の頭にある考えがよぎっていた。

 

(赫子は危なすぎて対人戦では使いづらいし、体育祭はコスチューム着用不可……)

(……もしかして僕は、時間の使い方を間違えたのでは?)

 

体育祭開催直前の控室、そんな考えで一人悶々とする金木に、尾白から声がかかる。

 

「金木、個性が変わったんだって?」

 

「あぁ…うん。赫子(かぐね)っていうんだけど、尾白くんの尻尾に似た触手みたいなのを出せるようになったよ。」

 

「また強くなんの!?んで、何ていう個性になったの?」

 

「……個性名は………うん。まぁ。あの………」

 

話を横で聞いていた芦戸からの問いに、金木は歯切れ悪く言い淀む。

つい先日、国立個性診断センターから詳しい検査結果が届いていた。

それらの書類とともに役所に行き、個性届の変更は無事受理された。

だから当然個性のネーミングは「身体活性」から変更されている。

だが、金木はその名前が気に入っていない。

 

 視線を外して言葉を濁す金木に首を傾げていた芦戸の横で、空気を読まずに轟が「お前には勝つぞ」と、緑谷に宣戦を布告した。

個性の話がうやむやになったことを喜びつつ、金木も芦戸や尾白と同じように轟の方を見る。

 

「轟くんが何を思って僕に勝つって言ってんのかは分かんないけど…でも!!みんな本気でトップを狙ってるんだ。僕だって遅れを取るわけにはいかない。」

「僕も本気で獲りに行く!」

 

いつもとは違う、強さを感じさせる瞳で緑谷はそう言った。

その言葉に金木も己を奮い立たせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

『雄英体育祭!!ヒーローの卵たちが我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル!!』

『どうせてめーらアレだろ、こいつらだろ!!?』

『ヴィランの襲撃を受けたにも拘わらず鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!!!』

 

『ヒーロー科!!1年!!!A組だろぉぉ!!?』

 

 プレゼント・マイクの煽りによって観客のボルテージは最高潮に上がっていく。

金木たちは少し心を浮かせながら、続々と入場していく。

定位置についた金木は深呼吸をひとつ。

観客の声が聞こえる。

それも次第に聞こえなくなっていく。

自分の大きかった鼓動も、静かに落ち着いていく。

 

壇上には1年生の部の主審である18禁ヒーロー「ミッドナイト」が立つ。

ピシャン!と手に持った鞭で空気を打ちながら、ミッドナイトが口を開いた。

 

「選手宣誓!!」

 

まだ騒つく生徒たちをよそに、金木は自分の胸に手を当てる。

自分も、全力でトップを獲りに行く。

そう決意を固めて目を閉じる。

 

「選手代表……1-B渡我被身子(とがひみこ)!!!」

 

ミッドナイトのその言葉が聞こえた瞬間、金木は目を見開き、先程までの静かな闘志をすっかり忘れて盛大に混乱した。

 

(トガさん!?)

 

B組の面々も驚いているようで、その視線を渡我に向けている。

A組のクラスメイトは金木の知人と知っているようで、渡我と金木を交互に見比べる。

みんなの視線を集めている張本人は、ニコニコといつもの笑顔で壇上へと歩いていく。

そして、その途中で金木の姿を見つけるとヘラヘラ笑って手を振っている。

未だ混乱から回復できていない金木がぎこちなく手を振って応えると、渡我は全開の笑顔になって小走りで壇上へと上がった。

 

「宣誓!」

 

「私とケンくんがワンツーフィニッシュします!!!」

 

えぇ…。

どういうことなのトガさん。

 

金木の心中は、もはや何が何やら分からない。

雄英体育祭の1年生の部では、例年入試トップの成績の者が選手宣誓を行うことになっている。

そして一般入試において、渡我は爆豪を抜いてトップの成績をおさめているのである。

そんなことは露知らず、突如選手代表に渡我が選ばれ、その彼女が突如自分の名前も使って宣誓ではなく宣戦布告をしたのだから金木の心中は察するに余りある。

そんな金木とは対照的に、渡我は壇上から満足げに腰に手を当てて最高の笑顔を会場に向ける。

会場の反応は様々だった。

 

「宣戦布告かよ!」

「負けねぇぞ!!」

「かわいい!!」

「いや、ケンくんって誰?」

 

(はっ…!あまりの衝撃に一瞬現実逃避してた…!)

金木は頭を振るって努めて冷静に思考する。

ケンくんという名前だけでは、A組以外の面々には自分だと分からないはずだ。

渡我がかわいらしい女子だからこそ、この程度のヘイトで済んでいるのだ。

これで男子が同じことを言っていたなら、全ヘイトを集めることになっていただろう。

 

「ケンくんっ!頑張りましょうねェ!!」

 

いつの間にか、金木の隣には渡我がいた。

そして先程の宣誓(宣戦布告)と同じボリュームで自分の腕を取りながらそう叫ぶ。

1年生の全ヘイトが自分に集まるのを、感じた。

心なしかクラスメイトからも、ヘイトと呼ぶには禍々しすぎる殺気を2つほど感じる。

 

「金木ぃぃい!!俺たち非リア充を全員敵に回したこと後悔するなよ!!!」

 

「もやし野郎に団子女!!ブッ殺す!!」

 

血涙を流して金木を見つめる峰田と、先日のヴィランがかわいく見えるほどに殺気を充満させた爆豪だった。

金木はその二人に魂の抜けた顔で微笑みを返して、腹を括る。

トップを狙うのだから同じことだ、と。

全ヘイトが自分に向こうが、渡我との関係を勘違いされようが。

関係ない。

やるしかない。

金木は死んだ魚のような目で応える。

 

「…よし。うん……渡我さん、頑張ろうね。」

 

金木の言葉に、会場からは一斉にブーイングが起こる。

そんな大音量のノイズが耳に入らないのか、渡我は喜色満面の様子で「はいっ!」と返してピョンピョンと飛び跳ねている。

本当にこの人だけは自分の想像を軽く超えてくる、そう思って金木も笑った。

 

 

 

「青春ねぇ!けど、雄英体育祭はそんなに甘くはないわよ!」

「さて、それじゃあさっそく第一種目いきましょう!!」

「いわゆる予選よ!毎年ここで多くの者が涙を飲むわ!今年の第一種目は……」

 

「障害物競走!!!」

 

 計11クラスでの総当たりレースで、コースはスタジアムの外周約4km。

コースさえ守れば何をしてもOKという、何でもありのレース。

ミッドナイトの説明を頭の中で復唱する。

個性の使用がありなら、自分はおそらく下位になることはないだろう。

問題は何位でゴールするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スタート位置についた1年生たちは一様に、点灯していくスタートシグナルを見上げる。

 

「スターーーーート!!!!」

 

パッと最後のシグナルがついた瞬間、生徒たちは狭いゲートを抜けて駆け出す。

ゲートを抜けた瞬間、轟が個性『半冷半燃』を使って地面を凍らせて走る。

金木は身体強化で跳躍し、その氷を避けて前へ前へと駆ける。

A組のクラスメイトたちは大半が抜け出しているようで、先頭を走る轟へと迫る。

少し走ったところで、不意に辺りが暗くなった。

ふと顔をあげると、そこに現れたのは巨大すぎるロボットだった。

日光を遮断するほどの大きさに、一瞬圧倒されるが、以前渡我に聞いた入試の時の仮想ヴィランのロボットだろう。

 

『さぁ!いきなり障害物だ!!まずは手始め…第一関門、ロボ・インフェルノ!!』

 

その巨大ロボとは別に、自分たちと同じくらいの大きさのロボも続々と進行方向に出現する。

 

轟が下から右手をふわりと引き上げる。

距離を詰めた金木が赫子を出現させる。

 

 キ—— ッ

ズ  ッ——

 

ふたつの音が同時に響く。

巨大ロボ1体が凍りつく。

もう1体が串刺しになって倒れる。

 

知らず知らずのうちに、二人は互いに目を向ける。

そして、また同時に走り始める。

 

(轟くんには悪いけど……)

 

金木は個性を発動させて、さらに速度を上げる。

 

(このレースでは、僕の方が有利だ!)

 

走り出した二人の後方で、先程 轟が凍りつかせた巨大ロボが倒れ、後続を妨害する。

だが、二人はその様子を見ることもなく、前へ前へと足を進める。

そして、その後を追うようにA組の面々も、次々と仮想ヴィランのゾーンを抜けて先へ進む。

 

 

 

 

 

 

『第二関門は……ザ・フォール!!!』

 

 プレゼント・マイクのアナウンスが響く。

その名が指す通り、一歩踏み外せば転落必至の大袈裟な綱渡り。

孤島のような足場同士を繋ぐのは、細いロープ一本。

だがそれも。

個性が使えるヒーローの卵にとっては、たいした困難にならない。

 

金木はピタリと足を止め、少し上がった息を落ち着かせる。

瞳を閉じ、個性の操作に集中する。

…数瞬の後、金木は目を開ける。

左眼が真紅に染まったと同時、赫子を出して駆け出す。

そして底が見えないほどの切り立った崖を跳ぶ。

ジャンプの勢いが止まり、空中で停止する瞬間、目前の足場に向けて赫子を突き出す。

そうして、器用に赫子を足場に掛けながら、さらに先へと進んで行く。

そんな様子を見て、プレゼント・マイクと相澤の実況が会場に響く。

 

『現在トップはA組、金木!!!…おお!また出たぜ、あれがカグネか!』

 

『…ああ。』

 

『…えーっと、なになに?新しい個性名は…喰種(グール)?…なんでこんな名前なんだ?』

 

『…なんでも国立個性診断センターの研究員が名付けたらしいが、詳しいことは知らん。』

 

『おっと、その金木を轟と爆豪が追う!三人とももう第二関門抜けちまうぞーっ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう、金木の新たな個性は『喰種(グール)』。

グール。

アラブに伝わる伝承の中の怪物の名前である。

姿を変えて人を誘い、死肉を食らう化け物。

なぜ、こんなネーミングなのか。

金木には1ミリも理解できない。

 数日前、送られてきた書類に記載されたその名前を見て金木は愕然とした。

すぐさま連絡先を交換していた研究員の人に電話して問いただした。

曰く、肉を摂取することで活性化するRc細胞が、体外に出た瞬間にその姿を変えることから名付けた、と。

自信満々である。

「いや…。でも、あの…」と抗議を口にしようとするたびに、研究員はRc細胞の素晴らしさを被せて語ってくる。

「別の名前は…」と言いかけた金木に、研究員はとても悲しそうな声で「…気に入りませんでしたか?」と返す。

電話越しながら諦念した金木は、覚悟を決めた。

色のない目をしつつ、電話を切って上を見上げる。

そう、断りきれない自分が悪いのだ。

金木は両手で顔を覆って自分に言い聞かせる。

 

(僕の個性は……喰種(グール)だ。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 禍々しい新たな個性のネーミングをバラされた金木は、実況席を恨めしそうに見ながら第二関門を越えていく。

その遥か後方で緑谷は金木の動きに、ただただ驚愕していた。

 

(もうあんなに使いこなしてるのか…)

 

自分自身、新しい個性に慣れるのに四苦八苦している現状なのだ。

ワンフォーオールとは勝手が違うのだから仕方のないことなのだが、どうしても自分と比べてしまう。

金木は轟や爆豪とトップ争いを繰り広げながら遥か先にいる。

緑谷は歯噛みしつつ、ロープにしがみつき、カッコ悪くも今出せる最速で進む。

そんな緑谷が渡るロープが、グラリと揺れた。

危うくロープを離しそうになって慌てる緑谷の頭上を金木(・・)が駆けて行った。

 

(!?あれ!??カネキは先頭にいたはずじゃあ………???)

 

混乱する緑谷をよそに、クラスメイトたちが続々と第二関門を突破していく。

 

(今は先に進まなきゃ!!)

 

緑谷は思考を切り替えて、また先を見据えてロープを渡り始めた。

 

 




原作では個性のネーミングについては自己申告なんですかね?
まぁどのみちこの作品では国立個性診断センターとかいう捏造設定を出してますので、審査した人が名付けるということにしました。
原作と違ったらすみません!
そしてこじつけですみません!
個性を「喰種」にするため、捏造に捏造を重ねてしまいました。
ひとつ嘘ついたらそれを隠すためにさらに嘘をつくことになるのです。
あと、金木は体育祭直前に個性が変更になったため、マイクの手元には金木の個性などが書かれた紙が用意してあります。
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