相澤先生をイメージしよう。
いや、爆豪くんかな。
戦いに勝つことはもちろん、
僕は君の心を一度叩き折る。
もう一度真っ直ぐ伸ばすために。
『一回戦!!王様とか
『対するはァ…ごめん、まだ目立つ活躍なし!普通科、心操人使!!』
『ルールは簡単!相手を場外に落とすか行動不能にする、あとは「まいった」とか言わせても勝ち!リカバリーガールが待機してっから道徳倫理は一旦捨ておけ!!だがまぁ命に関わるよーなのはアウト!』
『そんじゃ…早速始めよか!レディィィィィイ…』
『
プレゼント・マイクの大音量の声に、会場は
視線は当然、セメントスが作った特設リングに立つ2人に向けられている。
スタートを告げる声にも、会場の声にも耳を傾けることなく、
2人はお互いだけを見る。
「なぁ。2位、すげぇよな。王様とか!羨ましい限りだよ。」
「……。」
「なんとか言ってみろよ。王様らしく威厳に満ちたセリフとかよ!」
「……。」
「そういやトガとかいうあの女とワンツーフィニッシュ狙ってんだっけ?いいよな!個性に恵まれてるヤツは!俺らが必死に戦ってる中、彼女とイチャついてて2位だもんな!」
「……。」
「…っ!あぁ!そうだ、まずは謝らないとな!!さっきの騎馬戦、彼女
「……。」
「なんとか言えよオイ!!!彼女
「……。」
「なんか喋ってんな。」
会場では、スタートの合図があったにも関わらず、その場を動かない2人に対して、観客が騒つき始めていた。
A組の生徒たちも金木を怪訝な目で見ている。
「ウチらの知ってる金木なら速攻かけて押し出すなり、組み伏せるなりしそうなのに。」
「カネキ…心操くんのこと警戒してる、とか?」
「…あいつの問いかけに応えたら操られるんだ。一応さっき金木に忠告しようとしたんだけど、“大丈夫だから”って。」
「だから心操ってやつ、あんな喋ってんのか!でも金木全部無視してね?大丈夫じゃん!」
「けど、これ印象悪くない?ウチらのこと値踏みしてるプロの目線のこと考えたらさっさとケリつけた方が良いと思うけど。」
そんな心配をよそに、金木は一歩も動かない。
心操がどんな
「っくそ!あのトガとかいう女に俺の個性聞いたのか?ずりぃよなァ!結託してんのかよ!上位2人で手組んで普通科の雑魚相手に対策とか恥ずかしくねぇのか?」
「……。」
何度目か分からない心操からの問いかけに、無言のままようやく金木が動いた。
スッと右腕を上げ、指をパキリと鳴らす。
ただそれだけの動きに、心操はピクリと体を揺らす。
一挙手一投足を見逃すまいと注視する心操の目に、赤い点が映った。
金木の左眼が赤く染まった瞬間、ゾゾゾと赫子が現れる。
心操の額に大粒の汗が流れる。
金木は表情も変えずに、その赫子を叩きつける。
ドガッと鈍い音をたてながら、リング中央に叩きつけられた赫子は地面を穿ち、なおもガリガリと地面を削る。
何度も金木に声を荒げていた心操も、展開のない試合に野次を飛ばしていた観客たちも、ピタリと口を
赫子は、そのまま心操を攻撃することなく、金木の腰へと戻されていく。
「…っハッ!手加減してるつもりかっ!?」
あまりの悔しさに、心操は俯いて叫んだ。
その声に金木は応えない。
心操自身、応えることはないと分かって声をかけた。
それでも、自分にできることは声をかけ続けるだけ。
そう思い直して、金木を見る。
そこに金木はいなかった。
「は?」
個性『洗脳』を発動するための声ではなく、心操から漏れた純粋な疑問の声。
しかしそれは、音になっていなかった。
心操の口が、背後から金木の手で覆われていたからだった。
「なんで目を離したの?」
金木は抑揚のない声で呟く。
「自分より強い人相手に、なんで目を切れる?」
金木は右手で、がっちりと心操の口を押さえながら続ける。
「君は弱いね。他人の個性が羨ましいだとか、そんなこと言えるレベルにいないよ。」
「〜〜〜っ!!!!」
暴れる心操を押さえつけながら、金木は心操の正面にまわる。
赫眼も治まり、色のない目をしたまま金木は唇に指を一本たてて告げる。
「おい、動くなよ。まだ喋ってる。」
そんな金木を睨む心操の表情に、先程までの気怠げな余裕はなかった。
片手で正面から口を塞がれている、ただそれだけなのに。
その片手すら振り解くことができない。
「図星だった?」
「精神干渉の個性だから何?相澤先生は抹消の個性だけど肉弾戦は僕以上に強いよ?君がさっき洗脳したトガさんも昔は僕より強かったよ?」
淡々と告げる金木の腕を渾身の力で振り払い、心操は叫ぶ。
「っしょうがねぇだろ!!こんな個性でもヒーローになりたいって思っちまったんだから!!入試は実技で落ちた!あんな試験で
金木はそれに応えず、抉れた地面を見つめる。
「こんな威力の攻撃できるお前には分かんねぇだろ!?こんな個性持っちまったせいで俺はスタートから出遅れた!それを僻むのもダメだっつうなら何しろってんだよ!!」
「……。」
「なぁ!!答えろよ、オ…!っゴホッ」
尚も喋り続ける心操に向けて、金木は赫子で砂塵を巻き上げる。
そして、ヒタヒタとゆっくり歩いて近づいていく。
「…君もヒーローになりたいんだよね?」
そしてゆっくりと語りかける。
咳き込んで声が出せない心操に向けて。
「身体鍛えるなり、武術習うなり、何でも方法あったと思うけど。」
「こんな個性だから…そうやって他人を羨んでたら誰かが助けてくれると思った?」
「君は助けられる側じゃなくて助ける側になりたいんじゃないの?」
「君が弱いことと、君の個性は関係ないよ。」
ポツリ、ポツリと紡がれるその言葉は、どんな暴力よりも鋭利に心操の心を傷つけていく。
気管に入った異物のせいか、
はたまた悔しさのせいか、
心操の瞳には涙が滲む。
「ねぇ。ヒーローになりたいなら、なんで努力しなかったの?」
心が折れた音がした。
「…まいりました。」
地面に手をついたまま、心操は消え入りそうな声でそう言った。
その声にプレゼント・マイクが実況席から大声を張り上げて金木の勝鬨をあげる。
観客からまばらな拍手と金木を称える声が上がる。
だが、それも心操には届かない。
金木が自分に投げた言葉は全て真理だった。
自分が金木にぶつけた言葉と、どちらが酷いだろう。
ふと、項垂れた自分の頭の上に影がかかるのを感じた。
「勘違いしないでほしい。」
見上げると、そこには先程まで死ぬほど冷酷な顔をしていた男が悲しそうな顔をしていて。
その男は自分に手を差し伸べていて。
「君はヒーローになれるよ。」
悲しさと優しさがちょうど混ざり合ったような微笑みを浮かべて、言った。
自分よりも痛そうに左胸のジャージを握るその顔が酷く印象的だった。
『リング修復のため5分休憩なー!!!トイレ行きたいヤツは今のうちに行っとけー!』
2人が退場した後、リング修復の時間がとられた。
そのアナウンスをしていたプレゼント・マイクの横で、のそりと相澤が動く。
「ん?トイレ?連れションする?」
「しない。」
スパッと即答した相澤は、そのまま部屋を後にし、選手控え室とリングを繋ぐ廊下へと向かう。
ややあって、トボトボと歩く心操を見つけた。
「心操。」
「…なんですか?」
「金木が相手で良かったな。」
相澤はそれだけ伝えると、来た道を戻り始める。
担当している生徒を贔屓していると捉えられても構わない。
それでも、金木のしたことは親切に他ならない。
余計な親切はヒーローにとって本懐だ。
それを認めてやるのも大人の努めだと思う。
会場で飛び交う野次には、金木を非難する声も少なくない。
やれもっと早く決着つけろ、だの、
見る目のない大人が多くて困る。
金木にも、心操にも、真っ直ぐ伸びてほしい。
なればこそ、大人は厳しいことも言わねばならないし、甘さも持っていなければならない。
…全く持って合理性に欠けるがな。
「ケンくんっ!かっこよかったです!!」
控え室に戻った金木を迎えたのは、いつもと変わらぬ渡我の元気な声だった。
嬉しそうに試合の様子を語る渡我を見ながら、金木は微笑む。
「もっとボコボコにしても良かったと思いますけど。」
「いや…殴るより、たぶんもっと酷いことしたよ。嫌われるだろうな、はは。」
「なんで精神攻撃で対決したんです?」
「んー。同じ土俵で戦いたかった、っていうのは建前で。…羨ましかったのかも。」
「あの隈の人がですか?」
「心操くんの個性ならさ、きっとヴィランの更生にも役立つと思うんだよね。普通の人も、ヒーローも、ヴィランも。誰でも救えるってすごいな、って。だから、こんなとこで腐ってるのがもったいなくて。」
「…やさしいですねェ。」
ニヤニヤと笑う渡我に「そろそろ次の試合始まるよ!」と照れ隠しをしつつ、金木は真っ直ぐに渡我を見て言う。
「試合、がんばってね。勝ったら次は僕とだ。正々堂々、全力で戦おう。」
「はいっ!」
トガちゃんの試合まで入れるつもりだったのに。
心操くんへの精神攻撃に熱が入りすぎた。
次からは巻いていくぜ!(2度目)
あ、あと、心操くんの個性『洗脳』についてですが、声をかけてからのレスポンスに制限時間あるだろうという私の独自解釈が入ってます。