けど、マラソンのタイムで負けた。
次に見かけた時、あの時よりも強そうに見えた。
A組はヴィランと戦ったって聞いていたからかもな。
そして、さっきの障害物競走でも負けた。
張り合える存在が一歩前にいるってすごくね?
他にもすげー奴はいっぱいいるけど
ひとまず俺はこいつのすごさを
もう少し近くで見てみたくなった。
「防御力と遠距離攻撃…か、なら塩崎だろうな。」
金木の言った“B組の中で防御力と遠距離攻撃に長けた個性の人”というお題に対しての骨抜の回答は明快だった。
悩むそぶりひとつなく、少し離れた位置にいた塩崎を指して「あの子」と言うと、ズンズンと歩を進める。
「塩崎。俺はA組のカネキと組むことにしたんだけど、塩崎もどう?」
「カネキさん…渡我さんがいつも言っていた方ですね。クラス対抗ではありませんが、別クラスの方と組むのは背信になるのでは……?」
「背信……。」
初めましての挨拶もなく、金木は骨抜と塩崎の会話を後ろで聞いている。
どうしようかと出方を窺っていると、骨抜が「背信といえば…」と言って急に振り向き、金木の腕をとって塩崎の前に押し出して言った。
「カネキがさ、渡我さんとチーム組んでたらしいんだけど、土壇場でチーム抜けられて困ってんだよ。救いの手、差し伸べるべきじゃね?」
「…!!なんてこと!…裏切られたのですかっ!」
「いや、裏切りっていうか…。あ、いやでも、たしかに困ってるのは本当です。僕からも改めて…チームに入ってください。よろしくお願いします。」
「…!ユダの背信に遭いながら、なんて気丈にっ…!!分かりました、私もお力添えします!」
なんだか大袈裟なことになってしまった。
そしてトガさんが裏切り者みたいになってしまった。
塩崎にお礼を言いながらも、少し困った顔を骨抜に向ける。
骨抜はそんな金木を見て、ニッと口角を上げると続け様に3人目に声を掛ける。
「黒色!カネキの個性に興味あるって言ってたろ?組もうぜ!」
その問いに、金木の後ろから返答が返る。
「ヒヒ…業の深い個性名だよな。」
声に振り返ると、いつの間にそこにいたのか、肌が真っ黒の青年がいた。
「こいつは黒色支配。たぶんカネキが作りたいチームにするには、こいつがキーマンになる。」
「…世界の鍵を握る者。」
黒色の発言に、少しソワっとしつつ金木からもチーム入りを打診する。
「黒の反逆、か…。」
OKなのかどうなのか分かりにくい返答に苦笑しつつも、金木たちは各々の個性の把握と作戦の立案にかかる。
骨抜の柔化。
塩崎のツル。
黒色のブラック。
それぞれの個性を聞き、金木は骨抜の判断能力に舌を巻いた。
こちらの簡単な情報だけで意図を汲み、最適の個性を持つメンバーを揃える適応力。
別クラスだろうとチームアップできる柔軟な思考。
作戦の立案についても、金木の案を骨抜がブラッシュアップしていく。
プロになったらぜひチームを組んでほしい逸材だ。
「15分経ったわ。それじゃあいよいよ始めるわよ。」
ミッドナイトが静かにそう言って、作戦タイムは終わった。
ややあって、12の騎馬がグラウンドに並び、プレゼント・マイクの実況が始まりを告げる。
『3…2…1…』
『スタート!!!!』
その開始の号令と共に、一斉に狙われるのは、やはり緑谷の騎馬だった。
緑谷は麗日・常闇・発目とチームを組んでいるようで、発目のサポートアイテムと麗日の個性、そして常闇のダークシャドウの機動力で他の騎馬の攻撃を躱す。
「まァ、予想通りってとこだな。」
「うん。まぁ1000万だからね。」
「ヒヒ…同じクラスなんだから油断させて奪っちまえばいいんじゃねぇの?」
「
「まぁ同じクラスだからって手は抜かないけど、それはきっと皆も同じだ。たぶん油断してくれないよ。ひとまず今は、作戦通り様子見でいいと思う。」
「この騎馬戦では金木さんがリーダーですから従います。」
「え…僕がリーダーなんですか!?」
「そりゃカネキっしょ。持ちポイントも一番高いし、騎手だし。」
「…ヒヒ。嫌なら俺が代わってやろうか?」
「黒色さんがリーダーなら私はチームから抜けます。」
「………。」
「まァまァ。てことでリーダーはカネキ!」
グラウンド中央で各チームの騎馬が混戦になっている頃、金木たちは隅の方で雑談に興じていた。
もちろん、ポイントの動き、騎馬の動きに警戒はしている。
だが、自分たちが動くのは今じゃない。
開始から数分経った頃、ようやく自分たちの周囲に騎馬が集まっていた。
金木たちの騎馬が持つポイントは625、割り振られたポイントとしては3番目に高いのだから、狙われるのも無理はない。
だが、誰一人として金木に触れられないでいた。
『おいおい…マジかよ。』
プレゼント・マイクが、実況を忘れてポツリと零した。
その視線の先にあるのは、3組の騎馬の猛攻を止める金木の騎馬だった。
葉隠チームが、小大チームが、拳藤チームが、
騎馬の足は骨抜の柔化で地面に沈められ、
遠距離からの攻撃は金木の赫子と塩崎のツルに防がれ、
赫子とツルの影から黒色が現れてハチマキを奪う。
30秒に満たない、攻防と呼ぶにはあまりに短い時間で金木チームはハチマキを奪取した。
『おおー!!大乱戦だ!どこ見りゃいいんだコレ!!』
『爆豪と物間が激突ーっ!!』
『あと、緑谷と轟んとこが熱い!!かと思えば、金木んとこは何だコリャ!?』
『一歩も動かずに葉隠・拳藤・小大チームを完封ーっ!』
『なんだよ、金木!!王様かよ!!』
「あの子、やべーな。」
観客のプロヒーローたちの視線も、金木の騎馬に注がれていた。
「あぁ、地面を軟化してる子か?」
「そっちもすげーが、騎手の子だよ。」
「?…たまに触手出してるくらいで何もしてなくね?」
「バカか。攻撃も防御も、全部指示出してんのあの子だぞ。見切りが早ぇっつうか、読みが鋭いっつうか…。他の子で対処が難しい時だけ自分の触手で迎撃してる。」
「いやいや、お前。まだ高1だぞ?そんなことあるわけねーだろ。」
「まぁ個性の組み合わせがいいのも事実だけどな。あいつらの足元見てみ?開始からもう10分近く経ってっけどまだ一歩も動いてねーぞ。完璧な作戦がなきゃ無理だぜ。」
「ブレーン、ってやつか。」
「そ、俺らみたいなパワー系のヒーローを上手いこと動かしてくれる存在、ってわけだ。こりゃサイドキック候補じゃね?」
「えー、でもマイクも言ってっけど王様みてーで偉そうじゃね?」
プレゼント・マイクの実況を聞き流しながら、金木は「ふぅ」と一息つく。
3つのチームを下したが、この騎馬戦は制限時間内ならば復帰が可能である。
だが、塩崎のツルに捕らえられた騎馬は、骨抜の柔化からなかなか抜け出せない。
ひとまずは作戦成功といったところだろう。
金木チームのポイントは現在1290ポイント。
この作戦の主軸となるのは、骨抜と塩崎による防御。
ではなく、黒色にある。
黒い物体の中を移動できるという個性。
それが、塩崎のツルと金木の赫子と組み合わせることで反則級の攻撃に変わる。
縦横無尽に伸びるツルと、自在に動かせてスピードも速い赫子。
その影に潜んで黒色がハチマキを奪う。
鉄壁の防御から一転、不可避の速攻。
ただ一つ、弱点があるとすれば。
「まずい!カネキ、爆豪来てんぞ!!」
そう、爆豪と轟、上鳴の存在である。
轟の炎と爆豪の爆破、そして上鳴の放電による閃光。
それによって影が制限されること。
さらに炎と爆破は、塩崎のツルとも相性が悪い。
つまり、その2チームは天敵と言える。
物間のチームを破った爆豪チームが迫る。
騎手の爆豪は殺意を隠そうともせず、金木だけを見ている。
だが、金木は知っている。
爆豪はこう見えて冷静だと。
骨抜が地面を柔化させる。
騎馬の切島、瀬呂、芦戸の踏み込んだ足が着地した瞬間を狙って発動しているあたりに、やはり彼の非凡なセンスが光る。
「うおっ!!」
「足が…!」
「ちょ…金木ーぃ!ズルいぞ!」
一様にバランスを崩す3人。
そう、金木らの視界にいるのは3人。
爆豪は、爆風に乗ってその視界の上を飛ぶ。
「おい!!ポイント寄越せや!!」
咄嗟に伸ばした塩崎のツルを爆破し、空中で小規模な爆破によって方向転換。
そして、またも爆風に乗って加速し、金木の右から爆豪が迫る。
「その方向転換は、前に見たっ…よ!」
その爆豪に向けて赫子を伸ばす。
だが、頬を掠めていく赫子に怯みもせず、爆豪は金木の額に向けて手を伸ばす。
「っキャスリング!」
その手が届く寸前、金木の言葉で、騎馬の3人が一斉に動く。
骨抜が壁を柔化させ、騎馬の3人は壁に向かって飛ぶ。
そして壁に足を沈めて、地面と平行に壁に立って爆豪を躱す。
塩崎は金木を包むようにツルを展開し、ツルの繭で金木を守る。
同時に、金木は伸ばしていた赫子を操作し、爆豪を弾き飛ばす。
「っぐ!クソがァァ!!」
弾かれた爆豪を、瀬呂が慌ててテープで引き戻す。
間髪を入れず、金木が赫子でテープを切断する。
「黒色くん!!」
その声が聞こえたとき、爆豪の視界は黒に染まっていた。
「ヒヒ……チェックメイトだ。」
黒色が爆豪の額にあったハチマキに手を伸ばす。
目を見開いた爆豪は悪態を吐きつつ、爆破で手を払いのける。
「っくっそが!!!」
(!こいつ…疾い)
そして、瀬呂のテープが再び爆豪を捉え、引き戻す。
その隙に黒色は金木たちの元へと帰還する。
「おい、爆豪!ハチマキは!?」
瀬呂の声に爆豪は舌打ちだけで返す。
(猿真似野郎の方のポイント獲られた…っ!!)
「あの黒い奴どっから来たんだ?!」
「…壁の影から触手の影渡って来やがった。」
「やべぇぞ、もう時間ねぇ!!!」
「っ進め切島!あいつらブッ殺すッ!」
「1本しか取れなかった。」
黒色が獲ってきたハチマキは230ポイントと表示されている。
つまり、物間が巻いていたハチマキ。
だが、まぁこれでポイントは1500を超えた。
これで下位はありえない。
安全圏にいる。
だからこそ、ここからが勝負どころだ。
ポイントを奪われた爆豪たちが、すでにこちらへと向かっている。
先程までの手はおそらくもう通じないだろう。
しかし、一度瀬呂のテープを切断したことで、不用意に飛び跳ねることもできないはずだ。
『終盤でドンドン順位変わってんぞー!!いよいよ残り時間は1分!!!』
爆豪の爆破によって飛んでくる
芦戸の溶解液を、瀬呂のテープを、金木が赫子で一蹴する。
隙を見て影を移動した黒色を、爆豪が爆破で影を散らして防ぐ。
塩崎のツルによる攻撃を、切島が硬化した腕で切り裂く。
その切島の足元を骨抜が柔化させ、移動を封じる。
一進一退の攻防の中で、赫子に乗って爆豪が特攻を仕掛ける。
伸ばされた腕を金木が掴む。
そして…
『タイムアップ!!!』
『1位、轟チーム!!2位、金木チーム!!3位緑谷チーム!!』
『4位、ばく…オイ!心操チーム!!?』
『爆豪チームまさかのここで敗退ーっ!!』
実況の声を聞きながら、爆豪は金木の顔を睨んだまま血が出るほどに歯噛みする。
ギリッという音が聞こえるほどの怒りに満ちた表情に、金木チームと爆豪チームは時が止まったように誰も声を発さないまま固まっている。
「チッ!!」
爆豪は顔を伏せたまま、金木の手を振り払い、その場を去って行った。
「…おお、こえぇ。ともあれ勝利だ。ありがとな、カネキ。」
「あ…うん。いや、こちらこそありがとう。骨抜くんがいなかったら勝てないどころかチームも組めてなかった。」
「柔造でいいぜ。」
「ジューゾーくん…。」
(……なんだ?…なんか、これ。デジャブ?)
「まァでも、次からはまた敵だ。負けねーぞ!」
「ヒヒ…俺たちは戦い合う運命…。」
「あぁ、今日の友は明日の敵になるのですね。」
「…明日は体育祭終わってっから友達でいいんじゃね?」
ポイントの移動描写が難しすぎる。
原作より爆豪チームが物間チーム破ったのが早かったのは、黒色の代わりに角取ちゃんが騎馬をしている関係ですね。ちっちゃいからね、彼女。
というのは建前で、そこの描写がめんどくさかったからですね。
そしてセリフもなく全滅させられた葉隠・小大・拳藤さんチームの面々、ホンマすまんな。堪忍してくれ。