王のビレイグアカデミア   作:INANO

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…あぁ、またか。
あいつはいつもそうだ。
その甘さはいつか命取りになるぞ、金木。
いや、それを正すのが俺の仕事か。

『おい、イレイザーヘッド!飯行こうぜ!』
『野暮用がある。』




閃戾

 

 騎馬戦を終えた選手たちは先程終えた各々の戦いを振り返っていた。

金木も例に漏れず、骨抜らと反省会を行なっている。

そこに

 

「ケンくーーーんっ!!!!」

 

渡我がやってきた。

先程までとは打って変わって、いつもの渡我の様子そのもの。

金木の姿を見つけた渡我は、興奮気味に金木の元へやってくると、隣でぴょんぴょんと跳ねながら慌てた様子で叫ぶ。

 

「私!なんで違うチームで戦ってたんでしょう!?(くま)の人と喋った後のことあんまり覚えてません!」

 

なるほど。

精神に干渉する個性だったのだろうか。

チーム決めの時に会った心操の顔を思い出す。

 

「せっかくケンくんと一緒に戦えそうだったのに…。」

 

まずい。

これはまずい。

トガさんの顔からトレードマークの笑顔が消えている。

 

「あ…えーと。うん、組めなくて残念だったけどトガさんも勝ち残って良か…」

 

「私とケンくんの邪魔したあの人…どうしてやりましょう…。」

 

まずい。

もはや僕の言葉も届いてない。

ジューゾーくんも空気を読んだのか、必死にトガさんに話しかけているけど、それも完全に無視してトガさんが黒いオーラに包まれている。

 

「えっと!ほら…お昼っ!一緒に食べようか!!」

 

「食べます。」

 

金木の言葉に渡我は即答する。

未だに笑顔はないが、これで午後の部再開までに少しは落ち着いてくれるだろう。

そんなことを考えつつ、金木は内心でホッと胸を撫で下ろす。

が、その通りにはならなかった。

 

「悪いが、金木。お前には少し話がある。」

 

タイミングが最悪の状況で金木に声をかけてきたのは相澤だった。

渡我からの禍々しい視線も、金木の焦燥感と冷や汗も、彼には暖簾に腕押し。

金木は相澤に連れられて、いつかと同じ応接室へと連行された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ケンくん。」

 

 同じ姿でワンツーフィニッシュを目指した障害物競走は、自分の力不足で叶わなかった。

同じチームで戦えるはずだった騎馬戦は、なぜか自分から違うチームに入って叶わなかった。

なぜそんなことになったのか。

その理由よりも、今近くに居られないことがただただ苦痛だった。

 

「…えーと。カネキな、渡我とチーム組みたかったって言ってたぜ?次は個人戦だし、まだ目指せるんじゃね?ワンツーフィニッシュ。」

 

骨抜の必死のフォローも渡我には届かない。

先程までの禍々しいオーラも消え、骨抜の眼前にいるのは、ただ悲しむ年頃の女の子。

そんな恋する乙女を救えるのは、ヒーローではなく、白馬の王子様か女友達と相場は決まっている。

 

「被身子!ご飯行こ!」

 

あたふたと慌てる骨抜を見かねたのか、いつの間にか隣に来ていた拳藤らに連れられて渡我は食堂の方へと連れられていった。

 

(こういう時、女子には敵わねぇって思うよなァ。)

 

骨抜はその様子を見ながら、溜息を吐きつつ笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「手抜くな。」

 

 相澤の第一声はそれだった。

いつかと同じ応接室で、

いつかと同じ位置に座って、

いつか金木を激励したその口で、相澤はそう言った。

正直、金木には意味がわからなかった。

そんな内心の困惑が顔に出ていたのだろうか。

相澤は溜息を吐きながら、言葉を続ける。

 

「自覚がないのが一番問題だが、お前は無意識に手を抜いてる。」

 

「そんな…僕は…」

 

「“本気でやってる”か?障害物競走で最後の最後に限界突破(オーバーフロー)を解いたのは何故だ?さっきの騎馬戦で1000万ポイントを狙わなかったのは何故だ?」

 

限界突破(オーバーフロー)は自分が無理に使うなと釘を刺した。

騎馬戦では金木の作戦は見事にハマっていた。

それでも尚、相澤は言わなくてはならない。

 

「爆豪や轟相手なら必死に個性を使って対抗してるな。だが、緑谷相手だと本気で対抗する気がないように見える。騎馬戦の中盤、お前が3組の騎馬を下した後すぐ。緑谷の騎馬は狙える位置にあっただろ。轟チームと戦ってた緑谷は、お前を警戒すらしてなかった。お前のチームの個性なら十分狙えたはずだ。」

 

その通りだった。

自分からは緑谷の騎馬が見えていたし、射程圏内だったのも事実だ。

そして、そのことを指摘されるまで意識していなかった。

 

「1000万ポイントを持っていたのが爆豪だったら?轟だったら?」

 

自分より上だと認めている人が相手だったら。

 

「お前が真面目なのは分かってる。意図的に手を抜いてないのもな。だが、お前のそれは相手を傷つける優しさだ。緑谷が知れば俺と同じことを言うだろう。」

 

「まじめにやれ。」

 

心がざわついた。

自分が知らず知らず緑谷を侮ってしまっていたこと。

相澤に自分の無自覚の手加減を指摘されたこと。

雄英体育祭に対する自分の覚悟と思いの軽さ。

ひいてはヒーローになることへの覚悟の軽さ。

そんなものがぐちゃぐちゃになって金木の頭の中で渦を巻く。

そしてその渦の中心から、相澤とは違う知らない人の声で、告げられる。

まじめにやれ。と。

なぜだか濃密な死の匂いを感じさせる言葉。

担任教師からのお説教とは天と地ほども離れた匂い。

限界突破(オーバーフロー)を使った後のような激しい動悸に見舞われながら、金木は応接室を後にした。

 

 

 

呼吸が荒い。

苦しい。

金木の意思に反して、思考は加速する。

次の競技は?

例年最終競技は個人戦だ。

試合相手は?

騎馬戦上位4チームの誰か。

誰が相手でも戦えるようにしないと。

そういえばトガさんはどうなった?

トガさんやデク相手でも手を抜かないようにしないと。

手を抜かないってどうすればいい?

赫子を全力で振るえば殺してしまいかねない。

ならどうすればいい?

どこまでやればいい?

人が死なない範囲の全力?

なぜそこまでやる必要がある?

ヒーローになるため?

相手を対等だと認めるため?

何のためにヒーローになる?

たかが体育祭でそこまでの覚悟が必要か?

 

答えのない問いと思考。

それと並列して選手との試合のシミュレーション。

金木の脳内では、それが絶え間なく行われる。

まるで自分が死なないために思考するように。

まるで凶悪なヴィランを前にした時のように。

——まるで父と仰いだ師と命のやり取りをした時のように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 金木が応接室を後にした頃、グラウンドでは次の試合の組み合わせを決めるくじ引きが始まっていた。

 

「それじゃあ組み合わせ決めのくじ引きしちゃうわよ。組が決まったらレクリエーションを挟んで開始になります。んじゃ、1位チームから順に…」

 

だが、進行していたミッドナイトの言葉を尾白が遮る。

 

「あの…!すみません。」

「俺、辞退します。」

 

尾白の言葉に選手たちは一様に騒ついた。

ヒーロー志望の卵たちにとってプロに見てもらえるこの機会は重要である。

それでも、彼の意思は変わらない。

曰く、記憶がないと。自覚のないまま本戦に進めないと。

 

「俺が嫌なんだ。」

 

そして、その声にB組の庄田も同調する。

 

「僕も同様の理由から棄権したい!」

 

「そういう青臭い話はさァ…好み!!!庄田、尾白の棄権を認めます!」

 

「ってことで繰り上がりは5位の爆豪チーム。…所持ポイント上位2名!爆豪と瀬呂が本戦出場…16名でくじ引きよ!」

 

ミッドナイトの言葉に、はしゃぐ瀬呂の横で、爆豪は歯軋りで返した。

緑谷は心配そうにチラリと爆豪を見るが、俯いたままで表情は窺い知れない。

 

「ミッドナイト先生、金木さんがいませんわ。」

 

『あ!金木はイレイザーヘッドと個人面談中だ!あいつ抜きでよろしく!』

 

くじを引き終わった八百万の声に応えたのはプレゼント・マイクだった。

“金木”の名前に爆豪が俯いたままピクリと反応した。

が、何を言うでもなく、くじ引きは残りの15名で行われる。

 

(カネキ…何かあったのかな…?)

 

金木の不在、爆豪へ心配、そして先程打ち明けられた轟の過去…。

緑谷の心にクラスメイトへの不安が芽生える。

だが、そんなことは関係ないとばかりにくじ引きは進み、

そして、組み合わせが決まった。

 

左から

金木・心操・渡我・塩崎・飯田・轟・緑谷・発目

骨抜・瀬呂・爆豪・黒色・麗日・常闇・八百万・上鳴

と表示されている。

 

(カネキの相手…あの人か。僕の相手は…発目さん!)

 

誰が相手だろうと。

どんな過去を抱えていようと。

自分が描くビジョン、憧れの人に近づくためにも負けるわけにはいかない。

緑谷は決意を新たに拳を握りしめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ケンくーん!」

 

グラウンドでレクリエーションの競技が行われている頃、渡我はようやく金木を発見した。

A組の教室で席についたまま目を閉じていた金木は、渡我の声で目を開ける。

 

「こんなとこにいたんですか!もう組み合わせ決まっちゃいましたよ!」

 

「ごめん。組み合わせはさっき見てきたよ。」

 

顔を見ず、笑って応える金木に渡我は首を傾げる。

 

「…なんかありました?」

 

「いや…何もないよ。次の試合のこと考えてただけ。」

 

渡我の鋭い問いに対して、金木は顎を掻きながら微笑んで応える。

 

「ケンくんの相手!あの隈の人ですね!やっちゃってください!」

 

「うん…。あ、そういえばワンツーフィニッシュできなくなっちゃったね。この組み合わせだとお互い初戦に勝っても次の試合で当たっちゃう。」

 

「そうなんですよねェ。まぁでもケンくんと戦えるのは楽しみです!」

 

「トガさんの相手は塩崎さんか。大変だろうけど頑張ってね。」

 

「そういえば茨ちゃん…ケンくんとチーム組んでたんでしたねェ…。まぁそんなことより、隈の人についてですが…」

 

渡我なりの心操の個性への考察。

B組の女子たちと話したこと。

お昼に食べたご飯のこと。

今レクリエーションで行われている競技について。

渡我の話は尽きることなく、楽しそうに語られる。

すっかりいつもの調子に戻った渡我の様子に微笑みながら、金木は相槌をうつ。

しかし、話を聞きながら、金木の脳内では意思とは別に心操への対策が練られていく。

 

「ケンくんっ。戦う時は全力でやりましょうねェ!」

 

そんな金木に、渡我は満開の笑顔を向ける。

ふと肩の力が抜けるのを感じた。

そうだ。

簡単なことだ。

誰が相手でも、余計なことなど考えずに、全力でぶつかればいいだけだ。

渡我との訓練でも、勝ちもあれば負けもあった。

そうして2人で強くなってきたのだ。

金木は微笑みながら「うん。」とだけ短く返す。

 

楽しそうに笑う渡我を見ながら金木は思う。

あぁ、自分は今救われている。

自分が導くはずだった渡我は、今自分を導いてくれている。

上も下もない。

同じ、人と人だからこそ、救い救われて生きればいい。

勝利も敗北も糧にすればいい。

だからこそ。

心操くんには圧倒的な敗北をプレゼントしよう。

トガさんのためにも。

心操くんのためにも。

 




金木くん闇堕ちならず!
金木には緑谷たちと違って、明確な理想のヒーロー像がないんですよね。
だから緑谷相手に無意識に手加減とかしてそう。っていう私の勝手な想像。と、ここらでトガちゃんとしっかり絡んでほしいという私の思惑によって、また何も起きない回になりました。
体育祭編5話目にして一番の見どころであるトーナメントの試合が始まらない。
次からは巻いていくぜ!!
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